骰子の眼

cinema

東京都 渋谷区

2008-03-22 03:25


釣崎清隆×バクシーシ山下 『死化粧師オロスコ』対談

人間の生と死、尊厳と猟奇、人間存在そのものを問う残酷物語『死化粧師オロスコ』のDVD発売記念企画!
釣崎清隆×バクシーシ山下 『死化粧師オロスコ』対談

日本で唯一無二の死体写真家・釣崎清隆が、南米コロンビアで死体をさばく老エンバーマー「オロスコ」を追い続けた伝説のドキュメンタリー『死化粧師オロスコ』が、この度豪華DVD BOXとなって再発される。その発売を記念して、釣崎清隆氏とV&Rプランニング時代からの盟友、AV監督のバクシーシ山下氏を招いての対談企画を決行した。
(司会:オカルトサイト「X51」主宰者)

(写真左よりバクシーシ山下氏、釣崎清隆氏)

「被写体に寄り添う」という気持ち

── バクシーシ山下さんは『死化粧師オロスコ』を観てどうでしたか?

バクシーシ山下(以下、山下)  難しいことをやっているなぁと思いましたね。普通、人物を撮る場合に人物の説明を前提に始めてみせるような作りじゃないですか。でも、この作品は写真と同じように、あまり人物の説明がなく、状況を見せることでだんだんわかってくるような内容で。撮影の制限もある中で作ってるのも難しいことだなぁと。

── 釣崎さんは、最初からそういう作り方を狙っていたんですか?

釣崎清隆(以下、釣崎) たくさんのドキュメンタリー映画があるけど、最終的に結論みたいなものを想定して、それに無理矢理あてはめていくみたいな、そういう作り方の作品が多い気がするんです。それを否定する気はないけど、僕は自分はアーティストだと思っているので、ああいう状況の中で素材を撮っていくときに、姿勢として「被写体に寄り添う」という気持ちがあります。無理矢理答えを引き出すというのはあまり考えなかった。

── どういう経緯でオロスコと会ったんですか?

釣崎 95年1月に初めてコロンビアへ行って、犯罪現場の写真を撮るようになったんです。現地の新聞記者にくっついて仕事をする中で、オロスコはマフィアとの付き合いがあって死体の情報源を握っている人物というのがわかって。要するに、死体の情報をもらいに毎日オロスコに会いに行っていたのが最初なんですね。そうこうやっている間に、V&Rプランニングで「デスファイル」(死体ビデオシリーズ)の新作を撮る話になって、ネタがないから撮ってきてよと言われて。ただ漠然と現場を撮っててもしょうがないから、オロスコの仕事現場がいいかなと思って撮り始めました。そのときは「デスファイル」になる予定だったんですけどね(笑)。

釣崎清隆01

山下 初めて会ったときからオロスコの写真を撮ってたの?

釣崎 作業場の死体とかは撮ってたけど、オロスコは1回撮ったかな…普通にカメラ向けて喜ぶような人ではないので。

山下 やっぱり信頼関係で?

釣崎 そうですね。信頼関係というより、一緒にいても煙たがられない存在になるというか。そっちの方が大事だったかな。隣にいてもなんにも言われない存在になる。

山下 たまに手伝わされたりしない?ちょっと(死体を)ひっくり返してとか、水とってくれとか(笑)。

釣崎 水出してくれ、とかはあった(笑)。

── ちなみに、コロンビアでは死体は必ずエンバーミング(防腐処理)されるんですか?

釣崎 そこがコロンビアの不思議なところで、どんな貧乏な人間でも死んだらエンバーミングだけはしてあげたいみたいなところがあるんですよね、なぜか。敬虔なカトリック信者が多い国というのもあると思うけど。

山下 何日間か死体を置いておくのかと思ったら、そうでもないんですよね。

釣崎 死んで翌日に埋める前に、あそこまでエンバーミングをやる。単に合理的な意味合いで腐らせないようにっていうのじゃなくて、防腐処理を施すことによって死者に対してちゃんと報いてるというところがある。

── 遺族がいない場合、死体はどうなるんですか?

釣崎 その場合は焼却する。オロスコは98年に亡くなったんですけど、生前から自分をエンバームしてくれるな、とか墓はいらない、とか言ってて、結局無縁仏として燃されました。

── オロスコには遺族がいなかったんですか?

釣崎 遺族はいるんだけど絶縁状態。オロスコ自体が家族と離れて世捨て人みたいな生活を何十年と続けていたので、家族は死んだものと思ってるみたいですね。


ひとりの登場人物として死体を捉える

── お二人はいつ頃からの付き合いなんですか?

釣崎 95~96年頃からですね。

山下 オロスコと出会った時期と同じで(笑)。

── V&Rプランニングにいた時期ですか?

山下 ではないですね。釣崎さんが死体をコロンビアで撮り始めた頃かな。一応V&Rプランニングは死体メーカーですから(笑)、とっかかりは死体つながりですかね。

釣崎 具体的に全然覚えてないんですよ。

山下 気がついたら寄り添ってたと(笑)。

── 一緒に仕事をしたことはあるんですか?

釣崎 昔、死姦のビデオを撮るという話がありましたよね。

山下 死体をコーディネートするっていう(笑)。結局実現はしなかったです。

釣崎 予算的なこともあったかな。用意できる死体があるときに、現地に行けるかどうかというタイミングが難しいので。

── 山下さんの作品で地下室に男女を監禁した作品(『男女6人監禁物語』)がありますが、ああいうとき監督というのは完全に客観的な立場になれるものなんですか?簡単に影響されてしまうことはあるのでしょうか。釣崎さんの場合でもオロスコに影響されたと思いますか?

釣崎 共振が撮影の行為になってるという感じです。

山下 釣崎さんとは撮ってるモノもジャンル的に違いますからね。AVでは多少の演出もありますし。地下室のときは、知らない間に一人逃げちゃう事故もあって大変でしたよ(笑)。

── 山下さんはドキュメンタリーを撮っているという意識はないですか?

山下 それはやっぱり完全なドキュメンタリーじゃないからね。

オロスコ

── 逆に釣崎さんはオロスコに関して演出はされているんですか?

釣崎 それは無理だよね(笑)。演出しなくてもそれ以上の結果があるからね。

山下 オロスコはわりと口数が多いじゃないですか。あれは最初からそうなの?それか、仲良くなって初めて口を開くタイプなの?

釣崎 寡黙な人間だな、と思ってましたが、日本で編集していて、それはコロンビアにいたからだと気付きました。コロンビア人にしてはしゃべらない人、だと。作中で結構しゃべってるよね(笑)。

山下 一人の作業だから寂しいのかな。

釣崎 いやぁ、気遣ってるんじゃない?カメラがまわってるっていうことで(笑)。一応、自分の仕事を記録してもらってるわけじゃない。だから、作業の解説なんかやってて、これは内臓だ、とか作中で3回ぐらい言ってるし。内臓ぐらい分かるっての(笑)。

── お二人の仕事に関して、共通している部分をお互い感じるところはありますか?

山下 共通してる部分はあるようでそんなにない。カメラ持ってるぐらいで(笑)。方向性や撮ってるモノも違うし。

釣崎 僕なんかは同じというよりも、僕にできないことなので尊敬してる口ですよ。

── できないこととは具体的には?

釣崎 全部できないですけどね(笑)。僕が大学生のときに「オレンジ通信」というAV雑誌で、レビュー書いていたんです。そのときに山下さんの作品『女犯』を年間ベスト1位とかってめちゃくちゃ誉めたんですよ。それくらい尊敬してますから。

山下 僕だったら死体は撮れない。V&Rプランニングは死体を撮ってるけど「死体だー」みたいなノリで一般よりの目線で撮ってるわけだから、あそこまで死体をひとりの登場人物として捉えて撮るというのはなかなかできない。場数が違うのももちろんあるけれども、撮り方としてああいう形で死体に接するというのはやっぱりね、わかっててもできない。そういう部分で違うなぁって。


怖さ以上に、強烈なインパクトに魅せられた

── 初めて死体を撮ったときに罪悪感や後ろめたさはありましたか?

釣崎 罪悪感は最初からまったくないです。後ろめたさがあったら続けられないと思います。

山下 ないですね。「やったー!」って感じ(笑)。

バクシーシ山下01

── 世間的に避難もたくさんあったと思いますが、むしろおいしいくらいに?

山下 そうですね。誤解されても困るんですけど、騙せたことを「やったー!」という意味で。まったくの演出だから。最初に男優を騙してますから、男優は本当にレイプしてると思いこんでるだけで。真剣に作品を観られると、ネタをバラすのもなんだか気がひけてきて。で、口ごもってると責められたりする(笑)。

── 一番最初に撮ったとき、怖さはなかったですか?

釣崎 怖さというより、その強烈なインパクトに魅せられた。そういう被写体を発見した喜びがあった。

山下 コロンビアって、死体よりも生きている人の方が怖そうだね。いつなにがとびだしてくるかわかんないような。

釣崎 もちろん。死体の撮影にはリスクが付きものです。

── 釣崎さんの場合、死体がある場所というと危険な場所になってしまいますね。

釣崎 もちろん、それはありますね。

── でも、危険な場所に行くこと自体は釣崎さんの活動のテーマではないですよね。それこそ、安全な場所で死体がたくさんあれば、そこにいけばいいですし。

釣崎 でも、そういう問題でもないかな。タイとかメキシコとかの現場で撮影してると、往々にして他のカメラマンもいっぱいいる状況なので、否応なくモチベーションは落ちる。現場が危険なら危険なほどカメラマンはいないわけで、管理もされず、“俺の現場”になる。

── 撮り続ける魅力ってなんですか?使命感のようなものは感じていますか?

釣崎 究極の被写体を扱ってる自負があるし、これはどうしても途中でやめるわけにはいかない。ひとりひとりの仏さんに対しての申し訳ないというか、そういうのもありますね。

山下 僕の場合は自分の撮りたいものがあって、それ以外に偽装AVを撮ってるわけですね(笑)。自分が撮りたいものを撮るということは、死体を撮るよりも容易いと思いますよ。作品の中に、こっそり自分の好きな部分を入れていこうとか。僕が高校時代の頃はエロ本が元気よくて、エロ本なのに関係ない読み物があった。それを面白がったりする感覚がいまだに残っていて。そういう感覚でやっていくのが自分なりの納得の仕方ではあるかな。


年齢を制限するのはおかしい。子供にも観てほしい

── 海外での反応はどうですか?

釣崎 この間ロッテルダム映画祭に行ってきたけど、とりあえず先入観なく観てくれます。ヨーロッパでもメインストリームでは完全に死体映像は排除されてるので、投げかけるものも大きく、興味を持って観てくれてます。日本の場合、イメージ先行で「どうせこうなんでしょ」っていうのがあまりにも強すぎてまともに観てくれない。だから、作品の本質にたどり着いてくれる人はかなり少ないですね。

orozco対談サブ

── どんな人に観てほしいと思いますか?

釣崎 とりあえず、俺は子供に観てほしいと思うんですよね。年齢の制限なく。

山下 僕の子供にはさすがにまだ観せてない。ちょうど犬のシーンになったときに「あ、かわいい犬」とかってごまかしたけど(笑)。

釣崎 ダメかなぁ。

山下 う~ん、まだねぇ。死ぬっていうことがわかってないから。

── なぜ子供に観せたいんですか?

釣崎 俺が子供時代にテレビや劇場で観ることができたものが今は観れないというのがどうにも割り切れなくてね。

── それは表現の自由でという意味なのか、もしくは死について子供に知ってほしいから?

釣崎 何歳から観ていいとかダメとかっていう意味がわからない。そういうふうに決めるべきではないと思うんです。ポルノはまぁ猥褻物だろうから年齢制限があってもしょうがないかと思うけど、死体はいかがわしいものでもなんでもないんだから、子供だから見せちゃいけないということはないと思う。死体を見たくない大人が勝手にそう決めてるだけで。

山下 大人はね。

釣崎 子供はなんでも見た方がいいと思う。俺の経験からも、妙なものを見たって子供は健全に育つよ。俺に作家性ってものがあるとすれば小さい頃からの映像体験を土台になってると思うし、だから俺の作品を子供が観られないというのは悲しい。

山下 確かにエロとグロってあるけど、一緒にするのはちょっと違うと思うね。でも、もうちょっと受け入れてほしいと思うけどね。実際に観たら受け入れる人はいるでしょうし。みんな観る機会がないだけでね。

釣崎 親にそういう映像の素養がないから、子供に見せられないということでしょうが、今の大人には問題が多いと思います。

山下 どんどん受け入れてくるといいなぁ。拒否されることは想像がついてるけど、受け入れるのってどういうふうに受け入れられるのかなぁって。「世界ウルルン滞在記」でエンバーマー体験とか(笑)。

釣崎 死体って、ダメな人はほんとにダメなんですよね。ネアンデルタール人は死体を埋葬した最初の人類ですが、死体に畏怖や恐怖を感じてそれを目に触れないようにしたのではないかと思うんです。だから人間には“死体が怖い”遺伝子が埋め込まれてるのではないかと。

── では、死体映像を観たことがない方に一言メッセージをください。

釣崎 これは血と肉によって人間存在を問う作品です。真実は小説より奇なり、というのはこのことです。コロンビアは日本から見て地球の反対側にあって、それどころかあらゆる世界中の場所からも遠い、エッジの国です。そんな場所で撮ったこの映画はエクストリームなものになっていると自負しています。

山下 『すべらない話』よりも面白いくらいですよ(笑)。

釣崎さん、バクシーシー山下さん、ありがとうございました。3月22日(土)よりアップリンクXにて『死化粧師オロスコ』の上映がありますのでこの機会をお見逃しなく!


(Text:牧智美)

釣崎清隆 PROFILE

写真家・映像作家。1966年、富山県生まれ。慶応義塾大学文学部卒。高校時代から自主映画制作を開始しAV監督を経て、94年より写真家としても活動。ヒトの死体を被写体にタイ、コロンビア、ロシア、パレスチナ等、世界中の無法地帯を渡り歩く。95年、池尻NGギャラリーにて初個展。映像作品に『死化粧師オロスコ』『ジャンクフィルム』、著書に『danse macabre to the HARDCORE WORKS』(NGP)、『世界残酷紀行 死体に目が眩んで』(リトル・モア)、『REVELATIONS』(IMHO/DWW社)、『10 stories of DEADLY SPEED』(自主制作)等がある。現在、4月5日(土)までSoup(東京都新宿区上落合3-9-10 三笠ビルB1)で個展を開催中。

■バクシーシ山下PROFILE

AV監督。1967年、岡山県生まれ。大学時代からAV業界に足を踏み入れ、90年に『女犯』で監督デビュー。以降、社会的なタブーに触れる想定外の設定から個人のドキュメンタリーな日常にいたるまで、人間の等身大の姿に迫りながら「セックスとは何か」をあぶり出すAVを撮り続けている。監督作品に『ボディコン労働者階級』『全裸のランチ』『死ぬほどセックスしてみたかった』など多数。著書に『セックス障害者たち』(太田出版、幻冬舎アウトロー文庫)、『私を女優にしてください』(太田出版)、『ひとはみな、ハダカになる。』(理論社)等がある。


オロスコジャケット

『死化粧師オロスコ』

3月22日(土)よりアップリンクX にて
20:45レイトショー

死体写真家・釣崎清隆が南米コロンビアでエンバーマー“オロスコ”を3年間追い続けたドキュメンタリー。目を背けたくなる危険地帯の映像やオロスコが死体に化粧を施す場面は、「真の人間存在とは何か」という問いを観る者に突きつける!

会場:アップリンクX
(東京都渋谷区宇田川町37-18 トツネビル2F [地図を表示])
料金:特別鑑賞券1,300円/一般1,500円
シニア1,000円/学生1,300円


  • ★上映終了後、釣崎監督とゲストを招いてのトークショー開催
  • 3月22日(土) バクシーシ山下(AV監督)
  • 3月23日(日) 橋爪謙一郎(現役エンバーマー)
  • 3月26日(水) ヴィヴィアン佐藤 (非建築家)
  • 3月27日(木) 早田英志(エメラルド・カウボーイ)、加藤健二郎(バグパイプ奏者)+バグパイプライブ
  • 3月28日(金) 松嶋初音 (タレント/女優)
  • 4月2日(水)  清野栄一(DJ/作家)、曽根賢(PISSKEN)
  • 4月4日(金) 名越啓介(カメラマン)、曽根賢(PISSKEN)

ジャンクフィルムジャケット

『ジャンクフィルム』ロッテルダム映画祭凱旋記念上映イベント上映

3月27日(木) 18:30~
ゲスト:石丸元章(上映終了後トーク開催)
会場:アップリンクX
(東京都渋谷区宇田川町37-18 トツネビル2F [地図を表示])
料金:1,000円

【チケット予約方法】

下記項目を明記の上、件名を『3/27ジャンクフィルム』とし、前日までメールにてお申込みください。
(1)お名前 (2)予約人数 (3)電話番号 (4)住所
factory@uplink.co.jp



★3月28日(金)『死化粧師オロスコ』豪華DVD BOX発売

シリアルナンバー入り初回限定盤DVD BOX(税込9,975円)
特製“デス”トランプ&オリジナルTシャツ&特製オロスコマスク&ポスター付き
通常盤(税込3,990円)もあります



レビュー(1)


  • まきと子さんのレビュー   2008-03-24 18:19

    バクシーシ山下さんが…!

    3月22日(土)初日トークゲストのバクシーシ山下さんが、時間を間違えて大遅刻! あわてて入ってくるところがなんともグーグーグーです。 今回、オロスコを初めて観たお客さんが大半を占めていました。 なかなか死体やエンバーマーのを観る機会はないで...  続きを読む

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