骰子の眼

cinema

東京都 渋谷区

2009-04-07 17:22


「チベット問題についてどこまで自分に引き寄せて共感できるか」 ―『雪の下の炎』クロスレビュー

「もしも自分がギャツォだったならば、ここまで強い人生は送れるのか…? 人間の意志の強さ、すばらしさを感じる映画だ」クロスレビューご紹介
「チベット問題についてどこまで自分に引き寄せて共感できるか」 ―『雪の下の炎』クロスレビュー

パルデン・ギャツォのことを、少しでも多くの人々に知ってほしい、そんな願いから、『雪の下の炎』を製作しました。パルデンは、「良心の政治的囚人」として中国占領下のチベットの監獄で、むごい拷問を受けながら、33年間を生き抜いたチベット僧です。何も悪いことはしていないのに何十年もの間、自由を奪われる、そんな人生がこの世の中にあることを想像できますか?

パルデン&監督
パルデン・ギャツォ(左)と楽 真琴監督

パルデン・ギャツォは1959年の民族蜂起の際に逮捕された、数千人に及ぶ「良心の政治的囚人」のうち生き残った、わずか30%の中のひとりです。脱獄を試みては捕まり、懲役を延期され、それでも危険を侵してチベット解放を訴える運動を続け、再逮捕され、さらに懲役を延ばされる、そんな繰り返しのなか、彼は決して自分の意志を曲げませんでした。釈放後、インドに亡命して10年以上たった今でも、彼は自らの命よりも大切なもののために闘い続けています。それは母国チベットの再独立、そしてその志を遂げられずに、彼の目の前で牢獄で死んでいった同胞たちに誓った約束です。


雪の下の炎

2005年夏、アメリカで行われた「フリー・チベット・ウォーク」にパルデンが参加する様子、さらに2006年2月には、チベット人青年会議団が主催した、イタリア、トリノでの断食ストライキの模様を撮影しました。2008年の北京オリンピックに対する抗議の意味を込め、冬季五輪開催にあわせて決行されたこの断食ストライキには、パルデン・ギャツォと2人の若いチベット人が参加しました。周囲の心配をよそに、自らの命をかえりみず、不屈のパルデンが時に涙や笑いをまじえながら、参加した若いチベット人たちを鼓舞する様子をカメラに収めたのです。

パルデン・ギャツォは自らの運命を受け入れましたが、断固として降伏しようとはしませんでした。彼にはハリウッド映画に登場するヒーローのような華やかさはありませんが、人間ひとりひとりが持つ精神のはかり知れない可能性を私たちに見せてくれます。だからこそ、パルデンのライフストーリーは国境や宗教を超え、苦悩と挫折を体験した全ての命に、雄弁に語りかけることができると思うのです。

いま、私たちが生きるのが苦悩と戦いに満ちた時代であるからこそ、彼の精神がひとりでも多くの生に触れることを祈りながら、この映画をお届けします。


(文:楽 真琴監督 ※パンフレットより抜粋)


『雪の下の炎』
2009年4月11日(土)より渋谷アップリンク他、全国順次ロードショー

監督:楽真琴
出演:パルデン・ギャツォ、ダラ・イラマ法王14世、他
2008年/アメリカ・日本/75分
配給・宣伝:アップリンク
公式サイト
★公開記念トークイベント開催!詳しくはコチラから


レビュー(4)


  • 相川藍さんのレビュー   2009-03-22 05:46

    癒える傷、癒えない傷。

    チベット層パルデン・ギャツォの語りが暴く、中国のチベット支配のむごさ―。この映画は、チベット問題について、一人ひとりがどこまで自分に引き寄せて共感できるかがポイントになってくる。 2006年のトリノ・オリンピックで、パルデンらは、次の開催地が中...  続きを読む

  • ぬまさんのレビュー   2009-03-22 11:18

    フリー・チベット

    「チベットに人権など存在しません。私がその生き証人です」 そう穏やかに語るチベット僧のパルデン・ギャツォ。 チベット独立をめぐって中国政府との「闘い」を描いたドキュメンタリー映画である。 1959年、平和的なデモをおこなっただけで投獄され、...  続きを読む

  • ミッチさんのレビュー   2009-03-28 12:01

    雪の下の炎は消えない

    「チベットに人権はない」と言い切る、冒頭からのパルデン・ギャツォの言葉から映画に引き込まれてしまいました。全く怒った口調ではなく、静かで淡々とした語り口ながら、彼の顔を見ていると、33年獄中生活をした歴史が感じられ、ひきつけられます。  普通の人間...  続きを読む

  • samandabadraさんのレビュー   2009-03-29 08:21

    生き証人が語る力

    2009年、チベットが中国に占領されてから50年目を迎えた。 この50年のうち33年間、占領下で自由を拘束され 迫害や拷問の中で生きながらえ その過程で多くの同胞の運命を見てきた人が この映画の主人公、パルデン・ギャツオである。 彼の迫...  続きを読む

コメント(1)


  • 町田愼也   2009-05-03 03:04

     冒頭登場する33年間も中国共産党の拷問に決して信仰を捨てなかったチベット僧パルデン・ギャツォ師の飄々とした姿に感動しました。今年76歳になる彼の人生の大半は牢獄で過ごしたことになります。
     しかも、獄中の拷問方法は、凄まじいの一言。口の中に、強力な電気棒を押し込まれて、余りの衝撃に、すべての歯がもぎ落ちてしまったそうです。信仰さえ捨てれば、即釈放され自由の身となるのに、決して自らの命をかえりみず、仏への帰依を貫いたそうです。 それを過去の話として涼しく語る姿に、同じ仏教徒として、いくら「不惜身命」とはいえ、尊敬するとともに、心の痛みをを禁じ得ませんでした。とても小地蔵には、その不屈さの真似は出来ません!

      本作は、反戦平和の強調するプロパガンダとは明確に一線を隔てていると思います。それは、徹底した中国政府の残虐行為を告発しつつも、その非道に対して、闘うことよりパルデン師の優しく慈愛に満ちた姿の描写で抗しているのです。師の優しい笑顔こそがこの映画の最大の武器と言えるでしょう。
     そしてラストの、われわれが真実なのだから、闘わずとも必ず勝利すると信じていますと語っていました。そのことを日本の憲法になぞらえて、非武装中立を説く、チベット研究家もいます。しかし、パルデン師の信念は、本当に仏の力は偉大である。その偉大な仏の力に帰依しているわれわれが敗北することはないという不退転の悟りが語らせているのだと感じました。