骰子の眼

art

東京都 渋谷区

2010-03-29 18:00


「世界をよりよい場所にしようとしている若者たちをつなげていく」─ヒップホップ文化を切り取る写真家、チェ・コサアリ インタビュー

カナダの革命的フォトグラファーが3/31よりアップリンクで写真展を開催、4/2にはシンポジウムとパーティーも。
「世界をよりよい場所にしようとしている若者たちをつなげていく」─ヒップホップ文化を切り取る写真家、チェ・コサアリ インタビュー
コモン (c) Che Kothari shot for Urbanology

カナダ、トロントで写真家、活動家、イベント・オーガナイザーとして活躍するチェ・コサアリが北米アートを紹介するプロジェクト、ビルド・フルーガスとカナダ人アーティストを支援する非営利団体ユーノイア・プロジェクトの招聘により来日。アップリンクにて写真展とシンポジウムを開催する。写真展ではアイス・キューブやジギー・マーリィ等セレブリティのポートレイトを展示し、シンポジウムでは自身の活動の紹介の他に、トロントのミュージシャン、Boonaa Mohammedとのオンライン対談を行う。来日を直前に控えたコサアリ氏に話を伺った。

企業のネガティブな影響を軽減し、ポジティブな影響を強化する

──写真家としての活動の他に、トロントの音楽・アートシーンのサポートを目的としたフェスティバル"MANIFESTO"(年に一度、4日間に渡って野外ライブや映画の上映、展示等を行い、100名以上の地元のアーティストが参加している)を企画されていますが、このイベントを始めたきっかけは何ですか?

トロントに引っ越したとき、地元のヒップホップ・シーンにはまってしまって、平和や愛、協調、節度を持って楽しむことなど、その本質に惹かれました。僕はそこで名の知れた写真家としていろいろなアーティストの撮影をしていたので、トロントにたくさんの才能ある人たちがいることを強く実感しました。しかし彼らの才能が評価されるべきレベルで認識されることはあまりないということもわかりました。アーティストの賃金は低いですし、メディアに紹介されることも少なく、規模の大きなイベントやショーに呼ばれることも稀です。そして彼らの多くは自分たちですべてのことをこなすので、なかなか互いに出会って一体となる機会もありません。いろいろなことを学んでいくにつれ、トロントのヒップホップ・シーンやヒップホップそのものの歴史が深いことを知り、その歴史を語ることのできるプラットフォームを作るためにコミュニティに尽力したいと思うようになりました。
そして世界最大のユース・カルチャーのひとつであるヒップホップを始めとする"文化"というものが、自己表現や教育の手段になり得るということにも気づきました。過去にいろいろなフェスティバルに参加してきましたが、個人的に強く影響を受けましたし、たくさんのインスピレーションとアイデアを得ることができました。つまり、MANIFESTOはフェスティバルとして前述したすべての要素をひっくるめて、ひとつのパワフルなお祭りごとにまとめ上げるという役割をもっているし、コミュニティがひとつになったときに、意義があり、且つ美しく、変化をもたらすような何かを創造していくこともできる。組織自体は側面を増やしつつ有機的に拡大していますが、礎となっているのはフェスティバルなのです。

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アフリカ・バンバータ (c) Che Kothari shot for Urbanology

──ご自身で立ち上げたデザインスタジオ"Hightop Studio"を通して、ソニーやナイキなどの企業から依頼を受けて制作をしていらっしゃいますが、なぜ企業と積極的に関わりを持とうとされているのでしょうか。

僕の考えでは、企業は利益の発生元であるコミュニティにその利益を還元する義務があります。「企業の社会的責任」が流行語や方法論としてもてはやされる現代において、僕は草の根の組織やコミュニティがイニシアチブを取って決定がなされることを確かめておきたいのです。そうでなければ僕たちは個人でしかいられなくなるし、企業はコミュニティへの貢献度が低い政策にしかお金を出さなくなる。つまり利益優先でしか動けなくなるのです。ですからコミュニティのイニシアチブを得るために皆でアプローチし、関連するすべてのセクターと協力していかなければならないと思います。企業は長い間、僕たちの世界において大きな存在であり続けています。僕はこれからもコミュニティによるイニシアチブに参加することで、企業のネガティブな影響を軽減し、ポジティブな影響を強化する方法を探っていきたいと思っています。

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アイス・キューブ (c) Che Kothari shot for Urbanology

写真やヒップホップに対して僕と同じような愛を感じている人と出会いたい

──これまでのキャリアの中で、最も刺激的だった撮影について教えてください。

これは難しい質問ですね。入念に計画したものから、旅先の街を歩きながら自然発生的に現れるようなものまで、たくさんの撮影から多くのインスピレーションを受けていますからね。 けれど、はっきりと言いえるのは、ジギー・マーリィと仕事をしたことが僕のキャリアの中でも本当に素晴らしい瞬間だったということです。ジギーの撮影を依頼される前から、僕は彼と彼の父親であるボブ・マーリィの長年にわたるファンでした。ジギ―は愛と家族の重要性を与えてくれる大きな存在でした。僕はボブ・マーリィがとある誕生会で大勢の子供たちの前で"One Love"を演奏するというミュージックビデオを想像するようになりました。だからジギー側に、20人くらいの若者をビーチに集めて撮影を行うことを提案しました。結局トロントのチェリービーチで撮影したのですが、ジギーが到着した頃にはビーチいっぱいに20人の若者がはしゃぎまわっていました。ジギーのオーラは壮大な叙情詩のようで、若者たちはすっかり落ち着いていました。おかげで、理想通りの写真が撮れました。僕はあの美しいシーンの証人でしかなかったですね。写真は言うまでもなく素晴らしく、その日はトロントのビーチで過ごした最高の一日でした。そういえば、僕はビーチが大好きだって言ったかな?

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ジギー・マーリィ (c) Che Kothari shot for Urbanology

──アップリンクで行われるイベントや写真展に対して、何を期待しますか?

東京で僕の作品を共有できる最高の機会ですからね。携わってくれた人たちには本当に感謝しています。何を期待してるかですか?僕は何も期待しないようにしています。意図して何かをするより、偶発的に何かが起こるほうが好きですから。写真やヒップホップに対して僕と同じような愛を感じている、熱意のある人と出会うことは楽しみの一つですね。また、僕の考えや作品に対して挑戦してくれる人にも会えるといいですね。ですから今回の来日は、素晴らしい勉強の機会になることと思います。僕の話が参加してくれる皆さんの反響を呼び、また、価値ある経験となることを願っています。また、この機会に生まれるコネクションが良い友人関係となり、その人たちとカルチャーをあるべき場所に押し上げていくために一緒に何かしていけたらと思います。僕には編集者を必要とするアイデアが山のようにあるから、アップリンクのスタッフと写真集の出版についていろいろ話せたらと思っています。東京でMANIFESTOを企画したいという人たちに会えるかもしれませんね。それは誰にもわからないけど、流れにまかせたいと思います。でも僕は楽しいダンスパーティーや音楽も楽しみにしていますよ!

──今後の予定について教えてください。

いろいろと進行中なんです。3年前からMANIFESTOの方向付けとそれを引っ張っていくことにたくさんのエネルギーを費やしてきました。ちょうど今、僕らの活動におけるモデルとフォーマットを確立しようとしているところです。それを他の人たちと共有し、彼らが彼ら自身のイベントを作ってくれるといいなと思います。それと、これまで何度か一緒に作品を作ったことがあるジャマイカの友人と、ジャマイカでフェスティバルをしようと計画中なんです。一アーティストとして、といっても僕はMANIFESTOを一大アートプロジェクトとして捉えていますが、自分自身をもう一度写真へ注ぎ込もうとしています。実現させたいアイデアや世界を共有するためのアイデアがまだまだたくさんあるんです。また、"Ignite The America(アメリカに火をつけろ)"という新しい取り組みにも着手しています。このプロジェクトは芸術や文化を武器に、社会的疎外、暴力、そして貧困を文化産業を通して緩和しようという若者たちと協力して進めています。今年この活動はブラジルにも広がろうとしているのですが、世界をよりよい場所にしようとしている革新的な若者たちをつなげていくという役割を果たすことを楽しみにしています。今のところ僕がしなければならないことは無限にあるんです……だからこの辺で終わります。

インタビュー・文:平井淳子

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チェ・コサアリ プロフィール

オンタリオ州ゲルフ生まれ。17歳の頃にトロントに移り住む。被写体のライフストーリーが浮かびがってくるようなポートレイトを得意とする。これまでにブジュ・バントン、TI、コモン、フェイス・エバンスなど数多くの国際的なミュージシャンを撮影している。

Che Kothari (c) Kareem Anjani



写真展

『-HIP HOP PORTRAITURE- BY CHE KOTHARI』
2010年3月31日(水)~4月5日(月)

会場:アップリンク・ギャラリー
(東京都渋谷区宇多川町37-18トツネビル1F)[地図を表示]
12:00~22:00
入場無料
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シンポジウム+パーティー

『THE NATURE OF THINGS -アーバナイト-』
2010年4月2日(金)

会場:アップリンク・ファクトリー
(東京都渋谷区宇多川町37-18トツネビル1F)[地図を表示]
20:00~22:30
入場料:2,000円(1ドリンク付)
出演:チェ・コサアリ、Boonaa Mohammed、DJ SARASA
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