2009-05-08

ドキュメンタリー版『時計じかけのオレンジ』? このエントリーを含むはてなブックマーク 

1974年ニューヨークの世界貿易センター、通称ツインタワーの間を綱渡りしたフランス生まれの大道芸人フィリップ・プティ。その風変わりな人物像に迫るべく、映画は本人そして関係者たちの証言を組み合わせていくオーラル・ドキュメント的スタイル、ビル侵入から実行までのモノクロ再現ドラマ、周囲の協力者によって撮影された風景、そしてニュース映像などを巧みに組み合わせ、クライム・サスペンスさながらの緊張感を作りだしている。友人=共犯者たちのキャラクターが簡潔かつ丁寧に捉えられており、とりわけ、最も近しい友人であったジャン=ルイ・ブロンデューの愛憎入り交じった語り口には胸を打たれることは間違いない。そうした丹念な構成が、ありきたりの人生を嫌い、突き動かされるように徹底して自分の夢を追い求めた主人公の「エッジを歩く気持ちでいれば、どんな人生もタイトロープになる」というメッセージを際だたせている。メイン・ビジュアルにも使用されている、サティに乗せたクライマックスの静けさは息をのむほど美しい。マルコム・マクドウェルに似たシャープな顔つきを持つプティのイノセントに満ちた表情のせいもあるのだろうか、今作はまるでドキュメンタリー版『時計じかけのオレンジ』のように、一級の犯罪映画でありながら、同時に極めてすがすがしい余韻を持つ。

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駒井憲嗣

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駒井憲嗣