骰子の眼

cinema

東京都 渋谷区

2010-02-04 22:00


「豊かな自然溢れてるアフリカで問題があるなら、それは人間の手によるもの」―“アフリカと水”についてアドゴニーにインタビュー

2/7(日)映画『ブルー・ゴールド 狙われた水の真実』上映後、アドゴニー・ロロのトークショー開催!
「豊かな自然溢れてるアフリカで問題があるなら、それは人間の手によるもの」―“アフリカと水”についてアドゴニーにインタビュー
撮影:後藤武浩(ゆかい)

ベナン共和国出身で、現在タレントとして活動するアドゴニー・ロロ。様々なイベントの親善大使などとして日本とアフリカの架け橋として活動している。渋谷アップリンク他で上映中の映画『ブルー・ゴールド 狙われた水の真実』にはアフリカ諸国の水にまつわる厳しい現状が描かれている。映画を観て「“アフリカと水”について深く考えた」と言う氏に、映画の感想について、アフリカの現状について聞いた。

良い意味で“人間”を中心として水の問題を扱っている

──映画の感想を教えてください。

まず『ブルー・ゴールド』というタイトルに、「なるほど」と思いました。石油を意味する“ブラック・ゴールド”など、色々な“ゴールド”があるけれど、“ブルー”。まずそこに注目しました。最近色々な人たちが環境や水の大切さについて力を入れて話していますが、責任を負うべきは、人間。この映画の特徴として一番感じたのは、良い意味で人間を中心として水の問題を扱っている、ということです。増加していく人間と発展していく技術、それらと環境の関係。それは、今やっと気付くようになったけれども、30年や40年、50年もの間、人間はその発展の中で地球に与えているダメージに気付かなかった。1850年のイギリス革命から今まで、人間は前しか見てこなかった。ソクラテスが言ったように、空ばかり見て足元を見ていなかったのです。足元というのはつまり井戸、水ですね。今は、その井戸の中に落ちるか、落ちなくてもぎりぎりのところにいます。

──かなり危険な状態にあるわけですね。

人間が発展させた農業も、畜産も、地球にはマイナス。車もです。人口も増え、人間が出しているCO2だけでも大量。人間は色々なレベルで、地球に迷惑をかけている。今回サム・ボッゾ監督は、人間による地球への干渉として、ひとつの表面的な事象だけではなく世界の色々な国々の色々な人々を訪れてリサーチしている。映画を観てとても感動しました。

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映画『ブルー・ゴールド 狙われた水の真実』より

アル・ゴアの『不都合な真実』が私が出合った最初の環境的な映画です。島根県での映画祭で、私はこの映画のプレゼンターを務めたのですが、大人になって初めて地球規模の目線を持つことができた経験でした。その後「第4回アフリカ会議」や、北海道でのサミットの仕事をしました。私も仕事柄よく飛行機に乗るし、車にも乗る。人間はそれに慣れてしまっている。現代人が慣れているこの生き方を見直さないと、ソクラテスが言うように私たちは井戸の中に落ちてしまう。

フランソワ・ラブレーという作家による「“science(科学)”より“conscience(良心)”を」という好きな言葉があります。お腹の胎児が母親とへその緒で繋がっているように、私たちも地球と繋がっています。私たちが排出した汚い水が地球に入り込み、そしてその汚い水をまた飲まなくてはいけないのも私たちなのです。何千年前の地球だったら、汚い水を排出しても自然の力が浄化してくれたかもしれません。しかし降ってくる雨すら汚れている今は、そのシステムが機能しません。私が子供のとき、雨の水を口を空けてそのまま飲んでいた思い出があります。

“ゴールド”を2人で分け合うのは難しい

──映画には、世界水フォーラムが開催されたケニアのナイロビ、バラの栽培をするガーナ、電子キーで水を管理する南アフリカなど、アフリカ大陸の国々が登場します。

私の出身のベナン共和国は西アフリカにあります。水資源が豊かな国です。民主化が進んでいますが、水道事業はノープロブレム(笑)。映画に登場するアフリカの国々には、水と人間の関係性にまつわる歴史があります。ケニアの場合は、色々な民族、大きく言うと2つの民族があります。南アフリカは黒人と白人、ガーナでは原住民とそれを開発しようと訪れる開発者たち。“ゴールド”の価値のある“水”を、2つの対立する存在で共有することは難しい。宝を2人で分け合うのが難しいように。そのような対立や搾取の中でアフリカ大陸の川や湖はどんどん小さくなってきているのも事実です。アフリカ大陸全てが超パンデミックな問題の中にあるわけではないけれども、実際に問題はそこにあるのです。

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撮影:後藤武浩(ゆかい)

アフリカでは大昔から水は貴重な地域があります。サハラなど大きな砂漠やナミビアなど小さな砂漠がある地域ですね。その中を通るナイル川のおかげでエジプトは発展しました。砂漠地帯の多い北アフリカに住む人々にとって、水は産まれたときから貴重なものです。それらの地域で水が政治的に利用されていないのは、昔から水の大切さがわかっているからです。この映画では、“人間vs問題”が描かれています。人間と問題を対峙させているのですね。これまで私が観てきた環境問題を扱った映画では“人間vs政府”“人間vs大企業”という姿勢が多かったのでとても新鮮でした。

──ベナン共和国ではどうですか?

私が生まれ育ったベナンでは、水に困ることはありませんでした。豊かなマングローヴの森がたくさんあり、1mも掘れば水が出ます。南アフリカの地域では、おそらく20~30m掘らないと水が出てこないところもあるでしょう。ベナンでは、世界5位の収穫量を誇る綿の栽培をしています。綿もそうですが、外国の会社が求める製品しか作っていないというのは、あまり地元の人々にとってハッピーなことではありません。ガーナやエチオピアや栽培されるバラもそうですよね。フェアトレードの名の下に、ヨーロッパなど一部の人々のためだけに栽培しているのです。なぜ自分たちのためではなく、先進国に住む一部の豊かな人たちのために綿やバラを栽培しなくてはならないのか。なぜアフリカに住む彼らが食べる野菜は海外から輸入される缶詰なのか。なぜ彼らが食べる魚はどこから来たのかわからない冷凍の魚なのか。つまり、オーガニゼーション全体が間違いなのです。

──映画の中に、アフリカで水にまつわる悲しい事件が描かれています。そのことは知っていましたか?

知りませんでした。火事で子供たちが亡くなった話は、ベナンでは有り得ません。水というものは、生命維持のためのものだけではなく、スピリチュアルなもの、浄化するもの、清めるものとして大切にされている歴史がアフリカにもあります。水は自分一人だけのものではありません。飲む前に神様に捧げる、そういう習慣がある宗教も多くあります。一方で水のせいで戦争が起きてきた歴史もあります。

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映画『ブルー・ゴールド 狙われた水の真実』より

世界を見渡しても、水の大事さがわかるまでに色々な人為的な間違いがありました。日本は水俣病のような公害を経験して、学んできましたよね。そのおかげで汚水を浄化する技術も発展してきました。アフリカの人たちにはまだその力がなく、被害者のままです。コートジボアールなどは一時期とても不安定だったので、大企業が狙っていました。大企業がお金を渡し産廃を埋めていたのです。1980~90年の間、そういった大企業からたくさんオファーを受けて、ゴミを受け入れていました。最近は政府も「NO」と言えるようになりましたが。

水と環境問題に配慮したライフスタイルを開拓する必要がある

──アフリカの問題を考え続けてきたアドゴニーさんから見た、現在のアフリカの問題はどこにあると思いますか?

アフリカは豊かな自然に溢れているところです。もし問題があるとすれば、それは人間の手によるもの以外何者でもありません。それは増加、発展を続ける人間の手です。アフリカで最も重要なのは、良い政府です。良い政府か悪い政府か、そして戦争があるか戦争がないかで大きく環境が違います。

日本に来て改めて思うことは、アフリカの政府は甘いということ。国家予算の半分の出所は世界からの支援。残りの四分の一は借金。残りが税金と貿易から得たお金。政府と公務員は給与を貰い過ぎだと私は思っています。お金を増やさないのにたくさんもらいすぎなのです。多額な年金以外にも、賄賂をもらったりね。それにアフリカの政府が管理しているのは、都市に住む20~30%の人々だけ。日本と違い70~80%の人が田舎で自給自足をしながら暮らしている状態。国がしていることは彼らには届かない。だからこそJICAのような機関やNGOがたくさんあるのです。そういう人々のおかげでその70~80%の人々のケアができているのが現状です。

──政府を変える、それ以外に何か方法はありますか?

ひとり一人がライフスタイルを変えることです。今の生活はインダストリアルブームに合わせたもの。ペットボトル水もそうですが、便利という言葉には毒があります。先代は便利さに溢れたライフスタイルを夢見て、実現してきました。恋愛も一緒でしょ? イノセントな男女がいて、恋が盛り上がってある程度マチュアになってくると、イノセントの中では必要がなかった欲しいものなどが出てきて、関係に問題が生じてくるのです。そこで我々はその次の時代を作らなければいけません。水と環境問題に配慮したライフスタイルを開拓する必要があると思います。

(インタビュー・文・構成:世木亜矢子 インタビュー写真撮影:後藤武浩(ゆかい))

■アドゴニー・ロロ PROFILE

1974年、ベナン共和国出身。フランス語圏の学校でアフリカの歴史、地理、哲学、文学をさまざまな分野を学んだ後、北京言語文化大学へ留学。その後北京中央演劇学院に学び、俳優として活躍。さらなる活躍の場を求めて来日し、テレビ、映画、舞台などで活躍。「愛・地球博」のアフリカ共同館の親善大使や「日本赤十字シンポジウム」のパネリスト、「アフリカンフェスタ2007」のナビゲーター、「第四回アフリカ開発会議」司会などを務めるなど、日本とアフリカの架け橋として活動中。主なTV出演は「さんまのSUPERからくりTV」(TBS)、「いきなり!黄金伝説」(テレビ朝日)など。主な映画出演は『ミラクルバナナ』(2006年)『スシ王子』(2007)『新宿の事件』(2007年)など。

公式ブログ


渋谷アップリンク・ファクトリーにてアドゴニー・ロロを迎えたトークショー開催!

上映+トークショー
ゲスト:アドゴニー・ロロ

2010年2月7日(日)
開場12:15/上映12:30/トーク14:05

料金:予約1,300円/当日1,500円

予約方法:(1)お名前、(2)人数 、(3)住所、(4)電話番号を明記の上、件名を件名を「2/7『ブルー・ゴールド』イベント」として、factory@uplink.co.jpまでメールでお申し込み下さい。予約者数が定員60名に達し次第、受付を締め切りますので予めご了承下さい。

※イベント・ご予約の詳細はこちら


『ブルー・ゴールド 狙われた水の真実』

渋谷アップリンクポレポレ東中野ヒューマントラストシネマ有楽町
ほか、全国順次公開中


撮影・製作・監督・編集:サム・ボッゾ
エグゼクティブ・プロデューサー:マーク・アクバー、サイ・リトビノフ
出演:マルコム・マクダウェル、モード・バーロウ、トニー・クラーク、ウエノア・ホータ、ヴァンダナ・シヴァ、オスカー・オリベラ、ミハル・クラフチーク、ライアン・ヘリルジャク、バージニア・セシェティ、ロバート・グレノン、ヘレン・サラキノス
2008年/アメリカ/90分/ビデオ/カラー/1:1.66/ステレオ/英語、スペイン語、スロバキア語、フランス語
配給:アップリンク
公式サイト


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