骰子の眼

music

東京都 渋谷区

2010-05-07 23:00


「家でぽろぽろ弾いてふと歌った言葉こそ自分を知ることができる鍵」─非凡の才を持つ女性シンガーmmm(ミーマイモー)インタビュー

卓越したソングライティングと原初の歌の輝きを両立させる、その独特な創作方法に迫る。
「家でぽろぽろ弾いてふと歌った言葉こそ自分を知ることができる鍵」─非凡の才を持つ女性シンガーmmm(ミーマイモー)インタビュー

ほのかにブルースをたたえたメランコリックな声質ながら、そこに驚くほどの芯の心の強さを感じさせる。mmm(ミーマイモー)は、コンスタントなライブ活動で育まれた素朴な歌の持つ強度と、それをしなやかにサポートするサウンドのクオリティにより、2009年のデビュー以降、熱烈なファンを増やしている。インプロビゼーションの分野を中心に意欲的な試みを続けている音楽家・宇波拓の丹念なプロデュースワークも冴えわたっているアルバム『パヌー』は高い評価を獲得。その後4月14日に発売されたレーベル・メイトoono yuuki(オオノユウキ)のアルバム『stars in video game』にも参加を果たしている彼女に、創作のプロセスについて、そして気取らない相貌の奥にある音楽へ向かうたゆまぬ意思について語ってもらった。

きれいなコードがあるとうれしい

── デビュー作『パヌー』についておうかがいします。制作にあたってなにかアルバムとしてのイメージはあったのでしょうか?

なかったです。曲を録って、(プロデュースの)宇波拓さんにお願いしたら、こうなりました。mmmは3年弱やっているんですけど、その初期に作った曲が多いです。

── 初期に作った曲と、現在進行形で取りかかっている曲と比べると、作る時の感触は違いますか?

お洒落度かな?(笑)弾けるコードが増えてきて、だんだんいろんな音を弾けるようになりました。

── コードが広がると曲作りもバリエーションが増える?

広がりますね。きれいなコードがあると、単純にうれしいです。メロディも変えられるしリズムも変えられる。

── 曲作りはどのように組み立てていくのですか?まずはコードを鳴らしてみてから?

そうですね。そこから、鼻歌まじりで歌って作っていきます。

── 音楽を志すようになってからと、mmmという名前で活動をスタートさせてからは、音へ向かう意識は変わりましたか?

意識は特に変わってないと思います。ただ自分でもパッと見るとエムエムエムとしか読めないので、こんな名前にしてしくじったかなと思うこともあるんですけれど(笑)、別に名前は関係ないです。mmmとして最初に演ったときも、まさかこんなにこの名前を長く使うとは思わなかった。そのときも3、4回名前を変えて、秋葉原グッドマンで初めてライブハウスでやった時に出演者としてmmmって呼ばれたので、それが固定になりました。

── あまり深く考えずに、この名前でいいか、と言う感じ?

そうですね、サインとか簡単かなと(笑)。

── mmmという名前をつけたときには、ひとりのユニットとしてやっていこうという意思があった?ひとりでの弾き語りスタイルはmmmさんにとっていちばんしっくりくるんでしょうか?

はい、そうですね。〈間〉を自由に取れるのが好きなんです。あと、バンドとかで人とやるときは「正解」があって、だからこそ間違えてしまうのだけど、ひとりの時は、ぜんぜん違った曲にしても間違いではない。そこが好きです。

── そうしたひとりでの制作だと、mmmさんのタイム感やバイオリズムが素直に曲に反映されるのではないですか。

はい、多分とても反映されていると思います。『パヌー』のなかの「あまのじゃく」という曲は、バンド編成でレコーディングしている曲なんですが、他のメンバーとは別にひとりで録っていて、ギターと歌だけ宇波さんがヒバリスタジオで録って、それに重ねてもらったんです。なので、ドラムとかちょっと間がある感じが好きでした。最初はみんなで一緒にやるのかなって思っていたんですけど、ひとり別録りだったんで、びっくりしたんです。

── それは宇波さんが意図されたことなんですか?

レコーディングにあたっては、ひとりでの弾き語りっぽさを出したいからという話はありましたね。

── プロデューサーの宇波さんと「こんな音にしよう」という話し合いはされたのですか?

いや、まったく。全部ほとんど一発か、多くても2、3回のテイクで録音しました。ベースの方と2人でやっている曲も、全部即興でやってみたらできたんです。

── 即興から生まれていく制作はどうですか?かっちりとメロディを組み立てていく過程とは別の面白さがあるのでは?

大好きです。どう相手がでてくるか、ワクワクしますね。

── 即興においてはジャズが好きだったり、勉強したことはあるのですか?

高校が専門学校で、そこでジャズフルートをやっていました。

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歌いたくないときは、ないですね。

── 10代の頃から音楽を通して自己表現したいと?

高校では、昼までは普通の学業、午後からは音楽の勉強をしていて。それを毎日やってたので、考える以前に音楽で自己表現していた感じですね。

── そこで歌とギターで表現しようと思ったきっかけは?

日本には小3までしか住んでいなくて、高校がアメリカで、5年前に帰ってきたんですけど、それで友達がいなくて、フリマでギターを買ってみたんです。そしたら、意外と気持ちよかった。その前もちょっとロックバンドをやっていたんですけどね。

── 寂しさを紛らわせたり、発散させるために?

そういう理由もあったけれど、それ以上にすごい暇で(笑)。電車も乗れなかったし。渋谷とか来たらすぐに迷ってしまうくらいで、ずっと家にいて、ネットかテレビみたいな感じだった。

── 演奏することや歌うという行為自体が外との接点みたいな?

そうかもしれないです。

── そのときから『パヌー』に収録されているような、メロディのしっかりした楽曲を作られていたんですか?

最初からメロディのある歌たちでしたね。初めて作った曲は『パヌー』の最後の曲の「宇宙人」です。しばらくして七針(八丁堀のライブハウス)にも17か18の頃から行き始めていて。七針は、今ではけっこう歌ものも多く出てますが、当時はすごくアングラで即興演奏のアーティストが多くて、奇声を発する人とかと一緒に騒いでいた時期もあったんです。けれどやっぱり、聴いていて、歌っていて、心地良いものが自分にとってはこういう感じだった。

── 必要以上に奇をてらった音よりも、もっと普通の音を求めるようになった?

素朴ですんなり、すっと入ってくるような歌がやりたいなと思っていました。

── でも意識していてもなかなかそういう曲のトーンを出せないと思うんですが、すぐにできたんですか?

曲は作れました。何も意識していなかったんです。これが素朴ですっと入ってくる歌だ!だなんて、今でも分かりません。ただ、歌いたいなと思う歌を作っただけです。歌うこと自体が嫌になることはあるんですが、歌いたいって思ったときはすぐに出てきます。

── 歌いたくないと思う時はどんな時なんですか?

落ち込んでる時や自分に違和感を感じている時……あ、けど歌いたくないときはないな。歌えないときがあります。そういうときは、漫画読んだり(笑)。でもそんな激しいスランプは今までないです。

── では楽曲のアイディアは、かなりコンスタントに生まれてくるタイプなんですね。

楽曲というか、家でコードで遊んでたら、切れ端みたいなものがいっぱいでてくるんですけど。

── そういう断片が繋がって曲になるんですか?

むしろそういうものしかないですね。

── そうした断片とは、メロディだったりコードのかけら?

サビとか、Aメロまでできているものがいくつかだったり……歌詞はあまりないですが。言葉にはそんなに重みを置いていなかったんですが、最近は自分というものができてきたのかな?ここ3、4年で自分が育ってきて、出てくる歌詞とかを見て、なんか、「女の子になっちゃたな」と思います。

── (笑)。確かに飾っていないですよね。

だって、「ゲロ吐く時の歌」のような曲は、もう書けないと思います。最近、よく昔を知っている子たちに「毒がなくなった」って言われます。

── でも毒を吐きたいとか、シニカルになりたくて、ということではないですよね?

ないですけど、「毒がないね」って言われて気にするところが女の子になっちゃったなって。

── それは、楽曲としての脈絡とか文法とか、女の子なりの感情とかが無意識のうちに言葉を書くときに影響してるからなんでしょうか?

根本的に開けっぴろげ、というところは同じなんですけど、歌う内容がしっとりしてきたなと。別にそれが悪い事ではないんですが最近作っている曲とかは本当にそうなんです。

── それはmmmさんがいま根っこのところで求めているからなのでは?

そうなんですかね……家でぽろぽろ弾いてふと歌った言葉が自分を知ることができる鍵みたいな。音楽セラピーみたいな感じですね。

── 最初に書いた曲、とお話のあった「宇宙人」についておうかがいします。宇宙人に恋した男の子のストーリーにはとても純粋さを感じます。この曲の歌詞の設定はどのように浮かんできたのですか?

設定は、またあやふやで申し訳ないのですが、気づいたらああいう歌詞になっていました。18歳に書いた曲なので、甘酸っぱさが程よく出ていていいと思います。

── ファイストを思わせるチャーミングなPVも製作された「マジカル・オムニブス号」は、mmmさんのなかでも、もっともポップなナンバーと言えると思います。

ファイスト、音楽もPVも大好きです。あの曲は、実はPVをバスを使って明るく録りたいとPV製作側から言われて、それで普段あまりやらない明るい曲を作ろうとがんばった曲です。実際予算が全然なくて本物のバスは登場しませんでしたが、とても楽しくポップなPVと楽曲ができて満足しています。

── ポップなメロディに呼応するように、リリックに関してもなにかを捨てて〈自由さ〉を求めて、突き抜けるように前に進んでいく感覚や、〈決意〉のようなものを感じます。この曲は、どのようなプロセスを経て完成へと持っていかれましたか?

歌詞を書くのは苦労しました。〈自由さ〉は求めていますが、〈決意〉はあまり感じませんでした。歌っている時間だけ自由で、やっぱり結局はセーラー服もワイシャツも必要な社会に戻らなきゃならないのだなと思います。

── 開けっぴろげ、というmmmさんの曲のなかでも、特に「外人さん」「Tokyo」では、生きていくことの息苦しさや葛藤が、とてもナチュラルににじみ出ていると思います。それはmmmさんがふだん肌で感じていること、といってもいいのでしょうか?曲を作るときに、そうした社会に対峙する感覚を意識することはありますか?

「外人さん」については、実際私がお付き合いさせてもらっていたアメリカ人が二股をかけていたので、私が肌で感じた事しか歌っていません。「Tokyo」も、そうですね、曲名は東京ですが、どこにいても感じるであろう生きる息苦しさを歌った曲です。社会に対峙する感覚は、『パヌー』に収録されている曲ではあまり意識したことがないです。自分と向き合い、自分が感じている事を客観的に捉えて、出していたかなと思います。

── それでは、自分から湧き出てきたメロディやコードに自分で驚くことはありますか?

歌詞とか言い回しとか、歌っていて出てくると「へぇ」って思います。

── 自発的に生まれてくるメロディや言葉って決して替えがきかないものなんだなと思うんです。mmmさんてすごく歌う必然性を持った、歌うべくして歌っている人、という印象があるんです。

うれしいです。

── しかもそれが決して押しつけがましいものではなくて、心休まる、すっと心に入ってくるところがmmmさんの音楽の魅力だと思います。

ありがとうございます。

生きた音楽をやりたいです

── 『パヌー』はジャケットのアートワークもすてきですよね。

高校の同級生の絵です。私のおじいちゃんの絵なんです。それをデザイナーさんが使って作ってくれました。

── これはmmmさんが「淡い感じで」とリクエストしたのですか?

いや、してないです。偶然なものっていいですよね。意図してやることができないだけかもしれないですけど。

── 音の空気や気配といったものがすごく収められていると思うのですが、レコーディングの際の工夫はなにかありましたか?

そこはすべて、宇波さんにお任せして。マイクが360度録れるマイクを置いて、そこでボーカルもギターも生で録って。だから、とても生々しいですよね。

── インプロビゼーションを多用した楽曲もあり、ポップなメロディの曲とのバランスがとてもよくて、〈名盤の香り〉がしますよね。これからやってみたいことはありますか?

これまでテレコとかでの録音とか全然出来なくて、それを自分できるようになったら、好きなように宅録をやってみたいです。でもちょっと時間かかりそうですね。

── 他に、共演してみたいアーティストなど興味のあることはありますか?

いろんな人とやってみたいです。『パヌー』でベースの河崎純さんと即興でやった「ゲロ吐く時の歌」と「troubled mind」は本当に自分で作ったのと違った結果になったことが嬉しくて。この前はライブで山本達久さんと一緒にやったんですけど、またぜんぜん違う自分が出てきて、人とやるのは楽しいですね。

── 「troubled mind」は想像力がかき立てられますね。

「troubled mind」は歌い始めたときは、言葉を全然気にしていなかったので、最初の歌詞の何にもないところがずっと続いているような、声を楽器のように使いたいと思って作りました。この録音のときもそうだったんですけれど、歌っていて「なにこの自分、知らない!」って感じる瞬間があるんですが、それが大好きで。

── ミュージシャンとのセッションで、新しいものが自分から引き出されるっていいですね。シンガーとしてや、言葉を書く人として影響を受けたアーティストはいたのですか?

高校時代は、ジャニス・ジョップリンが大好きでした。「影響を受けた人は?」という質問にこれまで答えるのが大変だったんですけども、ここ最近で、ユーミンを初めてちゃんと聴いて、荒井由実時代のユーミンすごいなと。

── それは同じ空気を感じます。金延幸子さんとか。それでは雑食に聴いてという感じではないんですね。

雑食に聴くんですけど、友だちが聴いているものが多いです。なんでも波長が合う物は聴きますね。

── ライブについてはなにかやってみたいことはありますか?

自由なことが好きなので、自由というか、生きた音楽をやりたいです。一曲として成立しているけれど、でもそれに固定されないように、いつでもオープンな気持ちでやりたい。

── 逆にかっちりとした、CMソングみたいな完璧なポップソングへの願望は?

やれたら面白いです。嵐のカバーとか(笑)、曲提供はやれたら楽しそうですね。いろんなひとといろんなことができそう。

(インタビュー・文:駒井憲嗣 撮影:山川哲矢)

mmm プロフィール

1987年千葉生まれ、横浜育ち。1995年シンガポールへ移住。2001年アメリカへ単身留学。2005年日本へ帰国し、ギターを始める。2006年秋、八丁堀 七針にて初めて人前で歌う。2008年ソロと平行してバンド「マリア・ハト」を結成。2009年3月に鳥獣虫魚からCD-Rアルバム『five till』発表。CRJ-tokyo に初登場1位。渋谷O-nestにて円ジャン1日目、にせんねんもんだい主宰の美人レコード祭りに出演。2009年12月、デビュー・アルバム『パヌー』リリース。ソロ活動と平行して、マリア・ハト、王舟バンドのメンバーとしても活動中。

mmm myspace
kiti公式サイト



mmm『パヌー』

発売中
kiti-002
2,100円(税込)
kiti

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ライブ情報
2010年5月13日(木)東高円寺UFO club
2010年5月14日(金)下北沢440/下北沢THREE(マリア・ハト)
2010年5月15日(土)江古田Flying Teapot
2010年5月16日(日)高円寺円盤
2010年5月17日(月)下北沢440(王舟バンド)
2010年5月21日(金)渋谷O-Nest oono yuukiレコ発
2010年5月23日(日)鎌倉cafe goatee
2010年5月28日(金)京都cafe ZANPANO
2010年5月29日(土)大阪common cafe
2010年5月30日(日)神戸旧グッゲンハイム邸
2010年5月31日(月)秋葉原club goodman
2010年6月4日(金)大阪蒼月書房
2010年6月5日(土)京都SOCRATES

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