撮影:加藤和也
演劇、ダンス、音楽、展示というジャンル枠を飛び越え、さらにはステージ上だけでなく銭湯や遊園地を舞台に奇想天外なパフォーマンスを繰り広げるカンパニー、快快(ファイファイ)。古典落語『芝浜』を題材にした新作『SHIBAHAMA』が2010年6月現在、東京芸術劇場小ホールで上演中だ。演出を手がける篠田千明、メンバーの山崎皓司、海外担当のナジュ・オルガに話を聴いた。また、新作でアニメーション、ゲーム、音楽等、デバイスのシステムを手がけるハンガリーを拠点に活躍するデザイン集団“キッチン・ブダペスト”のマルツィとロツィも急遽登場! 快快の創作の秘訣に迫った。
去年初めての海外ツアー。今年の夏はヨーロッパ各国へ
──シンガポール公演はいかがでしたか?
篠田千明(以下篠田):21日に帰って来ました。全部で二日間で3回公演。
──演目は?
篠田:『Y時のはなし』という、3月に原宿のVacantでやった作品です。
──いかがでしたか? 現地では。
篠田:一番良かったのは、ずっと子供たちに見て欲しいと思っていたら、子供たちが来て凄かったのよね。
左から、山崎皓司(快快)、Laszio Kiss、Marton Andras Juhasz(ともにキッチン・ブダペスト)、篠田千明、ナジュ・オルガ(ともに快快)
山崎皓司(以下山崎):もてたよ(笑)。でもそのとき俺、食あたりしてて周りが見えてなかったけど、周りの人たちが凄い人気だったよって!
篠田:皆、「アーあの人!!」って。「写真撮ってもらいなよ」って。
──若い女の子が?
篠田:10代ぐらいかな。
──海外公演はよくされるのですか?
篠田:今年はこれがツアー始まりで、海外公演には去年初めて行ったのですが、例えば夏から秋にかけて、ブダペストとハンガリー、オランダ、スロベニア、ベルリンなどに行って、今年はシンガポール、夏にドイツとイタリア、ちょっと空いて8月にスイスに行きます。
──そのときの公演は場所によって作品が変わるんですか?
篠田:オファーがあるときに指定があるときもあります。
──それで、ハンガリーに行ったときに出会ったというような感じなんですか?
篠田:ハンガリーはもともとオルちゃん(ナジュ・オルガ)がいて、彼女がその劇場の人と話をしたのでハンガリーは他のツアーが決まっていなくても、行こうと決めていました。なのでフェスとかではなく、自分達の試行だったんです。でも劇場がいくら払うという、日本と違うシステム。
左から、篠田千明、ナジュ・オルガ(ともに快快)、マルツィ(キッチン・ブダペスト)
山口県では子供とお年寄りが「ファイファイマーチ」
──今回は海外公演の前に山口県に行っていたんですよね? そこでも『Y時のはなし』? 原宿以来二回目になるのでしょうか。
篠田:そうですね、二回目になります。山口県は、東京でやるのと何が違うかと言うと、知り合いがいないじゃないですか! それが一番楽しい。海外では当たり前ですが、海外でやるのとはまた違う。YCAM(山口情報芸術センター)自体についているお客さん、大学生が結構多かったのでそういう人にも見てもらえたり。あと「ファイファイマーチ」という作品があるのですが、それを現地山口県の子供と高齢の方に参加してもらって、とても楽しかったです。
──それはその場で振り付けるのですか?
篠田:そうです。1~2時間ぐらいで。覚えられる人だったら簡単なパートを覚えてもらって、その場で参加してもらってます。
快快の結成は、大学の卒業制作
──結成の経緯と自己紹介をお願いします。何人でスタートしたのですか?
篠田:最初は、9人です。あとは先輩だったり学部が違ったりという人、実際やってから作品が面白いからと参加してくれた方もいるなど、バラバラです。最初はリーダーがやろうよって集めて。大学の卒業制作でした。多摩美術大学の映像演劇学科です。でも全然皆演劇志望で入って来たわけでもなくて。
──その卒業制作から続いているわけですね。
篠田:就職しちゃう人もいましたけどね。
──篠田さんの役割は?
篠田:私は演出家です。でも、出たりもします。
──では演出は篠田さんが?
篠田:そうです。あとは夜遊び隊長です(笑)。
撮影:加藤和也
ツアーマネージャー兼パフォーマーであるオルガ
──オルガさんはどのような経緯で参加されたのですか?
ナジュ・オルガ(以下オルガ):私は、パパ・タラフマラの舞台芸術研究所で快快のメンバーである皓司と天野くんと一緒に学んでいて、2人が他の劇団をやっているよと言われ観に行って「凄い面白いな」と思って、お友達になって。
──それは日本に留学していたときですか? 大学生の頃?
オルガ:そうですね。私は一年間大阪外大で日本語を勉強して、その後東京大学を、そして去年早稲田大学院を卒業しました。
──では去年ハンガリーに戻ったばかり?
オルガ:はい。でもその後ハンガリーで過したのは1ヵ月ぐらいかな。
篠田:そうだよね。帰ってからもインドに行って、オランダに行って、またインド行って、そのまま。全然帰らないの。
ハンガリーのデザイン集団“キッチン・ブダベスト”
──オルガさんはツアーマネージャーで出演もされてるのですね。では“キッチン・ブダペスト”のおふたりにも自己紹介をお願いします。
Marton Andras Juhasz(以下マルツィ):我々ふたりでは、12月から一緒に働いています。ふたりとも、キッチン・ブダペストにいます。キッチン・ブダペストはメディアラボみたいなところ。いろいろなメンバーが行き交っています。ロツィと一緒に仕事をし始めてから、6ヵ月。
──その6ヵ月の間、具体的にどういうお仕事を一緒にされてたのですか?
マルツィ:ギャラリーでオーロラを作りました。
左から、マルツィ、ロツィ(ともにキッチン・ブダペスト)、山崎皓司(快快)
──映像で?
マルツィ:はい。
──サウンドアーティストとビジュアルが二人の役割?
Laszio Kiss(以下ロツィ):私は、バイオケミストです。
篠田:生命科学?
──生物科学と音楽の専門?
ロツィ:はい。
マルツィ:私は、メディアアーティストです。
オリジナルソフトで創るアニメーション
──今回の快快『SHIBAHAMA』では映像を担当するのですか?
マルツィ:はい、アニメーションを。
──そのアニメーションは篠田さんや皆さんとの話の中で生まれてくるのですか?
篠田:この作品を来年ブダペストでやろうという話だったんですよ。今回はぎっちり話したというより、まず提案してもらってこれを使いたい、みたいな。かなり限定した感じではあるのですが、今まであるシステムではないシステムを使って、新しいアニメーションを作ってもらって。
──アニメーションの作り方は、材料などを渡してインスピレーションにより作ってもらう感じなのでしょうか?
篠田:あらすじは伝えるのですが、それだけだとちょっと足りないので、例えば「どんなものがいい」とか「どんな人、物がいい」とか。どんなシーンに使うということは伝えるけど、基本的には任せていますね。
──今、まさに作っているところなのでしょうか?
篠田:そのはずです。
オルガ:今回使いたいのは“アニマタ”というソフト。それは、何かのイメージを作って、そのイメージをライブで動かすことを目的としています。インターネットにも映像がアップされています。
──ソフトなのですか?
オルガ:そうです。ソフトです。動かし方としては、例えば、役者の身体にセンサーをつけてその動きでアニメーションを動かす。そういうのを今回は使います。
キャラクターも動くのですか? 前で役者がやっているのに合わせて動くんですか?オルガ:そういうこともできますが、身体ではなく物にセンサーをつけるなど、色々な可能性があります。
──センサーは無線?
オルガ:そうですね。
マルツィ:全然動きがなくても、インプットは音でもできる。例えばアニメーションは、音楽家の映像で音楽が流れると、音楽家はライブでその曲を弾く。だから、そのソフトで流れてい音が、ピアノかチェロか別の何かかを判別して、それをアニメーションにする。
──今回もそれを使って?
オルガ:また新しい使い方になるかも。
ラツィ:で、今回のアニメーションはいろいろをコラージュしたものを使います。だから、イメージ自体も一緒に作るんですけど。
──こういうキャラクターを描く人もキッチン・ブタペストにいるんですか?
マルツィ:はい。
撮影:加藤和也
ハンガリーの遊び心溢れる“万歩計”
──今回この話があってお2人はどのように思った?印象などは。
マルツィ:ワオ!という感じでした。
篠田:開発されたツールは、基本的にキッチン・ブダペストで共有されるんですね。
マルツィ、ロツィ:はい、何でも。
──他にどのような仕事をされていますか?
マルツィ:例えば、“Beat Your Mouse”というソフト。開発したのはキッチン・ブダベストですが、評価が高いのでその部門だけ会社として独立しました。
──ビート・ユア・マウス? ねずみをやっつける?
篠田:ねずみじゃなくて多分、パソコンの方のマウス。
オルガ:そう、パソコンのマウス。マウスが一日でどれくらい走っているかを計算して、自分がそれよりも歩け!ということ。
──万歩計?
マルツィ:そうですね。
ロツィ:実際計算すると、一日パソコンを使って働くと、マウスが何キロも走る。
篠田:もしマウスに負けたらどうするの?
マルツィ:ブー!!! 失格(笑)。
古典落語『芝浜』をやろうと思った理由
──アニメーションも楽しみですね。新作の話を伺っていこうと思いますが、どうして古典落語の『芝浜』をやろうと思ったのですか?
篠田:もともと物量のあるものがやりたかったんですよ。そうなると演出が大変なことになるので、新作ではなく古典をやろうと。既にあるお話で何があるかな?と思って探して。古典の良い所は、皆が知っていると言うこと。まぁ、別に知っているとは言っても桃太郎の詳しい話は知らないじゃないですか。大まかな物語を知っていても。
──皆が知っている物語以上にあるんですか?桃太郎って。
篠田:ありますよ。多分。だから、結局なんでも良いじゃないかと思って。そこで、落語が良いなと。古典芸能の中で、歌舞伎や能よりも軽いし、面白いんじゃないかって。その中でも『芝浜』という演目は当時詳しく知らなくて、何となく感で決めたんですよ。
撮影:加藤和也
──いくつかの古典落語を読んで?
篠田:ちゃんと読んだのはつい最近です。決める前に色々聴いてはいたのですが、文章で読むことはなかった。
豪華な日替わりゲスト
──出演はいつもどんな感じですか?
篠田:スタッフは皆出るんですよ。いつもより多いです。あと日替わりゲストが色々います。チラシには書いていないのですが。
──それは内緒なんですか?
篠田:いや、全然。演劇系だったら、岩井秀人さんが初日と二日目に出たり、あとは悪魔のしるしという団体とか。そこは100人斬りというのがあるんです。人が、バーっと100人来て斬られるだけ。
──100人?来るんですか?
篠田:マジで100人来るんですよ。それが最終日にあったり、それ以外はcoreofbellsっていうバンドが出たりね。
──毎回そうやって変えるというのも演出方針ですか?
篠田:はい。毎回違う方が面白い。
──今までの作品もそういうやり方を?
篠田:いや、初めてです。もちろん日によって違うのですが、明らかに日ごとにキャストを変えるということはないですね。
山崎:いつもは、変わるのは外側なんですよ。アフターでライブとか。今回そのアフターではなく全部内側に入っている。それが凄い。俺はこういうのをやりたかった。『Y時のはなし』やったとき、篠田さんは全部把握できていたと言ったけど、俺は外側のことがわからなかった。飯作ってたらライブ見れないとか、どんな人が出ているか分からないのに進んでいっちゃうとか。今回は、皆の力を内側に、まぁ外側もそうなんだけど、その内側に力を注いだらどうなるんだろう?みたいな期待。
快快が考える“フェスティバル”
──最近の快快はそんな“お祭り感”が出てきていますよね。
山崎:皆が楽しみたい、フェスティバルをやりたいっていうのもあるんだ。
篠田:ちょっと前までは、舞台周りが微妙じゃないか?と思っていました。最近、それを変えてきたのが、人が来る、人が集まるって凄いなと思ったこと。特に、サイバースペースで人が出会って話すというインターネットの世界であっても、そのコネクションを現実に持ち込みたがるじゃないですか。でもそこでライブの可能性は消えない。その、いくらユーストリームで見ることができるといっても、本当に行きたいライブには、行くと思うんですよ。だからこそ、その場に行くことができる。ネットで見ることができるけど、わざわざ行くということの価値がどんどん高まっていくし、逆に価値が高いからフットワークが重いんじゃなく、価値が高いですけど、フットワークも軽くなった気がするんですよ。ちょっと情報仕入れたし、行ってみるか!でちょっと行ってみてあれだったら帰ってから見れば良いし、みたいな。実際来てくれる場所を作るというのが、結構いけてるなと思って。
撮影:加藤和也
──快快はネットとのバランスが良いと思います。
篠田:そうですね。うちらは基本生でやるということがあるから。インターネットだけで何かをやっても結局はそれは後々活きるじゃないですか!人が来てくれるって。
──新作にかける意気込みを教えてください。
篠田:新作の見所はですね、あんまりこういうことを言うと大きくなっちゃうんですけど、予想しても予想出来ないと思います。上回るか下回るかは分からないですけど、そういう意味でも誰も予想できないのものが出来上がります。
オルガ:快快の作品は特にそうなんだけど、今回は特に新しいものが生まれるのを楽しみにしています。
マルツィ:今まで見たものと違う。素晴らしいよ。幸せになれる。
ロツィ:メディアアートと舞台の新しい関係が築けると思う。
山崎:初めて、快快が何をやりたいのかということが表れていると思う。2年振りの新作でやりたいことしかやらないから、これが快快ですみたいなものがでるんじゃないかな?という予感。これはまだ予感(笑)。
──今後やりたいことは?
篠田:来年はまたハンガリーに1ヵ月滞在して作品を作るというのと、もしかしたら違う国で同じ様に長期滞在して作るかも。自分たちの所に来てくれる人もそうですが、自分たちが行って人に会うのも楽しいなと思ったので、行って出会った人と作るということをどんどんやりたい。地球をうろうろして、もっと友達増やしますよ。
撮影:加藤和也
(インタビュー・文:世木亜矢子 インタビュー撮影:大場小麦 舞台撮影:加藤和也)
快快(ファイファイ)『SHIBAHAMA』
開催中~13日(日)東京芸術劇場小ホール1
協力:Kitchen Budapest
日時:6月3日(木)~13日(日)、13:00、14:00、18:00、19:30
※日によって開演時間が異なります
※受付は開演60分前、開場30分前より開始
会場:東京芸術劇場 小ホール[地図を表示]
料金:(6/9-13)前売 3,500円/当日 3,800円
※リピーター割引、学割など各種割引あり
※その他詳細は快快(ファイファイ)公式サイトから