2008-03-18

視ること:『モンゴル』+1 このエントリーを含むはてなブックマーク 

3月13日、webDICEの招待に当たって『モンゴル』の試写会に行ってまいりました。
その前に、観よう観ようと思っているうちに今週で上映終了となってしまう『母べえ』を、浅野忠信繋がりで。
うっ、見逃さなくてよかった~~!! 優しくてあったかくて、その実ずっしり重い反戦映画。
黒澤明のスクリプターを務めてきた野上照代の自伝を山田洋次が映画化した作品で、1940年から41年にかけての太平洋戦争前夜とも言うべき時代を、父親が左翼思想家という家庭を中心とした庶民の目線から描いていきます。
父べえ、母べえ、そしてふたりいる娘のことは初べえ、照べえ、とユーモラスに呼び合う、この時代にしてはリベラルな家庭。ある日父親が思想犯として逮捕されてしまい、家族は苦境に置かれながらもけなげに生きていく。
吉永小百合がすごいなあ。はまり役。夫や子供を想う姿は優しさ100%でいかにも昭和のお母さん。周囲の人々の好意に助けられ、上手く立ち回って流されているようにすら見えるところもあるが、芯は曲げない毅然とした強さも持っている。笑顔の下に一瞬たりとも気を抜かない厳しさが隠れているよう。この時代の女性は、自我を抑えながらもどれだけ苦労してがんばって生きてきたのだろうと胸が苦しくなる。
そして浅野忠信が、そんな母べえに惹かれて、主なきこの一家を見守り続ける青年・山ちゃんを好演。かつてない朴訥な、どんくさい役柄だけど、人妻に恋してしまい、その気持ちを隠してひたすら献身する男心に泣ける。いや~最高! これを引き出した山田洋次監督、素晴らしい。
ふたりの娘たちも子供らしくかわいい。そして父親の不在を悲しみ、苦労しつつも、やはり家族一緒で笑いも絶えなかった母べえたちに比べて、父べえの辿る運命はあまりに過酷だった。山ちゃんや、美しい叔母のチャコちゃんも戦争の犠牲者。
でもそれよりも、じわじわと戦争に染まっていく庶民たちの姿に、本当に背筋が寒くなっていくのだ。
何かと母べえを気遣ってくれる隣組の組長さんは、政府の言うことを鵜呑みにし日本の英米との開戦を支持するし、照べえのおかっぱはとても愛らしいのだけど、小学生たちがみんな同じ坊主におかっぱで、二六〇〇年奉祝記念行事になんの疑問も抱くことなく参加する。今から見ればすべてが異常なのに、こんな歯車が動くまま生きていたんだね。
ノスタルジーに見せて、昭和の罪を暴いたすごい作品。母べえの最後の言葉に、私も絶叫したい想いだった……。

新宿三越アルコットの地下のチャウダー屋で『母べえ』のパンフ(充実!)を読みつつ一息。
バルト9での『モンゴル』試写会に向かいます。
ジャパンプレミアで浅野忠信の舞台挨拶付き! 精悍な白いシャツ姿で、素敵~~。。
モンゴル語での撮影苦労話などしてくれました。撮影と撮影の間が1年ほど空き、2度目の撮影の1週間前に台本が変わってしまったと……。でも発音の正確さに囚われず、演技に感情を込めることに尽くしたそうです。
あと、作品の紹介としては、「決してあきらめないこと」を描いた作品だと説いていましたが、ゲスト・ブロガーの小野島大さんの日記によると、この舞台挨拶の同日にあった(行きたかった)サファリのライヴでも、浅野さんは「オレは絶対あきらめないって歌だぜ」とか曲紹介をしてたそうですねぇ。映画に感化されちゃったのでしょうね(笑)。
同じ事務所の菊地凛子も花束贈呈のため登場。思ってたより女のコらしい感じで、浅野さんにぽーっとなっちゃってるようなのが可愛かった。

さて映画。こちらも素晴らしかったのです。チンギス・ハーンの若かりし、そして知られざる空白の時代を、異国で投獄されていたのではという仮説をもとに描いた作品。
勇気と情に溢れ、私利私欲ではなくモンゴルに平安をもたらすために壮絶な闘いに明け暮れた、本当に大きな男を、これを演じられるのは彼しかいないぐらいのなり切りぶりで浅野が見事に演じている。や~~もう上手過ぎ。恰幅のよさがジャン・レノを思い起こさせたけれど、こんなアクション大作にもしっかりハマるスケールでかい性格俳優にいつの間にか!
作品としては、波乱万丈なストーリーもおもしろいけれど、それよりも映像美に浸ってしまう。大自然の壮大さはもちろん、戦闘シーンの迫力がすごい。形勢は押され気味であることが多く、容赦のない描写に本当にハラハラするが、同時にとても美しいのだ。血飛沫や汗が小さな粒として描かれ、斬られるとパラパラ……と空間に広がって、最初のほうの、山中での闘いでは深い緑との対比がそれは綺麗だった。とても印象的な雨のシーンも同様。デジタル上映だったので本当にクリアに堪能できた。
そして『母べえ』と重なるところもあったのだよね。長い間投獄され、肉体は汚れボロボロでも、思想は曲げるどころかより深めていくところ。そして彼にも成長後出会うふたりの子供がいて、最初は怖れられるものの、「お父さんおもしろいね」とすぐになつかれる優しいところ。
厳しい時代を美しくたくましく生き抜く、こんな映画が望まれているということなのだろうか。
私としてはこれにオスカーでもよかったのじゃないかと思いました。なのに実際は日本でもなかなか公開が決まらなかったと言うからも~!忠信が報われないよね。ぜひヒットしてほしいものです。

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深谷直子

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深谷直子

“ナオです~。”