骰子の眼

cinema

東京都 渋谷区

2011-07-27 23:30


「核の問題を遺伝子組換や農薬の使用と同様取り返しのつかないものであると伝えている」篠健司さんが語る『セヴァンの地球のなおし方』とパタゴニアの環境への取り組み

自然環境を守ろうとしている人達をサポートしてきた視点から、映画について、セヴァン・スズキについてそして日本におけるこれからの環境への意識について聞く
「核の問題を遺伝子組換や農薬の使用と同様取り返しのつかないものであると伝えている」篠健司さんが語る『セヴァンの地球のなおし方』とパタゴニアの環境への取り組み
『セヴァンの地球のなおし方』より

環境活動家セヴァン・スズキと、彼女と意識をともにする世界各国の人々の活動を追った現在公開中の『セヴァンの地球のなおし方』。この作品を日本で環境活動に尽力する人たちはどう観たのか。今回はアウトドア・メーカー、パタゴニアの環境担当篠健司さんに、セヴァン・スズキとの交流、そしていま現在パタゴニアが取り組んでいる地域の環境活動について語ってもらった。知識を深め意識を高めること、そして身近にできることから始めることを、『セヴァンの地球のなおし方』そして篠さんの言葉は伝えてくれる。

『私は私の未来のために戦っています』
というセヴァンの力強いメッセージ

──篠さんはセヴァン・スズキと個人的にも交流があったとの事ですね。

そうですね。セヴァンが日本に来日したのは2002年です。そのときは辻信一先生とナマケモノ倶楽部さんのコーディネートで、幸いにもその来日ツアーに協力して欲しいという事でお声をかけていただいて、協力したのが最初のきっかけです。
11月12日にカナダ大使館でこのツアーの記者会見を行ったんですが、そのときがセヴァンと会った最初ですね。このツアーで協賛させていただいたのと同時に、弊社の渋谷店で11月27日、彼女の声を直接届けるためにトークイベントにゲストで来てもらい、翌28日、鎌倉に弊社の事務所があるので、その近くの商工会議所のホールを借りて、セヴァンのトークイベントだけでなく、事前に応募いただいた子供達にワークショップで作った地球憲章を発表してもらい、それにセヴァンがコメントをしてもらったんです。子供達が発表したものを辻先生が翻訳してくれて、それにセヴァンがいろいろとコメントをする、そんな企画をしました。
ちょっと話をもどすと、私が勤務しているパタゴニアのキッズ・カタログの1994年版にセヴァン自身がエッセイを書いてくださっていて、そういう繋がりもありましたね。

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パタゴニアの篠さん

──1994年というと、リオのスピーチのすぐ後ですね。

そうですね。1992年にセヴァンがリオであのスピーチをして、その2年後なので14歳ぐらいです。その時のメッセージが「私は私の未来のために戦っています」というとても力強いものでした。まだ14歳でありながら自分の未来をどうしていくかという事に責任をもって行動していて、非常に感銘を受けました。
このメッセージをできるだけ広く、大人だけでなく子供達に伝えたいと思いました。そこで日本でもセヴァンのような子供が沢山育ってくれるようにと、前述したような子供達が参加できるイベントを企画したんです。
9年前、セヴァンが私の家に泊まりにきたとき、私の2人の子供が6歳と4歳だったんですが、未だに子供達の中にはセヴァンという存在が強烈に残っています。自宅がある鎌倉で一緒に海に行ったり、あとハイキングをしたり、一緒にご飯を食べたりして。小学校とか中学校の教科書ではセヴァンが紹介されますよね?子供達はそれをみてすごい喜んでいます。先日娘が高校に入ったんですが、高校の英語の教科書にまた載っていました。子供達にそういう強烈な印象を残してくれた彼女にすごい感謝をしています。先日『セヴァンの地球のなおし方』のパンフレットをいただいて娘に渡したら自分の机の上に常に置いてあるんです。彼女にとっては本当に憧れですね。

──子供たちがセヴァンとの出会いで得たものを信念にして成長していたら、意義のあることですよね。

そうですね。子供達がこれからどういう世界で自分で表現をしていくかっていうのはわからないんですけれども、自分が触れ合った身近な人が活躍して映画になって登場するというのは目標にもなるでしょうし、彼女のメッセージは子供たちにも伝わっていると思います。

──そのセヴァンの精神は何が基本にあるとお考えですか?

レイチェル・カーソンが子供のそばには誰かがいるべきだといっているように、やはりお父さんお母さん、一番近くにいた人の影響が一番大きいんじゃないかなと思います。

震災や原発の事故で揺れ動いている時期に
セヴァンが放つメッセージはいくべき道を示してくれる

──篠さんはこの映画をどうご覧になりましたか?

見る前はセヴァンがもうちょっと多く登場してくるものかと思っていました。しかしこの映画は、セヴァンのメッセージを中心にしながら、とくにフランスと日本を中心に、現在起こっている未来に向けた動きを表していますね。最初広島の原爆の映像が出た時には、ちょっと唐突だなという印象で、これがどういう風に繋がっていくのかと思って観ていました。
この映画は、実際には震災の前に撮られたっていうことですね。監督は、特に核廃棄物あるいは放射線や汚染を取り返しのつかないものであると伝えています。それは遺伝子組み換えや、農薬の使用も一緒で、見えないところでそういったものがどんどん広がっていく中で、それに対抗するひとつの動きとして、日本においての合鴨農法などを的確に捉えている。
『セヴァンの地球のなおし方』というように、今まで大人として「直し方が分からないものを壊すのを止めてください」といったことに対して実際に動いてきた事例を取り上げて、じゃあ私たちとしては何をどういう風にサポートしていけばいいのか?あるいはどこに目を向けていけばいいのか?っていうのを考えさせてくれる。

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『セヴァンの地球のなおし方』より

現在は、震災や原発の事故があり皆さんが揺れ動いている時期です。そんな中、お母さんになったセヴァンが放つメッセージというのは非常に彼女達、あるいはお父さんにも自分のいくべき道を示してくれる本当にいいタイミングなんじゃないかと思います。セヴァンがこれまで示してきたアマゾンのジャングルや、カナダのバンクーバー周辺の魚がいなくなるといった様々な自然破壊を、僕らの行動の結果として自覚していたかというと、そうではないからこそ、こういった事態が起きてしまっていると思うんです。選挙ひとつとってもそうですし、オーガニックの食品を選ぶのか、セヴァンの言う通り自分の行動の責任の遂行が必要だと思います。自分自身も見終わってもう一度セヴァンが言いたかった事、あるいは自分たちとしてこれから活動しなければならない事を再認識できました。

パタゴニアの水のストレスを知ってもらうための取り組み

──篠さんの環境担当というのは、具体的にはどういったお仕事をされているんでしょうか?

パタゴニアの環境プログラムは、基本的には売り上げの1%を使って自然環境の保護・回復に取り組む環境団体を支援するものです。もともとパタゴニアというのはアウトドアスポーツのための製品を作っていて、アウトドアスポーツをするためには健全な自然環境が必要です。私だけでなく他のスタッフもアウトドアスポーツのために自然にでかける機会が多いことも自然に対する意識が高い背景だと思います。
僕の仕事は、そうした自然環境を守ろうとしている人達をサポートする部門です。同時に、パタゴニアの事業活動を通じて排出される環境へのインパクト(フットプリント)を減らすための取り組みや、あるいは社員が環境への取り組みを進めるためのプログラムを作ったり、そういったものを奨励したり、社内で環境に関する勉強会や、ゲストを呼んだトークイベントのプログラムを作る上でのディレクションということもしています。
今年、取り組んでいるのは、水に関するプロジェクトですね。淡水が直面している環境問題をテーマにして、「アワ・コモン・ウォーターズ」、日本語では「共有の水」という環境キャンペーンを進めていて、その中では青年による国際環境NGOであるア・シード・ジャパンさんと協力しています。

──日本でも水の問題はここ数年で関心がさらに高まっていますが、どんなところが一番重要だとお考えですか?

ひとつは水のストレスという問題です。地球上にある淡水の多くは氷や地下水として存在していて、人間が使える淡水はごくわずかなのですが、農業や工業、生活用水で人間が水を使う事によって水にプレッシャーを与えています。例えば、パタゴニアの製品も、作る過程において実は水を沢山使っています。調べた結果、あるTシャツは1枚で原料の栽培から生産まで、700リットルぐらいの水を使用していることがわかりました。その多くは原料の栽培、綿を育てる過程で使われている。
どのような水をどのくらいの量使うかによって、そのTシャツが持っている水への影響に差がでてきます。たとえば雨水を使っているのか、あるいは川や湖から、もしくは地下水から持ってきた水なのか、それによって、水を共有している動物たち生き物たちにも影響を及ぼすことになります。さっきのセヴァンの話にも通ずるんですが、自分自身が選ぶもの自体が実は海外の生態系にも影響を与えている。そういう意味では、日本は水が豊富なような印象を受けているんですが、その反面で海外の水に依存している。まずはそういった私たちの生活の中でのウォーター・フットプリント(ある生産に使用された水の全体量)を認識してもらうのがこの1年の大きな目標ですね。

(取材:文:駒井憲嗣)



篠 健司プロフィール

パタゴニア日本支社環境担当、1% for the planet事務局。1988年、パタゴニアの日本支社に入社。広報、直営店舗マネージャーを担当後、1999年同社を退社。REIの日本直営店舗の部門責任者として勤務した後、パタゴニア日本支社に再入社。直営店舗マネージャー、物流部門マネージャー兼環境担当を経て、現在環境担当。助成金などを通じた環境保護グループの支援、従業員の環境活動の推進など、環境プログラムを担当する。




『セヴァンの地球のなおし方』
東京都写真美術館ホール渋谷アップリンクにて上映中、ほか全国順次公開

【イベント付き上映を開催】
2011年7月30日(土)
UPLINK×PARC presents トーク付き上映会
纐纈あや(映画監督)×小口広太(有機農業者、明治大学大学院)
テーマ:20-30代が語る、原発のない地域とわたしたちの未来

会場:東京都写真美術館
時間:13:25開場 13:35開演 15:40トーク

2011年8月6日(土)
中村隆市(ウインドファーム代表)
テーマ:セヴァンから学んだ「脱原発な暮らしといのちを大切にする仕事」

会場:東京都写真美術館
時間:13:25開場 13:35開演 15:40トーク

2011年8月9日(火)
UPLINK×PARC presents トーク付き上映会
相原成行(神奈川県藤沢市、有機農家)×大江正章(アジア太平洋資料センター(PARC)代表理事、コモンズ代表)
テーマ:「農」から変える私たちの社会と地球環境~有機農業の実践から

会場:渋谷アップリンク・ファクトリー
時間:18:30開場、19:00~19:50トーク、20:00~上映
※上映前にトークがございます
ご予約はこちらから

監督:ジャン=ポール・ジョー(『未来の食卓』)
プロデューサー:ベアトリス・カミュラ・ジョー
出演:セヴァン・スズキ、ハイダグワイの人びと、古野隆雄、福井県池田町の人びと、バルジャック村の人びと、ポワトゥーシャラントの人びと、コルシカ島の人びと、オンディーヌ・エリオット、ニコラ・ウロ、ピエール・ラビ、他
2010年/フランス/115分/HD/16:9/カラー/ドルビー/英語、フランス語、日本語
公式HP
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▼『セヴァンの地球のなおし方』予告編



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