2008-10-07

17世紀スペインを堪能しました このエントリーを含むはてなブックマーク 

スペイン史はイギリスやフランスのようには学校で学ばないので
難しいものと思いこんでしまうのですが・・・
現在公開中の「宮廷画家ゴヤはみた」より1~2世紀前の17世紀の
スペインが舞台となっています。
アラトリステはその時代に生きた架空の兵士(傭兵ときに刺客)ですが、
国王や詩人のケベードなどは実在の人物で、
5巻からなる原作本は歴史の教材としても使われているほどなので
時代考証はしっかりしていそうです。

さて、映画は2時間25分の長尺のほとんどが戦闘シーン。
冒頭では胸まで冬の海に浸かりながら伯爵を助けだし、
あるときは一対一のサーベルで果たし合い、
また、密輸金塊を取り戻すために囚人を率いて闘い、
狭い坑道にもぐっての爆破作戦、
武器は長やり1本の歩兵部隊の最前列などなど・・・
どれもが、とても生きては帰れそうもない壮絶なシチュエーションです。
これだけの戦功をたてたら、もっと恩賞を与えられてもよさそうな
ものですが、あくまでも一介の兵士。
彼はいつも貧しく、尊大で、思慮深いのです。

アラトリステは冒頭のフランドルでの闘いで戦死した親友の息子
イニゴを託され、従者として育てることになります。
彼らにはそれぞれ愛する女性がおり、
数多くの戦闘シーン以上に印象に残るのが、
男たちの命をかけた一途な愛です。
そしてそれに対する女たちの打算的と思えるほどクールな対応!
アラトリステの愛する人気女優マリアは国王にみそめられ、
イニゴの愛する侍女アンヘリカは玉の輿で伯爵夫人に。
この温度差はなんだろうと思いつつ、
それでも一途な気持ちにはうたれました。

アラトリステは卓越した剣の遣い手であり、
友人をけっしてうらぎらない「義」の人であり、
ただ一人の女性への「愛」に生きる人です。
いつ戦場で命を落とすことになるかわからないからこそ、
おそらく何の悔いもなく死ねる人生を生きてきたのだろうと思いました。
この壮絶な時代にすこしもブレることなく満足できる人生だったろうと・・・
ラストのストップモーションの瞬間に熱いものがこみ上げてきました。
彼のような誇り高い生き方にこんなに感動できる自分をみつけて、
ちょっと幸せになりました。

彼の勇敢さ、義理人情にあついところは、男性の共感を得ると思いますが、
秘めた愛の純粋さは女性の心をとらえて離さないと思います。
壮絶な戦いのシーンの多い分、ふと見せる優しさに心を強く
揺さぶられました。

全編スペイン語で孤高のヒーローを演じたヴィゴ・モーテンセンの
男っぷりは見事!
脇を固める一流のスペイン系キャスト、スペイン人スタッフ。
撮影もスペインで。
スペインを代表する大作となりました。

世界史に全く疎い私でさえ、スペイン史の年表やスペインハプスブルグの
家系図を開いたりして、なけなしの知識を総動員して、
もう一度観てみたくなる作品です。
また、ベラスケスの絵画やケペードのソネット、
セルバンテスなども(名前だけですが)出てきて、
歴史だけでなく芸術の面からのアプローチもしたくなる、
アカデミックな作品でもあります。

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kerakuten

ゲストブロガー

kerakuten

“最近になって、月に15本くらい映画をみるようになりました。原作本の感想とあわせて、ブログに書き込んでいます。 ”