骰子の眼

cinema

東京都 渋谷区

2010-12-24 20:43


リアル!未公開映画祭上映『ビーイング・ボーン~驚異のアメリカ出産ビジネス~』は新生児死亡率が先進国で2番目に高い国・アメリカの医療の現場を告発する

河瀨直美氏、堀口貞夫氏によるレビュー。いよいよ明日12/25(土)よりアメリカの裏側を暴くドキュメンタリー全9作品が公開
リアル!未公開映画祭上映『ビーイング・ボーン~驚異のアメリカ出産ビジネス~』は新生児死亡率が先進国で2番目に高い国・アメリカの医療の現場を告発する
(c)2007, Ample Productions & Barranca Productions

TOKYO MXで放映中の人気番組『松嶋×町山 未公開映画を観るTV』で紹介された、政治、宗教、人種、教育、ビジネスなどなど、様々な題材を扱った日本未公開の海外ドキュメンタリーの中から厳選した9本を映画館で公開する『リアル!未公開映画祭』が12月25日(土)渋谷アップリンク・ファクトリーよりロードショー公開される。その中の1本で、12月26日(日)から上映の『ビーイング・ボーン~驚異のアメリカ出産ビジネス~』は、近年問題が取り沙汰されているアメリカの出産医療事情を追いかけたドキュメンタリーだ。国民健康保険制度のない米国で巨大化する出産ビジネスの現状を数多くの事例とともに検証している。会場となる渋谷アップリンク・ファクトリーでは、2011年1月10日に妊娠、出産など様々な問題に取り組み、産婦人科医の堀口貞夫氏によるトーク付きの上映も行われる。




作品情報
『ビーイング・ボーン~驚異のアメリカ出産ビジネス~』

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(c)BELIEVE MEDIA / URBAN LANDSCAPES PRODUCTIONS 2008 ALL RIGHTS RESERVED
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アメリカの病院や医療保険のビジネス化によるゆがんだ医療の現状を追う。いかにアメリカの医師が金儲けのために不必要な帝王切開や促進剤を使っているかなど、隠された事実に迫り問題を提起する。

2008年/アメリカ/87分
監督:Abby Epstein
製作スタッフ:Abby Epstein、Paulo Netto、Amy Slotnick





家族とともに女性の助産師さんの見守りによって分娩できる喜びを知ってほしい

── 河瀨直美

『ビーイング・ボーン』は帝王切開と通常分娩の両方を体験した作者の女性が、とても少ないスタッフとハンディカメラで撮影した作品なのだろう。医者のリスク回避のために妊婦さんの想いとは裏腹に、医療介入がなされてゆく様をリアルに描いている。怖いのは、女性たちがお産とは普通ではちゃんとできないものだから、医者の手を借りてしないと怖いと思っていることだ。女性には「産む」力が備わっていて、きちんと体を動かして不摂生をせず生活をしていれば自然に分娩できるものなのに、医者は言葉で妊婦を不安におとしいれ、精神的難産を引き起こす。もし、女性たちがお産をとても素晴らしいものだと認識していれば、その気持ちが新しい命を育む使命感とあいまって、最強のものになるだろうに。同じお産という体験を通して、その記憶は「最高」にも「最低」にもなるのだ。こう書くと、もしかしたら大多数の日本人女性もまた、お産は苦しくて痛いものと認識しているが故に、この映画を見る気持ちにはならないのではないかと懸念する。全米では三人に一人が帝王切開で子供を産み、日本の都市部では四人に一人がそうであるというデータからみても、戦後の日本は「命が誕生する」というとてつもなく根源的な部分で、アメリカナイズされてしまっている現実がある。もしも、わたしが20代で妊娠して、お産をしなければならない状況だったなら、周りの友人がしているのと同じ方法であたりまえに近くの病院に行って、少なくとも会陰切開という医療の介入を受け入れていただろう。そして分娩台という冷たくて固いあの椅子に座って恥ずかしげな恰好で医者である男の先生に見つめられながらお産をしていたに違いない。けれど、わたしは知ったのだ。家族とともに畳の上で女性の助産師さんの見守りによって分娩できる喜びを。だから、この映画を多くの日本人に見てほしい。そしてそれを知ってほしい。「命の誕生の瞬間」をそれから選択しても、いいのではないかと思うから。

(『松嶋×町山 未公開映画祭』ホームページより)

■河瀨直美 プロフィール

奈良県奈良市生まれの映画作家。『萌の朱雀』(1997年)で劇場映画デビュー。『殯の森』で2007年カンヌ映画祭審査員特別大賞グランプリを受賞。最新作ドキュメンタリー『玄牝(げんぴん)』が全国順次公開中。

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(c)BELIEVE MEDIA / URBAN LANDSCAPES PRODUCTIONS 2008 ALL RIGHTS RESERVED



アメリカでの助産師による分娩の変遷を考える

── 堀口貞夫

助産師の手でお産を介助してもらおうという「変わり者」がニューヨークに現れたという様子で、映画は始まる。そして1900年には95%が自宅分娩だったが1935年には自宅分娩は50%、1955年には1%と変化し以後その状態は変らないと言う(日本の自宅分娩は1950年95.4%、 1960年49.9%、1970年1.2%)。

1900年代に東部の病院の医師たちがお産に関わるようになり、高齢の助産師の写真を使い或は無知で迷信的な南部の助産師とか、無知で不潔なイタリア敬の助産師と宣伝し病院での分娩を奨めた。此の時助産師たちは病院には入らなかった。そして50年くらいの間に助産師はほとんど居なくなった。

1920年代にはスコポラミンを用いた半麻酔が広く使われたが自分を失ったり騒いだり暴れたりで拘束衣が使われたりしていた。やがてピトシン(オキシトシン=子宮収縮剤)が様々な理由による陣痛促進のために使われるようになり、そのための痛みの増強に対しては硬膜外麻酔が使われるようになる。

1960年代後半からアメリカを中心にして起こった自然への回帰、愛・平和・芸術・自由を希求する運動とともに出産についても自然出産を望む動きが生まれて来た。女性解放運動や人種差別反対運動など権利主張の運動の中で患者の権利として疾病について,治療法について,治療法の副作用について十分な情報を得た上で、患者が治療法を選択するインフォームド・コンセント重要と考えられるようになった。しかし、分娩の場に於いては、妊婦の希望を聞くのは建前であって産婦にとっては選択の余地はないことが多かったようである。

1970年頃より分娩監視装置が用いられるようになり、胎児心拍数の連続記録が出来るようになったが、分娩時間の遷延や胎児心拍曲線の異常などがある場合には帝王切開行うために帝王切開の頻度が4%から30%を超えるものとなって来た。そして帝王切開の行われた時刻を見ると、16時と22時の二つのピークがあり、ここにも医療側の気持ちが働いているのが判るという。

イギリス、フランス、ドイツ、スカンジナビア、オーストリア、イタリア、スペイン、オランダ、オーストラリア、ニュージーランド、日本などの国々は、みな助産師が分娩を介助し、妊産婦死亡や新生児死亡の面でいい成績を上げていると元WHOの婦人科・児童保険局長だったマースデン・ワグナーは主張し、ミシェル・オダンも女性の持っている力を引き出すのが助産師だと言う。そして子どもを自然の力で産んだ女性たちは「出産の過程を記憶に刻むことが大切だ」「子どもを産むことで人生の何かが変わった」と言う。日本でも助産師の手助けを受けながらお産をした年間一万数千人の女性たちはその経験の素晴らしさを語るし、親子関係や家族の絆を作るのに資することは確かであり、医療介入がリスク生む可能性も大きいことも知っている。

しかし次のような現実もある。妊産婦と周産期の死亡は1950年755分娩に一人と31分娩に一人、1960年は851分娩に一人と24分娩に一人、 1970年は1,919分娩に一人と47分娩に一人であったが、2000年になると15,263分娩に一人と173分娩に一人となっている。一方、生殖年齢(15歳~49歳)女性の死亡は1700人に一人である。

また私が愛育病院のある一年間1,344件の分娩を後方視的に調べた所妊娠中から分娩終了まで何のリスクもなかったのは64.4%であった。これは助産師だけで十分に手助けできたものと考えられる。年間分娩数110万件のうち70万8000件が助産師のケアで生まれるのが安全といえるものという事が出来る。此の数のお産を助産師のケアで行うには2万~2万8000人のフル勤務の助産師が必要である。2004年の登録されている助産師数は2万5000余人である。

このようなことを考えさせられる映画である。

(『松嶋×町山 未公開映画祭』ホームページより)

■堀口貞夫 プロフィール

1933年生まれ。産婦人科医。主な著書に「産科と酸塩基平衡」(真興交易出版部)「10代からのセイファーセックス入門-子も親もこれだけは知っておこう-」(緑風出版)「あなただからだいじょうぶ」(赤ちゃんとママ社)「夫婦で読むセックスの本」(NHK出版、生活人新書)などがある。




★リアル!未公開映画祭イベント情報
開催にあわせて、渋谷アップリンクにてスペシャルイベントを開催!毎回、多彩なゲストをお迎えします。

『ジーザス・キャンプ』
2010年12月25日(土)13:30の回
ゲスト:辛酸なめ子さん(漫画家・コラムニスト)×島田裕巳さん(宗教学者)
予約・イベント詳細はこちら
『ビン・ラディンを探せ!』
2010年12月25日(土)18:30の回
ゲスト:松江哲明さん(ドキュメンタリー監督)×岩田和明さん(映画秘宝)
予約・イベント詳細はこちら
『ステロイド合衆国』
2010年12月26日(日)13:30の回
ゲスト:板垣恵介さん(漫画家)
予約・イベント詳細はこちら
『フロウ』
2010年12月26日(日)18:30の回
ゲスト:吉村和就さん(グローバルウォータ・ジャパン代表、国連環境技術顧問)
予約・イベント詳細はこちら
『カシム・ザ・ドリーム』
ゲスト:下村靖樹さん(フリージャーナリスト)
2011年1月8日(土)20:30の回
予約・イベント詳細はこちら
『金正日花/キムジョンギリア』
ゲスト:土井香苗さん(国際NGO ヒューマン・ライツ・ウォッチ 日本代表)
2011年1月8日(土)13:30の回
予約・イベント詳細はこちら
『ジャンデック』
ゲスト:佐々木敦さん(批評家)×湯浅学さん(評論家)
2011年1月9日(日)20:30の回
予約・イベント詳細はこちら
『クルード』
ゲスト:藤岡亜美さん(スローウォーターカフェ有限会社代表 / 環境NGOナマケモノ倶楽部共同代表)
2011年1月9日(日)13:30の回
予約・イベント詳細はこちら
『ビーイング・ボーン』
ゲスト:堀口貞夫さん(産婦人科医)
2011年1月10日(月・祝)13:30の回
予約・イベント詳細はこちら




『リアル!未公開映画祭』
2010年12月25日(土)より渋谷アップリンク・ファクトリーほか全国順次公開

TOKYO MXで絶賛放映中の人気番組『松嶋×町山 未公開映画を観るTV』で紹介された、政治、宗教、人種、教育、ビジネスなどなど、様々な題材を扱った日本未公開の海外ドキュメンタリーの中から厳選した9本を劇場で公開!
『リアル!未公開映画祭』公式サイト

『ビーイング・ボーン』上映日時:
12/26(日)10:45、12/28(火)12:30、12/29(水)10:45、1/4(火)14:30、1/5(水)10:45、1/7(金)14:30、1/10(祝・月)13:30

★『ビーイング・ボーン~驚異のアメリカ出産ビジネス~』イベント情報
日時:2011年1月10日(月・祝)13:30の回『ビーイング・ボーン』
場所:渋谷アップリンク・ファクトリー
ゲスト:堀口貞夫さん(産婦人科医)
予約・イベント詳細はこちら

★追加上映が決定!
『カシム・ザ・ドリーム』1/15(土)1/19(水)各日13:00~
『ステロイド合衆国』1/18(火)13:00~ 1/20(木)11:15~
『ジーザス・キャンプ』1/16(日)1/19(水)各日11:15~
『ビン・ラディンを探せ!』1/15(土)1/18(火)各日11:15~
『金日正花』1/16(日)1/20(木)各日13:00~
『クルード』1/12(水)11:15~
『ジャンデック』1/12(水)13:00~
『フロウ』1/13(木)11:15~
『ビーイング・ボーン』1/13(木)13:00~
場所:渋谷アップリンク・ファクトリー

▼『リアル!未公開映画祭』予告編





松嶋×町山『未公開映画祭』
1作品ワンコインで72時間、VOD配信中!

『ビーイング・ボーン』もVODにて配信中。『未公開映画祭』は、1作品ワンコイン500円で購入することができ、全39作品フリーパス(10,000円)や、5作品選べるコース(2,000円)も用意されている。
松嶋×町山『未公開映画祭』公式サイト

『ビーイング・ボーン』VOD配信購入はこちら
一括購入ページはこちら




書籍
『松嶋×町山 未公開映画を観る本』

過激でアブない危未公開映画を大公開!
TOKYO MXでオンエア中(金曜23:30~24:30)の「松嶋×町山 未公開映画を観るTV」がついに単行本化!NO.1映画評論家にして人気コラムニストの町山智浩とお笑い界の"迷言女王"ことオセロの松嶋尚美が過激でアブない未公開映画をおもしろまじめなトークで大公開!! 町山氏セレクトによる未公開のドキュメンタリー映画を松嶋さんとの軽妙なトークで浮き彫りに。さらに、映画から見えるとんでもない"世界の現実"を説き明かす! 町山氏の書き下ろし解説&ふたりの特別対談付き。
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