骰子の眼

cinema

東京都 渋谷区

2011-01-19 13:10


「やっぱり届けたいという思いが強い人が残っていくんだろうなと思いますね」女優・渡辺真起子と『ロストガール』山岡大祐監督が語る“ゆっくり育ててきた映画”
映画『ロストガール』より

1月15日のDVD発売に併せて、渋谷アップリンクXで上映されている映画『ロストガール』公開に伴い、山岡大祐監督と主演の渡辺真起子氏がトークショーを行った。この日は2006年から撮影をスタートし、実に5年をかけてDVDリリースとなった今作について、主演女優という立場から、そして監督という立場から様々な感懐が語られた。

「自分の作品と一緒に生きていく」という意識は…(渡辺真起子)
出ましたね。5年も付き合ったので。(山岡大祐)

山岡大祐(以下、山岡):この映画は2006年の1月から2月にかけて撮影された映画で、2011年1月でちょうど5年になります。普通の映画ですと5年かけてDVDを出すというのは、あまり聞いたことがないですよね。渡辺さんがどうしてこの映画に出演して頂けたのか、きちんと聞けていなかったのですが。

渡辺真起子(以下、渡辺):山岡監督にお会いした当時はちょうど事務所を変えたばかりだったんです。主に独立プロ系の映画に出る事が多かったとはいえ、それまでは資金も自分たちで揃えるような、本当の意味での自主映画に出た事はなかったんです。私は映画学校へ行っていたわけではないし、俳優の学校に行っていたわけでもないので、そういう感覚に近いところで学び直したいと考えていた矢先に、山岡監督の飛び込みが来たんです。お会いした時の説明がとても丁寧でしたし、どうしても撮りたいという情熱を感じました。なかなかこういう出会いってないので、私に出来るのであればぜひやらせてもらいたいなというのと、こんな風な出会いだったらきっと一生ものになるなっていう気持ちがその時ありました。

山岡:それで5年経ってもこうやってお話させて頂いている。すごく良い出会いだったなと思いますね。

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渋谷アップリンクXで開催されたトークショーに出演した渡辺真起子氏(左)と山岡大祐監督(右)

山岡:僕が覚えているのは、映画の中で渡辺さんが縛られて猿轡をされるシーンの撮影の時に「これは必要なの?」って渡辺さんがおっしゃったんですね。「理由もなくこういうシーンを撮るのは、女性としてどうかなと思うんだけど」と。その時に僕はちゃんとした答えを持っていなかったので、答えられなかったんです。僕は単に面白いからそういうシーンを撮りたかっただけなので。そのシーンは最終日に撮影したんですけど、「山岡君あの話どうなってるの?」と。

渡辺:俳優というものは「やって」って言ったら全部やってくれるものなんだって思われたくないなというのがあって。俳優なんだから何でもやらなければ いけないというのは、すごく乱暴な話だと今でも思っているんです。それでも結局オファーを受けた時点で、脚本に書いてある事はやろうと覚悟はしてるんですね、絶対に。でもどこかで「これ、ちょっとどうなの?」というのを聞きたい、確かめたいというのがあって。それで仕事が減るかもしれないですけど、俳優というものを人間としてきちんと扱ってくれることがいい作品につながるんじゃないかなというのが私の考え方だったんです。

山岡:僕もそれは分かっていたのでできるだけ誠実に答えなきゃいけないなと思って。最終日まで答えられなかったんです。

渡辺:何でもいいわけ。「何か答えて」と。面白いからやって欲しいんだったら面白いようにやるし、何か必然性みたいなものがあって深いことをして欲しいならそれはそれで勉強になるし。半ば縛られながら「どっちなのよ!?」って。情けない絵面ですけど。そしたら、山岡君がぼそっと「面白いからです」って(笑)。

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映画『ロストガール』より

山岡:撮影中にはドイツの映画祭で公開することだけが決まっていて、その後の劇場公開が何も決まってなかったんですね。2006年に撮影して、2007年は資金不足で何も取りかかれず、2008年の初頭に完成して、そこから「じゃあ映画館どうしようか?」と。そんな全く何も決まっていない状態の時に渡辺さんと五反田でお会いして。その時渡辺さんは「もうこの映画は公開しないんだろうな」と思ってたと思うんですが。

渡辺:普通の商業的なサイクルとして、撮り終えてある程度の期間の間に上映をしてDVDを発売して回収して成り立っているんですけど、何もそこだけを目標にしなくてもいいんじゃないかというのが私の中にあって。きちんと出来上がったものであれば、いつか日の目をみるだろうと思っていました。彼が製作の部分も全部担っているわけで、彼のエネルギーによると思ったんです。彼がこれを観客に届けたいという思いが強いのであれば観て頂ける機会があるなと。諦めてしまえばそれまでで、お客さんに観てもらう機会がなくなっちゃうかもしれないですけど、これが思いのほか辛抱強く頑張ったなと。

山岡:劇場公開も自分たちで全部することにしたんですけど、全くノウハウがなかったのでどうしたらいいか分からなくて。完成した時に取りあえず劇場に持っていきまして。初公開は渋谷のユーロスペースだったんですけど、実はシネマアートン下北沢というところに最初に持って行ったんですね。そこで上映が決まったんですけど、決まった翌月にその映画館が急に閉館することになっちゃいまして、一番やりたい劇場に持っていこうと。それでユーロスペースに電話をして「観て下さい」と言ったんです。

渡辺:ちょうどその頃にユーロスペースの方とお話する機会があって、「『ロストガール』の監督から飛び込みで話が来た」と。「最近飛び込みで来る映画は少なくて、そのガッツを買いたいと思ったんだよね」と言っていました。他の監督や製 作の人を見ていても、映画館の方にお話を聞いても、やっぱり撮りあげたいんだ、届けたいんだという思いが強い人が残っていくんだろうなというのは思いますね。

(取材・文:五十嵐友子)

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映画『ロストガール』より




『ロストガール』
1月21日(金)まで連日20:50渋谷アップリンクXにて上映中!

脚本・監督:山岡大祐
出演:渡辺真起子、山本浩司、田辺愛美、石川謙、信川清順、文川未結、MAYUMI 他
楽曲提供:the pillows「空中レジスター」
2007年/日本/63分
詳細はコチラ




■リリース情報

DVD『ロストガール』

発売中
ULD-576
3,990円(税込)
アップリンク

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