2013-03-03

「ライフ・オブ・パイ」とイリュージョン落語。 このエントリーを含むはてなブックマーク 

(ネタバレ有りです)

エンディング直前。
大人のパイ・パテル(主人公)が、物語の総評をする部分で
立川談志師匠の「イリュージョン」を感じさせる展開が現れます。

以下、立川談志「人生、成り行き」より引用。

「でも、落語が捉えるのは〈業の肯定〉だけではないんです。
人間が本来持っている〈イリュージョン〉というものに気がついたんです。

言葉で説明できない、形をとらない、ワケのわからないものが
人間の奥底にあって、これを表に出すと社会が成り立たないから、
〈常識〉というフィクションを拵(こしら)えてどうにか過ごしている。

落語が人間を描くものである以上、そういう人間の不完全さまで
踏み込んで演じるべきではないか、と思うようになった。」

船の所有国である日本の保険員が
「会社に報告するため」に、転覆から遭難までの経緯を尋問する際、
パイのイリュージョン(または常識)は加速を始めます。

海は宇宙であり、船は宇宙船です。
また、礼拝のマットでもあり、大陸でもあります。

パイ(人間)は、雲の切れ間から
「何か」に触れたことにより神の視点で俯瞰され、
ミクロとマクロの反芻(はんすう)が発生します。

陰と陽。業の肯定と否定。

孤独では生きていけないからこそ、
また、大切な物を沢山失い過ぎてしまったからこそ、
パイ自身の心の中で、物語が産まれていきます。

私たちも、人に話すことで本質を理解することがあると思います。
パイの物語は、まさにベッドの上で確立され、
そこに感動が生まれます。

〈常識〉と〈イリュージョン〉。
どちらが事実だったのか、を問いただすのは野暮な話です。

われわれ体験する側が感じた事、それぞれが正解であり、
本作の醍醐味があるのだと思います。

キーワード:

映画


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shinya sato

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