骰子の眼

cinema

東京都 渋谷区

2011-08-27 01:50


「ケネス・アンガーの洗礼はそれこそトラウマ」伊藤桂司と河村康輔が語る伝説的映像作家の集成『マジック・ランタン・サイクル』

スケートシング、鈴木ヒラク、服部一成ほか6人のデザイナーが8/27(土)、28(日)の2日間原宿VACANTにて描き下しデザインによるTシャツを発表&販売
「ケネス・アンガーの洗礼はそれこそトラウマ」伊藤桂司と河村康輔が語る伝説的映像作家の集成『マジック・ランタン・サイクル』
河村康輔デザインによる『マジック・ランタン・サイクル』メインビジュアル

アンダーグラウンド映画の系譜において伝説的存在である映像作家ケネス・アンガー。彼に魅せられた6人のデザイナー/アーティストが彼の映像作品の集大成『マジック・ランタン・サイクル』をモチーフにビジュアルを考案したTシャツを展示販売する、ライブシルクスクリーンイベントが2011年8月27日、28日の2日間、原宿・VACANTで2日間に渡って行われる。
開催を前に、この企画に参加した伊藤桂司と、今企画のDVDやフリーペーパーのデザインも手がけた河村康輔、世代の異なるアーティストふたりが、当日Tシャツとセットで日本版DVDとして発売される『マジック・ランタン・サイクル』を観ながら、ケネス・アンガーと彼の映像世界について語った。

アンガーの作品は、もうまっとうに生きられないぞ、と突きつけられる洗脳(河村)

河村康輔(以下、河村):僕がケネス・アンガーの映像を初めて観たのは、95年頃、高校1年くらいの時、地元の広島の小さいレンタルビデオ屋の棚の下のコーナーにVHSがあって、これはもしかしてあのケネス・アンガー?って。デヴィッド・リンチが好きで、雑誌の特集のなかに名前が出てきていたり、僕らの世代だとスタジオ・ボイスの映像特集などイメージだけが先行していて、ネットもないから調べられないし、どこ行ってもないし妄想だけは膨らんでた。

伊藤桂司(以下、伊藤):解らないと余計興味が出てくるよね。

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伊藤桂司(左)、河村康輔(右)

河村:その 1本でがーっと入っていた記憶があるんですよ。ぜんぜん解らなくて、とんでもないなと思って。

伊藤:だって『ルシファー・ライジング』は、出演しているマリアンヌ・フェイスフルが「この映画はヘロインをすって3回観なくてはとても理解できない」と言っているんでしょ。解らせるためのものじゃない。

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『ルシファー・ライジング』

河村:映画っていうのは物語として成立しているものだって思って観たら、一切セリフが出てこなくて。デヴィッド・リンチはすごい狂ってるけど成立してるって思ってたけど、これはおもいっきり断片的に作っていて、いいところだけをカットアップして見せるというイメージが強かった。

伊藤:デヴィッド・リンチもこのカットイン的な編集は影響を受けているよね。

河村:これに影響を受けた人はすごい多いんでしょうね。15年かけてこれを撮ってるってすごい。

伊藤:僕もこれはたぶん黙壺子(黙壺子フィルム・アーカイブ:映画評論家の佐藤重臣が70年代から新宿を拠点に活動していたアンダーグラウンドな上映会)では、観てないんですよ。たぶんその後VHSで、かな。黙壺子では、アンガーの初期の作品はもちろん、ジョルジュ・メリエスやジョン・ウォーターズ、トッド・ブラウニングなど、特に『ピンク・フラミンゴ』と『フリークス』は2本立てでよくやっていたので、何度も観に行きました。ほかにも古いSF映画とかシュルレアリスムの映像が上映されていましたね。他の自主上映だったかもしれませんがフライシャーのアニメーションにも夢中になりました。『バッタ君 町に行く』とか『スーパーマン』『ベティ・ブープ』。その頃はビデオが普及してなかったから、そういう場所でないと観る事ができないわけですよ。17、8歳の若造が、暗い独特の空気と黴臭い会場で、得体の知れない怖そうな人たちに混じって観ていたんですね。鈴木ヒラクくんも高校生の時にアンガーに出会ったそうだけど、ある年代・ある時期に成長のプロセスとして必要な通過儀礼みたいなものなんじゃないですか。

河村:自分のなかのいろいろなものがまだ固まっていない時期だから、洗脳ですよね。お前はもうまっとうに生きられないぞ、というのを突きつけられるみたい。

伊藤:やっぱりこのあたりで洗礼を受けるか受けないかで、(アーティストとしての)成り立ちが違うよね。なにか背負っちゃう感じがするっていうか、刻印されちゃう。それこそトラウマになってるのかもしれないね。

アンガーの作品の全ては、負の状態からスタートしているように感じる(伊藤)

河村:黙壺子では、観に来ていた人は多かったんですか?

伊藤:結構いたと思う。ぴあやシティロードには自主上映という欄があって、そこを調べるんですよ。その後も‘80~‘81年頃には、関わっていた『HEAVEN』という雑誌のイベントでも『人造の水』とかオールナイトのライブと一緒に上映していて、人で賑わっていたような記憶がうっすらとありますね。

河村:伊藤さんや川勝(正幸)さんなど、いま一線で活躍されている方々が当時は公開されていた劇場も限られていたと思うので、もしかしたらみんな同じ場所で観ていたかもしれないという事ですよね。その後、みんないろいろな影響の受け方をして、いろんな仕事に就いて、その後何かのかたちで繋がったりしているんでしょうね。僕は地元でケネス・アンガーのこと話す相手もいなかったので、多分一回も友達とケネス・アンガーについて話したことないですね。レンタルビデオ屋にあったくらいなので、僕の周り以外ではもちろん観ていた人はいるとおもいますが。

伊藤:いちばん好きな作品は?と聞かれれば、『ルシファー・ライジング』と『人造の水』を選びますね。

河村:僕が『ラビッツ・ムーン』と『スコピオ・ライジング』、このふたつが好きです。『ラビッツ・ムーン』はちょっとディズニーっぽいんですよね。

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『スコピオ・ライジング』 

伊藤:ドリーミーだし、この音楽もいいんだよね。(編集部注:A Raincoatの「It Came In The Night」)

河村:『ラビッツ・ムーン』は、今回DVDのビジュアルを作るときにいちばん画像を使いました。最初から最後まで全部青っていうのはなにか意味があるんですかね。

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『ラビッツ・ムーン』

伊藤:灯りのない森とか山の中だと、満月の夜ってこういう色だよ。だからある意味、とてもリアルに月の光を再現していると思います。ケネス・アンガーによるロマンティックでドラッギーな月の夜のファンタジーですね。月の光は、日常では認識できない意識の側面を表していて、つまり無意識のメタファーですよね。隠れた本性とか眠っている潜在的な欲求とか。アンドルー・ワイルという学者が、著書『太陽と月の結婚』の中で、変性意識状態について、人間はもともと通常の意識とは違う別の意識モードを体験したいという衝動を持っていると言っています。また、変性意識は通常の意識と同列のスペクトルを形成していて、映画を観る事とトランス状態になる事に質的な差はないとも。『ラビッツ・ムーン』は、両方の意識状態を行き来しているような感じがしますね。
ケネス・アンガーは、お金持ちでハリウッドの光の中の人だけれど、彼が作っている作品には陰の部分が強く現れている。しかも彼ってバイセクシュアルでしょ。女性原理と男性原理のを両方持っているわけで〈太陽と月の結婚〉という錬金術的でマジカルな状態と照らし合わせると、またいろいろ見えてきて楽しいですね。

河村:陰と陽、本人のなかに両方存在しているということですよね。それをそのままだしたらこうなった。それから『プース・モーメント』を観たとき、ココ・シャネルだ!と思ったくらいすごくモードの香りを感じて、とても『花火』を作った同じ人とは思えない。

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『プース・モーメント』

伊藤:ホントにおしゃれ!最近もミッソーニのコマーシャルをやってますしね。場面一枚一枚の切り取り方、その連続体としての映像も極めて絵画的という感じがしますね。暗黒面との振幅というかバランス感覚もすごいですね。VJ的な要素をこの頃既に持っているというのも予言的かもしれない。

河村:『人造の水』は、60~70年代のサイケ・ムーブメントより前にかなりアシッドな感じをやっている。ただ水だけを写してる、それだけでサイケデリックですよね。

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『人造の水』

伊藤:『花火』は彼が17歳のときに撮った作品だというけれど、自分が撮りたいものを最初に撮ったということですね。

河村:自分の性癖すべて出てるんじゃないかって、溜りに溜まっていたものがおもいっきり放出されている感じがしました。厳しい家庭に対する反動があったんでしょうね。これを作ることがものすごく不良的な行為だった。タブーとされていたこと、それを全部映像に出しちゃって。

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『花火』

伊藤:家庭がピューリタンでしたっけ?宗教の厳格さに対してのこういったスタンスは、精神の均衡を保つのにも重要だったんでしょうね。作品の全ては、負の状態からスタートしているようにも感じるし。アレイスター・クロウリーに傾倒するのも、厳格で冷酷ともいえる宗教に対する暗黒面からの復讐というかね。『ルシファー・ライジング』はその象徴的な作品といえるんじゃないですか。話は戻りますが、『花火』の映像の美しさはブニュエルとダリの『アンダルシアの犬』とか、マン・レイなど一連のシュルレアリスムの映画を思い出させますね。

河村:白黒のコントラストとかそうですね。色調とか構図とか、シュルレアリストの写真家からは影響を受けているんじゃないですか。

伊藤:『K.K.K. Kustom Kar Kommandos』は今日初めて観たんだけれど、今のほうがぐっときたような気がする。

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『K.K.K. Kustom Kar Kommandos』

河村:だって『K.K.K. Kustom Kar Kommandos』のような、ただ車磨くだけの映画って他にないですよ。

伊藤:この人は元から編集的ですね。編集というのは、細部と全体の相対的な関係ですから、冷静な客観性を伴います。単に個人的な領域に作品が埋没してしまうことを回避できる。だからきっと普遍性を獲得して、今の目でも常に新鮮に観ることができるんでしょうね。VJ対応というか、どこをどう切ってもいける!グラフィック的にもアイデアの宝庫だから、この映像を使ったリミックス・ライブみたいな企画があったら面白いかも。

(取材:倉持政晴、駒井憲嗣 構成・文:駒井憲嗣)



伊藤桂司 プロフィール

1958年、東京生まれ。主に、広告、雑誌、音楽関係などの分野でグラフィック・ワーク、アートディレクション、映像を手掛ける。2001 年度東京ADC賞受賞。ロッテルダム映画祭、「Active Wire」(ソウル:Haja Center)、「CLOSE UP of JAPAN展」(ブラジル:サンパウロ美術館)、「Buzz Club-News from Japan」(ニューヨーク:P.S.1 / MoMA)、「KITTY EX.展」(森美術館)、「AFTER311」(hiromiyoshii roppongi)をはじめ国内外のグループショウに多数参加、ギャラリー360°、ArtJam Contemporaryでの個展開催、愛知万博EXPO2005世界公式ポスター、コカコーラ・コーポレイトカレンダー、NHKの番組タイトル&セットデザイン、イギリスのクラヴェンデール・キャンペーンヴィジュアル他、活動は多岐に渡る。作品集は『FUTURE DAYS』(青心社)他多数。京都造形芸術大学教授。UFG代表。
http://site-ufg.com/

「Here is ZINE tokyo 3」Curated by Enlightenment
2011年8月26日(金)~ 9月13日(火)
トーキョー カルチャート by ビームス(原宿)
http://www.beams.co.jp/news/event/here-is-zine-tokyo-3tokyo-cultuart-by-beams.html




河村康輔 プロフィール

1979年広島県生。ドザイナー、特殊デザイナー他プラス・ワン、コラージュ・アーティスト。06年、根本敬氏個展『根本敬ほか/入選!ほがらかな毎日』入選。ERECT magazineアート・ディレクター兼、企画。アパレルブランドのグラフィック、様々なライブ、イベント等のフライヤーや装丁、デザイン等を手掛ける。根本敬氏と共作で実験アート漫画「ソレイユ・ディシプリン」を連載中。今までに、Winston Smith、KING JOE等と共作、様々な場所で展示を行う。11年、Winston Smithとの作品集「22Idols」を発売。サンフランシスコでの単独個展「TOKYO POP!!」を開催。
http://www.erect-magazine.com/

ERECT Magazine #002 Release Party
六本木SUPER DELUXE
2011年9月19日(月)
開場/開演18:00 料金2.500円 (1ドリンクとERECT Magazine#002付き)
LIVE:Shin-Ski、yudayajazz、Omega f2;k
DJ:LASTDAYBIKINI、M.A.G.M.A、木村勝好、SHINGO/3LDK(東京カリー番長)and more
http://www.super-deluxe.com/2011/9/19/erect002-/




~実験映画の巨匠 ケネス・アンガーに捧ぐ6枚のTシャツ~
2011年8月27日(土)、8月28日(日)

原宿VACANT
(東京都渋谷区神宮前 3-20-13/JR「原宿駅」から徒歩10分)[地図を表示]
13:00~20:00
入場無料
TEL 03-6459-2962
協力:VACANT、NADA.
企画:UPLINK
http://www.uplink.co.jp/kenneth/

会期中、ケネス・アンガー映像集成『マジック・ランタン・サイクル』DVD&Tシャツセットを限定販売
【参加アーティスト/デザイナー】
いすたえこ、伊藤桂司、河村康輔、スケートシング、鈴木ヒラク、服部一成(五十音順)

T_isu copy
いすたえこ
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伊藤桂司
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河村康輔
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スケートシング
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鈴木ヒラク
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服部一成

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