2013-02-13

『ゼロ・ダーク・サーティ』クロスレビュー:地獄の『プラダを着た悪魔』 このエントリーを含むはてなブックマーク 

 見た目も美人な女流監督キャスリン・ビグロー。昔モデルだったこともあったそうですが、この人は本当に骨太な男気映画ばかり撮りますね。ハリウッドの男社会で仕事をしていくための武装かな、と穿ってみたこともありましたが、ここまでのフィルモグラフィーがすべてそっち系なので根っからそんな人なんでしょうね。いかにもアメリカンなマッチョイズムです。きっと爆発シーンも心から大スキなんでしょう。

 さて本作は、ウサマ・ビン・ラディンの捜索から殺害までの経緯という政治的にナイーブな題材を扱っており、とくに歴史的事実(しかもかなりホヤホヤ)の映画化ということもあってか、実際にあった(であろう)ことを淡々と描くという手法をとってます。便宜上アメリカ側の視点で描いていますが、真摯に客観的であろうとしているのは間違いありません。というわけで、素直にその思惑にのっかってドキュメンタリーとして観れば、とても興味深く観られることでしょうし、制作者がこの映画で感じ取って欲しいであろう痛烈な問題意識にも深く触れることができるでしょう。

 しかし、ここであえて主役のCIA女性分析官を追っかけてく観方をすると、別の側面も見えてきます。これは言ってしまえば新米女性社会人の成長物語なわけですね。構造的に似てるのが『プラダを着た悪魔』かな(最終的に職場を去るところも似てますね)。あちらはファッション業界が舞台なのでお気楽に見ていられるわけですが、こちらは国の数だけ正義があるといわれる政治&戦争&テロの世界。最初は捕獲した敵の拷問にも目を背けていた主人公がどんどんドラスティックになっていくわけですが、あやうく爆死しそうになったり、同僚を爆破テロで失ったり、出がけに銃撃にあって命を狙われたりとさんざん「テロ憎し」の動機づけを与えられていたにもかかわらず、その過程で彼女が愛国心に燃えていたのか、ただ手柄を立てたかっただけなのか、連綿と続く報復合戦に何かしら疑問を覚えていたのか、実のところどういう気持ちだったのか分かりにくい・・・ただただエキセントリックなお嬢さんに見えて。だから彼女の最後の涙も私にはとってつけたように見えてしまいました(あの涙に共感を覚える方も多いようですが)。これは客観的な作劇の中に、主人公の視点を観客の入り口としてさらに感情を共有させようとしてそれが成功していないからかな、と穿ってみたりしたのですが、どうやら実在のマヤ(主人公)もかなりエキセントリックな人らしい。つまり監督は最初から徹底したドキュメンタリズムでこの映画を撮ったようです。それを知ってやっと腑に落ちました。つまり分かりやすいドラマツルギーなどさっさと捨てて、冷徹にこの映画を仕上げたというわけです。いやホントにマッチョな女性監督ですね。感服しました。

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