2010-07-12

『ストーンズ・イン・エグザイル』クロスレビュー:クリエイターとして、そしてマーケターとしてストーンズは当時から偉大だった このエントリーを含むはてなブックマーク 

未発表曲や未発表テイク曲を数多く含むものの、リマスタリングによるリイシューにもかかわらず、UKチャートで1位を記録してしまった『メイン・ストリートのならず者』。そこからもこのモンスター・アルバムの人気のほどはうかがえるが、このダブル・アルバムがなぜ時代を超えて愛され続けるのか、その麻薬のような魅力を『スコット・ウォーカー 30世紀の男』で、奇才スコット・ウォーカーの素顔を白日のもとにさらしたスティーヴン・キジャック監督は、スピーディーな構成で勢いよくバンドの懐に飛び込み捉えている。
アルバム制作に関わる様々な人々の口述を組み合わせていく巧みさは、まるで私たちをかび臭いベースメントにくみ上げられた録音の現場にバンドと一緒に居合わせているような気分にさせてくれるし、南仏でのレコーディングにおけるメンバーの音楽的衝突はもちろん、ドラッグから盗人まで登場する絵に描いたようなトラブルの連続には笑うしかない。
しかし彼らが単なるルーズでダーティーなロックンローラーではなかったことは、歴史が証明している。かの地でのセッションをジミー・ミラーをプロデューサーに迎え南部サウンドとしてトリートメントし(のちの90年代にプライマル・スクリームが彼にプロデュースを依頼したのも今作の影響が少なくないだろう)、当時一世を風靡していたカメラマンのロバート・フランクを起用しながらも、彼の写真集の作風のポートレートとは別のより荒っぽいコラージュ的なアートワークを施すなど、計算されたクリエイティビティとマーケティングの才があってこのアルバムは生まれた。このドキュメンタリーは『メイン・ストリートのならず者』が決して偶然により生まれた傑作ではないことをもまた、教えてくれるのだ。

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駒井憲嗣

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駒井憲嗣


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