2014-12-25

ClippingとBryan Lewis Saunders このエントリーを含むはてなブックマーク 

 昨日、ele-kingを立ち読みしたら、何位だったか忘れたけど、2014年のベスト30枚のうちにClippingというヒップホップグループのアルバム『CLPPNG』が入っていた。そのアルバムについて、国内盤の解説でも触れてないいくつかの点について僕の方から補足しておこうと思う。

 自分の話からで恐縮だけど、Clippingを初めて知ったのは、僕の尊敬する友人、アーティストのBryan Lewis Saundersを通じてで、ちょうど彼らがオンラインのみで1stアルバム『midcity』をリリースしたときだった。ヒップホップのフォーマットを、ギャングスタラップ然とした佇まいを纏いながら、ノイズミュージックなどヒップホップの遥か外側にある要素を用いて批評しているようなアイロニカルな表現に大きな衝撃を受けて、すぐ購入した。
 そのアルバムの曲のなかでも、知的な遊び心が凝縮されていたのが、ラストの『outro』で、「Get money」という台詞のみのループ再生を、スティーブ・ライヒの初期テープ音楽のスタイル (2つの同じ音源を同時に再生して、再生速度の微妙なズレから音響的なモアレを発生させる手法) を引用して行っていた。

 その後、彼らはSub Popと契約し、今年『CLPPNG』をリリースした。そのアルバムのラスト(日本盤ではボーナストラックの前ですが)でも、同様に、アカデミックなものを引用するアプローチを見せていて驚いた。それはジョン・ケージが1952年に発表した電子音楽作品『Williams Mix』のカバーで、自らの音源とChristopher Fleeger(後述)の音源を同時に演奏している。演奏しているのはゲスト参加のTom Erbeという、SoundHackという、どんなデータファイルでも音声ファイルに変換することができるという機能を備えたソフトウェアの開発者だ。

 その次のボーナストラックが、今回の投稿の肝で、タイトルにも書いたClippingとBryan Lewis Saundersの共作になっていて、Bryanの語りが大々的にフィーチャーされている。どういう訳か日本盤のみの収録らしく残念なのだけど、僕はこの曲が大好きだ。わざわざ日本盤を買ったのはこの曲を聴きたかったからなのだけど、上に書いたことと同様にこの曲については解説でも触れられてないし、雑誌でも触れられていなかった。

 さて、先に書いたChristopher Fleegerについてだけど、彼は、Bryanの音源制作にいくつも関わっている人物で、フィールドレコーディングを加工した独特なサウンドスケープを制作するアーティストだ。僕は、以前ここでもリリース情報としても書いたけれど、Bryanのプロジェクト『Stream of Unconscious』の制作に関わった。そこでもChristopherが参加していて、実はそこで彼とのスプリットという形でアルバムをリリースさせてもらったのが僕なのだ。全12本のカセットテープのうちのVolume 5が僕たちのアルバムだ。
 『Stream of Unconscious』は、Bryanの睡眠中の発話の録音に24人のアーティストが音源をつけるというプロジェクトで、参加アーティストには何度か来日していてご存知の方も多いだろうSudden InfantのJoke LanzやEvil Moistureというノイズミュージックよりのアーティストから、最近ではPANレーベルから実験的なテクノをリリースしているLee Gamble、コンセプチュアルな作品を手がけるCM Von Hausswolff(美術家としてはドクメンタやヴェニチア・ビエンナーレへの出展歴もある)、Leif Elggrenという大御所アーティストまでが名を連ねる、まさにエポックメイキングな作品だ。そのうちの1人として関われたことを、僕は心から誇りに思っている。
 睡眠中の発話と書いたけれど、ただの寝言とは思って欲しくない。ひとつひとつがきちんと一つの「詩」としての脈絡と整合性を持っていて、その破綻のなさは文字通り超人的だ。

 彼の作品群は、自身の身体や精神を一つのメディアや素材として酷使する、時折は反社会性を帯びた過激なものなので、その奇抜さが誤解されるけれど、本人はとても知的で、それぞれの作品にはすべて論理的な無矛盾性が備わっている。決してアウトサイダーアートなんかでは断じてなく、事実、フランスでの大規模なグループ展への参加やイスラエルのギャラリーでの個展など、正当な現代美術の舞台で評価が確立されつつある。
 興味がある方は是非彼のホームページをご覧いただきたい。作品の膨大な記録が、それぞれのコンセプトを述べる理知的な文章とともに載っている。

 ちなみに彼が主演した、ドキュメンタリーフィルム『Art of Darkness』が先日アトランタのドキュメンタリー映画祭Atlanta Docufestでグランプリを受賞した。その他にもたくさん受賞しているようだ。日本国内でも字幕付きで見たい、見て欲しいと思うのだけれど、どなたか興味のある方いらっしゃいませんか?UPLINKさんいかがでしょうか?

 最後に『Stream of Unconscious』で、僕が制作した曲、またChristopher Fleegerの曲がそれぞれSoundCloudにアップロードしてあるので、そのリンクを載せておく。気に入っていただけたらうれしい。
https://soundcloud.com/yoshihiro-kikuchi/demon-saddle-by-bryan-lewis
https://soundcloud.com/fleeger/revenge-of-the-dolphins

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菊地良博

ゲストブロガー

菊地良博

“宮城県在住 美術家/実験音楽家 ”


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