2012-12-29

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●グラインダーマンとしてのセカンド・アルバムがリリースされるタイミングで、2010年8月に行なわれたインタビュー。

−−新作『グラインダーマン2』、デビュー作からは3年ぶりですが、こうして2作目も完成させた今、グラインダーマンとバッド・シーズがあなたの中でそれぞれどう区別され、位置づけられているのか説明していただけますか?

「うん。そうだね、主な違いというのは、プロセスなんだ。だから、グラインダーマンではこういう曲をやるとか、バッド・シーズではこの手の曲をやる、なんて風に俺達が区別するようなことはあまりない。単にプロセスの違いであって……うん、ソングライティングの違いってこと。たとえば俺がバッド・シーズのために曲を書く時っていうのは、自分のオフィスに入って、そこで腰を据えてとにかく書いて、書いて、書きまくる」

−−古典的な意味での、「作曲」というやつですね。

「その通り。で、グライダーマンというのは音楽的にはコラボレーションであって、メンバーとの共同作業だ。うん、それらの過程が、これらふたつのバンドを大きく分けるものだね」

−−その結果、実際に生まれた楽曲についてはどうですか? たとえば、ウォーレンやジムの貢献も大きいグラインダーマンに較べて、バッド・シーズの音楽の方が、あなた自身の音楽的ヴィジョンに忠実なものだったりとか。

「いや、そうは思わないな……というのも、どちらも元は同じところから出てきているわけでさ」

−−それはつまり「あなた」ということですよね?

「(苦笑)ああ、俺から発している。でも、関係ないんだよ……要するに、自分は『グラインダーマンの時はこれ』みたいな調子で、それ用の帽子みたいなものをわざわざ被る必要はないんだ。だって、結局すべては同じところから出てきているわけで。だから……そうだな、グライダーマンとバッド・シーズとの違いというものを、ここ最近の俺は、それほど気にしなくなってきたってこと。最初にグラインダーマンを始めた時は、俺はかなり労力を費やして、人々に『両者は完全に違う、独立した存在。まったく異なる創作メソッドを使っている』云々といった印象を与えようとしたと思う。でも、今はどうかと言うと――そんなのホントどうでもいいよって感じさ。とにかく、俺達はグラインダーマンのレコードを作るだけだし、まとまった数の曲を書いて……4人のミュージシャンとして、全員いっしょに書くんだ。そこからどんなものが生まれようともね。だから、俺達は特に『グラインダーマンの曲』を書こうとしてやってるわけじゃない。このコラボレーションから出てきたものは、それが何であれ、グラインダーマンなんだ。たとえば今回、俺達がグラインダーマンでやったことの中には、ものすごくデリケートなものもあれば、一方で、とてもヘヴィで混沌とした代物もある。シングル『ヒーザン・チャイルド』のB面曲なんだけど、君はもう聴いたかな? バラードなんだよ。あの曲は、俺がこれまで作ってきた中でも、もっとも美しい曲のひとつじゃないかと自認しているんだけど、それをやってるのもグラインダーマンだっていうね」

−−まだ聴いていませんが、それは楽しみですね。

「"Star Charmer"っていうんだ。実に美しい歌だよ。ともかくグラインダーマンとバッド・シーズ、ふたつのバンドの間の違いに関して、俺自身は、もうあまり気に病んではいない。もちろん、両者が存在するということは混乱を招くものだし、カオティックだというのは承知してる。だから、たぶん他の人間達にとって、そういう状態は厄介なんだろう。要するに、聴き手にとっては、そこで何が起きているのか理解しづらい、そういう面は少々あるのかもしれない。そして間違いなく、レコード会社にとっては面倒だろうな」

−−その点が、グラインダーマンの初期にあなたが不安だった理由でしょうか?

「うん。まあ、人々が混乱しても、実際のところ俺は別に構わないしね(苦笑)。でも、自分自身『何なんだ?』と思ったのは確かだよ」

−−私はそこまで混乱しませんでしたよ。あなたの中には、いつも激しくて攻撃的な面があったわけで……。

「その通り」

−−で、特にここ4〜5年の話だと思うんですが、バッド・シーズはむしろ壮大なバラードの方が知られているイメージがあって。

「そうだね」

−−それはそれでとても好きなのですが、そろそろ、はらわたにガツンと来るような音楽も聴きたいな、と感じることもあって。

「だろ! 君はそのどっちも手に入れたことになるわけだ」

−−その意味で、グラインダーマン用、バッド・シーズ用みたいに使い分けてるわけではない、と先ほど言ってはいましたが、あなたの中の異なる面が、今はそれぞれのバンドの中に分かれて出てきているようなところがあるのかな、とも思うのですが。

「んー、それは違う。そんなにきっちり型にハマったものではないんだ。そういうものではないし……たとえば、この前のバッド・シーズのレコードの中にだって……というか、グラインダーマンをやる前のバッド・シーズのアルバム、『アバトワ・ブルース』にしたってそうだけど、あれらのレコードの中にもヘヴィなところはあるからね」

−−まあ、『アバトワ・ブルース/ライヤー・オブ・オルフェウス』は、2枚組という、それだけでヘヴィな作品でしたしね。

「あのレコードは、だからどっちにせよ、俺のソングライティングの中には異なる要素が存在するっていう、そこを示すものだったんだね。時に難しい……そうだな、何と言えばいいか……そう、互いに相反するような要素が共存している。で、自分としては、おそらくその点こそ、俺がベーシックなラヴ・ソングを書けない理由なんじゃないかと思うよ。というのも、俺の書くラヴ・ソングの中にはいつだって何か……心をザワザワさせるようなものが潜んでいるからね」

−−ええ(苦笑)。

「だから、ストレートなラヴ・ソングを書きたいとはスゴく思うんだけど(乾いた笑い)とにかく無理なんだ。ほんと、何度もトライしてきたんだよ! ただ、いつもこう何かが邪魔になる。思うに、俺の書くラヴ・ソングというのはどれも、たとえその根本が必ずしも暴力的なものではないにしても、常に、ある程度ヴァイオレンスというプリズムを通して見たものなんだろうね。たとえばその曲が、青いオダマキの咲く野原に2人が座って話している、というだけの情景でも、そこに何かが……その会話の中に何かがあるんだよ。もしかしたら言葉には出さない何かなのかもしれない、でも破壊的なサムシングが隠れている。俺にとっては、常にそういう風だったんだ」

−−なるほど。

「で、グラインダーマンでは間違いなく、そういったアイデアをすっかり出せているんだと思うよ。『よし! 俺はとことん邪悪なレコードを作ってやる!』って考えるっていう(笑)」

−−(笑)同時に、グラインダーマンをやっている時のあなたはすごく楽しんでいる、エンジョイしているなという印象もあります。バンドのヴィジュアル、ビデオ・クリップ、そしてレコードも含め、あなたのユーモラスな面が出ていて、アルバムを聴いているとつい笑ってしまうこともあるくらいで。

「それはいいんじゃないかな! うん……というのも……まず第一にあるのが、グラインダーマンの音楽をレコーディングするのは、実に大きな――そうだね、敢えてこの言葉を使えば、"楽しさ"をもたらしてくれるものだ、ということ。できる限り楽しもうとする、それはもう、我々の本質なわけだし(笑)」

−−ただ一般的に、あなた自身、あるいはバッド・シーズのことを、人々はゴシック・ブルースのシリアスなバンドという風に捉えているわけで、それがいきなり――まあ、いきなりではないですね。たとえば"ベイビー・アイム・オン・ファイア"のビデオでも仮装大会はやっていたし……

「ああ」

−−ただ、それでも多くの人々にとっては、あなたのユーモラスで滑稽な面がグラインダーマンで前に出てきたように思えたのではないでしょうか。

「んー……しかし、どんな反応があるのか俺には分からないし。っていうか、誰がレコードを聴いてるのかすら、俺は知らないからね」

−−(笑)。

「だから、俺が受け取る唯一のリアクションっていうのは、君達みたいにこっちをインタヴューをする側の人間からのものであって、実際に聴いた人間からのリアクションは分からないんだ。別に友人連中に新しいレコードを送りつけるわけでもないし、ただ、レコードを作るだけだから」

−−ライヴでは? オーディエンスの反応は生で見れますよね。

「ああ、というか、新しいアルバムの話だよ。うーん……どうなんだろう」

−−ユーモラスな面を出すことそのものについては、抵抗はないのでしょうか?

「というか、俺は常にユーモラスなところは出してきたよ」

−−ええ、でも、決して誰にでも通じる、分かりやすいものではないですよね? ファンはあなたの作品をすごく細かく分析しようとするし――

「うん」

−−そこでは「ニック・ケイヴは聖書のモチーフを使い、宗教的かつヘヴィなことを歌ってる」という話になるし、ユーモアはそう簡単には表面に出てこないと思うのですが。

「まあ、そういう内容の歌も幾つかある。うん、そういう曲も、俺の作るものの中にはあるよね。でも、基本的にはコミック・ソングだからさ」

−−ハハハハ!

「でも、そうだろ? というのも、今の音楽界で活躍している人間の中で、真剣に腰を据えてコミック・ソング――とにかくただ笑える、そういう曲を実際に書いているライターなんて、いないわけだよね。そういう人間は多くないし、例をあげようとしても、それをやってる人間が誰かいるか、思い浮かべるのは俺には難しい。だから……そうだな、人々から陰鬱な野郎だと思われていながらも、俺はコミック・ソングを書いている、それは奇妙なシチュエーションだよ。でも、結局は解釈の仕方次第なんだ。たとえば俺にしてみれば、"オマリーズ・バー"みたいな曲、とても長い曲で、男が人々を皆殺しにするって歌だけど、あれも基本的にはコミック・ソングなんだよ。俺にとってはそうなんだけど、中にはそう受け取らない人々もいる、と」

−−そうなんですか? ほとんどの人が「陰惨な歌」と感じてるはずだと思いますよ。そういうドライなユーモアのセンスは、日本人だと、特に分かりにくいかもしれないです。

「まあ、日本人だから、という点は俺にはよく分からないけどね。ただ、そうだな、自分が長い歳月の中で――特にここ最近やらなくちゃいけなかったことというのは、自分の中のユーモラスな側面を表に出すこと、そしてそれをもっと分かりやすいものにする、そういうことだったんじゃないか、とは言える。オーストラリア人というのは、ものすごくドライなユーモア・センスを持っていてね。妙な話だけど、自分達自身でもそれが笑えるものなのか、あるいはそうじゃないのかがよく分かってないんだ。で、それそのものが、オーストラリアのユーモアの一部だっていう」

−−(苦笑)。

「まあ……蟹みたいなもんかな。右に左に、横歩きするユーモアっていうね。だから、思うに俺は、自分のユーモアを、もうちょっとこう、普遍的なものにしなくちゃいけなかったのさ(苦笑)」

−−オーストラリア産のユーモアって、映画であれ文学であれ音楽であれ、メインストリームではあまり目にしないものだから、伝わりにくい、というのはあるかもしれないですね。

「(苦笑)うん、詳しい人間もそんなにいないし」

−−それはアメリカのユーモアとも、イギリスのユーモアとも異質なもので、常にブラックな感覚が根底にあるんでしょうか?

「ああ、それはあるよね。ともかく、君がグラインダーマンのレコードを聴いて笑ってしまった、その反応はいい反応なんだよ」

−−それは、よかった(笑)。

「同時にこのレコードは、不穏なものでもあるからね。要するに、あるレベルにおいては面白可笑しいレコードじゃない。でも同時に滑稽なところもある、と。どっちもあるんだ」

−−はい。ところで、グラインダーマンでは、あなた自身がギターを弾いていることが大きな特徴のひとつになっていると言っていいと思います。バッド・シーズが一時期から、より洗練されたサウンドに向かっていったのに対し、グラインダーマンでは音も、そこで扱われるエモーションも、ラフで攻撃的な、かつてのあなたの表現に回帰した、そういう印象を持ちますし。

「いやー、でもそれはどうかな? 俺達は長いこと日本でプレイしていないし」

−−まったく、その通りです。

「だから何と言うか……日本でのニック・ケイヴのイメージは、常に『四の五の言わせない、タフな音楽』みたいなものだったんじゃない?(苦笑)」

−−まあ、そうですかね(笑)。

「それが俺達だし、常にそうやってきたし……だから、うん、それって思い違いじゃないかな」

−−でも、ギターという楽器を使うようになったことの影響はないのでしょうか? たとえば、ギターという楽器は、ピアノに較べれば遥かに動きの多い、直接的な楽器ですよね。

「ああ、それはその通り」

−−で、ここにきて、あなたの中に何か創作上の新たな変化が起きたという自覚はないですか?

「いいや。俺は常にクリエイティヴな人間だから」

−−でも、日本の外でグラインダーマンのショウを見ましたが、あなたがギターを弾くたび、ピアノに腰掛けて演奏しているよりも、もっとダイレクトな感覚を受け取りましたよ。

「うん、それがギターという楽器の本質だからね」

−−なぜグラインダーマンではギターを弾いてるんですか? 単に、メンバーが4人という実際的な理由でしょうか?

「というか、ギターを弾けって押しつけられたんだよ。自分としては、別に望んじゃいなかったんだ」

−−誰が強制したんですか?

「ウォーレン・エリスさ。あいつが『お前はギタリストだ』って言うから、『ギターの弾き方を知らん』って応えたんだけど、『そんなのどうでもいい。ギターを弾くのはお前だ』って調子でね。『でも、ギターなんか弾きたくないよ』って返したら、ウォーレンは『だったら俺はバンドを辞める』と言い出して。それも、グラインダーマンの最初のレコードを作る寸前で。だから、俺は2〜3ヵ月かけてギターの弾き方を学ぶことになった……」

−−ちゃんと弾けてますよ。

「(やや皮肉っぽく)ん、まずまず弾けてはいるよ。だから、自分が弾ける限りは、ちゃんとプレイしてる……でも、うん、(グラインダーマンの)ファーストの頃に較べれば、今は確実に、ベターに弾けるようになっていると思う」

−−そのおかげで、これまでとは異なる音楽的な関心・興味が生まれた、ということは?

「ああ、ギターの弾き方を学んだおかげで言えるのは、突如としてロックンロール・ミュージックの道理が飲み込めたってことだね。自分の弾きたい曲を、どうやってギターでプレイすればいいのかを掴んだら……ピアノで弾くのは、非常に難しいタイプの曲だからね。それが、数週間のうちに、ヴェルヴェット・アンダーグラウンドを10曲くらいこなせるようになってたっていう」

−−この業界にこれだけ長くいて、なぜ今までギターをちゃんと弾かなかったんですか?

「さあねえ? これまで特に機会がなかったし、それに常に他に誰か、バンドにギターを弾く人間はいたから」

−−サウンドの変化にともない、歌詞に関しても、ストーリーを語る物より、より抽象的なものが多くなっている気がします。

「ああ、特にグラインダーマンの前作では、そうだと思う。あれはとても意図的なもので、聴き手が物語に耳を傾けなければならない、叙述型のソングライティング・スタイルから離れようとする試みだったからね。そういう歌の主眼になるのは、ストーリーを語ることにあるから」

−−たとえば、それは最近2冊目の小説を完成させたこととも関係がありますか?

「いいや。ただ、グラインダーマンというのはもっと音楽的なものだ、そう思ってね。で、自分が歌から叙述的な構造を外して、もっと雰囲気のある――もっと崩れたものにしてみたら、言葉、そして歌は、人々の耳にまた違って聞こえるんじゃないか、と」

−−そうした歌詞の中に、今作ではジャケットにもなったオオカミとか、非キリスト教的なモチーフが散見されることが興味深かったのですが、あなたは例えば、オオカミ男だとか、仏陀やクリシュナ神、はたまたムガール帝国やアクバル大帝などなどの事象に対して日頃から特に興味を抱いていたりするのでしょうか? これらのイメージは、あなたにとってどういう意味を持っているのでしょう?

「ああ……まあ、俺はソングライターなわけで、そこでは自分の書きたいことを伝えるのに"原型"を使うのはしばしば都合がいいんだよ。だから、たとえばオオカミ男という言葉を出すと、もちろん、人それぞれでその言葉の持つ響きは異なるとしても、即座に何かが聴き手の心に浮かぶはずさ。それが、自分がよく"原型"を用いる理由じゃないかな」

−−たとえば「オオカミ男」=危険、といったフィーリング?

「そう言うことも可能だろうね」

−−あなた自身にとっては?

「俺にしてみたら……オオカミ男というのは、今やちょっとこう、弱々しく不能っぽい存在になってきたんじゃないかと思う。それらの原型というのは無意識から出てくるもの、いわば、夢から生まれた存在なわけだよね。だから、俺はそこに今回、もうちょっと不吉で、恐ろしい感覚みたいなものを取り戻してやりたかったんだ」

−−また、あなたの歌詞には「男性は女性に勝てない、彼女達を征服することはできない」といった感覚もあると思うのですが。

「このアルバムに関しては、そこに描かれる女性達は破壊的な存在だね、確かに」

−−女性を恐れています?

「俺がかい?」

−−同時に、女性を愛しているとも思いますが。

「(苦笑)……そうだね、少しばかり怖いな。まあ、俺の歌詞には概して、何らかのノイローゼが存在するんだと思うよ。それを恐怖と呼んでいいのかは分からないけど、間違いなく混乱、そしてパニックの要素はあると思う。まあ、恐怖ってことなのかもしれないがね」

−−女性に関して言えば、そこに「分かりかねる何かへの恐れ」みたいなものも混じっていたり?

「いや、別に女性を恐ろしいと思うことはないよ。ただ……俺は男子校に通っていたんだよね。だから、女の子達が10代を過ごす時期、実際その場にいなかったんだ。それに対して、男女共学の学校に通っていた連中は、女の子達をありのままに見る機会があった。そして、そういう経験を持てなかった人間は、それこそ彼女達がすっかり"女"になった状態で彼女らに出会うわけで、そこに大きなミステリーが伴うことになる。要するに、授業中に彼女達が鼻くそをほじってる光景とか、そういうものを見ずに育ったせいでね(笑)。そういう面が何かしらの要因になってるのかもしれないけど、これはあくまで推測だよ」

−−わかりました。さて、"ヒーザン・チャイルド"には、ロバート・フリップが参加したヴァージョンもありますが、この共演が実現した経緯は一体どのようなものだったのでしょう?

「彼とは、以前からの知り合いではなかったよ。で、俺はあの歌が本当に好きだから、自分としては、あの曲がすぐ終わってしまうという思いが常にあって……できれば、えんえんと続いてほしい曲なんだよね。そこで、とにかく曲の終わりの方に、長いギター・ソロを入れたくなったんだよ。古典的というか……」

−−プログレっぽい?

「――ゾクゾクするようなギター・ソロをね。まあ、特にプログレっぽいものを求めていたとは思わないけど、クラシックな、ものすごいギター・ソロだ。で、ロバート・フリップはそういうことができる人だし、彼に曲を渡すことにして、彼の住むイングランド中部に行って、そこでスタジオに入って、彼に『何かEVILなものをやってくれ』って頼んだんだ。そしたら彼は、持ってるエフェクト・ペダルをすべて引っ張り出してきて、アンプに繋いで、あのパートを弾いてくれた。俺は本当に嬉しかったし、ハッピーだったね。というのも、俺が狙った通りのことを、彼はやってくれたからさ」

−−フリップ氏との作業について、感想を教えてください。

「彼は驚異的に素晴らしかったよ。本当にグレイトなギタリストだしね。とにかく、素晴らしかった」

−−グラインダーマンは「創作上の縛りはなく、何でもあり」というのが信条だそうですが、今後も場合によっては外部ミュージシャンを加えたセッションがあり得るのでしょうか?

「かもしれない。もしかしたら、ね」

−−個人的に、誰と一緒にプレイしてみたいですか?

「(即座に)ミック・ハーヴェイ!(苦笑)」

−−(爆笑)そんなんありですか! バッド・シーズを辞めたばっかりじゃないですか。

「そうか、うん。考えてみよう……あと、ブリクサ・バーゲルト! 彼を連れ戻して、ギター・ソロをやらせよう」

−−(笑)ソロを弾くためだけにですか?

「あ、いやいや、彼はギター・ソロはやらない男だ。断られるだろうな。うーん……」

−−ファミリー以外の人は誰かいないんでしょうか。

「(苦笑)そうだな、誰かな?」

−−たとえば、ジャック・ホワイトとか。

「でも、ジャック・ホワイトは、彼にとってのやるべきことをちゃんと持っている男だと思う。彼にはグラインダーマンは必要ないだろう、自分自身のアングルを持ってるからね。でも、彼はグラインダーマンでなら弾くだろうねえ。バンドの大ファンだから」

−−そうですよ。

「ただ、ジャック・ホワイトが相手だと、その結果がどうなるかは見当がつくからな。しかし、ロバート・フリップだと何が起きるか分からない。ロバートについて言えるのは、今回やってほしかったのは、彼が初期の頃に弾いていたようなプレイ……特に、彼がブライアン・イーノとやった諸作、あれが俺は本当に好きでね。だから、そういうことを希望していたんだけど、でも、それを彼に依頼するのは楽ではなかったよ。彼は今も現役のアーティストだし、その活動を通じて非常に多くのリスペクトを受けてもいる。そんな相手に『昔あなたがやっていたようなことをお願いします』と頼むのは……たとえば今、俺が『バースデイ・パーティの頃みたいに歌ってほしい』と請われたら、それはファッキン侮辱だからね。ところが、ロバート・フリップというのはスタイルに凝る人で、アコースティック・ギターであれヘヴィ・メタル・ギターであれ、どんな形式のギターでも弾けるんだ。だから、こちらとしても『これこれこういうスタイルで弾けますか』って言えたし、彼も『もちろん。まかせなさい、君達は必要ないからあっちに行って!』みたいな調子で(苦笑)……まあ、とんでもなくヒドい結果になる可能性だって、あったかもしれないけどね。というか、早くこの電話を切り上げて、あの曲をまた聴こう。本当に気に入ってるんだよ」

−−(笑)。

「それにもちろん、ロバート・フリップとやった件に関しては、もうひとつ理由があった。つまり、多くの人間、俺のファンといった連中から『ロバート・フリップとコラボするなんて、ニックはいったい何を考えてるんだ?!』と思われるだろう? その意味でも彼との共演に俺は興味があった。それ(人々を驚かせること)って、常に俺達がやってきたことだと思っているんだ。だから、今回の共演には、一種つむじ曲がりなところもあるけど、とにかく俺はエンジョイしたし、しかも彼は素晴らしいことをやってのけたし、ロバートの参加したあの曲のあのヴァージョンは本当にスゴいし、俺としては、彼があそこでやったことはファンタスティックだった、と。そうだ、だから、この顔合わせは、カイリー・ミノーグと共演した時に起きていたかもしれない反応、あれと似てるんじゃないかな。『あいつ、何を考えてるんだ?』みたいな。日本では、あれで非常に悪いリアクションが起きたってのは、俺も知ってるから」

−−え? そんなことなかったと思いますけど?

「いいや、君も、俺がファンから受け取った非難の手紙の数々を見ておくべきだよ。それこそ、罵りの手紙が殺到したんだから。『我々は、もうお前達のことを嫌悪する!』みたいな」

−−マジですか? 純粋主義者のファンからですかね?

「(こちらを軽くあやすような感じで)ほんと、そうなんだって」

−−でも、そうじゃないファンだって大勢いますし、実際、このところ日本にツアーで来てくれてないことについては本当にガッカリしているんですよ。

「そうか。じゃ、日本に行ってツアーすることも考えてみるよ」

−−マジでお願いします。

「わかったよ」

−−ちなみに、1998年のフジ・ロック・フェスティバルで楽屋破壊事件というトラブルを起こしたことも、何か引っ掛かっているのでしょうか?

「ああ。あの時は、どこかしら調子が狂ってしまったんだよ(クスクス吹き出す)」

−−……。

「(笑)たまたま魔がさした日だったんだ、あれは」

−−とにかく、日本のファンのために、ぜひ再来日をご検討ください。

「わかったわかった」

−−この後は新譜のリリースにともなって、グラインダーマンとしてのツアー活動が行われていくことになるわけですが、ライヴの場では、バッド・シーズで演る時とエネルギーの出し方、使い方がかなり違うと思います。どういうことを意識してステージに上がっていますか?

「いや、バッド・シーズとやる時と同じだよ。ステージに上がってパフォームする時に生まれる心持は同じで、要するに、別の人間になる、ということさ」

−−ステージ上でのあなたと、実際のあなたは別の人間だ、と。

「うん。あんなに"指さし"(観客に向かって指をさす仕草)はやらないな(苦笑)。たとえば自分が店でコーヒーを買ってる時に、相手に指を突きつけることはない(笑)」

−−(笑)グライダーマンの時は、もうちょっとアグレッシヴなモードになる、ということはないですか?

「グライダーマンの時は、そうだな、もっとこう、バンドの一員っていう気がするね。というのも、自分はギタリストでもあって、バンドの中において責任がある。その点バッド・シーズでは、もっとフロントマンってものだから、そこは違うよね」

−−ところで、ウォーレン・エリスはグラインダーマンの新作が完成した際「the album as "like stoner rock meets Sly Stone via Amon Düül", "very diverse", and "psychedelic"」とメディアに語ったようですが、あなた自身はどう感じてますか?

「んー、思うに、ウォーレンのそのコメントは、実際にレコードを録音する前に残した発言なんじゃないか? レコーディングはしたけど、それが果たしてどんな物になるのか、俺達もはっきり分かってはいなかったし。ともあれ、そのウォーレンの意見について、ここで俺が腰を据えて語ることはできないよ。でも、すごく出来には満足してるし、グラインダーマンに何が可能なのか、そのアイデアを押し広げた作品だと思う。それが、この作品について俺がエキサイトしている点だね。ほんと、自分でもこのレコードをめちゃくちゃ気に入ってるし……実際の話、このレコードは、ここしばらくの間に自分が作ってきたレコードの中でも一番、ふだん俺が聴いている音楽にもっと、ずっと近いものなんだ」

−−ほう。

「というのも、もっと音楽そのものに比重が置かれた、ヴォーカル中心ではないベクトルに向かっていっているからね。まあ、俺自身としてはそう感じている」

−−参考までに、あなたが日頃よく聴いているのはどんな音楽なんでしょうか。

「エレクトリック・ジャズをよく聴くね。だから、マイルス・デイヴィスはもちろんだし……うん、あれは、俺達のやってることにも影響が大きいんじゃないかな」

−−それは面白いですね。というのも、あなたの音楽については、メロディやサウンドも大きいですが、歌詞が常に注目されてきたわけで。でも、今はそこから離れつつある、と。

「でも、個人的に、いつでもその音楽を聴ける歌手って、実はあまり多くないんだ。ヴァン・モリソンとニール・ヤングくらいかな。というのも、彼らが曲の中で歌っていることの中には、何かしら分かりにくい、曖昧なところがあるからね。で、しばらく経つと、もう彼らが何について歌っているのかさえ気にしなくなる。一方で、ボブ・ディランは……彼もよく聴くシンガーだけど、ディランについては、いつも歌詞とかテーマとかに引き込まれるから、しばらく聴いていると、ちょっと疲れてくることもあるんだよ。同じことは、レナード・コーエンについても言える。でもニール・ヤングの作品は、音楽的な部分で何が起きているかがとても重要だし、また全体的にルーズなところがあるから、何度でも繰り返し聴くことができるんだ。ただ、概して言えば、俺は歌詞のない、インストゥルメンタル音楽を聴くことが多いね」

−−ウォーレンと、映画『ジェシー・ジェイムスの暗殺』のサントラを制作した経験が、今回の『グラインダーマン2』にも反映されているとも聞きましたが、具体的にはサントラの制作がどのような形で刺激になったのか、もう少し詳しく教えてください。

「というか、今回の映画に限らず、俺とウォーレンがサントラに取り組む時のやり方全般ってことだろうね。俺達はスタジオに入って、主にインプロで曲を作る。そこに後からストリングスだとかを加えたり、オーケストラをスタジオに呼ぶこともあるけど、あくまで始まりは即興からなんだ」

−−わかりました。さて、ブリクサ・バーゲルトに続いてミック・ハーヴェイも脱退してしまったバッド・シーズについてですが、ここにきて何か大きな変化が起ころうとしているのでしょうか?

「そう言えるだろうね、うん」

−−グラインダーマンからのフィードバックも含めて、今後のバッド・シーズがどのようになっていくのか、現在あなたが考えている次の展開はどんなものか教えてください。

「どうなんだろう。分からないよ」

−−でも、あなたは次のステップをどう見ますか?

「まあ、俺にとっての音楽的な次のステップというのは、バッド・シーズのレコードを作ること、だね。で、今の時点で俺に何らかのアイデアがあったとしても、バッド・シーズが実際どこに向かうのか、その方向性についてのコントロールを、俺は握っていないからさ。だから、まずやれるのは、スタジオに入ること……というか、まず自分のオフィスに行って、そこでマテリアルに取り組んでみて……そしたら何かが浮かんでくるだろうし、それは自ずと、これまでと違う方向を示すだろう、と。でも、間違いなく違うものになるだろうね。ミック・ハーヴィがいない、それは確実だから」

−−その点について不安があったりもしますか? それとも、新しい編成から何かが出てくると信じてます?

「んー、というか、バッド・シーズのレコードで何が起きるか、それは毎回案じているんだよ。作り始める時は、いつも怖いもので……『これは新しいグライダーマンのレコードなのか?』なんて考えたりさ」

−−それは、バッド・シーズというバンドが各自個性の強いキャラクターばかりの集団だから、でしょうか。

「そうかもな……うーん、でも、本当に分からないんだよ。正直、次にどうなるかは分からない。俺には『こうなるだろう』なんて言えないし、どうなるか、そのアイデアすらない。ほんと、次の作品で誰がプレイするのか、それすら見当がつかないからね」


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