骰子の眼

cinema

東京都 渋谷区

2008-11-27 19:00


自閉症の妹を描いた『彼女の名はサビーヌ』で監督デビュー、サンドリーヌ・ボネール初来日!

カンヌ国際映画祭で“観た人すべての胸が締め付けられた”というドキュメンタリー作品を監督したサンドリーヌ・ボネール。諏訪敦彦監督とのトークイベントをレポート
自閉症の妹を描いた『彼女の名はサビーヌ』で監督デビュー、サンドリーヌ・ボネール初来日!
来日したサンドリーヌ・ボネール(左)、諏訪敦彦監督

『仕立て屋の恋』(89)、『ジャンヌ』(94)などで知られるフランスの女優サンドリーヌ・ボネールが、自ら初監督を務めたドキュメンタリー映画『彼女の名はサビーヌ』のプロモーションで来日した。現在、東京日仏学院でおこなわれている日本未公開のフランス映画の特集上映「第13回カイエ・デュ・シネマ週間」の中で先行上映され、サンドリーヌ・ボネール、諏訪敦彦監督、アントワーヌ・ティリオン(「カイエ・デュ・シネマ」編集委員)とのトークイベントが開催された。
この作品は、サンドリーヌが25年に渡って自閉症の妹サビーヌを撮り続けてきたHi8の記録映像と、現在施設に暮らす彼女、彼女を取り巻く世界を取材した映像によって綴られた物語である。


サンドリーヌ来日トーク01

本作の上映後に、サンドリーヌ・ボネールさん、諏訪敦彦監督、アントワーヌ・ティリオンさんが大きな拍手と共に登場。
サンドリーヌさんと一歳違いの妹サビーヌさんは、自閉症としての適切な診断を受けることなく28歳で精神病院へ入り、5年に及ぶ入院で変わり果てた姿となってしまった。そのことについてサンドリーヌさんは、「入院してから1年目で彼女は随分変わってしまった。これは普通じゃないと思いました。美しく、芸術的才能が豊かだった彼女が変化していく様を昔の映像と合わせて残したかったのです」

2001年にサンドリーヌさんはフランスで「自閉症の日」の後援者として参加し、自閉症の子どもを持つ家族たちと話しを交わした。そのときにドキュメンタリーをつくるべきだと強く思ったという。 「この作品は自閉症の映画というよりも、サビーヌのポートレートなのです。そして彼女の姿を世界に見せて、その事実を隠しはしないという意味も含まれています。また、セラピストたちが日常的に何をしているのかを映したかったのです。だから、私はサビーヌとある程度の距離をとることをルールとし、できるだけ目立たないように心がけました」


それに対して諏訪監督は、「作中でサビーヌはサンドリーヌの名前を何度も呼んで、あなたに近づこうとした。そういうときに距離をとることは難しくなかったのですか」と聞くと、サンドリーヌは「私は撮影するために、そこにいたのです。サビーヌのことを気にしていたら映画はつくれなかったでしょう」と述べた。

サンドリーヌ来日トーク02

また、サビーヌさんがカメラを向けられることをどのように理解していたのか?の質問について、「私は昔からサビーヌをHi8で記録してきました。私たち2人にとって、この撮影は“別の旅”をしたようなものだったのです。だから、彼女にとって映されることは自然なことであり、特に拒絶はしませんでした。撮り終わった後、彼女にどうだった?と聞いたら、“私は仕事をした。簡単だったわ。姉と同じように女優をしたのよ”(笑)と言っていました」

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作品について諏訪監督は、「これは難しい映画だと思いました。映像には撮る側と撮られる側があって、イメージをつけてしまう。だから僕は自分でドキュメンタリーを撮るのは怖いと思っています。撮られた側に何を返してあげられるのか分からないですし。でも、サビーヌは自分が役に立ったと言っています。この作品の視線は一方的なものではなく、個人的な愛情、兄弟への愛情、社会的な使命もあり、共につくっている感じがある。それがこの作品を支えているんだと思いました」と述べると、サンドリーヌさんは、「サビーヌは私にとって一番優れた俳優の中の一人。自然に役に入りこめる純真さを持っています。その純真さを私も取り戻したいと思うけど、なかなか難しい。俳優は自分のイメージに注意を向けすぎるから」と妹が持つ才能を褒めた。


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現在施設で暮らすサビーヌをサンドリーヌが撮影している様子(写真上)、若き日のサビーヌとサンドリーヌ(写真下)

監督デビューを果たしたサンドリーヌさんは、「作品をつくったことで、監督業が好きになったのと、自分が役に立てるのではないかと思いました。今後は是非フィクションもつくってみたい。今、『親密すぎるうちあけ話』の脚本家と共同でシナリオを書いています」と、映画制作に意欲的な姿勢を見せた。

このトークがおこなわれたのは火曜日。サンドリーヌさんは、この火曜日がサビーヌさんにとって“特別な日”であることを告白。「サビーヌはこの映画がとても好きで、毎日のようにみていたんです。でもカウンセラーの先生から、自分の物語の中に逃げ込んでしまうかもしれないから危険だと言われて、火曜日だけみていいことになったのです。だから今から8時間後には、サビーヌは映画をみているはず(笑)」と、自閉症という重いテーマ以上に家族の愛情を強く感じさせられるトークが繰り広げられた。

(文:牧智美)


■サンドリーヌ・ボネールPROFILE

1967年5月31日、フランスのクレルモン=フェランに生まれたサンドリーヌ・ボネールは『愛の記念に』(モーリス・ピアラ監督、1983)の主演女優として注目を集め、フランスのセザール賞有望若手女優賞に輝いた。1985年にはアニエス・ヴァルダ監督『冬の旅』でセザール賞主演女優賞を最年少で受賞。他にクロード・シャブロル、クロード・ソーテ、パトリス・ルコント、アンドレ・テシネ、ジャック・リヴェット、ジャン=ピエール・アメリス、ピエー ル・ジョリヴェなど、数々の著名な監督との仕事で知られる。『沈黙の女/ロウフィールド館の惨劇』ではヴェネチア映画祭最優秀女優賞を獲得。『彼女の名はサビーヌ』は初長編監督作品となる。


『彼女の名はサビーヌ』
2009年2月より渋谷アップリンクX他、全国順次ロードショー

監督・脚本・撮影:サンドリーヌ・ボネール
共同脚本・撮影:カトリーヌ・キャブロル
出演:サビーヌ・ボネール
2007年/フランス/85分
配給・宣伝:アップリンク


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