骰子の眼

music

東京都 世田谷区

2008-12-12 21:37


Coa Records:疾走し続けた10年間のドキュメント「まだまだ満足できない」

連載第3回目は、下北沢を拠点に活動している音楽レーベル『Coa Records』(コアレコード)をご紹介。【試聴できます】
Coa Records:疾走し続けた10年間のドキュメント「まだまだ満足できない」

CDジャケットや本の装丁、舞台の宣伝美術など様々な分野でデザイン、アートディレクションを手掛けている「Coa Graphics」の音楽レーベル部門として、98年より活動を開始した『Coa Records』。初期はギターポップ色の強いレーベルイメージから始まり、いまでは様々なジャンルの良質な音源を多数リリースする優良レーベルとして厚い支持を受けている。
今年で10年の節目を迎えるにあたり、Coa Records初のベスト盤『Coa Records Anthology』をリリース。レーベル設立当初から関わっている山本貴政さんに話を訊いた。


音楽の「繋ぎ役」が重要なんだと思った

CoaRecords

── Coa Recordsを立ち上げたきっかけを教えてください。

最初に、デザイン事務所Coa Graphicsの代表の藤枝くんがレーベルをやりたいと言い始めて、その話が共通の友人を通してあったんです。じゃあ一緒にやろうか、という感じで。厳密には、僕がCoa Recordsに加わったのは二作目からですが。

写真:Coa Graphics代表の藤枝さん(左)と山本さん

── 山本さんは以前別のレーベルを運営されていたとか?

いや、してないですね。バンドをやっていたことはありますけど。基本的にバンドをやめるときに、ミュージシャンじゃないんだったら、リスナーが一番幸せなんだろうなっていうのをずっと思っていたんです。それでいいやって思って。


── では、レーベル運営の経験なしで立ち上げたと。

右も左もわかんないままで。ただ、当時はサラリーマンで営業をやっていたので、取り扱うものが変わるだけで流通の仕方や飛び込み営業は慣れていたんです。だから媒体でのプロモーションまでやりながら動いていきましたね。レコード屋の営業に関しては、アポ無しでも怒られない話しかけ方に慣れてたので(笑)。当時のレコード屋は、バイヤーが気に入ったものを自分で仕掛けて売ろうという自由がまだ残っていたので、ちょうどやりやすかったんですね。

── どういったコンセプトでレーベルを立ち上げたんですか?

まず、それ以前のことをいうと、勤めていた会社が自由に休める環境だったんですね。毎年8月は1週間くらいしか出社しなかったし。その間に自分で好きなものを作っていたんです。ジョナス・メカスが好きだったので8ミリフィルムで日記映画をつくっていたこともありました。メカスが初めてカメラを手にしたのが27歳で、僕もちょうど27歳だったので(笑)。ピントが合っていないのは君の個性だとメカスも言ってたから、それでいいんだって(笑)。
最初、Coa Recordsに誘われたときは迷っていたんです。特に、この生活に不満がなかったから。二回目に誘われたときが、ちょうど空気公団をリリースするということで、バンドもいいし、売れそうだし、やってみようかなって思ったんです。80年代初頭に、イギリスのインディーズレーベル「チェリーレッド・レコード」から出ていた若い無名のバンドばかり集めた『PILLOWS AND PRAYERS』という低価格のコンピレーションがあって、それを聴いたたくさんの若い子たちが感化されてバンドを始めるんですよね。だから、そういう「スピリットの繋ぎ役」を担う人が重要なんだろうと思い直したんですよ。CDを聴いた田舎の子が俺もバンドやろうと思って次の日にギターを買いにいくぐらいのレコードを作ろうと。その中から誰かがまた、次に繋がっていくような名曲書けばそれでいいのかなって。で、そういう作品を作ったらやめようと思っていました。

HARCO
daisuke_mizushima

HARCO(左) / daisuke mizushima(右)
KIMONO MY HOUSE
KIMONO MY HOUSE

── Coa Recordsはさまざまなジャンルの音楽を扱っていますが、基本的にどのようなバンドを選んでいるんですか?

藤枝くんと僕の共通項はメロディがちゃんとしている、つまりメロディメーカー。と同時に、僕らはパンクレーベルではないけど、82年くらいのパンクな感じなので(笑)、そのスピリットが感じられるバンドを選んでいます。音はそのバンドの個性ということで、ジャンルが違っても気にはしていないです。

── バンドはどうやって見つけてくるんですか?

送られてきたデモテープに対する返事は1年に1回くらい。あとは、ライブを見て偶然っていうのもひとつだけで。最初の頃は僕らが遊びに行っている周辺の人たちがやってるバンドが多かった。あと、一番確立が高いのは、僕らのことを知っている人から、いいバンドがいるよって教えもらったバンドですかね。

── 売り込みは多いんですか?

一週間に4〜5本はデモテープが届いています。なぜか年齢層は高いですね(笑)。それも1回2回バンドが終わっている人たち(笑)。バンドのいざこざが面倒くさくなって一人でやっている。そういう人のは、なかなかリリースされないと思うんですけど、Coa Recordsはしそうなイメージがあるらしくて。でも、そんなことはないですよ。ただ、年だからとか、このジャンルだからダメとか、そういう些細で表面的なことを気にしていないというスタンスが、伝わっているということかも。良く解釈すると(笑)。

D.I.Y精神で、ぬるいことはもうしない

── 10周年のベスト盤『Coa Records Anthology』に収録されているバンドはどのようにして決めたんですか?

こういうときはおめでたいことなので全バンド入れるものなんですけど、入れていないですね。この並びがベストだと思ったから。漏れた人は、入ってなくても悪く思わないでねとも思うし、お互いに何かが足りなかった。10周年用の新曲も入れていないんです。普通、既存曲だけのコンピレーションだとレコード屋はなかなか注文してくれない。だけど、それも敢えてしなかった。クールじゃないし、これが現時点でのCoa Records10年間のドキュメントだから。

── では、かなりベストな曲ばかりを集めたと。

そうですね。歌モノが多いですけど、ノンストップミックス的な曲順で繋いでいます。アウトロとイントロのイメージで繋ぐと。歌モノレーベルのつもりでやってきたのではないので。要は、作品ありきという視線で選曲をしました。だからはずれる人にははずれてもらった。情が入って作品がぬるくなっちゃうのはもうやめたので。
年代順に並べてもらえば、ここ10年のある一部のカルチャー・シーンにおける音楽史になっていると思います。地方のカルチャー・シーンの話ではないですが、東京のそれの移り変わりとそんなにズレてない。

on-button-down
TOMMY_THE_GREAT

on button down(左) / TOMMY THE GREAT(右)
狐の会
狐の会

── ジャケットデザインがレコード盤のようですね。

10周年コンピのジャケットは、初期のチェリーレッドみたいなストイックな硬質なイメージ。僕と藤枝君の最初のイメージからズレがなかったので、藤枝君がバッチリなものを作ってくれましたね。パブリックイメージでは良質でポップな音源を出しているレーベルだと思われがちなので、はっきり主張していかないと。パンクだと(笑)。そこはかとなく漂わせてもダメだなと10年たって思いました。

── レーベル設立から10年がたって、いまどのようなお気持ちですか?

この作品自体が、僕らから見た10年間のドキュメント。地方の子にも聴いてほしいんですけど、これは地方の話ではないんです。青森の話でもない。長崎の話でもない。東京のある一部のカルチャー・シーンと、そこにいた若者たちにとって、こういうことがありました、という記録です。
レーベル初期の頃は、リリースするだけで楽しかった。ディレクションもマネージメントもしないし、仲のいいバンドの曲できたからレコーディングして、リリースして、レコ発して、打ち上げして。また新曲できたら、もってきてよって。そのうち、それだけで満足できなくなったし、タイトルが20〜30と集まってくるうちに、もう後にはひけないと思った。楽しいだけじゃすまなくなったなと。

── 仕事として本格的にやらないといけないと?

仕事じゃなくてもいいんです。でも、遊びじゃなくなった。ちょうど、インディーズのCDなら目新しいというだけで買ってもらえたり、媒体に取り上げられたり、レコード屋に並べてもらえたりする時期を経験して、それに乗ってコマーシャルな展開をしてみた時期があったり。そういうことを経て、結局僕らが学んだのは、メジャーメジャーしたことはレーベルとしてはやらない。ビジネスとして成立しつつ、ちゃんとD.I.Y精神でかっちりやる。ぬるいことはもうしないようにしたいし、バンドに対しても同じ方向を見て絶対これだ、これが楽しいっていう共通認識を持てる人たちとだけやろうと思っています。

── もちろん10年間でレーベルの方向性も変わってきた?

学校の先生みたいにアレコレ教えないといけないという、育成が必要な人はもうやめようと。ちゃんとアーティストはアーティストで、いろんな意味で自立できている人の方がいいですね。

── 4年前に発行したフリーペーパー『COA RECORDS MAGAZINE』に、山本さんが「バンドはレーベルに頼るな」的なことを書かれていましたね。

こっちもバンドに依存しないようにと思っています。そこはお互いイーブンな関係のほうが健全ですよね。いまはそういう動きができる人が絶対面白いですし。そういう人はクレバーでちゃんとわかっているので、好きなことを実現できると思います。やれる範囲からですが。わかんない人は何回言ってもわかんないから。10年の間にレーベルもバンドもお互い成長したんだと思います。

── レーベル運営で大変だったことはありますか?

そんなにないですね。ちょっとお金が必要かな、というときはぱっと稼げる仕事を作りますし。悩んでもしょうがないので、そういう動きは早いですね。基本的に僕は自分で生活はなんとかしろというのがあるので、バンドに対してもそうあってほしいです。お金が無いからツアーできませんとか、しょぼいことはいうなと(笑)。じゃあ、やらなきゃいいじゃんっていう。やる人って、ほっといても自分でなんとかするじゃないですか。そういった行動力がないと結局ダメですよね。

── 音楽配信はしていますか?

ほとんどしていないです。今の配信はシングル盤の流通形態が変わっただけという認識なので。

── いまCDが売れない時代で大変ではないですか?

確かに厳しい時期ですけど、腕に覚えのある人だけ活動できる、という昔に戻った感じがしています。レコード会社もお店も媒体もアーティストも、無駄に多かったから数が減るのはいいことだと思います。配信も面白いものを探しに行こうという形にはなっていない。その割にはデータの更新とか、こっちがやらされることが多くて手間がかかる。そこでやっても無意味かなと。ネットはネットで否定はしてなくて。かっちり聴いてもらえる動きや、面白いテキストや動画を掲載できたら、リスナーをひっぱってこれると。まずはそこから始めないとダメ。そういう意味では、来年からいよいよWEBに力を入れようと思っています。とにかくここにくればワクワクする、というものを作りたい。
いまの若い子は、データ化した音楽は無料で手に入ることがわかったので、なかなかお金を払わない。そういう彼らに思いを届ける方法をちゃんと考えないといけないと思いますね。

── ベスト盤のリリースに書かれている“「絶望」と「希望」の交錯する奇跡の一枚”、とはどういう意味が含まれているのでしょうか?

この10年に関しては満足していない。出してきた音源に関しても、もちろんよかったところもあるけど両手を挙げて万歳はまだまだ、ということです。悔いもありますし、ある人たちへは「さよなら」を伝えているものです。ここから始まる、という気分ですね。

── 何年くらいで万歳、満足すると思いますか?

何年かはわからないですけど、そう思えるときは、一曲で勝負が付くような気がします。みんなの心に一生残るような曲。

── Coa Recordsが目指していることは何でしょうか?

基本的には自分たちが楽しめることをやる。で、みんなに楽しいと思ってもらえる。さらに若い人が「俺もやろう」って思ってくれるサウンドを送り出していきたいですね。

(取材・文:牧智美)

Coa Records10年目のbest盤。渾身のアンソロジー!!
『Coa Records Anthology』

Coa Records best

疾走し続けた激動の10年間を最高の曲順でコンパイル。世界中の「彼等」と「彼女達」に送る 祈りにも似たメッセージ!!「絶望」と「希望」の交錯する奇跡の一枚。

01.KIMONO MY HOUSE / Empty Room
02.HARCO / 君の髪にふれたい
03.空気公団 / 電信
04.TOMMY THE GREAT / 喜びと悲しみとリズムと星に願いを
05.on button down / She said,HEAVEN
06.残像カフェ / OUR LIFE
07.コモンビル / 100人中99人
08.狐の会 / 秋の夢
09.エクレール / くちなしの季節
10.Quinka,with a yawn / ナポリ
11.maybelle / オレンジ色の煙
12.パウンチホイール / ロミオ&ジュリエット
13.daisuke mizushima / tonight

1,890円(税込) 全13曲


▼ 『Coa Records Anthology』より、試聴できます。プレイヤーをクリックで再生!



Coa Graphicsの10年間のデザイン仕事をまとめた1st作品集
『Coa Graphics Art Works Archive 1998-2008』

coagraphics.book

疾走し続けた激動の10年間を最高のデザインでコンパイル。アンダーグラウンドポップカルチャーにおけるトウキョウデザインのニュースタンダード!!自ら運営も行う音楽レーベル「Coa Records」のCDジャケットなどのヴィジュアルをはじめ、Spangle call lilli line、FreeTEMPO、クラムボン、HARCO、空気公団、阿佐ヶ谷スパイダースなど数々のアートワークを一挙掲載。数百点にも及ぶグラフィックを全ページオールカラーで全てみせます!!

著者:Coa Graphics
3,150円(税込) B5変形/128頁
発行元:Coa Graphics
発売元:株式会社ブルース・インターアクションズ


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