2021-12-10

園子温監督「「エッシャー通りの赤いポスト」(六本木アスミック・エース試写室)を観て。 このエントリーを含むはてなブックマーク 

 「俺」印の旗をはためかせ疾走する園子温を、かつて中野にあった武蔵野ホールで観たのは、今から30年程前だ。確か「自転車吐息」と「俺は園子温だ!」の併映だったと思う。上映後、黒のトンビを羽織り、サングラスにシルクハット姿で出口付近に佇んだ挙動不審の園子温は、「ありがとうございました」と聞き取れないほど小さな声で呟いていた。エロスと暴力を執拗に描き、まるで犯罪を肯定化するような過去の作品群は、監督自身による自己否定の裏書であろう。

 今回の作品は、すべてワークショップ参加者が出演者として選ばれたという。多くの台詞は、アテガキや、出演者の日常からインスパイアされたものだろうが、監督自身が投影されたものも少なくないのではないだろうか。それは、園子温の原点回帰、自己分析、自身による精神療法にも思われた。訳あり女役の藤丸千に、若い頃のベアトリス・ダルを思い浮かべる。ヒョウ柄衣裳で記録スタッフ役の輝有子が胆の座った演技で好演。

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大倉順憲

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