骰子の眼

cinema

東京都 渋谷区

2009-11-26 23:00


名バイプレイヤーが演技論を指南してくれる映画!? 北見敏之氏が手がけたオムニバス・ムービー『ひといき』の魅力

渋谷アップリンクXで12/4まで公開中、役者を志す人必見の、演技と演出に特化した愛おしき短編たち
名バイプレイヤーが演技論を指南してくれる映画!? 北見敏之氏が手がけたオムニバス・ムービー『ひといき』の魅力
『ひといき』を企画・構成・演出した北見敏之氏

俳優・北見敏之氏が企画・構成・演出を手がけた映画『ひといき』が2009年11月21日(土)より渋谷アップリンクXにて公開されている。計8本の短編からなる本作は、2人の登場人物を基本に、東京に生きる人たちの様々な人間模様が描かれている。ジム・ジャームッシュの『コーヒー&シガレッツ』さながらの2人の俳優を中心とした演技と演出のアンサンブルは、通常の長編劇映画以上に〈演じる〉ということへの情熱や確固たる姿勢を感じられる。今回の上映にあたっては、これまで行われてきた上映会のバージョンからさらに再編集が施され、北見氏やスタッフ自身が驚くほど、俳優の台詞が飛び込んでくるクオリティとなっている。自らのワークショップから生まれたプロジェクトをかたちにし、上映までを実現させた北見氏に話を聞いた。

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『棚ボタタラレバ』(監督:石川均)

── 今回の『ひといき』は北見さんの主宰されているワークショップからスタートしたそうですね。

本来僕はお芝居をやっている人間なんですけれど、最初は一年間ワークショップをやってはお芝居を企画して、一年間の成果として上演するという形式で何度か発表していたんです。一般的に俳優は映像演技も舞台演技もできて、そこを行ったり来たりするということが言われますよね。そのロジックではなくて、具体的に映像の演技と舞台の演技は違うわけで、そのところを確認したいというところも自分のなかではあったんです。それでワークショップとして映像演技を3年やってきたんですが、特に映像に関しては演じているものを自分で見られるという利点がある。そういう意味でも非常に勉強しやすい要素があるんです。そこで、自分たちで映画を作ってみることによって、ひとつの作品にいろんな人が向かってきて、それぞれが敵ではなくて、すべてはひとつのいい作品として集約するためにみんながベクトルを向けて作っているのだということを理解すると、俳優としてもやりやすいところが出てくるんじゃないかと考えたんです。じゃあ全部自分たちの手作りでやってみようと去年から作りはじめたのですが、その最初の作品は今回アップリンクXではおまけとして上映されています。これを作ってみたら評判が良かった。映像演技のワークショップですから、演技をどこまで見せきるかというテーマでやっているので、演出の勉強がしやすいという声が多くて、映画監督としての作品を見るよりも見るべきものがあったんじゃないかと思うんです。さらに今年で3年目に入って、ちょっと俺にもやらせろという人が出てきまして(笑)。クオリティアップしたところもあって、映画館でかけても恥ずかしくないというクオリティになって、見せきることができるんじゃないかと思い、今回のレイトショー上映となったんです。

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『ママ』(監督:新宿兄弟)

── ここまでの完成型はイメージされていました?

ワークショップに参加している俳優さんたちのモチベーションと、それをこんど引き受ける僕のモチベーションとは違うわけで、そことのところで、僕が高く持つものがないとやりきれない。それがこういう(オムニバス・ムービーという)形になったと思う。自分がやった足跡みたいなものはきちんと残していきたかった。自分の情熱があって、途中から自分から俳優たちを引っ張っていくわけだけれど、それがこのようなかたちになったいちばんの理由なんです。

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『パパ免許』(監督:北見敏之)

── 北見さんなりの演技のメソッドが込められた作品になったと感じますか?

どうでしょうね。ひとつあるのは俳優にカットをせずに長い芝居をさせる、負担をかけることによって、俳優が持っている強さを出したいとか、そうして演じることの質やニュアンスというのは確実にあると思う。そこは本来時間がないとどんな現場でもできないところだからね。時間をかけて検証したり検討したりすることで、ひとつの特徴として出そうというのはワークショップの間からずっと意図としてあった。それは今回の『ひといき』でもおそらく出てるだろうと思います。魅力的になっているかどうかというのは作品ごとにいろいろだし、自分のなかでもこれが決してベストだと思っていないけれどね。

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『本当の事』(監督:石川均)

1週間に1回、4時間の稽古で作っているわけだから、そのなかには基本的な発声とか肉体訓練もあるから、実質的には2時間すこしくらいしかない、それが8チームあって、それ以外のところで稽古することもあるけれど、「この動きはやめよう」とか「そこは平気で間をとっちゃって」とか細かいことを言って、1週間経つ。それを繰り返していくから、ゆるい(笑)。そのゆるさがいいというか、俳優がひとつやったことを1週間の間考えていられることって、なかなかないから。テレビって台詞を覚えて現場行って終わってしまうけれど、そうじゃないところは芝居に似ているね。芝居って稽古も長いし、上映も長いのでひとつの役をずっと持ち続けなくちゃいけないから。

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『ともだち』(監督:松浦徹)

── 作品のなかでも、俳優の皆さんの日常が伺えるやりとりがいくつかありましたよね。

このベースになっているのは本田誠人さんというペテカンの俳優であり脚本家さんの舞台で、その台本を基本的に使っているんです。だから彼の生活感情的に周りの人たちを観察していくなかで脚本を書いていくんだけれど、『棚ボタタラレバ』のふたりのような人は多いわけ。僕も芝居の世界で長いこときたものだから、そういう描写はものすごいよく解るという共通項があって。だから『四月の光』の主人公のような、小劇場のちょっと自意識過剰なスターというのも本田さんの観察眼と僕の観察眼が合ったところなんです。ちょっとゆがんだ自己顕示欲(笑)ってよくあるなってニヤニヤしちゃう。それをまた映像として見せていくときにどうするかというのが僕らの課題でした。

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『春風兄弟』(監督:新宿兄弟)

── どの作品も、2人の関係性が急に立場が逆転したりといった、人間関係が些細な会話のやりとりからどのように変化していくのか、とても緊張感がありました。

でも現場はすごくぬるいんです(笑)。俺が!っていうのじゃなくて、FOR YOUというか、わたしはあなたのために芝居をやっている、お互いにそういう関係にしてしまうんですけれどね。いろんなところでいろんな演技を学んできた人たちが演じているけれど、僕のワークショップだから現場でも嫌いなものにダメ出ししていくから、どうしても僕の色というのは出てきてしまうよね。そのところを無理しないで、僕の色が出るのは当たり前でしょって、そのところでお客さんに○か×かをつけてもらえればいい。なんでもいいって演出してしまうとカラーが出てこないし、センスが似てきてしまうからね。

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『純愛風景』(監督:松浦徹)

── 北見さんが演出される際に最も大切にしていることはなんでしょうか?

僕が嫌いなのは相手と関係性が成立していない芝居。僕のいちばんのテーマは〈関係〉だから。ひとりよがりや、俳優が持っている気持ち悪いナルシズムとか、下品、ゲスみたいなものかな。間違った形で個性と言ったりするけれど、そういうものを意識している人は嫌いですね。やっぱりホン(脚本)があって監督がいて、その作品のなかで生きていく、その作品がすべて監督の思いであり、作家の思いじゃないですか。その人たちが要求してくるところの演技というものが、ぜんぶ違うと思うんです。だから100人の監督と100人の作家がいたとしたら、それが要求してくる演技というのは100通り出てくるのは当たり前で、そこにどういうかたちでコミットするかというところが問題。それを何か自分の一刀両断的にぜんぶ俺ができるんだっていっても、そんな俳優はいないわけで。でも一方で品もないし、なにも考えていない俳優もいる。例えば監督から「もろ北見のままで演じればいい」と言われたということは、つまり監督がそういう風にその役を見てくれているってことだからね。監督が見た目線のなかでOKしているわけだから。僕の好きな言葉は非凡なんだけれど、非凡というのは平凡じゃないということじゃなくて、平凡の先にある非凡というのが好きなんです。それ以外にいらない。だって生きている人たちを演じているだけなんだから、自分なんてどうでもいいんだ。そういう風に間違えてしまう時代性もあるかもしれないと思うけれど、自分の個性って言ってる間はバカです。個性というのは出し方の問題で、自分のなかのどこをどういうパーセンテージでどういう質量で役に反映させるかというだけであって。そういう普通の俳優さん、質のいい俳優さんを見たいのです。

(インタビュー・文:駒井憲嗣)
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『四月の光』(監督:北見敏之)

『ひといき』
2009年11月21日(土)~12月4日(金)連日20:50より

会場:アップリンクX
(東京都渋谷区宇田川町37-18トツネビル2F)[地図を表示]
料金:一律1,200円
劇団ペテカン・本田誠人作品『タバコの煙とコーヒーの湯気』より
★連日、豪華ゲストによるトークショー&出演者、監督による挨拶あり

舞台挨拶とイベント情報
【連日ゲスト/俳優・北見敏之さん、出演者たち】
11月27日(金)ゲスト/劇団ペテカン・本田誠人さん
オマケ上映/『スーパー』(石川均監督作品)
11月28日(土) ゲスト/緒方明監督,俳優・松尾諭さん
オマケ上映/『人足たち』(佐吉監督作品)
11月29日(日) オマケ上映/『ともだち』(野村美奈子監督作品)

公式サイト


北見敏之 プロフィール

1951年5月27日東京生まれ。俳優。studio META主宰、演出。サイザンス・ショートフィルムズ・パーティ企画・構成・潤色・演出。数多くの映画、TV、舞台に出演。1982年「キャバレー日記」で映画芸術優秀男優賞受賞。『ひといき』では2作品の監督も手掛ける。

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