骰子の眼

cinema

東京都 渋谷区

2011-07-01 11:55


「私が来日したのは『セヴァンの地球のなおし方』を宣伝するため、そして今福島で何が起こっているのかを取材し世界に伝えるためです」
『セヴァンの地球のなおし方』のジャン=ポール・ジョー監督

現在公開中の『セヴァンの地球のなおし方』のジャン=ポール・ジョー監督が6月初旬より来日。原発事故の起こった福島、新宿アルタ前や小金井など各地で開催された脱原発デモ、そして上関原発予定地対岸の祝島までの撮影を行った。次回作のための準備を進めながら、世界から知られる存在となった福島をはじめとした原発と、その問題にあまりにも無関心な人々に対し、怒りをあらわにしていた。

カメラを持って福島に行くこと以外考えられなかった

──今回の来日ではフランス映画祭出席そして新作『セヴァンの地球のなおし方』の公開のためだけでなく、次回作のリサーチと撮影もされているそうですね。

まずひとつは、もちろん私の映画『セヴァンの地球のなおし方』のために来ました。この映画は新作であると同時に私のいちばんの子どもなんです。子どもをちゃんと身を持って生まれ落とすということを見届けるのがとても大切なことだと思って日本にきました。
そしてもうひとつは、いま日本で起こっていることのためです。福島でなにが起こっているか地球全体が知っています。2008年、フランス映画祭での『未来の食卓』の上映のためにはじめて日本に来ました。そこでなにをしたいか聞かれて、私は「広島に行きたい」と答えたのです。ですから、今回『セヴァンの地球のなおし方』のために来日していて、カメラを持って福島に行くこと以外、考えられませんでした。
先週行った祝島では、おばあちゃんたちにがこの「原発絶対反対」のはちまきをしていたんです。福島では、女性たちに、そして自分の土地を離れざるをえなくて涙を流している男の人たちに会いました。ひょっとすると彼らには今後、癌が見つかるかもしれないのです。それに比べれば、私の「原発絶対反対」のはちまきはなんてことない、やさしいものです。

──当初、次回作は遺伝子組換作物をテーマにする、とおっしゃられていましたが、そちらのテーマはどうするのですか?

僕が変えたわけではなく、福島に現れた怪物(原発)のために、変えざるをえなかったのです。ほんとうに福島に建てられたものはモンスターなんです。世界中のどこにもある原発がもし眼を覚ましたら、ひとつひとつのモンスターをもう人間には止めることができなくなるでしょう。地球上の人々にそのことを伝えなければいけないと思いました。
次回作の本当の目的は、いまある原発を止めることです。決して新しい原発を産み落とすことをしてはいけない、そういう思いでこのはちまきをしているのです。
既に遺伝子組換作物の記録は進めていて、いろんな人たちに話を聞いてますが、口をそろえて遺伝子組換作物と原子力の関係を話しています。なぜそのふたつが共通するか。医療分野においては遺伝子組換は必要かもしれないし、今日の我々の社会にとってそうしたテクノロジーは必要かもしれない。しかし、自然界で使用するというのは問題です。かつ、民間の平和的利用の原子力というけれど、実際は原子力の軍事的使用のためにほかならない。軍事的使用は死をもたらし、世界の破壊をもたらすものなのです。ですから有用な使用以外はすべて我々は拒否しなければいけない。原子力も遺伝子組換も人間がコントロールできないという意味でぜったいに止めなければなりません。

──日本人にとってフランスは一般的に農業大国で、おいしい果物をはじめいろんな作物があるというイメージでしたけれど、『未来の食卓』で、フランスの人も農薬や化学物質で苦しんでいることを知って、多くの人が驚きました。そして日本よりフランスのほうが原発大国です。もちろん福島が監督を日本に呼び出したと思うのですが、フランスの原発問題を取材しようともしているのですか。

もちろん行っています。原発の問題は人間がコントロールできないことです。チェルノブイリでもスリーマイルでも福島も、モンスターが怒り始めて止められないのです。福島で核爆発が起こることも排除してはいけません。
原発の問題は、いま止められないという問題と同時に、もし原発をいったん止めたとしてもその後の解決法について、まったく我々は解決法を持ちあわせていないことにあります。今回既にひとつだけフランスの原発を撮影しました。ただ、フランスには58基の原子炉、19基の原発があります。そのうちのたったひとつしか撮影できていないのです。このBrennilis原子力発電所はもっとも古い原発のひとつで、67年に作られて85年に既に停止しています。それにも関わらず、フランス人の我々は止めている原子炉をどう扱ってどう処理したらいいか、10,000トンの廃棄物に手をこまねいているんです。それをどうにもできないからといって、子どもや孫など次世代の人たちにプレゼントとして手渡すつもりなんでしょうか。それが私が掲げる問題です。

webdice_3VIDEO_TS
『セヴァンの地球のなおし方』より

──『未来の食卓』でバルジャック村はあんなきれいな街だと思っていたけれど、『セヴァンの地球のなおし方』で描かれるクリュアス原発は村から40キロくらいという近さにある。そんなことは前の映画ではぜんぜん想像していなかったので、驚きました。

フランスも日本と同じく、住宅地から非常に近いところに原発があるんです。ですから、このシーケンスはバルジャック村のふたつの家族に出演してもらったんです。出てくる赤い帽子の子は、『未来の食卓』に生まれてくる赤ちゃんなんです。まだ小さい彼女の未来を私たちはどのように準備しているのか、考えなければいけない。

遺伝子組換も原発も生きているものたちを破壊する同じもの

──5月11日に行われた新宿での脱原発デモで監督は、欧州エコロジー・緑の党のミシェル・リヴァジさんを撮影していましたが、彼女はヨーロッパでどのような影響力を持っているのですか。

彼女は欧州議会議員に所属し、25年前のチェルノブイリ原発事故の後にCRIIRADという放射能を独自で研究する放射能監視団体を作りました。私たちが撮影のために連れてきました。ヨーロッパでもフランスでも原子力の正統な意見を言える人です。デモの後、国会議員たちと民間のNGOの人たちとによるミーティングがあり、会場は満員でした。しかし政府代表の方々はまったく質問に答えず、答えをそらしました。ミシェルさんはヨウ素を子どもたちになぜ与えなかったのかという質問をしましたが、答えてくれませんでした。既に放射線で汚染させている地域の人たちをなぜ避難させないのですか、という質問にも答えませんでした。そうした現実を私たちは撮影してきたのです。

IMG_0172
新宿アルタ前の「6.11 脱原発100万人アクション」より、フランス緑の党・欧州議会議員のミシェル・リヴァジさん(左)

──自殺した有機農法でキャベツを作っていた農家の奥さんと息子さんを取材されたそうですが、監督にはどんなお話をされたんですか。

どうしようもない絶望感について話してくださいました。彼女は遺伝子組換も原発も生きているものたちを破壊する同じものだと、そう言ったんです。彼女は「夫は生きている間ずっと人間に与えてくれるものに感謝して農業をしていたと」言っていました。なぜ彼が自殺したか、もう彼の場所には生きているものたちに栄養を与えるものがなくなってしまったという絶望からきているのです。そのことに気がついてしまったんです。日本人は野菜も果物も魚も栄養にして生きていますが、野菜と果物が食べられなくなったら、魚を食べるんでしょうか。毎日太平洋にも放射線がもれているんですよ。それが人間の命を没収しているということなんです。人間に待っているのは、死でしかありません。

webdice_severnVIDEO_TS
『セヴァンの地球のなおし方』より

1,100回デモを続けることで、原発を阻止できる

──そうした絶望を感じる状況で、日本各地を取材して、監督が希望を感じたことはありましたか?

もちろんです。非常に怒りを呼び覚ますことは、遺伝子組換えも原発も私たちは必要としていないことです。ですから新宿での6月11日のデモは非常に大切なことでした。翌日の子どもたちがたくさん参加した小金井でのデモも撮影しました。こうしたことには勇気づけられます。私たちの地球を虐殺するのはやめてくださいと多くの人が叫んでいました。もう政治家は信用しない、私たちが本当にこの地球の運命を自分たちの手でなんとかしなくてはいけないという掛け声をかけていました。祝島でも、30年女性たちが原発に反対しています。彼女たちの30年に及ぶ反対運動のおかげで、いまだに祝島の前に上関原発が作られていないのです。人生は戦いの連続です。祝島のおばあさんたちは、そのとき1,100回目のデモを島内で行いました。1,100回デモを続けることで、原発を阻止できるのです。

──『未来の食卓』をフランスで上映したときには、大学の学食をオーガニックに変えようという学生からの運動が起きたり、オーガニックのお店が増えたり、オーガニックのムーブメントが起こりましたが、今回の『セヴァンの地球のなおし方』で公開されて、映画が社会に与えた影響を耳にしていますか?

『未来の食卓』に比べると議論は多かったです。映画のなかでセヴァンは92年に地球の危機的な状態についてスピーチしましたが、そのときまだ彼女は原発について語っていませんでした。でも彼女はいま「原発は次の世代への究極の犯罪だ」と言っています。観た方は、92年のセヴァンのスピーチと同時に、いま彼女が語る言葉に同じように心動かされていると思います。

ベアトリス(プロデューサー):去年の6月、年金問題についての大規模なデモが行われましたが、サルコジ大統領は「デモするならどうぞ、どちらにしても変わりませんから」という態度を示しました。そうした抑えつけがあったので、そのデモは結局なにも生み出さなかったのです。だからフランス人は無力感で腕をあげる気力もないということを感じていました。ただ、次期大統領にいまのサルコジを選ばないということははっきりしています。

今日だからこそ映画の役割というのは非常に大事だと思っています。蔓延する経済的独裁に対する非常に有効な武器であると思っています。経済的独占は死しか生み出しませんしそれだけでなく、生態系全ての死を意味しています。

──『セヴァンの地球のなおし方』に出てくる、ニコラ・ウロさんはみどりの党から次期大統領選に出馬すると聞いたのですが?

そのようです、もちろん僕はニコラさんを公式に支持します。立候補の際にはニコラ・ウロに一票を、と言うつもりです。選挙で私たちは彼を支持しますが、私たちは、基本的には非政治的な立場だということを付け加えさせてください。
今日フランス政府の関係者で原発支持派の人と昼食を食べたんですが、推進派という旗を挙げてはいるけれど、僕らの話を聞いて「君たちは正しい、がんばって続けてくれ」と彼らは言ってくれました。普通の人間だったら我々が置かれている立場は袋小路だということは解っているはず。看板として推進派を掲げなくてはいけない人たちも、心の底では僕らと同じ考えなんです。福島の12万人を避難させるということが起こりうるということは彼らも認識していました。

webdice_VIDEO_TSssss
『セヴァンの地球のなおし方』よりニコラ・ロウ

遺伝子組換作物と原発はいますぐに止めなくてはいけない問題

──『未来の食卓』の次回作にあたる『セヴァンの地球のなおし方』を最初見たときには、広島の原爆とバルジャック村近くの原発がオーガニックの話のなかに出てくることが正直ちょっと違和感があったんです。でもそれこそがいちばんの環境破壊なんだと監督が言っていたのを覚えています。

福岡で合鴨米を作っている古野(隆雄)さんも同じ感想を言ってくださいました。2ヶ月前、福島の事故の後彼から「あなたたちは正しかった」とメッセージをもらったんです。
広島の映像の後で、池田市のおばちゃんたちのシーンで、原発は人間だけでなく植物も動物もすべての生き物を殺すんだということをナレーションしています。大地というのは肥沃なものではるはずなのに、被曝することで生命を生み出せなくなる土壌になる。全ての生き物を破壊してしまうのです。

──共通するのは人間の技術ですよね。それを作り出した人、遺伝子組換であればモンサント、原発であればアレバといった技術を作っている人たちを取材する予定はありますか?

話したくないと拒否されています。遺伝子組換の場合は、バイオテクノロジーのある企業から「私たちのイメージを汚すものだ」と断られました。
質問があります。既に映画のための素材がありますが、配給会社として、次回作を遺伝子組換作物と原発についてひとつの作品としてまとめていいものだと思いますか?

──最初は僕は違うと思っていたんだけれど、人間が知恵をふりしぼって技術を作った、悪魔の発明をしたのは人間で、どこかでモラルを越えてしまったところも人間の仕事。そういうところで見れば、ふたつをひとつの問題として扱ったほうが同じ哲学的問題だと思います。科学とモラルという意味で。

この映画でもセヴァンやピエール・ラビは言っていますが、いまは我々は存続できるかという緊急事態にあります。その地点にいつ到達するかという事態で、時間が経てば経つほど取り返しがつかなくなってしまいます。人工授精など生物的倫理についてよりも早く、最初の戦いとして遺伝子組換作物と原発についてはいますぐに止めなくてはいけない問題ではないでしょうか。

(インタビュー:浅井隆 構成:駒井憲嗣 撮影:山川哲矢)



【関連記事】
611脱原発同時多発デモ、新宿アルタ前は解放区に!(2011-06-14)
フランス映画祭2011開幕、『セヴァンの地球のなおし方』ジャン=ポール・ジョー監督が原発反対の鉢巻きで登場(2011-06-24)




『セヴァンの地球のなおし方』
東京都写真美術館ホール渋谷アップリンクにて上映中、ほか全国順次公開

【イベント付き上映を開催】
2011年7月2日(土)東京都写真美術館
13:25の回上映終了後、15:30~
アースデイ東京主催 『地球について対話しよう~Earth Dialog(アース・ダイアログ)』
※こちらのイベントは、ご来場頂いたお客様自身がシンポジウムの参加者となります。
2011年7月3日(日)渋谷アップリンク・ファクトリー
16:00の回上映終了後、18:10~
トークゲスト:マエキタミヤコさん(サステナ代表)
2011年7月9日(土)渋谷アップリンク・ファクトリー
16:00の回上映終了後、18:10~
トークゲスト:枝廣淳子さん(環境ジャーナリスト)
2011年7月10日(日)東京都写真美術館
13:25の回上映終了後、15:30~
トークゲスト:金丸弘美さん(食総合ジャーナリスト)

監督:ジャン=ポール・ジョー(『未来の食卓』)
プロデューサー:ベアトリス・カミュラ・ジョー
出演:セヴァン・スズキ、ハイダグワイの人びと、古野隆雄、福井県池田町の人びと、バルジャック村の人びと、ポワトゥーシャラントの人びと、コルシカ島の人びと、オンディーヌ・エリオット、ニコラ・ウロ、ピエール・ラビ、他
2010年/フランス/115分/HD/16:9/カラー/ドルビー/英語、フランス語、日本語
公式HP
アップリンク・アースライフ・シリーズ公式twitter

▼『セヴァンの地球のなおし方』予告編



レビュー(0)


コメント(0)