本作を監督した渡辺聡氏（左）と、東京都現代美術館学芸員の横江氏（右）
展覧会開催のきっかけや、写真集へのこだわりを持つ森山大道が写真展をどのように捉えているか、2人のトークが繰り広げられた。
「日本とブラジルの友好100周年を記念して、東京都現代美術館において、ブラジルの現代アート作家たちによる大掛かりな展覧会を開催するので、そのうちのワンフロアを使って、ブラジルの写真家ミゲル・リオ=ブランコ氏が来日して東京を撮り、森山大道さんがブラジルに出向いてサンパウロの写真を撮って、二人展を開催するというプランをブラジル大使館から聞きました」と学芸員を務める横江氏。
『森山大道 「サンパウロ、路上にて」』より 写真：仲本剛
その森山大道のブラジルでの撮影に同行し、渡辺氏が制作したドキュメンタリーが『森山大道 「サンパウロ、路上にて」』である。この映像の一部は、東京都現代美術館の写真展でも見ることができる。
撮影を振り返って渡辺氏は、「ブラジルでの撮影が9日間という制限のある時間の中で、森山さんはとにかくフットワークが軽かったです。いきなり路上の奥に行ったり、突然車を降りたり、突然走り出して群衆の中に溶け込むように行ったりとか、路地を急に曲がったりと、テーマは何も決めずにふらりと立ち寄ることが多く、そういう匂いを肌で感じていらっしゃるようでしたが、その中でもどの壁面にどのような配置で、という空間的な構想は出来上がっていたと思います」
壁面の割り当てについては、撮影に赴く前に横江氏が森山大道とミゲル・リオ・ブランコと話し合い、決定したという。
そして撮影後、実際に写真を配置していく作業について横江氏は、「森山さんの場合、全て事前に写真のミニチュア版を作成してきて、並び方を構成した上で壁面を埋められていました。特に被写体を決めず雑踏の中を流動的に撮影されている森山さんの撮影スタイルでも、やはり頭の中で完璧に絵が出来上がっていたと思います」と、横江氏も森山大道の空間的な構想に関しては天才的と賛同した。
会場では、隙間なく規則的に敷き詰められた森山大道のモノクロームの写真と、不規則に並べられた色彩豊かなミゲル・リオ＝ブランコの写真が向かい合う壁面に展示されており、興味深いコンストラストを生み出している。
写真：仲本剛
現在発売中の展覧会のカタログについて、横江氏は「森山さんもリオ＝ブランコさんも、キャプションもページ数の表記もありません。これは、森山さんの多くの写真集にみられる特徴です。一方のリオ＝ブランコさんは、カタログの色彩を出すのに大変な神経を使いました。リオ＝ブランコさんの場合、赤みを強く反映させたいので、その調整が大変でしたね」と語る。
それぞれの思いが詰まった二冊のカタログがグレーのケースに収納され、一冊の写真集のように仕上がっている。
また、現在JALの機内誌『SKYWARD』には森山大道のコラムが掲載されている。その掲載写真について横江氏が興味深いエピソードを語ってくれた。
「これは森山さんが、写真を発明したニエプスという人が住んでいたフランスの家を訪れたときのことを綴ったもので、おもしろい写真が載っています。ニエプスが自宅の窓から鳩小屋を撮影した有名な写真があるのですが、森山さんもその窓から同じ風景を撮影しています。その写真を見てみると、森山さんが写真の原初に立ち戻り、ニエプスに対するオマージュが、感じとれます」
■横江文憲プロフィール
東京都現代美術館学芸員。西武美術館（セゾン美術館）、東京都写真美術館、東京都庭園美術館の学芸員を歴任。1995年「つくば写真美術館」に参画。写真評論家、写真家としても活動しており、著書に『ヨーロッパの写真史』、『窓―横江文憲写真集 巴里1975-1977』などがある。
■『森山大道 「サンパウロ、路上にて」』完成記念イベント
2008年11月16日(日) 18:30開場/19:00開演
ゲスト：森山大道（写真家）×渡辺聡監督
会場：アップリンク・ファクトリー
（東京都渋谷区宇田川町37-18 トツネビル1F）[地図を表示]
料金：1,800円（1ドリンク付）
『森山大道 「サンパウロ、路上にて」』
アップリンクより発売中
本人以外立入厳禁の暗室作業、撮影秘話を自ら語るロングインタビューなど貴重映像を収録。森山作品誕生のプロセスと彼の写真の創造の根元的精神に迫るドキュメンタリー
監督：渡辺聡
出演：森山大道
2008年/日本/本編60分
価格：3,990円（税込）
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【関連リンク】
森山大道オフィシャルサイト
東京都現代美術館『森山大道 ミゲル・リオ＝ブランコ写真展 ～共鳴する静かな眼差し～』
