2010-04-22

私が彼らの中に見たのは豊かさではなくて諦観だった このエントリーを含むはてなブックマーク 

山奥のやせ細った土地にしがみつくように農家の人々は暮らしている。
耕作地も牧草地も少ないためにスケールの小さな農業しか展開できず、
事業としては先細りするばかり。

家族の結びつきを大切にし地元を守ろうとしているにもかかわらず、
未来に明るい展望を抱けず後継者不足も深刻。

そんな農業従事者が直面する厳しい実態を、
ひたすら農民たちへの聞き取りという構成だけで明らかにしていく。

エコロジーやロハス、オーガニックやスローライフなどの
耳に心地よい言葉はここでは一切口にのぼることはなく、
農村への憧れなど所詮は広告会社が作り出した幻想であり、
この現代においては小規模な農村は崩壊していくしかない無残な現実を見せつけられる。

南仏の山岳地帯、細い一本道を自動車が走る。緑深い林道を抜け、
見晴らしの良い高台を過ぎ、やっと集落にたどりつく。

そこにあるのはのどかな田園風景ではなく、
わずかな人手でなんとか荒廃せずに済んでいる寒村。

そこで数十頭のヒツジやヤギ、乳牛を飼って生計を立てている80歳を超えた老兄弟と
彼らの甥夫婦に、現状を語らせる。
動物相手の仕事は早朝から日暮れまで続き、引退するまで休暇も取れない。
さらに都会から来た甥の嫁とはうまくいっていないと老兄弟は嘆く。

都会出身であるその嫁の方も、狭くて濃い人間関係になかなか馴染めないと愚痴をこぼす。

また、別の農家では新たにヤギの飼育を始めた若い夫婦が将来の夢を語るが、
それも後には失敗してヤギを手放す羽目になり、
「夢は諦めた。どう考えても不可能なのよ」と寂しげに語った。

ある酪農家では、いまだ搾乳を人手に頼っているほど近代化とはほど遠い環境で、
もはや利益を出すのは無理とあきらめたのか、牛を売ってしまう。
ワインやシャンパンのような特産物を作るでもなく、
変われない人々はこのまま滅びゆくしかないのか。

この映画は彼ら憐れむわけでも礼賛するわけでもなく、
下手な編集を加えずにそのまま素材を提供されているところは
押しつけがましさがなくてよかった。

このままやがて崩壊していくであろう生活を憂いつつもも変わらぬ暮らしを続けていき、
時代の変化や物質的な豊かさに背を向けているようにも見える農家の暮らしは
美しく捉えられることもできるのかもしれない…

でもこの映画を観た自分の印象としては、
彼らの中に豊かさや美しさを見出したというよりは、
悪い意味で何かを悟り諦めた印象の方が強くて、
あまりいい気持ちにはなれなかったのが本音。

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