骰子の眼

cinema

東京都 渋谷区

2009-07-16 19:22


今野裕一×浅井隆 対談【後編】:「ネットは劣化コピーの温床」

【前編】に続いて、本音トークで盛り上がる【後編】をお届け。
今野裕一×浅井隆 対談【後編】:「ネットは劣化コピーの温床」
(左から)浅井隆、今野裕一

★【前編】の記事はコチラから
http://www.webdice.jp/dice/detail/1667/


メディアは「よく騙せ」

浅井:次の『夜想』の特集は?

今野:次はモンスターとフリークスの特集。ネットの中で人が悪意を倍増させてることが、身体を介在して人の殺人にいたることがなぜ起きるのか。悪意が充満した力によって人を殺したりとかいろいろなことが起こると思っていて。ネットの影響はすごい大きいと思う。

浅井:秋葉原通り魔事件の加藤は、ずっと携帯で自分の行動をアップしていましたね。

今野:僕はあれを見た瞬間に、止めてくれる人がほしかったんだろうなと思った。ほんとに行くよって書いてあるじゃない。みんな信じてないわけ、ネットのことって嘘だから。あれを「お前やめろよ!」っていう人が10人でもいたら…でも彼はそういう友達もいなかった。報道っていろんなふうにねじっていいて本当のことはわからないから、あそこに書かれていることが本当かどうかわからない。けど、書かれていることを見たとき思ったのは、止める奴がいたらこの人はやらなかっただろうなと。止めてもらいたくてギリギリまでいって、誰も止める人がいなかったから仕方なくやったんだろうなって。

浅井:次号のビジュアルはどうするの?

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今野:わからない。テーマを考えたときに先行きどうなるかって考えてない。だから『夜想』にはナンバーを付けていないんです。いつやめてもいいと思ってるから。形が変わってもいいし、極端な話ネットでもいい。だから、どうするかはその特集を組んでから考える。その覚悟でやってるんで、いつやめてもいい。番号つけると、何号までやったとか、ここまでやったとか考えるから。劣化コピーになってたらやめるよ。だってつまんないもん。そういう感じだから、どうするのって考えないままやったりもする。

写真:『夜想』復刊第2号 人形作家のインタビューを中心に、これまでの人形観を一変させるドール特集

ゴスの特集を組むとき、ゴスロリの格好をした子たちがマルイの前を歩いてたんです。演劇的な感じがしたのでついていったら、お茶会をしていたんです。これは一体何?って思ったら、ビジュアル系バンドを追っかけている子たちで、ゴスロリだと言われて。ビジュアル系のバンドのPVを後からみて、マゼルミゼルとか、すごい演劇っぽい、幻想的で。そのとき思ったのが、寺山さんの芝居があったらその子たちはきっと寺山さんの舞台を見たんだろうなって。てことは、逆に『夜想』の客とかが流れてくる場所があったということ。その場所を自分は10年も知らなかったと思った。ここに読者がもともといたんだと。


浅井:復刊のゴス特集のときは新しい読者がそこにいるとわかっていたんだ。

今野:本能的に、この子たちがいるんなら復刊できるかなと思って。復刊しようかなといったら周りがそういうふうにしてくれたんで、そのままいっちゃえって。全然先の見解はないですよ。そのときに言われたのは、いま出版不況だから3500部売れないですよといわれて。それは僕もわかっていた。いまのこの手の雑誌はそれぐらいしか動かない。でも、自分のためにもゴシック、ゴスと言われているもの、耽美、美しい…寺山さんの舞台は綺麗じゃない。ああいうのが好きだったから、そういうものの代わりがそこにあるのかっていう美学性を特集しようかなと。

浅井:では、次回のモンスターとフリークスの特集は?

今野:インターネットを介在して起きている現在のモンスター性についてやっていく。

浅井:これはかなりネットでは叩かれるのかな?(笑)

今野:僕は基本的に『夜想』読者から元々叩かれていたから。インテリに叩かれるのか一般に叩かれるのかだけの差だから。

浅井:2ちゃんねる的なことをどう扱うのですか?

今野:2ちゃんねる大嫌いだからね。またこうやって言うと、2ちゃんねるから反撃受けるけど。それはあまり怖くないけど。やっぱり生きている人間の反応が鈍くなったりするのが嫌かな。それは元気が出なくなっちゃう。僕はメディアっていうのは「よく騙せ」、と思うんですよ。

浅井:誰を騙すの?

今野:観客を。たとえば、恋月さんの特集を組んだときに、恋月さんの読者が5千人いて5千部売るのは当たり前じゃないですか。誰でもできる。ほかに1万売ったとするじゃない、5千人はなにか良さそうだと思って騙されて買うわけ。それがメディアの力。騙されたときに、騙されてよかった、いいものに出会えてよかったなって思うのが、僕の言う「よく騙された」。それが劣化コピーみたいなもので、なんだこんなもの買わされちゃってっていうのは資本主義の騙し。僕も資本主義だけど、同じ騙すんだったら間違えて良いもの、面白いものを手に入れちゃった、間違えて怖くてすごいものを手に入れちゃったっていう方がいい。浅井さんもそうでしょ?

浅井:騙すのがちょっと下手かな(笑)。

今野:昔つくったカセットブックは、東京ロッカーズの山崎春美とバンドのEP-4とで一緒に手作りでつくったんですよ。そのときに200個作った。だけど実際には5,500個売った。それを見た坂本龍一が『AVEC PIANO』(戦場のメリークリスマス ピアノver.)をカセットブックでやるって言ってきて、万単位で売るといって55,000個売った。それがメディアの力だと思う。


ネットにポジティブさを感じない。身体を介在してくる2ちゃんねるって、人間不信になる

浅井:ネットを題材にするのであれば、ネットについてはどういうふうに考えているのですか?

今野:ネットはすごいんじゃない。すごいけど、劣化コピーの温床だよね。ネットに書かれていることを引用しながら、皆書くじゃない。引用元が嘘のことが多い。適当に書いてるから。それが広がって定着するとウィキペディアに書かれる、するとそれを皆が引用する。ダメなもの、楽なものが世の中に広がっていって文字情報になるのが基本的。僕も使うけど、あっているか間違っているかは本なり本人なりに確かめないと、自分では書いたりできない。ネットは入り口的に早いから、興味がちょっとあれば調べるし、僕はものすごく使うよでも信用していない。

浅井:次の特集のテーマは、「劣化コピーが生み出す文化」と。

今野:あまりネタバレすると、自分のモチベーション落ちるからさ(笑)。でもそういうことだよね。それはまだ答えは出ていないから、どうなるかわかんないね、やってみないと。人形も面白そうだと思って、作ってくださいというところから始めてるから、できあがるまで1年以上かかるから。その先自分の気持ちがどうなってるかとか、特集内容がどうなってるかなんてわかんないよ。つねに体当たりみたいな感じだし。この澤田知子さんの展覧会だってどうなるかって全然予想つかないし、答えが出てるわけじゃないから。

浅井:この洋服ブランドでやりましょうっていうのは、今野さんが声をかけるわけ?

今野:そう。でもさ、ロリータの格好をした「BABY,THE STARS SHINE BRIHGT」の担当の人が、「私、『夜想』好きなんです。夜想ジュニアなんです、是非やりましょう」っていうんだよ。だからきっと何かあるんだよ。

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パラボリカ・ビスでおこなわれた『BABY,THE STARS SHINE BRIHGT&澤田知子展』で展示された「BABY,THE STARS SHINE BRIHGT」の洋服

浅井:それはちゃんと『夜想』の遺伝子が伝わっていってるわけだ。

今野:それも確認したいしね、いろんなことを含めて。だから、むしろダメなことばっかりいう大人のインテリよりは、よくわからないといってる夜想ジュニアの方が普通にコミュニケーションしやすい。

浅井:編集のモチベーションがさがるかもしれないけど(笑)、ネットの中で、ある種ポジティブな表現を、今野さんがネットの中でここが面白い信じられるものって何ですか?

今野:いまここにいるお客さんを信じないわけではないけど、いまここ話でしていることは2ちゃんねるにそのまま繋がっていると僕は思っている。

浅井:それはポジティブに面白いってこと?

今野:いや。興味のあること。

浅井:それはネガティブ。

今野:ネガティブ。人形も面白いんだけど、必要で買っている人たちの中に、何人かは2ちゃんねるでいろんな中傷ごとをするんですよ。人形作家の恋月姫さんの2ちゃんねるとかすごいですよ。僕は金髪豚野朗に近いことを書かれてますから。すごいのは、みんな男の人になって書いてるんですね、人形のユーザーはほとんど女性なのに。私はこの人形を持っているというと、だんだんこっちからは特定できるんですね。この人だなと大体わかる。で、わかってる人がある日突然、僕の目の前にきたときに当然違うことをいうわけですよ。「今野さん素晴らしい仕事してますよね」って。金髪豚野朗と言ったあなたでしょって感じ。基本的に身体を介在してくる2ちゃんねるって、人間不信になりますよね。

浅井:なりますね。ポジティブな部分はなんですか?

今野:ないよ。

浅井:ないの? ということは次の特集は、けっこうネガティブなネットなんだ。ネットのポジティブ性はないんだ。

今野:やってみないとわかんない。そのなかにもいいものがあるかもしれないから。昔だったらモンスターやフリークスの評価がおこなわれるのは、すごい不況のときなんですよ。一回目はヴィクトリアン時代の金融破戒のとき。2回目は1929年の大恐慌のとき。現在は金融危機だから。でも、いま表の身体的なものには出てこない、たぶん。すごい嫌な感じのものがこれからネットの上で広がっていくんじゃないかと思う。そこは身体を通してないんですよ。

フリークスってさ、みんなそれを使って輝いているんですよ。私はスターよって。だってそれがなかったらただの人だもんって。身体があってそうでしょ。だけどネットの上で、ない身体でそういういろんなことがおこなわれたら、たとえば相手をバカにしたりしたら、それは違うじゃない。その肉体を目の前にして、見世物小屋で向き合っている観客は、目の前で肉体の輝きを見ながらなんやかんや言ってるわけじゃない。一応イーブンじゃない。向こうは見せてるんだし、見てるんだし。そうじゃない関係として成立する可能性があるんじゃないかと思うわけ。それがすっごい嫌。

実際の現実世界にナイフとかを持って出てきたときに、それは単なる犯罪性とか暴力性とかですまないんじゃないかなと思う。それが先に見たいなというのが今度の希望だね。見えるかどうかわかんないからちゃんと特集になるかわからないけど。興味はあるね。特集の何分の一かは普通に昔のをやるけど、人に見てもらうために。ゆるいと思うよ(笑)。この中でエッジが立っている部分って3~4ページかな。やりたいのそこだから。そこに到達するようにつくってるから。探してって感じだよね。誰かがそれを書いてくれるんなら、別に自分が書かなくていいし。そんなのどうでもいいんだ。なんか見えた部分、いまの時代のヤバイ部分をちゃんと評論できたり、みてくれたり、映像にできたり表現できたりしたらその人のこと大好き。

浅井:しつこいようですけどポジティブなものをネットには感じていないと。

今野:いまは感じていない。浅井さんは?

浅井:昔、5年前東大でのトークイベントで僕はオリジナルの音源をMpeg3の音質よりオリジナルに近い劣化度の低い音で録音できるACCフォーマットを使用するiPodにMpeg3プレイヤーより未来を感じているといったら今野さんは否定的でした(笑)。そういう意味ではテクノロジーの進歩には原則肯定的です。

今野:あのとき、iPodの編集なしのアイテムごとにダウンロードできるの便利でいいじゃん、編集もそういうふうに変わるよって言われて、僕は嫌だと否定していて。本を一冊、嘘でもいいからまとめて関連付けたような網の目の中に入れるというのは、俺たち編集者の生きているアイデンティティだからね。自分でiPodのアイテムを合わせて編集するなんて、そんなことする奴いないって。ただ全部ばーっと集めてアイテムにするわけじゃん。あとはシャッフル。

たとえば、自分の思い入れのある曲をアイテム別に並べて聞いていると、体験が消えていく。思いれのあるジョップリンの『生きながらブルースに葬られて』が勝手にコマーシャルとか流れると、アララみたいな感じになる。i-podの中では、クラプトンの初期のブルースの曲と、いまのヘラヘラなコマーシャルな曲と並んでいられるわけだから…次々、アイテムとして聞いた時に、時系列が全部なくなってしまう。アイテムの中に良いか悪いか、質があるかどうかだけっていうようにして物事を見るようなクセになったときに、やっぱり、四谷シモンの人形や恋月姫もカスタムドールも横に並べて「どれが好きかな」っていうような反応しかなくなったときに、モノの価値観の差っていうのは面白いのかつまんないのか、好きか嫌いかということであって、ディテールとか歴史の背景とか飛びそうな気がする。曲は構造じゃなく、流れだし、小説も作家のうつろう声を聴かないと駄目。雑誌だって全体をとうした編集者の声はある。それは分断されたら聞えなくなる。だから嫌だっていったんだけど、自分はiPodはかなり使ってますよ。僕のiPodは120GB×2ぐらい入っている。いまは無料の方向に向かっているから、歌謡曲は全部無料ダウンロードできるようになった。東方神起もジャニーズも唯でダウンロードできる恐ろしい時代だよね。それはi-podというメディアが作り出した。

浅井:それは違法で誰かがやってるの?

今野:いまは違法ではないんじゃないですか?たぶん、googleにも無料体験あるんじゃないんですか。ウクライナでは一曲一円くらい。アルバム一枚で10円とか。ダウンロードするとiPodがいっぱいになる。1000部限定で買えなかったオルタナティブのアルバムもあるから、つい聴いちゃうわけ。それは著作権のことを含め、まずい状態。僕は最先端で使ってるから、まずいのをやってるんだけど。それは、世の中的にはやめられないだろうなと。それをやめていくことを考えていったときに、戦略的なことを考えると問題は複雑ような気がする。

たとえば、変な例だけど、坂本龍一が著作権を守ろうとするじゃない。坂本龍一は最近エコロジーとかっていってるけど、ある雑誌でどこかの森林で腕組みして眺めている写真が何ページにもわたって載ってるわけ。バカじゃないのと思う。そんなんで森林が守れたりエコできたりするのかよって。本気でやっていないだろって。で、意味がないエコロジストでありながら、片方では自分の権利を守ろうとする。でも昔は、坂本さんも「NO NEW YORK」的だったからね。自分の音楽の権利をフリーにしたらとか思うけど。ピアノを弾くツアーはエコなんだろうか。

支持を受けちゃってるだけに、それでいいのかなって思うわけ。その程度のことをみんなでOK出しちゃってるんだったら、あのときあんなこと言ったのは全部無駄。それは悲しいじゃんと思うわけ、逆に。だって、戦争で佐世保に原子力空母が入ってくるだけで大騒ぎをした。デモで人が死んだんですよ。あそこで死んだ人や戦ったのに今、何よ! って感じじゃないですか。拉致被害も大事だけど、当時の学生運動していた人たちが、なんでイラク派兵に同調する政府に反対しないの。こんなに戦争をアゲインストしない国ってないじゃないですか。いまだにイラク戦争に油を供給して。でオバマがイラクじゃなくてアフガンだって言えばOK。酷いですよほんとに。そんなことスルーしているのに、「NO NEW YORK」のおじさんがいいなんて、そんな国じゃないですか。この国は。

浅井:NO JAPAN!

今野:それを先に言った方がいいんじゃないの、その映像をつくったほうがいいんじゃない。僕の友達で、麻生太郎の家を見に行く会とかってさ、わざわざデモして捕まっちゃって。日本はデモしちゃいけない、合法じゃないんだから、許可が下りていないからっていうその程度のレベルでね、「NO NEW YORK」もないよって僕は思うわけ。だからすごい悲しい。もちろん否定しているわけじゃないよ。

浅井:聞けば聞くほど、今野さんは本日のゲストにふさわしいと思います。(笑)


身体性が失われているネットは好きになれない

今野:さっきの話で、武器は何かっていったときに、持ってないんだよ。80年代はけっこうあったんだよ。

浅井:後楽園で「RADICAL TV」(80年代に活動していた原田大三郎と庄野晴彦によるオーディオヴィジュアル・ユニット)のライブを観に行ったけどすごいと思いました。

今野:あのときは資本主義の中のお金を使って、資本主義に負けないようにどんだけ暴れて、メディア的にほんとだったら1万人しかみないものを5万人にみせるとかっていうのがあって、それが本当にいいものだった。本当のインディーの中で少数しか見れないものをたくさんの人間が観て面白がれるっていうのが。

浅井:僕はネットに全面的にポジティブなんだけど、ネットでそれができるっていう可能性はあると思う。

今野:僕が決定的なのは、身体性が失われていることが嫌なんですよね。フリークスの身体性とか匂いとかなしで、都合のいいところだけ、悪意とかに使えるところだけ使っていくのはどうかなと。

浅井:ネットの中に僕は精神性とか感情とかは認めていなくて。チラシでありカタログであり、しかもテキスト、写真、動画、音を発信できる。

今野:劣化コピーのチラシだと意味がない。

浅井:でもチラシにオリジナルの情報が書いてあればそれはパワーになる。劣化コピーに対抗するにはオリジナルをネットで提供すればいい。ネットは産地直送で伝えられるわけだから。ネットユーザーはオリジナルを見つける力はある。でもオリジナル情報がネットにないと劣化コピーだらけになる。今野さんのブログを読むということは劣化コピーを読むわけじゃないじゃない。そして僕は、日本の選挙期間中にネットでの選挙運動が開放されれば、一気に日本の社会システムは変わると思っています。マスメディが垂れ流す劣化コピーしていない候補者のメッセージをみて有権者は判断できる訳だから。

今野:阪神大震災があったときに、高校の先生や大学の先生がインターネットで、どこそこでお風呂は入れるよとかっていうのを一番早く立ち上げた。仮説住宅に残った最後の一人が解消されるまでこのネットは動かしていて、要はインテリが動かしていたものなんだけど、すごい有効だし正直にいろんなものが動いているところでいいなと。たとえば、僕はそんな意見なんかダメじゃん!っていった相手が、実は中学一年生とかでネットの上で泣かしちゃうみたいなことがあって(笑)。でも、その子はリアルに喧嘩してくれる人間がいるわけじゃない。こっちはわかんないから本気で言うわけ。そういうことがおこなわれないわけじゃない。わけじゃないけど、そこで本気を出せるっていうのは、なかなかシチュエーション的に難しくないかなと思うわけ。ここで言ってることは僕は正直に言ってるので、ほとんど非ネット状態なわけですよ。だから、ほんとうはこの場の会話をネットに書いてほしくないんですけど、本気でいまの問題の話をしているわけだから。

浅井:でもそれはネットに書かれるよ、今の時代。

今野:書かれた時に違うものになっているんだって、必ず。

浅井:じゃあ自分で書けばいいじゃん。

今野:それはあるかもね。でも文章下手だとこの感じは伝わんないよ。たとえば、これをこのままネットにのせれるんだったらいいけど。

浅井:できる限りwebDICEではこのトークをカットしないで載せましょう(笑)。

今野:やばい!浅井さんについ心を許してしまった(笑)。

■客席よりQ&A


広告主の方を向いているメディアは、メディアじゃない

Q:現代のメディアに関しても興味はありますか?メディアの中の情報操作についてどう思いますか?

浅井:先日「サーチナ」という中国情報サイトのスタッフから、webDICEと記事の提携がしたいという話があり提携しました。そこで何が起きるかというと、サーチナから自動的にYahoo!とexiciteとinfoseekのトピックス欄に配信されるんですよ。サーチナにwebDICEから投げた原稿と写真はなんの検閲もなくYahoo!のトピックスに立つんですよ。したがって、この話はwebDICEで記事にするとYahoo!に立つんです。これはメディアの仕組みとしてすごいなと思っています。

今野:それ、ほぼ向こうは望んでない状態(笑)。

浅井:たとえば共同通信と同レベルでアップリンク発の記事が朝日新聞に掲載されるってことは、ありえないわけ。ただ、ネットの世界って書いたものをサーチナに投げたら同時にYahoo!に立つんだよ。だから、そういう意味ではインターネットのポジティブな部分は産地直送の部分、なんかすごいレアな濃い記事を誰かの手を加えられることなくYahoo!のトピックに立つ。webDICE的には面白い現象だなと思います。誰もチェックしてないんですよ、機械的に動いていて。だから、ネットのほとんどは劣化コピーであるけど、一方でネットは産地直送ができるマスメディアによる情報操作ができないメディアであると。

今野:あと、メジャーの情報操作の方がやっぱり僕は気になる。本当のことを全然語っていないし、データも改ざんしてるっていう感じもないし。消えていく状況をつくりだしていくことが全体的に通ってしまっているということが…。

浅井:でも、そういうことに対しても産地直送の情報がネットの中にあれば是正出来ると思っている。

今野:いま爆撃を受けていて、小学校の先生があとちょっとでダメかもしれないというのをネットラジオみたいなものでやってるライブなものがあり、それが友達から流れてきてこのネットを聞いて支援してくれみたいな。

浅井:それが難しい。それが本物なのかモンスターなのか、ニセ情報なのかをネットの中で判断するのは難しい。CIAが演出することもできるんだから。あるいは中国がネットを検閲できるシステムを自分たちでつくっているから、その中に国民を誘導する情報を紛れ込ますこともやってるだろうし。そこを見極めるのは難しいと思うけど、それに対抗するにはオリジナル情報を産地直送でアップする事だと思う。

今野:そういうので新しいルール的にネットマガジンができたらいいんじゃないのかな。つくってくださいよ。

浅井:なかなかカルチャー系のポータルサイトでは広告収入も入らないし経営的に難しい。『realtokyo』も息が絶えそうだというし、『Ping Mag』もなくなったし。

今野:けっこう前からからネットマガジン、ネットマガジンといってるけどさ、ちゃんと機能して面白い独創的なネットマガジンってないよね。自分もやれる自信ない。そのなかでインディーでやっているアップリンクはすごいと思う。だって、『ART iT』の最後は、結局、スポンサーの支援がなくなり広告収入がダメになったらダメって。雑誌って、浅井さんもそうだけど、売って入場料収入で成立しようよ。最低それをもとうよ。それじゃあメディアじゃないよ。広告主のほうを向いているメディアはメディアじゃない。

浅井:でもそれは雑誌では無理ですよ。定期的に発行する雑誌はコストがかかる。雑誌ではなく単行本なら成立する構造かも知れないけど。インターネットという無料のメディアでどうやってメディア自体が維持するかといったら結局広告を入れるということなんだよね。広告主は、ページビューやインプレッションがあればあるほど自分とこの商品を買ってくれるだろうという論理しかないので、多くの日本のネットは実際の内容を売るっていうのじゃなくて、アクセスをあげるだけ、テレビと同じ視聴率をあげるだけためのコンテンツが欲しいというだけ。


今野:『ART iT』に、ゴシック特集で横浜美術館でやっていた『GOTH-ゴス-』展のことを書いた。そしたら編集部から検閲があって、褒めることも書いてくださいといわれて。全否定は困るんですよと。想像するに全体的に広告を入れている雑誌は全否定はダメなんですよ。メジャーのやっていることをちょっと褒めないといけないというくだらない理由があるわけ。

浅井:でもなぜ編集部は今野さんに頼んだの?

今野:それは、わけも知らずに僕に頼んだのはアホだよね。僕がそんなものに屈すると思ってること事態が認識不足。というか、アートに取り組んでいればOKという認識があるんだと思う。自分たちは良いのだと。もちろん『夜想』がOK、良いというのはなくて僕らも批判はもの凄く受けるべき、だから常に自分のメディアには懐疑的。それがなくて安心し切っている。それからメジャーの編集論理で組んでいるということ自体を自覚していない。あの雑誌だったら2万売れば、広告ゼロでも少人数の編集で採算がとれると思う。あれだけの雑誌を2万売るのはたぶんできると思う。

浅井:逆に今野さんとしては、編集部からこの展覧会は批判してほしいと思って受けたわけだ。

今野:もちろん(笑)。だって酷い展覧会なんだよ。で、何度か編集長の小崎さんと話し合いになって、俺はバランスとって書くの嫌だよっていったらネットの『REAL TOKYO』にまわされた。ネットの上だったらいいですよ、正直に書いてもっていうことなのかな…って思った。で、ネット上では、ネガティブに書く僕だけじゃなく、編集部はポジティブな姿勢ももっていますよということを見せるために、学者の高山宏にゴスのことを書かせた。正確に言えば、ゴシックのことをね。でもそれはゴスの権威による劣化コピーですよ。僕が文章の中で指摘していることの逆をわざわざやっている。

※『REAL TOKYO』で執筆した今野氏の原稿『劣化コピーの時代』
http://www.art-it.jp/special_04.php

浅井:ほんとの敵は政府や金持ちじゃなくて身内だと思っていた人間の中にいるということですか。

今野:身内というか…そばにいるということですよね。最大の怖さは、無垢の検閲だね。悪気がないってやつ。あなたのためだから…というやつ。そこで問題なのは、理解力の低下ということもある。ディレクターたちの。劣化コピーを語る、その論考の流れすら変えようとしているわけで、なんで論考の流れを変えようとするんだろうと思う。劣化コピーの話以前に、原理はコレだよって言ってるのに、「それは世の中では通用しないからわかるように書いてください」って。何いってやがるんだって感じ。そこら辺の感じが嫌なんです。カウンターをするときに精度の悪いのは問題だと思うね。否定をかけるときは厳密にしないと。キャッチコピーじゃ駄目なんですよ。でもゴスロリと、ゴス、とロリータの差が、180度くらいあって、でも見かけがちょっと似てるところがあって…なんていうことを気にしてないから、そこを巡っていく論理が分らない。

さっきからいってるように、映画にでてくる人たち(ブッシュたち)は犯罪者だよ。歴史的犯罪者だと思う。やられたっていってるけど、やられたらやり返せでいいのかよって話じゃない。その前にやったからやり返されてるんでしょ。 映画に戻っていえば、今、昔を語るなら、今の地点で精度の良い言及をして欲しいなぁ。当時はこれで良かったけどさ、全然駄目だったよねとか。方法が同じ傾向のものじゃまずかったよねとか…インタビューする方も悪いけどね、レスペクトの気分で聞くから…。 でもまぁ言っていることは、天に唾する様なことで、それは全部、今野に返しましょうって言われてもしかたがないかもしれないので、まぁこのあたりで…(笑)。

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■今野裕一PROFILE

元ペヨトル工房代表。20年以上、インディペンデントな出版社として活動。『夜想』『銀星倶楽部』『Ur』『WAVE』などの雑誌やユニークな単行本を出版。2003年に再び『yaso』を復刊し活動再開。2006年、ギャラリーとショップ&カフェのあるスペース「パラボリカ・ビス」を浅草橋にオープン。7月20日より「ENSEMBLES 09 休符だらけの音楽装置」展 EXTRAを開催。
http://www.yaso-peyotl.com/

■浅井隆PROFILE

アップリンク主宰、webDICE編集長。74年、演劇実験室「天井桟敷」に入団、舞台監督を務める。87年、有限会社アップリンクを設立。93年~2000年まで、映画・音楽・アートの隔月間誌『骰子(ダイス)』の刊行。2005年5月、デジタル・シネマ「アップリンクX」と多目的イベントスペース「アップリンク・ファクトリー」「アップリンク・ギャラリー」、カフェ・レストラン「タベラ」を一カ所に集めた総合カルチャー・スペースをオープン。2008年にはカルチャー・ポータルサイト「webDICE」をオープン。
http://www.uplink.co.jp/


DVD『NO NEW YORK 1984-91』
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監督・撮影・編集:アンジェリーク・ボジオ
出演:リチャード・カーン、ニック・ゼッド、ジョー・コールマン、リチャード・ヘル、リディア・ランチ、サーストン・ムーア、ブルース・ラ・ブルース、他
2007年/フランス/70分
価格:3,990円(税込)
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※本作品には、性的または暴力的表現で刺激が強く人によっては非常に不快に思うシーンが含まれていますので鑑賞の際にはあらかじめご注意ください。

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