2013-10-03

漫画家ヤマザキマリさんの発言に対するネット上の反応について このエントリーを含むはてなブックマーク 

今年の8月末から9月にかけて日経ビジネスオンラインで連載されていた、漫画家のヤマザキマリさんと、とり・みきさんとの「とりマリ当事者対談」について、その最終回にあたる9月24日付けの「日本では作家が連載するんですよ」「えええっ」と副題された対談の内容がネットメディア等で広く取り上げられました。

私は、ヤマザキマリさんから弁護士としての依頼を受け、法的な問題についてアドバイスを行なう身ですので、本件についてコメントをすべき立場ではありません。よって、今回はヤマザキマリさんの代理人としてではなく、事情の一端を知る「一個人」として、上記対談へのネット上の論調について、私なりに感じるところを述べたいと思います。

ネットメディア等が、上記対談をうけて、ヤマザキさんが「日本の漫画界の異常」さを語っていると取り上げたり、「日本の漫画界を批判」しているかのように論じたことにより、ユーザーの方々による同様の趣旨の書き込みやTweetが散見されるようになりました。

しかし、対談の全文を読んでいただければ理解していただけるはずですが、ヤマザキさんは、とり・みきさんとの対談の流れで、日本と海外の文芸界や漫画界のマーケットの違いを、あくまでも客観的な観点から指摘したに過ぎません。

また、対談全体を読んでいただければ、ヤマザキさんが海外の人にも日本のやり方を理解してもらおうと必死になっている、という部分も拾っていただけるはずです。ヤマザキさんは「海外で日本のやり方を理解してもらうことは非常に難しい」と言っているだけであって、日本のやり方がおかしい、と批判している訳ではありません。

ヤマザキさんは、日本の漫画界の異常さを改めるべき、と語りたかった訳ではなく、海外に住み、外国人との家庭を持つ身からすると、日本では「常識」と考えられていることが、必ずしも周囲の人に「常識」として受け止めてもらえないことがあり、そのために苦悩し、執筆活動に支障をきたす場合がある、ということを知っていただきたかっただけです。

一部の反応では、「日本の漫画界が嫌なら、海外で活動すればいい」等のヤマザキさんへの批判コメントも見受けられ、さらに、メールやメッセージ等で直接ヤマザキさんを非難し、中傷するケースも増えているようです。ヤマザキさんは、彼女が本当に伝えたかったことと、ネット上の論調とのギャップに大きなショックを受けています。

ヤマザキさんは、ことさらに日本の出版界や漫画界を批判ないし非難したかった訳ではなく、日本と海外の文化や商慣習に大きなギャップがあるため、海外在住のヤマザキさんが苦悩する場面が多い、という切実な事情を伝えたかったに過ぎないことをどうかご理解ください。

ところで、日経ビジネスオンラインでのヤマザキさんの発言に対してネガティブな反応が出てきてしまうのは、やはり同時期に、エンターブレイン社発行のコミックビーム10月号で、「テルマエ・ロマエ」の特別付録として「お詫び手ぬぐい」が付されたことについて、ヤマザキさんが「何も聞いていない」とTwitterで発言して大きな波紋を呼んだことが、少なからず影響していると考えざるを得ません。

そこで、「お詫び手ぬぐい」に関する騒動についても、私から一言述べさせて頂きます。

ヤマザキさんのTweetが波紋を呼んだ後、コミックビーム編集部が声明を発表し、「企画内容の説明と監修」をヤマザキマリさんに行った、と公表しました。これにより、「編集部はちゃんとやっていたらしい」「ヤマザキマリが一方的におかしなことを言ったのではないか」というコメントがネット上で多く投稿されるようになりました。

私は、この一連の流れの当事者ではありませんので、全てを知る訳ではありませんが、騒動が発生した後、私自身が把握した事実やコミックビーム編集部から指摘された事実経過などを見たうえで、ある程度の正確な事実関係を説明させて頂きます。

まず、背景事情として、今年の始めに、コミックビーム編集部はヤマザキさんに、「テルマエ・ロマエ」の番外編を10月号から連載開始してもらい、2014年春には一冊に纏めて発売したいという企画の主旨を伝えていました。ヤマザキさん自身も本編で描ききれなかった内容は是非番外編で展開したいと考えていました。

しかし、その後、映画「テルマエ・ロマエ」の原作使用料問題について明朗な説明を受けていないことへのヤマザキさんのご家族の不審や、アメリカからイタリアへの引っ越し、さらに、ヤマザキさんの2度に渡る入院と手術という問題が続出したため、ヤマザキさんのご家族やヤマザキさんご自身から、コミックビーム編集部に対して、番外編を10月号から毎月連載をするのは無理であるとの申し入れを行っていました。

そういう状況のなか(つまり、10月号からの番外編の連載を行うか否かが決定していない状況のなか)、今年6月に、コミックビーム編集部の担当者から、ヤマザキさんのマネジャーに対して、コミックビーム10月号に手拭付録をつけたい、というメールが送られてきました。そのメールは、2枚のデザイン案の画像が添付されており、どちらがいいか、ヤマザキさんの意見を求めるものでした。

しかし、ヤマザキさんのマネジャーとしては、ヤマザキさんのご家族と本人から、10月号からの連載は事実上延期しなければいけない、という旨を5月の時点で聞いていたため、「付録」については何も触れず、まず連載についての協議をしましょう、という趣旨のメールを編集部の担当者に返信しました。

コミックビーム10月号の「付録」に関する編集部とヤマザキさんとのやりとりは、この1回のみです。これ以上のやりとりはありません。

最終的に上記の理由により10月号からの連載は「延期」という形になり、ヤマザキさんが、読者の皆さんに体調不良などを理由にした「お詫び」のイラストと声明を発表することになりました。
http://www.enterbrain.co.jp/comic/topics/index.html#topics033
この時点でヤマザキさんとしては、10月号からの連載についてはこの声明によって解決したと考えており、まさか「手ぬぐい」の付録だけが「お詫び」という名目となって一人歩きしているとは全く想像もしていませんでした。

しかも「付録」に関するやりとりは、この6月に編集部からヤマザキさんのマネジャーに送られたメール、1回のみです。かつ、「お詫び」という趣旨での付録にする、という企画意図の説明は一切受けていません。

この顛末を見る限り、コミックビーム編集部が「企画内容の説明と監修」をヤマザキさんに依頼したという状況は成立していないと評価せざるを得ません。一般社会通念上、この一回のやりとりのみをもって「企画内容の説明と監修」を依頼したことにはならないと考えます。

企画提案のメールをマネジャーが受けていることは事実なので、ヤマザキさんの「何も聞いていない」との発言は正確ではありません。これについては、「事実に反する発言をした」と、ヤマザキさんに代わって、私から訂正をさせていただきます。

しかし、ヤマザキさんが承諾の返信をしていない状況のなかで、手ぬぐいのデザインが決まった時点や、手ぬぐいのサンプルが完成した時点においても、編集部からヤマザキさんに対してリマインドはありませんでした。このやりとりが一般的な「企画説明&監修フロー」に沿っていると言えるのかどうか、客観的な立場にたってみても疑問に思わざるを得ません。

少なくとも、2回、3回のリマインドがあれば、ヤマザキさんが「何も聞いていない」と咄嗟に感じることはなかったはずです。特に、「お詫び」という名目で付録を掲載することについては一切聞かされていなかったので、ヤマザキさんも「お詫び手ぬぐい」の付録を見て、大変驚いた訳です。

映画の原作使用料の際にもコメントをさせていただきましたが、今回のような法的な問題ではない、純然たる実務上の問題においても、やはり、編集部とヤマザキマリさんとの間で、必要十分なコミュニケーションが図れていなかったと指摘せざるを得ません。

今回の騒動は、一方的にどちらが悪い、ということではなく、特に出版業界のようなエンタテインメントの世界では一つの「ミスコミュニケーション」が大きな問題に発展する、ということを再認識させられる特徴的な騒動だったような気がします。その結果が、ヤマザキさんの対談上の発言に対する誤解と、ヤマザキさんへの中傷にもつながってしまったのは、じつに残念でなりません。

繰り返しになりますが、ヤマザキさんは、決して日本の漫画界の異常さを批判したかったのではなく、「日本と海外の商慣習の違い」が海外では理解してもらえないことへの苦悩を述べたかったに過ぎません。どうか、このことをご理解いただき、イタリアに拠点を置きつつ日本の漫画界で活動するヤマザキさんをより一層ご支援いただけましたら、「一友人」として望外の喜びです。

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コメント(1)


  • nerugui 2013-10-04 21:29

    直接今回の件とは関係ないのですが
    私がずっとひっかかっていることを書きます

    それはヤマザキマリさんがなぜテレビで映画の報酬についてしゃべってしまったのか、ということです。そんなことをテレビで言われてしまったらビーム編集部の立場はどうなってしまうでしょうか?常識的に考えたら、取引をしている相手を貶める発言であるのは明白です。報酬に不満があるのであれば相手に直接言うべきです

    また、今回の手ぬぐい事件も企画自体を了承していないのであればなぜその件についてビーム編集部に確認する前にツイッターで呟いてしまったのですか?
    これも編集部に対してとても失礼なことだと思います。

    企画を了承していたとかしていなかったとは別の問題ですけどね

四宮隆史(弁護士)

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