骰子の眼

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東京都 ------

2010-08-06 20:16


「けじめをつけるために1回、終わりにする」劇団M.O.P.解散について語る ─女優・キムラ緑子インタビュー 【後編】

劇団M.O.P.の最終公演『さらば八月のうた』への出演も決定している、女優・キムラ緑子氏インタビューの後編
「けじめをつけるために1回、終わりにする」劇団M.O.P.解散について語る ─女優・キムラ緑子インタビュー 【後編】

厳選シアター情報誌「Choice!」との連動インタビュー企画“Artist Choice!”。「Choice!」本誌にはインタビューの他にもさまざまな映画・演劇の情報が満載です。

今回は8月に、約25年在籍した劇団M.O.P.の最終公演『さらば八月のうた』への出演が決まっている、女優・キムラ緑子氏のインタビュー後編。

【関連記事】 - この記事は後編ですので前編よりお読みください。
「理想はやっぱり“ただ居る”をやり続けること」 女優・キムラ緑子インタビュー 【前編】(2010-07-01)




解散は冷静に受け止められた

こまやか、という字は「細やか」とも「濃やか」とも書く。一見、相反する内容のようだが、ほんの短い登場シーンでも鮮やかな印象を残すキムラ緑子の演技を思う時、「細やか」と「濃やか」の一致を納得できる。

しかしその一方でキムラは、物語の中心にいて作品全体を引っ張っていくヒロインとしても、華々しく輝く。情にもろい優しい女性であれ、相手を手玉に取る計算高い女性であれ、男を破滅に導くファム・ファタルであれ、120%の説得力で体現して見せる。特に所属劇団M.O.P.では1984年の旗揚げから“ザ・ヒロイン”を演じてきた。

「役者になるつもりなんてなかったんですけど(笑)。大学で、芝居をやりたいという友達に“サークルの見学に行くからついてきて”と言われて、初めて観たのがマキノノゾミ(M.O.P.の作・演出家。かつては役者としても活躍)がやってた、つかこうへいさんの芝居で。それが格好よくて、ものすごい衝撃だったんです」

そしてマキノが立ち上げた劇団M.O.P.にも入団、外部の仕事も精力的にしながら、これまで、在籍してきた。

「だから劇団は、私の演劇の原点であり、今やっている演劇のすべてですよね。ここであらゆることを学んだし、こうして今も仕事がやれてるのは、間違いなくM.O.P.のおかげですもん」

そのM.O.P.が、現在上演中の『さらば八月のうた』をもって解散する。26年も続いた、大人が楽しめる作品を提供し続けてきた人気劇団のピリオドを惜しむ声は、あまりにも多い。

「最近はお子さん連れで観に来てくれたり“家族が増えました”ってメールをくださったり、長く観てくださっていたファンも多い劇団でしたからね。でも私達としては、とてもすんなり受け止められたんですよ」

解散の話は3年前に聞かされたという。

「マキノ(作・演出・主宰のマキノノゾミ)が言ったんです、“3年後に解散したい”と。反対する人や理由を聞く人はひとりもいませんでした。なんとなく、そういう空気をみんな感じていたんでしょうね。劇団でなければ経験できない、めちゃくちゃ楽しい時間を過ごしたのは間違いないんです。でも、もうずっと公演ペースが年1回で、たとえ1回でも仕事とは違う種類の楽しさがある素敵な時間だったんですけど、それぞれの優先するものの順番が変わってきたのかもしれません。稽古も入れたら2ヵ月、そういう時間を持つのが段々と大変になってきたりして。ただ、時間のことを言ったら、誰よりもマキノが大変だったと思います。外部の仕事が忙しくなってきて、どの仕事も責任をもってやろうとすると、時間のやりくりだけで苦しかったんじゃないかしら。それに、解散と言っても2度と会わなくなるわけじゃないですから。“けじめをつけて1回辞めてみようよ”みたいな感じなので、本人達は意外と冷静なんですよ」


改めて原点に戻って新鮮な気持ちで

その冷静さが保てているのは、マキノが仕掛けたソフトランディングの効果だったのかもしれない。楽しそうな空気のまま、楽しめる余力のあるまま解散するのは、ある意味で理想的な終わり方だと言えるのだから。

「ファイナルの前の年にセミファイナル公演と名付けてたりしたせいか“あれ、まだ解散してなかったの?”と聞かれたりもしたんですけど(笑)。でも“あと2年、あと1年”と考えながら公演ができたのは、すごくよかったと思います。起きることどれもが、関係しているひとりひとりが、これまで以上に大切に感じられたんです。“ああ、何十年か前に初めて出会ったんだよね”って思いながらせりふを返せたこととか“小道具、あの人がいつも作ってくれてたよな”と思いながら改めて小道具を手に取るとか、そういうことができたんです。その意味では、劇団という形にこだわってダラダラ続けているより本当によかったと思います」

さっぱりとした表情で、真っ直ぐ言う。その顔つきと言葉からは、思い残したことはひとつもないという気持ちが容易に汲み取れる。だが「この公演が終わったあと」に話が及ぶと、急に涙ぐんだ。

「やだ、なんだろう、ごめんなさいね。今、劇団がなくなったあとの時間を想像したら、すごくリアルに寂しくなっちゃった。(全公演が終わった)8月の終わりとか、一気にぼんやりしちゃうのかな」

ポロポロこぼれる涙を拭きながら、こう続ける。

「ちょっと前からだけど、時間を使って、お金使って、劇場に足を運んで来てくれるお客さんがいることの凄さ、ありがたさが、実感としてわかるようになってきたの。……これだけ長いことやってきて、今頃それがわかったなんて言ったら怒られちゃうかもしれないけど(笑)、そこは本当にごめんなさいだけど、これからまた原点に戻って、新鮮な気持ちでお芝居ができたらいいなと思ってるのね。だからM.O.P.も私も、そこをまた楽しんでもらえればいいかな、と思うんです。と言っても、先の見えない商売ですからね、どうなることやら、ですけど。アハハ!」

笑顔、涙、そして最後にまた笑顔。いずれにしても、目が離せない引力を放出し続ける。核にあるのは、真剣さだ。この瞬間ごとの真剣さが、どんな役の輪郭も「こまやか」にする秘密なのかもしれない。

取材:徳永京子 撮影:平田光二


キムラ緑子’sルーツ

つかこうへい作品。
マキノはつかさんが好きでお芝居をしてて、
私はそれを観て衝撃を受けてお芝居を始めました。

◇劇団つかこうへい事務所 [1974-1982]
劇作家・つかこうへいにより旗揚げ。風間杜夫、平田満、加藤健一、柄本明、萩原流行、石丸謙二郎、根岸李衣などの人気俳優を続々と世に送り出し、演劇界に「つかブーム」を巻き起こした。“新劇臭”を払拭した作品世界は特に若者層から熱狂的に支持された。74年、「熱海殺人事件」で岸田國士戯曲賞、80年、「蒲田行進曲」で紀伊國屋演劇賞を受賞。82年解散。

キムラ緑子(きむら・みどりこ)プロフィール

1984年の劇団M.O.P.の旗揚げ以来、看板女優として、『HAPPY MAN』『エンジェル・アイズ』『阿片と拳銃』などに出演。劇団以外にも、テレビ、映画、外部公演と幅広く活躍。十三夜会賞・個人賞(93年)、第32回紀伊國屋演劇賞個人賞(97年)、第12回読売演劇大賞優秀女優賞(05年)など受賞歴も多数。




公演情報

劇団M.O.P. 最終公演
『さらば八月のうた』

日程:[東京公演] 2010年8月4日(水)~16日(月)
劇場:紀伊國屋ホール
作・演出:マキノノゾミ
出演:劇団M.O.P.全メンバー 他

劇団M.O.P. 最終公演 『さらば八月のうた』
撮影:林建次



厳選シアター情報誌
「Choice! vol.14」2010年7-8月号

「Choice! vol.14」2010年7-8月号

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毎号、演劇情報や映画情報を厳選して掲載。注目のアーティストをインタビューする連載“Artist Choice!”の他にも劇場・映画館周辺をご案内するお役立ちMAPやコラムなど、盛りだくさんでお届けします。
公式サイト

◇ステージラインナップ

・パルコ劇場公演『空白に落ちた男』
日程:7/24(土)~8/3(火)
劇場:パルコ劇場

・ナイロン100℃『2番目、或いは3番目』
日程:6/21(月)~7/19(月・祝)
劇場:本多劇場

・DuckSoup produce 2010『透明感のある人間』
日程:7/3(土)~11(日)
劇場:ザ・スズナリ

『真夜中のパーティー』
日程:7/4(日)~19(月・祝)
劇場:PARCO劇場

『ファウストの悲劇』
日程:7/4(日)~25(日)
劇場:Bunkamuraシアターコクーン

・劇団、江本純子『婦人口論』
日程:7/15(木)~25(日)
劇場:東京芸術劇場劇 小ホール1

◇シネマラインナップ

『ルンバ!』
公開日:7 /31(土)~
上映館:日比谷 TOHOシネマズ シャンテ

『SR サイタマノラッパー2~女子ラッパー☆傷だらけのライム~』
公開日:6/26(土)~
上映館:新宿バルト9

『ぼくのエリ 200歳の少女』
公開日:7/10(土)~
上映館:銀座テアトルシネマ

『バード★シット』
公開日:7/3(土)~
上映館:新宿武蔵野館

『恐怖』
公開日:7/10 (土)~
上映館:テアトル新宿

『トルソ』
公開日:7/10 (土)~
上映館:ユーロスペース

『ハロルドとモード 少年は虹を渡る』
公開日:7/17 (土)~
上映館:新宿武蔵野館

『何も変えてはならない』
公開日:7/31 (土)~
上映館:ユーロスペース


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