2011-02-25

『レイチェル・カーソンの感性の森』クロスレビュー:名手ウエクスラーも魅せる自然環境への愛 このエントリーを含むはてなブックマーク 

この作品から、誰もが連想するのは、産業革命以降にイギリスで起こったナショナル・トラスト運動だ。アメリカが経済的に世界をリードしようとした時代、「自然回帰は、人類にとって大切なこと」を提唱したレイチェル・カーソンの行動は、ナショナル・トラストとまさに同じものである。
 しかし、レイチェル・カーソンが提唱してきたことを、世界で行われているかというと、レイチェルのアメリカを含めて、先進国ですら、できていないことは、よく知られていること。だからこそ、この映画のもつ意味は大きいと思う。

 この作品は、レイチェル・カーソン自身が人生を語るところから、環境保全がどれほど大事かを提唱していく。驚かされるのは、レイチェルのこの話は、日本で水俣病や川崎の喘息などの公害問題が引き起こる、はるか前であることだ。日本にレイチェル・カーソンがいれば、あんな悲惨な公害がおきなかったのでは、と思うと、残念でならない(いたのかもしれないが、おそらく無視されてきたのだろう)。
 レイチェル・カーソンは、環境の大事さを熱弁することなく、「子どもたちの感性を育てよう」というところから、優しく、環境の大事さを物語る。現在、何か運動を起こすと、すぐにテロリストみたいな言われ方をするが、静かに語りかけるような運動の方が多い。環境問題だけでない、人が何か起こすとき、どのようにして他の人の心を動かせるか、ということも、この作品は教えてくれている。

 ところで、映画オタクとして注目なのは、この作品の撮影が、ハスケル・ウエクスラーの撮影によるものであることだ。感性豊かな映画を撮っていたハル・アシュビー監督の撮影監督として何度もコンビを組み、見事な自然描写をスクリーンで見せてきたウエクスラーの名手ぶりが、久々に見られたことはとても嬉しかった。この作品、映画オタクも無視できないものだと思う。

キーワード:


コメント(0)


山中英寛

ゲストブロガー

山中英寛

“もっと映画を”