2015-10-16

岩波ホールは左翼ですか?と聞いてみた。 このエントリーを含むはてなブックマーク 

こんにちは、
先週土曜日に岩波ホールでチリ出身の監督パトリシオ・グスマンの『光のノスタルジア』と『真珠のボタン』の上映が始まりました。

2作品とも、美しい自然、宇宙と対比して人間の残虐な歴史、監督にとってはピノチェト軍事クーデターが対比して描かれています。

グスマン監督は言います。

「あの事件から逃れることはできないよ。まるで子供の頃自分の家が燃え落ちるのを目撃したような衝撃だったから。
あれは、ぼくにとってごく最近の出来事なんだ。時間の感覚というのは人によって違うんだ」

歴史は過去として存在していても、個人の記憶は今とともにあるということでしょう。

そんな人間の時間をはるかに超えて、映画で描かれるアルマ望遠鏡の天体観測プロジェクトでは、何億年前も過去の光を「今」観測しています。

2本の映画は、チリのアカタマ砂漠の砂粒から一気に銀河の星までズームアウト、いやズームイン?し、パタゴニアの先住民セルクナム族から、海底の真珠のボタンまで時間軸をズームしていきます。

グスマン監督独特の語り口によるまさに「映像詩」といえる映画です。

ご覧になった方のSNSの感想で
「満たされている人たちと過ごすことは幸せなことなんだ!と気付かされた」
というのがありました。
あまりにも雄大な世界を描写していますが、自分の存在、自分と親しい人のことを思い出させてくれる映画です。

100億年以上という宇宙の起源の時間と空間のパースペクティブで描かれる、
いわば究極の「自分探し」の映画とも言えるかもしれません。

岩波ホールでアップリンク作品を公開するのは初めてです。
通常の映画公開だと、初日の入りで興行の期間が劇場に決められるのですが、岩波ホールの場合は、最初から上映期間が決まっていて、
今回は6週間11月20日まで上映されます。
美術館で美術作品を展示するように岩波ホールが選んだ作品を大切に上映してくれます。

初日には、支配人の岩波律子さんの挨拶が来ていただいたお客さんにありました。
世界の映画を日本に届けることを使命とした高野悦子さんの時代から続くエキプ・ド・シネマ運動の一環として今回の上映が位置付けられているお話を聞き、岩波の歴史を感じました。

初回上映の後、集会室に集まり岩波ホールのスタッフとワインで乾杯するという儀式も初めて経験しました。
その時に岩波律子さんに不躾な質問と承知で聞いてみました。

「岩波って左翼なんですか?」
「世間が右傾化すると左だと言われ、少し左に傾くと岩波は緩いって言われるのよね、今は左寄りと思われてるのでしょう」
とバランス感覚のあるお答えでした。

事務所に行くと一輪のバラが細長い箱に入って岩波律子さんに届けられていました。
ある男性ファンかららしいです。毎回、初日に公開される映画にちなんだバラ一輪が事務所に送られてくるそうです。
ちなみに、今回は、赤いピンクのバラでした。

岩波ホールの興行は、エキプ・ド・シネマの会員を基礎として、当然ながら作品によって客層は変わるそうです。
ユンカーマン監督の『沖縄 うりずんの雨』の時は、プラカードを持ってきてそのまま国会前のデモに行く方が多くこれらたようです。

グスマンの今回はというと「黒いですね」といわれました。
どういうことですかと聞くと、客席を後ろから見て客層を判断するそうです。
髪が白いと年配の方、黒いとそうでもないということで、今回は岩波ホールにしては若い客が多いという意味でした。

『真珠のボタン』は先ごろ終了した山形国際ドキュメンタリー映画祭で最優秀賞を受賞しました。
『光のノスタルジア』も同じ賞を山形で受賞しています。

監督からは、次のメッセージをいただきました。

「『光のノスタルジア』に引き続き、山形国際ドキュメンタリー映画祭で最優秀賞を受賞したという素晴らしいニュースを受け大変光栄に思います。
地球の向こう側でこうして私の映画を観て頂き、この2作品が審査員の方々、日本の皆さまに評価頂いてとても嬉しいです。
何千年の歴史と文化のある素晴らしい日本という国の皆さまにとって、小さくとても離れた国について知って頂くきっかけになる意味でも
大変嬉しく思います」

パリでグスマン監督にお会いした時、次はパタゴニアの山を舞台に映画を作り3部作にしたいと言っていました。

最後に、個人的なお勧めの鑑賞の順番は製作順とは逆に『真珠のボタン』『光のノスタルジア』です。
この順の方が未来を感じられ明るい気持ちで映画館をあとにできるかなと思いました。
もし鑑賞終了時が夜になっていたら、神保町の空を見上げてみてください。
サンチャゴの空とつながっていることを実感できると思います。

岩波の入場料は一般が1800円で、水曜日とか1日の割引はありません。
ただweb割引というのがあり、こちらの用紙をプリントアウトしていくといつでも1600円になりますのでご利用ください。
http://www.iwanami-hall.com/contents/coupon.html

また、アップリンクの会員の方は、会員証を受付で提示していただければ、お一人様に限り1400円に割り引かれますので、
こちらもご利用ください。

それでは、ぜひ独特の雰囲気と歴史を感じることのできる岩波ホールにグスマン監督の2作品をご覧にいらしてください。

浅井隆

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