骰子の眼

stage

東京都 豊島区

2010-10-25 19:45


「エキゾチシズムではなく、あくまで今の中国を描く」『The Blue Dragon-ブルードラゴン』のサウンド・コンセプターが語るロベール・ルパージュの非凡さ
2008年初演より(写真はルパージュ。今回の公演ではアンリ・シャッセが演じる)(C)Louise Leblanc

エンタテインメント性とアーティスティックな側面を融合させた独創的な世界で、世界的な人気を獲得している演出家、ロベール・ルパージュ。彼の2006年に世田谷パブリックシアターで上演された『アンデルセン・プロジェクト』以来4年ぶりとなる来日公演『The Blue Dragon-ブルードラゴン』が、2010年11月11日(木)から14日(日)まで東京芸術劇場で開催となる。 異なる文化を横断し五感に訴えるルパージュの作品のなかでも重要な要素を果たす音楽を担当するのが、サウンド・コンセプターであるジャン=セバスチャン・コーテ。フランス語、英語、そして中国語の3か国語が駆使される『The Blue Dragon-ブルードラゴン』におけるサウンドへのこだわり、そしてロベール・ルパージュの独自の演出法について語ってもらった。

ルパージュは日本の芸術にあるような“静寂”の持つ力もわかっている

「演出家ロベール・ルパージュというと、人はどうしてもビジュアル表現中心ととらえがちだけど、音楽の使い方、サウンドの効果的な入れ方にも繊細に心を配っているんだ。だから彼との仕事は、本当に楽しいし、やり甲斐があるよ」

こう語るのは、『The Blue Dragon-ブルードラゴン』のサウンド・コンセプターのジャン=セバスチャン・コーテ。音響のことなら何でも知っていそうな、いかにもな雰囲気が印象的だ。

「中国を舞台にはしているけれど、そこだけに焦点を当てるとエキゾチシズム重視というか、時代にもそぐわないものになってしまう。本作で描いているのはあくまでも現代の中国・上海でめぐりあった3人、そして彼ら各々が抱えている問題、そこから見えてくる中国の“今”なんだからね。舞台装置も主人公の家がスケルトンの階段でつながっている2階、つまり2層構造がパッと見えたり、そこをいろんな照明や陰影で変化をつけているように、音に関しても強烈に耳に残るというよりも、もしかしたら無意識のうちに観客の中に入っていけるような、むしろニュートラルなものを目指した、と言えるかもしれない。上海空港の雑踏の音などは本当にリアルなものだと思うし。いや空港なんてどこでも同じと考える人も多いだろうけど、ちゃんとその場所によって個性はあるからね(笑)」

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(C)Louise Leblanc

一方、リアルな問題が浮かび上がるドラマ部分を、京劇も学んだタイ・ウェイ・フォーがシャオ・リンという役柄を離れて踊りでつなぐシークエンスは、やはり音のきかせ方と共に、この作品の見どころの一つと言えるだろう。

「あそこはロベールの映像の使い方の非凡さが際立つシーンでもあるし、京劇風の長い衣装の袖を振ると、そこから雪か花びらのような映像が空間にパッと散るという。実はタイ・ウェイ・フォーの動きと映像、そして音楽の三つのタイミングを合わせるのはそれほど簡単じゃないんだけど、観客にはごく自然に見えなければならないから、そこは何度も試行錯誤したよ」

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2008年初演より(写真はルパージュ。今回の公演ではアンリ・シャッセが演じる)(C)Louise Leblanc

ジャン=セバスチャンに取材をさせてもらった6月中旬は、ロベール・ルパージュがエクサンプロヴァンス音楽祭で発表する、ストラヴィンスキー作曲のオペラ『うぐいす』の稽古の真最中だった。ちなみに指揮は大野和士。

「そうなんだよ。ロベールはオペラも演出するぐらいだから、舞台芸術における音楽、音の重要さを知り抜いている。と同時に、“間”というのかな。のべつまくなしに音を出すのではなく、日本の芸術にもよくあるような“静寂”の持つ力もわかっていて、そこは僕自身、彼とは仕事をしていて強く感じ入った部分だ。一つの楽器の使い方にしても、時にはコミカルな音色のために用いたり、また時にはリリカルさを盛り上げたり、一つの作品の中で多様性を打ち出せるのもエキサイティングだし、真の意味でのコラボレーションという感じがする。日本の観客の反応が今から楽しみなのは、そうしたセンシティブなところまで気づいてもらえそうな気がするからなんだ。もちろん我々カナダ人の自虐的なジョークとかもどう受け取られるか、個人的には興味津々だけどね(笑)」

(取材・文:佐藤友紀)

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■ジャン=セバスチャン・コーテ プロフィール

モントリオールを拠点にミュージシャン/サウンド・デザイナーとして活動。1999年以来、『月の向こう側』『アンデルセン・プロジェクト』『女形(Eonnagata)』などロベール・ルパージュと数多くの作品でコラボレーションを行う。舞台での活動とともに、映画音楽なども手がけている。




ロベール・ルパージュ『The Blue Dragon-ブルードラゴン』
2010年11月11日(木)~14日(日)東京芸術劇場中ホール

料金:S席6,500円 A席4,500円 ※65歳以上の方はS席半額、25歳以下の方はA席半額割引あり。

ロベール・ルパージュ『The Blue Dragon-ブルードラゴン』※3カ国語上演・日本語字幕付き

作:マリー・ミショー/ロベール・ルパージュ
演出:ロベール・ルパージュ
出演:マリー・ミショー、アンリ・シャッセ、タイ・ウェイ・フォー
製作:エクス・マキナ
※詳細は特設サイト


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