骰子の眼

cinema

2011-09-17 02:30


「短編アニメは、日常のどんな些細な出来事からでも発想できるものです」 山村浩二監督インタビュー

世界のインディペンデント・アニメーション・シーンを牽引する山村浩二監督の新作短編『マイブリッジの糸』、9/17から公開!
「短編アニメは、日常のどんな些細な出来事からでも発想できるものです」 山村浩二監督インタビュー
『マイブリッジの糸』より (C)2011 National Film Board of Canada/NHK/Polygon Pictures

2002年の『頭山』では国内外6つのアニメーション映画祭のグランプリを獲得、米アカデミー賞にもノミネートされ、2007年の『カフカ 田舎医者』では7つのグランプリを受賞。まさに世界が注目するアニメーション・クリエイター、山村浩二氏の4年ぶりの新作『マイブリッジの糸』が、9月17日(土)に公開される。映画の発明に大きな影響を与えた19世紀の英国人写真家エドワード・マイブリッジの人生と、現代の東京に生きる母親と娘のもう一つのエピソードを対比させ、時間について考察する映像詩ともいえる作品だ。数々の名作を送り出してきたカナダの老舗アニメーション・スタジオ、NFB(カナダ国立映画制作庁)との共同制作である本作について、山村監督に話を聞いた。


──今回の新作は、どのような経緯でNFBと共同制作することになったのですか。

 2006年にフランスのヴァランスで開かれた映画祭で、NFBで制作しているアマンダ・フォービスとウェンディ・ティルビーの2人に会ったんですね。それで、「いま構想中の作品をNFBで作ってみたい」と話したら、アマンダ経由でプロデューサーを紹介してもらったんです。それが直接のきっかけです。

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山村浩二監督

──今回の作品も本当に色彩が豊ですが、何を使って描かれたのですか。

 メインは水性のインクです。後は鉛筆と水性の色鉛筆、水性のパステル3~4種類を混ぜて使っています。

──毎回アニメーションの手法を変えていらっしゃいますね。

 自分としては一作ごとにステップアップしたいと思っているので、前の作品は終わったらそれで完結してしまって、振り返らないし引きずりません。
 それから、岡本忠成さんの影響が大きいと思います。大学時代に岡本さんのアトリエを訪ねて卒業制作の『水棲』を観てもらったのがきっかけで、少しの間お付き合いさせていただいていたんですが、早くに亡くなられてしまって。その頃、遺作となった『注文の多い料理店』を制作されていたのですが、岡本さんは毎作スタイルを変えていました。立体アニメーションをやってみたり、平面で作ってみたり、切り貼りだったり、板に書いたり。そういった技法や絵柄のバリエーションが、作家の個性を押し出すためではなく、内容に最もふさわしいものを模索する中から生まれるのを見て、内容のために技法があるんだ、というスタンスの正しさを実感したんです。そのせいか、僕は自分のことを作家ではないと半分思っていて、自分のスタイルを表現したいという気持ちがそれほどありません。内容に最も適するものを追求していくと、作品ごとに自然に変わらざるを得ないのです。

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『マイブリッジの糸』より (C)2011 National Film Board of Canada/NHK/Polygon Pictures
 

 短編アニメーションは、日常のどんな些細な出来事からでも発想できると僕は思っています。ちょっとした出会いや、感心のある思想や一行の言葉など、きっかけになることはいくらでも転がっています。そのように毎回、発想の元が違うところから来ているので、それに一番見合った方法が何かを考えると、必然的に作るものも変わってくるのです。
 『頭山』の制作時も、実は人形アニメーションにすることも考えていたんです。最終的な技法を決めるのに、人形を試作した上でこれはダメだと判断しました。これも岡本さんの影響で、『注文の多い料理店』の時に、アーマチュア(骨組み)の入った人形まで作っているのを見て、ここまできちんと考えてやるべきなんだということが、自分の中に染みついていたんだと思います。

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『マイブリッジの糸』より (C)2011 National Film Board of Canada/NHK/Polygon Pictures

──音楽監督は『老人と海』『木を植えた男』など名作を手がけてきたカナダの大御所、ノルマン・ロジェ氏ですが、初めから彼に決めていたのですか。

 オリジナル音楽でいくなら迷わずノルマンさんだったんですが、今回はバッハの「蟹のカノン」をどう使うか厳密に決めていたので、実はギリギリまで、この作品のベストな音楽家は誰か悩みました。ただ、いろいろご紹介いただく中で、ノルマンさんとは以前から面識があって、何年も前から引退するとおっしゃっていたし、引く手あまたの巨匠ですからぜひ一度お仕事をしてみたいと思いました。
 彼の素晴らしいところは、作曲家としての個性を売るのではなく、作品のことを純粋に考えて音を作り出そうとしてくれるところです。しかも音楽だけではなく効果音も出来る人なので、音楽とも効果音ともつかないような音作りをしてくれます。アニメーションは劇映画と違って、音楽とSEがはっきり分かれていない、どっちつかずの音が必要なんですね。ノルマンさんはそういうニュアンスを作り出せるんです。

──音楽を聴きながら制作することはありますか?

 歌ものは描いている時には聴けないので、クラッシックやジャズ、サウンドトラックなど、インストものが多いですね。ウィレム・ブロイカー[オランダのフリー・ジャズ・ミュージシャン]が学生の頃から好きで、コツコツ買い集めていました。彼の曲がいわゆる変拍子で、スピードがくるくる変わるところが、僕の作りたいアニメーションの感覚と近いんです。あまりテクニックで押すものより、ちょっと土臭い辺境音楽というかジプシー音楽のようなものが好きです。ジプシー系だとポーランドのクローケという、ちょっとジャズの要素も入ってるバンドが好きです。確かデヴィット・リンチも『インランド・エンパイア』の中で使っていました。

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『マイブリッジの糸』より (C)2011 National Film Board of Canada/NHK/Polygon Pictures

──『マイブリッジの糸』と同時にNFBの作品も上映されますね。

 『頭山』(2002)の公開時に、それ以前の古い自分の作品を同時上映したので、今回はなるべく自分の作品を少なくして、NFBの作品を僕が5本セレクトして入れました。アマンダとウェンディの新作『ワイルド ライフ』は、今回がアジアプレミアになるのですが、はじめはアジアのどこかの映画祭に通ってからじゃないと出せないという話もあった中、NFBの好意で上映が出来ることになったんです。僕の新作と一緒で今年完成したのですが、しっかりしたストーリがあってとても見やすく、大変すばらしい作品です。  ウェンディは以前は一人で作っていたんですが、『ある一日のはじまり』(1999)からマンダと組んで作ってから質が上がりました。人によりけりでしょうが、客観的な視点が入るという意味で、アニメーションは二人で作った方がいいのかもしれません。

(取材=鎌田英嗣、写真=駒井憲嗣)

山村浩二 プロフィール

1964年名古屋市生まれ。東京造形大学絵画科卒業。多彩な技法で短編アニメーションを制作。『頭山』がアニメーション映画祭の最高峰、アヌシー、ザグレブ、広島をはじめ6つのグランプリを受賞、第75回アカデミー賞にノミネートされる。また『カフカ田舎医者』がオタワ、シュトゥットガルト、広島など7つのグランプリを受賞。国際的な受賞は60を越える。代表作は他に『カロとピヨブプト』『パクシ』『ジュビリー』『年をとった鰐』など。世界各地で回顧上映、審査員、講演多数。ヤマムラアニメーション代表、Acme Filmworks契約監督、国際アニメーションフィルム協会日本支部理事、日本アニメーション協会副会長、東京造形大学客員教授、東京藝術大学大学院映像研究科アニメーション専攻教授。

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『マイブリッジの糸』
2011年9月17日(土)、東京都写真美術館ホールにて3週間限定公開

時間を止めることはできるだろうか? 時間を反転することは? 1878年に馬のギャロップの連続動作を撮影することに成功し、映画の発明に大きなインスピレーションを与えた写真家エドワード・マイブリッジの波乱な人生と、「母と娘」のもう一つの物語が、バッハ「蟹のカノン」の音楽の構造によって紡がれる。

監督、脚本、編集、デザイン、アニメーション:山村浩二/オリジナル音楽、サウンドデザイン:ノルマン・ロジェ、ピエール・イブ・ドラポー、ドゥニ・シャルトラン/J.S.バッハ「蟹のカノン」/編曲:ノルマン・ロジェ/エグゼクティブプロデューサー:デヴィッド・ヴェロール、斉藤健治、塩田周三/プロデューサー:マイケル・フクシマ、土橋圭介、塩田周三/製作:NFB、NHK、ポリゴン・ピクチュアズ
(2011年/カナダ・日本/12分38秒/セリフなし/字幕:英語、日本語/カラー&白黒)

映画公式サイト

東京都写真美術館ホールでの上映スケジュール

▼『マイブリッジの糸』予告編



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