骰子の眼

cinema

東京都 渋谷区

2010-12-29 20:27


「メロトロンはチェンバリンのアイデアを盗んで生まれた」多くの心酔者を持つ楽器誕生の秘密に迫る『メロトロン・レジェンド』監督インタビュー

ブライアン・ウィルソン、リック・ニールセン、マシュー・スイート、アル・クーパーらが日陰の運命を辿った楽器を語るドキュメンタリー
「メロトロンはチェンバリンのアイデアを盗んで生まれた」多くの心酔者を持つ楽器誕生の秘密に迫る『メロトロン・レジェンド』監督インタビュー
映画『メロトロン・レジェンド』のディアナ・ディルワース監督

1950年代の登場以来、楽器音や効果音を再生可能な言わばサンプリングの元祖と言える機能とノスタルジックな音色で、60~70年代のロックやポップミュージックの現場で愛された楽器・メロトロン。ビートルズやムーディー・ブルース、とりわけキング・クリムゾンをはじめとしたプログレッシブ・ロックの世界に多大なる貢献を果たしたこの楽器の誕生から現在に至るまでを、制作に携わった関係者や、ブライアン・ウィルソン、ジェシー・カーマイケル(マルーン5)、マシュー・スイート、アル・クーパーなど蒼々たるミュージシャンたちの証言から明らかにしていくのが『メロトロン・レジェンド~チェンバリンとメロトロンの数奇な物語~』だ。今作の日本でのDVDリリースに伴い、ディアナ・ディルワース監督が来日し、渋谷アップリンク・ファクトリーで開催されたリリース記念イベントの舞台挨拶に登壇。ジャーナリストとしても活躍する彼女に今作制作にまつわる話を聞いた。「日本にもメロトロンが好きなミュージシャンやリスナーは多いので、『メロトロン・レジェンド日本編』というのはどうですか」という質問には、「ぜひ作りたいですね」と笑顔で答えてくれた。

リック・ウェイクマンとロバート・フリップには取材を断られた

──『メロトロン・レジェンド』製作のきっかけは何だったのでしょうか?

23歳のときストックホルムに住んでいて、メロトロンを作っているマーカス・レッシュと一緒に働いていたんです。そこでメロトロンの歴史について多くのことを学びました。その数年後、私はニューヨークで映画を作っていたのですが、ふとメロトロンについてのショートフィルムを作ったらおもしろいんじゃないかと思いました。好きな音楽を聴くことはするけれども、その音楽自体についてはあまり知らないという人が大半ですから。それで関係者に会いに行ったり、インタビューを始めました。そうすると、歴史もおもしろいし、たくさんのバンドが関わっていることがわかったので、もう少し大きなプロジェクトにしてもよいのではないかと思い始めたのです。

──元々ポップミュージックが好きだったのですか?

音楽は大好きです。他にも音楽に関するドキュメンタリーを製作していますし、私が最も興味のあることでもあります。

──映画を制作する前にメロトロンについてどんなことを知っていましたか?

マーカスと働いていたので、メロトロンの構造のことはわかっていました。でも制作を続けていくなかで学んだのはその歴史についてです。メロトロンを製造する会社に関わる人たちのことや、メロトロンがいかに多くの音楽に使用されてきたかを知りました。

──撮影にあたり、どのようなリサーチをされましたか?

基本的に人に話を聞くということをしました。メロトロン・アーカイヴスで働く人たちと、チェンバリン家へのインタビューを軸にリサーチを始めました。彼らは、その歴史が始まったときから現在まで、誰がメロトロンを買ったり売ったりしているかを知っていますから。そんななかでも、例えば、チェンバリンの発明者であるハリー・チェンバリンに関しては、資料や写真が入っている箱がいくつかあるだけだったりといった難しさもありました。彼の家族とその箱をひとつひとつ精査して、整理していきました。

──制作期間はどのくらいだったのでしょう?

3年半です。編集に最も時間がかかりました。インタビューして編集して、という作業を繰り返しました。製作の途中で映画祭に呼ばれることもあったのですが、そこで映像を見た人たちが自分も出演したいと申し出てきて、彼らのインタビューを追加したりもしました。そうやってだんだん映画が大きくなっていったんです。

──映画の中ではアメリカのアーティストが多くフィーチャーされていますが、これには何か理由があるのでしょうか。また、イギリスのアーティストが少ない理由は?

実際には6人のイギリス人アーティストが登場しますよ。全体の25%です。当初はアメリカとイギリスのアーティストを50%ずつになるよう構成するつもりでしたが、連絡はしたのですが、インタビューに答えたくないという返答があったんです。人に会っていくうちに、スウェーデンやイタリアのミュージシャンも入れることになり、結局は、インタビューを受けてくれる人を収録する、ということになりました。

──誰に断られたんですか?

イエスのリック・ウェイクマンとキング・クリムゾンのロバート・フリップです。彼らはとてもよい人たちでしたが、メロトロンは自分にとって過去のものだから、という理由で断られてしまいました。何度もお願いしたんですけどね。出演してくれたジェネシスのトニー・バンクスは、「彼らは君の映画に出るべきだから、僕からも言っておくよ」と言ってくれて、実際電話もしてくれたんですが、それでもダメでした。

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映画『メロトロン・レジェンド』より、ブライアン・ウィルソン

メインストリームから外れたポップカルチャーに興味がある

──完成した映画に対しては、どんなリアクションがありましたか?

メロトロンのファンは楽しみにしてくれていて、反応は概ね前向きなものでした。メロトロンのことを知らなかった人たちからは、「こんな楽器があったなんて知らなかった」と言われました。そういった評価には満足しています。評論家の人たちからは、「なぜあのバンドが入っていないんだ」というような声もありましたが、何百というバンドがメロトロンを使っているわけですから、80分の映画に収まるように選択をするのはとても難しかった。時代を区切って、それぞれの時代に活躍したアーティストをピックアップし、さらにその中でインタビューに答えてくれるアーティストに絞りました。

──アウトテイクで『メロトロン・レジェンド』の続編が作れそうですね。

よく言われます!「パート2に出たい」という声もたくさんもらうんです。

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映画『メロトロン・レジェンド』より、ジョン・ブライオン

メロトロンの歴史には、多くのドラマが含まれている

──制作中もっとも困難だったことは?

権利関係ではとても苦労しました。メロトロンが使われている音楽は、ライセンスするのが難しいということで知られています。制作時、『アメリカン・ハードコア』の監督のポール・ラックマンに会いました。彼が題材にした音楽はパンクロックだったので、「デモテープの権利処理だったら簡単だよ」と言っていました。アーティストがメジャーのレーベルに移る前に映画を作ったというわけです。私もそうしたかったのですが、メロトロンを使用したアーティスト、例えばビートルズなんかはすべての権利をバンド自体が所有していますよね。権利をクリアしようとアップルに尋ねてはみたのですが、多くのレーベルはインディペンデントの映画に楽曲使用を許可したがりませんでした。許可してくれたところもありますが、その他は映画全体の予算を超えるようなとても高額な値段を提示されました。
許可を得た楽曲に関してはそれを使用し、許可を得られなかった楽曲は自分たちで演奏したり、新しく作曲しようということになりました。楽器を持っていましたからね。映像については、メロトロンのCMが劇中流れますが、あれはメロトロン・アーカイヴスが持っていたわけではなく、メロトロンとは関係のない、とあるイギリスの会社が権利を所有していたので、彼らからライセンスしました。チェンバリンのアーカイヴ映像は残っておらず、あったのは写真だけでしたね。チェンバリンやメロトロンを演奏している人のクリップはありましたが。
使用できなかったのは、権利をクリアできなかったものと、権利の所有者がわからなかったものです。所有者がわからないまま映像を使用してしまう人たちもいますが、私たちはそこは慎重でした。誰かを怒らせるのはいやですからね。

──この映画はメロトロンという楽器自体が主人公であると同時に、この楽器を作った技術者などその楽器に魅了された人々が鍵になっていると感じました。

メロトロンの歴史には、多くのドラマが含まれています。メロトロンはチェンバリンのアイデアを盗んで生まれたものだということとか、発明した人はオーケストラ向けに作ったのに、ミュージシャンはクレイジーでサイケデリックな音楽に使用したことなど、この楽器に関わった人たちの話は尽きません。

──これからも映画制作とジャーナリストとして執筆を続けていく予定ですか?

はい。私の映画制作のスタイルは、ノンフィクションとかストーリーテリングという側面で、ジャーナリズムに通じるところがあります。この二つには多くの共通点があるのです。劇映画のスタッフと仕事をすることは多くありますが、私自身はナラティブな映画は作りません。そういうところに私のジャーナリストとしてのメンタリティが反映されているのだと思います。

(インタビュー・文:駒井憲嗣 通訳・翻訳:平井純子)
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映画『メロトロン・レジェンド』より、マシュー・スウィートの所有するメロトロン



■ディアナ・ディルワース プロフィール

1978年、カリフォルニア州サンディエゴ生まれ。サンフランシスコ州立大学とスイスのヨーロピアン・メディア&コミュニケーションズ大学院で学ぶ。建築や音楽からテクノロジーまでをカバーするドキュメンタリー映画作家そしてジャーナリストとして活動する。これまで手がけた映画作品に、マイケル・ジャクソンの熱狂的なファンの実体を描いた『We are the Children』がある。




■リリース情報

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『メロトロン・レジェンド~チェンバリンとメロトロンの数奇な物語~』
発売中

ULD-575
3,990円(税込)
アップリンク

監督:ディアナ・ディルワース
音楽:ブライアン・キーヒュー(ムーグ・クックブック)、マティアス・オルソン(パインフォレスト・クランチ)
ブライアン・ウイルソン(ビーチ・ボーイズ)、マイク・ピンダー(ムーディー・ブルース)、イアン・マクドナルド(キング・クリムゾン)トニー・バンクス(ジェネシス)、パトリック・モラーツ(レフュジー、イエス、ムーディー・ブルース)、ロッド・アージェント(ゾンビーズ)、トニー・アイオミ(ブラック・サバス)、リック・ニールセン(ヒューズ、チープ・トリック)、マティアス・オルソン(アングラガルド、パインフォレストクランチ)、ミッチェル・フルーム(プロデューサー、ラテン・プレイボーイズ)、クラウディオ・シモネッティ(ゴブリン)、ジェシー・カーマイケル(マルーン5)、マシュー・スイート、アル・クーパー他
2009年/アメリカ/80分

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