2011-03-16

「トゥルー・グリット」クロスレビュー:コーエン兄弟は裏切らなかった このエントリーを含むはてなブックマーク 

ヘンリー・ハサウェイ監督、1969年の「トゥルー・グリット(邦題:勇気ある追跡)」における晩年のジョン・ウェインは、まだまだ逞しく恰好よい大スターぶりを見せ、翌年「いちご白書」の好演で日本にも多くのファンを持つことになったキム・ダービーと共に、明るく華やかなエルマー・バーンスタインの音楽に彩られて、おおらかで活劇らしい娯楽作品としての復讐劇を展開した。
コーエン兄弟がスピルバーグの製作を得て手掛けた新作「トゥルー・グリット」では、「真昼の決闘(1952年)」ほか、名作西部劇に出演した名優ロイド・ブリッジスの息子、ジェフ・ブリッジスが、コーエン兄弟らしい個性的な演出の中、父の血を引き継いだ西部魂の再現と、いかにもジョン・ウェインを意識したような怪しげで癖のある役作りをしている。
アイパッチがウェインと左右逆なのは、そんな意識の現れかもしれない。
ヘイリー・スタインフェルドは、キム・ダービーが演じた少年ぽく溌剌としたイメージではなく、良家の大人の女性のような品格を漂わせ、たびたび「法」を持ち出す才媛の少女として、映画初出演とは思えない名演技を見せる。
敷き詰められたコーエン兄弟独特のモザイクに、黒澤からの影響を受けたスピルバーグの英知が結晶となって燻し銀のごとく輝いているかのような、素晴らしい作品に仕上がったと思う。
ジョン・ウェインは馬上でライフルと拳銃をぶっ放すが、ジェフ・ブリッジスによる同様のシーンでは「七人の侍」での野武士の逞しさを思い起こさせるからだ。
光と影がとても美しい映像と、浮ついたところがなく、渋いが丁寧で冷静な展開。
カ―タ―・バウエルによる抑え気味の音楽も映像を生かしている。
そして怒涛のクライマックス。コーエン兄弟は裏切らなかった。

キーワード:


コメント(0)


たむら ゆみ

ゲストブロガー

たむら ゆみ

“よろしくお願いします”


月別アーカイブ