骰子の眼

cinema

東京都 渋谷区

2011-08-07 06:45


[CINEMA]『ミラル』クロスレビュー「身近な希望の光が争いの時代をくぐり抜け未来のパレスチナを照らすことを映像の力で語る」

撮影監督エリック・ゴーティエの鮮やかな色彩とジュリアン・シュナーベルの凝った映像感覚が融合。
[CINEMA]『ミラル』クロスレビュー「身近な希望の光が争いの時代をくぐり抜け未来のパレスチナを照らすことを映像の力で語る」
『ミラル』より (C)PATHE - ER PRODUCTIONS - EAGLE PICTURES - INDIA TAKE ONE PRODUCTIONS with the participation of CANAL + and CINECINEMA A Jon KILIK Production

『潜水服は蝶の夢を見る』の左目の瞬きしか自由が効かないにもかかわらず女たらしなところは変わらない主人公のジャン=ドーをはじめとして、ジュリアン・シュナーベルの人物の描き方は、いつも極めて人間臭い。1948年イスラエル建国直前のエルサレムからスタートし、1993年のイスラエルとPLOのオスロ合意で終わりを迎えるこの作品は、もちろんパレスチナの激動の歴史を綴ったものではあるが、それを監督は、4人の女性の生き様に投影させている。物語の最初に登場し、盛大な葬式で見送られる最後まで凛とした表情を崩さない、身寄りのない子供たちを育てる学校を守り続けたヒンドゥを除いては、ナディアもファティーマも、そしてタイトルロールのミラルもまた、心に陰を持ち、言いようのなフラストレーションを抱えている女性として描かれている。その一筋縄ではいかない彼女たちの生き方は、和平に至らないパレスチナ問題の難しさをなぞらえたようでもある。

ミラル/サブ5
『ミラル』より (C)PATHE - ER PRODUCTIONS - EAGLE PICTURES - INDIA TAKE ONE PRODUCTIONS with the participation of CANAL + and CINECINEMA A Jon KILIK Production

なかでも、最後に登場するミラルは、もちろん原作を手がけ脚本も担当したジャーナリスト、ルーラ・ジブリール自身なのだが、映画のなかでは、父に愛されながらパレスチナ人の蜂起に加わる衝動を押さえられない未熟さを抱えた少女のままである。その闊達な正義感や吸収力、人への思いやりの態度には後の片鱗が見てとれるものの、彼女が世界を股にかけるジャーナリストとして活躍しようとするその直前、ヒンドゥから希望が託されたところでこの物語は終わる。複雑な要因が絡まったまま流れる歴史を捉えながら、あくまでその間でもがき続ける人間にフォーカスを絞ったところに、シュナーベル監督の意図があったことは間違いないだろう。

▼『ミラル』予告編





『ミラル』
8月6日(土)より渋谷・ユーロスペースほか全国順次公開!

監督:ジュリアン・シュナーベル『潜水服は蝶の夢を見る』
出演:フリーダ・ピント『スラムドッグ$ミリオネア』、ヒアム・アッバス『扉をたたく人』、ウィレム・デフォー『アンチクライスト』
2010年/仏・イスラエル・伊・インド/英語/112分/原題:MIRAL/35mm/カラー作品/1.85:1/ドルビーSRD
字幕翻訳:渡邉貴子
配給:ユーロスペース+ブロードメディア・スタジオ
協力:コミュニティシネマセンター
公式サイト


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