骰子の眼

music

東京都 渋谷区

2011-07-19 22:25


「ガムランはメロディの塊の音楽、その響きを演奏する曲を作るために活動している」TAIKUH JIKANG川村亘平が語るガムランの魅力
TAIKUH JIKANGの川村亘平氏

UAや永積タカシ(ハナレグミ)、原田郁子(クラムボン)、YOSHIMI(BOREDOMS/OOIOO)など多くの名うてのミュージシャンとセッション重ねてきたガムラン奏者の川村亘平プロジェクトTAIKUH JIKANGがニューアルバム『滞空時間』をリリース。それにともない、7月23日(土)渋谷アップリンク・ファクトリーでライブ・パフォーマンスが行われる。

アルバムでは神奈川県大磯の浜辺東京都・善福寺公園他でフィールドレコーディングした音源に、 OLAibi、AYA(from OOIOO,OLAibi)、ガムラン奏者/濱元智行(SUARASAMA/OLAibi)、ヴァイオリン奏者/GO ARAI ヴォイス/さとうじゅんこ等ゲストアーティストを迎え、国籍不明、年代不明の「東京から発信する新たな民族音楽」とも言うべき作品を作り上げている。これまでのダンスと音楽がメインだったガムランのパフォーマンスに〈影絵〉という要素を加え、新しいガムランのカルチャーを表現しようと意欲を見せる川村氏に話を聞いた。

1つのアートの枠組みの、隣り合わせの隙間を見せたい。

──TAIKUH JIKANGはライブ・パフォーマンスからスタートしたんですよね。

はい。もともとリアントというジャワのダンサーと2人でライブをやってくれというオーダーがあり、TAIKUH JIKANGを作ったんです。初めはウィリアムさんとハマちゃんとGO君と僕の4人でした。それがおもしろかったので、もっと膨らましていこうとそれまで温めていたイメージを取り込んでいきました。アルバムを制作することになったのは、たまたま去年の秋に、ライブPAをやってくれている辻さんというガムランも演奏する人に「そろそろ作品を作っておかないと、亘平君はどんどん変っちゃうから、いま録っておいた方がいいよ」と言ってもらったからです。変化の途中の記録というか、メモ書きのようなイメージで録りました。以前から、もしTAIKUH JIKANGでアルバムを作るなら、個人的な作品にしたいと考えていました。ライブは外に向かっていますが、アルバムは自分がどこか南方の国を歩いていて、街からいろいろな音楽が聞こえてきては消え、というイメージで作りたいと思ったのです。それと、バリの人たちの作曲方法に近いものにしたいという思いもありました。彼らは作曲するというより、流れている音楽をヒョイと掴んで、その場で楽器を使って音にしてみて、曲が終わるのは演奏を止めたからその音達が空気の中に消えてしまった、というかんじなんです。

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──TAIKUH JIKANGというプロジェクトを立ち上げたことで、川村さんがバリで影響を受けたものを、ようやく実現化する場が出来たといえるのでしょうか。

そう思います。僕はバリの古典音楽も演りますが、その中では表現しきれないことがあって、創作するものと古典を追求するものの両方が自分の中で必要だと感じてTAIKUH JIKANGをつくりました。去年まではマリンロード、つまり海のシルクロードの音楽をガムランで表現していましたが、もともとバリの芸能は、踊りや影絵が音楽と一緒に演じられ、そうしなければ見えない・聴こえないものがあるのです。そのため今年に入ってから、影絵のパフォーマンスもライブの中に加えるようになり、やっとやりたいことがはっきりしてきました。バリ島のお祭りでは、拡声器からお坊さんのお経の朗読が流れる中、ガムランのバンドが3つくらい同時並行で全く違う音楽をやっているんです。単体の音楽だけ聴くのではないその音風景が、自分にはとても音楽的に聴こえました。言葉を聞いているつもりが音楽だった、音楽を聴いているつもりが踊りだったというような、どっちが正解かわからないところが一番大事なのではないかと思うのです。1つのアートの枠組みの、隣り合わせの隙間を見せたい。

──そこではエンターテインメントも意識しているのですか。

はい。バリの伝統芸能は、エンターテインメントではあるんだけれども、その中に哲学なり説教なりを入れるのです。人を笑わせておいて、ちょっと良いことを仕込んでおく。前面には出さず、おもしろかった中に少しだけ入れるバランスが、芸能をやる上で大事だと思います。民族音楽を演る人は技術至上主義になりがちなのですが、もしその芸能がリアルタイムで存在するのなら、いま僕らが暮らす地域での流行や他のものとインタラクティブに作り上げていくべきだと思っています。それが芸能が生きているということだと思うのです。

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TAIKUH JIKANGのライブ・パフォーマンス

全員が混じった、塊のような音にしたい。

──TAIKUH JIKANGでは個性的なアーティストが多数参加されていますが、そのなかで川村さんがコンダクター的な全体をコントロールする役割をされているのでしょうか。

そうですね。東洋の民俗音楽は太鼓が指揮をするポジションに立ちやすいのです。僕は皮ものの太鼓をやっていて、メロディが自由にいるとか空間を自由に使っているところの大きな枠組みは僕が指示を出しています。そしてそれぞれのパフォーマーの特性が出るように曲を作っています。

──全体での観せ方のバランスを考えてミュージシャンには声をかけているんですか。

そこはとても気をつかっています。あくまでもガムランを演っているということがブレないようにメンバーを呼んでいます。ソリストの技術がある人でなければだめなんですが、最終的に「アンサンブルを目指している人」に声をかけているつもりです。ソリストが集まると「どうだ、すごいだろう」で終わってしまうので、あえてそうしない人たちを呼んでいます。

──そうすると、ミュージシャンをどうやって見極めるのですか。

これは西洋音楽のベースにはない感覚かもしれませんが、隣の人が出している音と、自分が出してる音がなじんでしまって、どっちの音かわからなくなる音空間を僕は重要視しています。たとえばロックだと、ドラムとベースとギターとボーカルの全員の音が聞こえてくることが大事なわけです。そうではなく、全員の混じった、塊のような音にしたい。たとえば、音楽家が音楽で仕事をしていくという話になると、場合によってはプレーヤー自身の個性を見せる必要があるけれど、良い音楽を表現したい場合にはプレーヤーの個性は関係ない。バリの伝統芸能のいいところは、自分と他人の差異がなくなっていく感覚にあります。パフォーマーと観客の差異もなくなっていくし、昼も夜も、生きていることと死んでいることの差異もなくなっていく。その感覚は上手く説明できないのですが、僕が呼んでいるミュージシャンは、皆なんとなくそれがわかっています。

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TAIKUH JIKANGのライブ・パフォーマンス

曲を聴いて別のものを想像しやすいのかもしれない

──アルバム『滞空時間』は何度聴いても聴いた気がしないんです(笑)。空気のように空間と一体化していまっていて。

僕も作ってみてそう思いました。あれをかけていると車の音や鳥の声が、逆によく聞こえてきてしまって。トランペットなんかは音楽的に聴くけれど、ガムランの音自体が、たとえば扇風機がブーンて鳴っているのに色がついた程度の響きなのかもしれない。絵が浮かんでくるとか踊りが浮かんでくるとか、そういう感想が多くて、曲を聴いて別のものを想像しやすくなるのかもしれません。録音の専門的な話になりますが、ガムランの音はデジタル録音すると奥にいっていまうんですよ。なので、実はあのアルバムは、ウチの親父が昔使っていたオープンリールを最後に通しています。それでミッドを上げてるんですが、でもあのレベルなので、結構溶けてくるんですよね。

──フィールドレコーディングの素材もたくさん盛り込まれているんですか。

少なくともガムランに関しては、屋外演奏が想定されている楽器なので、室内で演奏したくありませんでした。後半の曲などは、あえて室内楽ぽく聞かせたかったので、室内で録ったものもあるのですが。環境音が入ってしまうことへの懸念もありましたが、ガムランの音の広がりを考えると屋外で録る必要がありました。

──最後に、当初は作る予定はなかったアルバムを作ってみて、気がついたことはありましたか?

僕はもともと、太鼓叩きとしてガムランを始めたんですが、ガムランはメロディの塊の音楽であって、その響きを演奏するための曲を作るのが自分は好きなんだと気づきました。だから今後はそういうパフォーマンスもやるかもしれません。今までライブでは観客と奏者の垣根を取っ払いたいという思いが強かったのですが。

(インタビュー・文:駒井憲嗣 取材協力:鎌田英嗣)



川村亘平 プロフィール

ガムラン奏者/イラストレーター。2003年よりインドネシア政府奨学金を得てインドネシア/バリ島に留学。帰国後、自身が主宰する「SUARA SANA」他、ソロユニットTAIKUH JIKANG、OLAibi、ウロツテノヤ子、朝崎郁恵等でガムランを駆使した新たな音楽のカタチを表現し続けている。日欧舞台芸術『マクベス』東京・ルーマニア・インド公演(2007年)、映画『百万円と苦虫女』音楽(2008年)『闘茶』音楽(2008年)、奄美日食音楽祭(2009年・朝崎郁恵)、FUJIROCK FES(2009年・SUARA SANA)等にも参加。
公式ブログ




TAIKUH JIKANG
2011年7月23日(土)19:00開場/19:30開演(木)
渋谷アップリンク・ファクトリー

19:00開場/19:30開演
料金:予約/当日¥2,500(+1ドリンク付)
ご予約はこちら

■リリース情報

ファーストアルバム『滞空時間』
発売中

NESIA RECORDS
1,800円(税込)
NESIA-001

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キーワード:

川村亘平 / TAIKUHJIKANG


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