2013-01-17

映画『アルマジロ』レビュー:殺人という異常は戦場では賞賛に値するという状況にいる彼ら このエントリーを含むはてなブックマーク 

14日(火)、渋谷UPLINKでの先行上映会が開催された。


まず、この映画は一言で、
「デンマーク軍に同行取材して撮られたドキュメンタリー映画」
といえる。

ただし、なんとも、
今までに観たどのドキュメンタリー映画より画面の構図が美しくて(好みで)、
今までに観たどの戦争映画より心に残る(脳みそにまとわりつく)、
すごい映画だった。

酒と女に顔をほころばせる、どこの国にもいる若者が、
仲間や冒険という刺激を求めて戦地に行く。
徐々に戦闘に興奮を覚えて、
仲間の死に恐怖を覚えながらも敵に憎悪を増殖させ、
空いた時間に戦闘ゲームをし、
また始まる銃撃戦、
無人偵察機と遠隔操作による空爆というリアリティのない攻撃、
興奮のエスカレートと罵声、
土煙の中の銃撃戦、
疑問符の残る too much な殺し方、
任務を全うするなかで高揚する兵士の表情、
そして観るものへと問われる倫理観と道徳観。

観ていてとても疲れた。
映像として構図や表情の撮り方は劇映画を見ているようだし、
ある種洗練された映画であるとも言えるのに、
そこにあるのはセットでもなければセリフを吐く俳優でもない、
紛れもない戦場なのである。
兵士のヘルメットに付けたカメラはそのまま血腥いタリバン兵の遺体を映し出すのと同時に、
自分を英雄だと錯覚し興奮する兵士の姿も移す。
それが戦場であるらしい。
戦争に麻痺していく兵士が多いなか葛藤の表情をみせつつ、
自らを奮い立たせている者もいるというのは興味深いもので、
戦争体験に身を蝕まれていく感じがある。
きっとそれが戦場なのだろう。

人を殺すってとてつもなく異常な行為なのに、
「戦争」という状況では賞賛される行為なのだから、
人間ておかしなもんなだなと思いつつ、
昨年末の選挙後から瞬く間に煽られていくニッポンの向かう先への懸念を、
今も世界に存在する「戦争」というフィルターを通してますます強くさせるしかない。

この映画は、
もちろん戦闘シーンもあるし、
遺体も映されるし、
楽しく観られるものでもないから、
万人に勧められるわけではないのだけど、
リアリティに戦争ゲームを作る会社のエンジニアとか、
選挙なんて行きたい奴だけ行けば良いって言ってた友達の小学校教師とか、
子育てに手一杯すぎて社会と断絶されてる主婦とか、
国際協力には興味あるけど国内の格差問題には興味のないNPO職員とか、
保守的な父親とか、
そういう人たちが観たらどんな感想を持つのかとても興味がある。

この映画が映し出すのは戦場の臨場感と気味悪さで、
映像もデンマーク軍への同行取材のみで構成され、
タリバン側の視点はない(そもそも中立的立場で映画は作れないが)。
ドキュメンタリーの定義うんぬんは置いておいて、
もっと幅広いジャンルの人にこの映画が観られることを願う。

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ミヤセサチコ(tamaki)

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ミヤセサチコ(tamaki)

“絵をかいたりしながら、いまは映画脚本をべんきょうしています”


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