骰子の眼

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神奈川県 その他

2010-10-09 09:00


柴田敏雄、瀬戸正人、今森光彦などの木村伊兵衛写真賞受賞作品を公開。11月13日からは最新受賞作品も同時公開
瀬戸正人「Living Room、Tokyo 1989-1994」より

見どころ!川崎市市民ミュージアム 学芸員 林司

今回展示する1991年度から1996年度に受賞した作品の特徴は、どれも客観的な記録性が強く感じられるという点です。1970年代、80年代の風景写真やスナップ写真は、写真家が見る者に伝えたいと思っているメッセージや、写真家が前もって抱いているイメージを表現したものが多く見受けられましたが、次第に主観性が排除されて、客観的な記録を重視する作品が多く撮られるようになってきました。

今回展示する1990年代に木村伊兵衛写真賞を受賞した第17回柴田敏雄から第22回畠山直哉までの受賞作品は、1970年代後半のアメリカから広まった、「ニュー・トポグラフィックス」からの影響を強く受けています。「ニュー・トポグラフィックス」とは、新しい地勢学の意味で、代表的な作家に、日本でも人気のあるルイス・ボルツやベッヒャー夫妻があげられます。拡張する人工物によって歪められてしまった自然や、人間によって破壊された風景といった、これまでの絵葉書のような美しい自然の記録とは違った風景を、坦々と撮影しているのが特徴です。今回展示する柴田敏雄、小林のりお、畠山直哉の作品を見る時に、このことを頭に置いて見てみてください。きっと新しい発見ができると思います。

客観的な視点は、風景写真だけではありません。大西みつぐ、豊原康久、瀬戸正人の作品のようなスナップ写真にも影響が見られます。また、昆虫や昆虫を取り巻く里山の記録をフィールドワークとして撮影し続けている今森光彦の作品も、自然への賛美だけでなく、環境を破壊する人間への警鐘が込められています。

柴田敏雄
第17回(1991年度)

1949年東京生まれ。セザンヌのような油絵に憧れ、1968年に東京芸術大学美術学部絵画科油画専攻に入学。入学後は版画やシルクスクリーンに興味を持つ。学生運動で一年間大学が封鎖されたことから、屋外で制作できる映画や写真を始める。同大学院修了後、広告会社を経て、1975年よりベルギー文部省より奨学金を受け、同ゲント市王立アカデミー写真科に入学。留学中、パリのギャラリーでアンセル・アダムスのオリジナルプリントの美しさを知り、アダムスのプリント技法であるゾーンシステムを習得する。1979年に帰国し、1981年から4×5で1986年まで夜の高速道路のシリーズを制作する。また、同時並行でダムや自然の中にコンクリート等の人工物が入り込んだ風景を撮影しはじめる。この日本独自の現代風景が高く評価され、「現代写真の母型 柴田敏雄・展」(1991年 川崎市市民ミュージアム)、「柴田敏雄:日本典型/解読の試み」(大阪フォトインターフォーム)で第17回木村伊兵衛写真賞を受賞する。近年は大伸ばし用の白黒印画紙の国内調達が難しくなったこともあり、2004年頃から作品をカラープリントで制作しており、よりスケール感が増した作品が展開されている。

木村伊兵衛写真賞柴田敏雄
柴田敏雄「日本典型」より」栃木県黒磯市(1989)

大西みつぐ
第18回(1992年度)

1952年、東京深川生まれ。1974年に東京綜合写真専門学校卒業。1970年代、80年代のスナップ写真は、情感を込めたメッセージ色のあるスナップ写真か、カメラで瞬間を奪い取るようなスナップが主流であった。しかし、大西みつぐの作品はそれまでのスナップとは異なり、慎重かつ誠実に身のまわりの風景や人と向き合って、過剰な感情を交えることなく撮影した作品で、新しいスナップショットの在り方として高く評価され、「遠い夏」で第18回木村伊兵衛写真賞を受賞した。学生時代から東京の下町を中心に撮影を続けており、以来40年近く街を撮り続けている日本を代表するスナップ写真家の第一人者である。また、大学や専門学校などで若い世代を指導、また各カメラ雑誌において記事執筆、月例コンテスト審査員を歴任するなど写真愛好家へのアドバイスも積極的に行なっている。近年は「すみだ写真博覧会」(2006)、「浦安写真横丁」(2008)など、地域と写真を考える手作りイベントの企画実施も手がけている。

木村伊兵衛写真賞大西みつぐ
大西みつぐ「遠い夏」より

小林のりお
第18回(1991年度)

1952年秋田県大館市生まれ。写真好きな父の影響で、9才から写真を始める。日本歯科大 学歯学部を経て、1983年に東京綜合写真専門学校を卒業。パノラマカメラを駆使し、多摩ニュータウンや港北ニュータウンを記録したデビュー作、写真集「LANDSCAPES」を1996年に出版し、日本写真協会新人賞を受賞する。1992年に写真集「FIRST LIGHT」を出版、同年に写真展「ランドスケープ・移りゆく多摩ニュータウン」(たまヴァンサンかん)、「Japanese Blue」(ギャラリーMole)を開催。小林のりおの、大判カメラにリバーサルフィルムで撮影し、個人の感情や意図を極力排除して撮影された郊外の風景のシリーズは、都市の発展をとらえながら、環境を破壊する現代文明への警鐘として高く評価され、第18回木村伊兵衛写真賞を受賞する。デジタルカメラでいち早く撮影をはじめた写真家の一人で、CCDが35万画素しかなく、通信速度が不十分な1997年から、デジタル写真による作品をWeb上で発表を開始してい る。自宅のキッチンの目の前に広がる光景を撮影した「デジタル・キッチン」のシリーズは現在も継続中である。

木村伊兵衛写真賞小林のりお
小林のりお「FIRST LIGHT」より 東京都八王子市南大沢(1991)

豊原康久
第19回(1993年度)

1957年、神奈川県鎌倉市生まれ。1980年に日本大学法学部卒業。1986年に東京写真専門学校(現・専門学校東京ビジュアルアーツ)を卒業後、森山大道、深瀬昌久両氏に師事。1987年に個展「WOMAN」(ギャラリーさくら組)、1988年に「Situation」(ギャラリー・プレイスM)、1990年に「ストリート・ヴィーナス 1985~1989」(新宿ミノルタフォトスペース)、1991年に「Street Relation」(新宿オリンパスギャラリー)、1993年に「Street Moments」(渋谷ドイフォトプラザ)を開催。1993年に出版した写真集『Street』(モール)で第19回木村伊兵衛写真賞受賞する。1991年から10年間かけて撮影した湘南や鎌倉の風景をまとめた写真集「VANISHINGLIGHT」(ワイズ出版)を2003年に出版。ふと緊張が抜けたような、独特の瞬間をとらえるストリートフォトの名手である。

木村伊兵衛写真賞豊原康久
豊原康久「Street」より 新宿区新宿(1986)

今森光彦
第20回(1994年度)

1954年滋賀県大津市生まれ。近畿大学土木工学科卒業。大学を出てから昆虫写真専門の 写真家を志し、コマーシャルフォトスタジオに2年間勤務して写真技術を学ぶ。1980年よ りフリーの写真家として活動を始める。1974年にボルネオ、カリマンタン島を訪れて以来、東南アジア、中南米、アフリカ、ヨーロッパ、アメリカ、オーストラリアなど地球上の辺境を精力的に踏破し撮影。1984年に大津市中心部から20km程北にある棚田や自然が残る仰木地区に活動場所を移し、以降、この里山をフィールドワークの中心地として撮影を続ける。1976年から琵琶湖周辺で撮影してきた写真1700点を収めた写真集『今森光彦・昆虫記』(福音館書店)を1988年に出版。身近な里山に目を向けた点が国内外通じて高く評価され、1989年に第6回アニマ賞受賞。1994年に『今森光彦・世界昆虫記』(福音館書店)を出版し、約20年間に渡り世界の昆虫を撮影し、昆虫だけでなく昆虫をとりまく人々、自然環境も深く追求している点が評価され第20回木村伊兵衛写真賞受賞。2000年以降、NHKスペシャルの里山関係の作品の制作に参加するなど、テレビの動物番組の制作にも多く関わっている。また、近年は自作の昆虫の切り絵の本も数多く出版している。

木村伊兵衛写真賞今森光彦
今森光彦「世界昆虫記」より 威嚇の姿勢をとるツムギアリ マレーシア

瀬戸正人
第21回(1995年度)

1953年タイ国ウドーンタニ市生まれ。1961年福島県に移住。1975年に東京写真専門学校 (現、東京ビジュアル・アーツ)卒業後、1976年に森山大道・写真塾に参加。1978年から岡田正洋写真事務所に勤務し、そこで深瀬昌久に出会い助手となる。フリーとなり瀬戸正人写真事務所を1981年に開設。1987年に山内道雄とともにギャラリー「PLACE M」を開設し、断続的に作品を発表していく。1990年、写真集「バンコク、ハノイ 1982-1987」で日本写真協会新人賞受賞。「Living Room, Tokyo 1989-1994」(1995年/東京都写真美術館)、「Silent mode」(1995年/川崎市市民ミュージアム)の展示で第21回木村伊兵衛写真賞受賞。自身と他者との関わりを独自の切り口で撮影した作品が評価される。1999年に自身の半生を綴った 『トオイと正人』(朝日新聞社刊)で第12回新潮学芸賞を受賞。2000年からはじめた写真ワークショップ「夜の写真学校」は、作品好評を中心にギャラリーでの個展を目標としたスクールで、十周年を迎えている。

木村伊兵衛写真賞瀬戸正人サイレント
瀬戸正人「Silent Mode」(1994-1995)

畠山直哉
第22回(1996年度)

1958年岩手県陸前高田市生まれ。自宅の近くに石灰を採る山や工場があり、高校時代から採掘現場や工場を描いていた。1984年、筑波大学大学院芸術研究科修士課程修了。実験的な写真で知られる大辻清司の影響で写真をはじめる。故郷岩手だけでなく日本各地の石灰採掘現場や、石灰工場、採掘時に山を切り崩すために爆発を起こす瞬間などを撮影し続けており、近年「工場萌え」に代表されるように工場の写真や見学ツアーが人気だが、それ以前の25年近く前から石灰採掘現場や石灰工場を撮影している写真家である。1996年に出版した写真集『LIME WORKS』(シナジー幾何学)と、同年に開催した写真展『都市のマケット』(ギャラリーNWハウス)で、木村伊兵衛写真賞受賞。2010年には、自身の作品について語った著書「話す写真 見えないものに向かって」(小学館)を発表している。

木村伊兵衛写真賞畠山直哉2
畠山直哉「LIME WORKS」より(1991-1994)


【関連リンク】

・木村伊兵衛写真賞、歴代受賞作を一挙公開!第1期として石内都、藤原新也、岩合光昭などの作品を展示
http://www.webdice.jp/dice/detail/2473/

・武田花、三好和義、星野道夫などの作品を展示―木村伊兵衛写真賞全受賞作公開、第2期!
http://www.webdice.jp/dice/detail/2531/


木村伊兵衛写真賞 35周年記念展【第3期】
10月9日(土)~2011年1月16日(日)川崎市市民ミュージアム

会場:川崎市市民ミュージアム[地図を表示]2階アートギャラリー
料金:無料
時間:9:30~17:00(入館は16:30まで)
休館日:毎週月曜(祝日の場合は開館)、祝日の翌日(土日の場合開館)

企画展【木村伊兵衛写真賞35周年展】(最新受賞作品と木村伊兵衛作品を展示)
2010年11月13日(土)~2011年1月10日(月・祝)
場所:川崎市市民ミュージアム 企画展示室1、料金:一般600円 学生400円

受賞者:中野正貴(2004年度)、鷹野隆大(2005年度)、本城直季(2006年度)、梅 佳代(2006年度)、岡田 敦(2007年度)、志賀理江子(2007年度)、浅田政志(2008年度)、高木こずえ(2009年度)
同時展示:木村伊兵衛作品

第4期【第23回~第29回受賞者】 2011年1月22日(土)~4月10日(日)
場所:川崎市市民ミュージアム 2階アートギャラリー 入場無料

受賞者:都築響一(1997年度)、ホンマタカシ(1998年度)、鈴木理策(1999年度)、長島有里枝(2000年度)、蜷川実花(2000年度)、HIROMIX(2000年度)、松江泰治(2001年度)、川内倫子(2001年度)、佐内正史(2002年度)、オノデラユキ(2002年度)、澤田知子(2003年度)



川崎市市民ミュージアム公式サイト


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