2010-03-13

痛みと哀しみの傑作 「息もできない」 このエントリーを含むはてなブックマーク 

韓国映画には毎年、心を揺さぶられる傑作がある。昨年は「チェイサー」、「母なる証明」がそれだ。今年は先日試写会で観た「息もできない」がそうだ。東京フィルメックスでグランプリと観客賞を受賞、世界各地でも絶賛の作品である。冒頭から始まる激しい殴打シーン、取立屋の主人公サンフンの血走っているがどこか寂しい表情に作品のテイストが滲み出ている。
幼馴染のマンシクと若い舎弟を伴っての取立屋家業。気前の良いマンシクと回収成績は優秀だが暴力が過ぎるサンフンの対比も面白い。そしてもう一人の主人公ヨニ。呆けた父親と素行不良の弟と三人で暮らす女子高生。どこにでも居そうなこの二人が出会い物語りは進む。サンフンは稼いだ金を姉のもとに届ける中、父親がいなく寂しい思いをする姉の子供ヒョンインをかまうようになる。サンフンには家庭内暴力で刑務所帰りの父親がいる。父親らしいことをされた思い出はない、殺したいほど憎んでいる。そんな自分のトラウマをヒョンインに感じているのだろうか。ヨニの家庭もサンフンと同じように父親の家庭内暴力が元で母親が亡くなっている。母の死を認識できないほど呆けた父親を世話する健気さに胸が痛む。そんな父と姉を疎ましく思い金をせびる弟ヨンジェ、自分の境遇から鬱積した感情は爆発寸前まできている。このヨンジェの存在がこの物語の中では重要なポイントになっていて実に巧みである。サンフンとヨニの不思議な交流が続く。やっとお互いの名前を告げ、屋台で少し打ち解けるシーン、サンフンの笑った顔の優しい事!個人的にこのシーンは大好きである。やがてヨニの弟ヨンジェがサンフンの仕事場に新人として登場する。遠慮しがちなヨンジェもサンフンの激しい仕事ぶりにやがて触発されるようになる。サンフンが憎み足蹴にしていた父親スンチョルが自殺未遂をする場面から物語は急展開していく。父を背負い病院に走るサンフンは走りながら絶叫する、病院内でも絶叫する。サンフンの父への本当の思いが苦しい程伝わってくる場面。ヨニの父親も包丁でヨニを脅す。家を飛び出したヨニと父が死にそうになったサンフン、二人が漢河で話す台詞が泣ける。ヨニとの交流、姉と父親がヒョンインとゲームに興じる場面を見てサンフンの心にも変化が見えてくる。「今日でこの仕事を辞める」突然マンシクに告げるサンフン。ヒョンインの学芸会を楽しみに最後の仕事に出かけるサンフンとヨンジェ。いつもの様に暴力的な取立をするヨンジェ、それを制止するサンフン。自己否定されたに等しいヨンジェの取った選択は・・・・・・・。このシーン含め、息が詰まる暴力シーンの迫力と切迫感は何だろう?
カメラのぶれ方から察するとリハーサル無しのワンテイクを思わせる。高ぶった感情の中から
振り下ろされる拳、金槌、リアルな痛みと哀しみを感じざるを得ない。最大の不幸と哀しみが訪れ、やがて少し昇華され月日が過ぎる。ラストでヨニが目撃する弟ヨンジェの暴力シーンにサンフンを被らせるのも憎い。130分観ている側もまさに「息もできない」。傑作である。

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息も


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momotimu

ゲストブロガー

momotimu

“渋い映画が大好きです。”


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