骰子の眼

cinema

山形県 山形市

2011-10-05 15:05


ドストエフスキーを訳した老翻訳家の半生から、天文学の聖地チリの歴史まで、注目作揃う山形国際ドキュメンタリー映画祭開幕

世界各地から届けられるドキュメンタリー作品の現在を伝える8日間、東日本大震災関連プログラムも。
ドストエフスキーを訳した老翻訳家の半生から、天文学の聖地チリの歴史まで、注目作揃う山形国際ドキュメンタリー映画祭開幕
『5頭の象と生きる女』より

世界から先鋭的な作品を集め、ドキュメンタリー映画の現在に焦点を当てプレゼンテーションする目的で2年に1回開催されている山形国際ドキュメンタリー映画祭が2011年10月6日(木)より開催される。今年も日本ではなかなか観ることのできない多様なスタイルの優れたドキュメンタリー作品が集結。毎回新しい映画作家の発掘が行われ、社会におけるドキュメンタリーの役割が問い直される機会でもあるこの映画祭より、1,078本の応募から選ばれたインターナショナル・コンペティション、そして3.11を題材にした日本の作品を上映するプログラム【東日本大震災復興支援上映プロジェクト「ともにある Cinema With Us」】から観るべき6作品を紹介する。
なお『5頭の象と生きる女』『光、ノスタルジア』はアップリンクにより配給される。



『5頭の象と生きる女』

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高潔なる知性を鋭い眼差しに宿す老翻訳家。実直に仕事に打ち込む彼女の手には戦争の記憶が深い皺となって刻まれている。ウクライナで生まれ、第二次大戦初期にドイツへと移住し、自ら「5頭の象」と称するドストエフスキーの長編5作の翻訳によって世に知られてからも、自身の過去への問いかけは続いていた。移住後はじめて訪れた故郷への旅の中で、それはウクライナの激動の歴史となって立ち現れる。一人の女性が歩んだ半生にひっそりと寄りそう静謐な映像が、文学の力によって高められる人間の尊厳をたおやかに描き出す。

監督:ヴァディム・イェンドレイコ
配給:アップリンク(2012年公開予定)
スイス、ドイツ/2009年/ドイツ語、ロシア語/カラー、モノクロ/35mm/93分
10月9日(日)10:00 山形市中央公民館6F
10月11日(火)15:00 山形市中央公民館6F




『光、ノスタルジア』

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世界中の天文学者が集まる、標高3,000メートルの高地のチリ・アタカマ砂漠。監督パトリシオ・グスマンは幼い頃の天文学への憧れを語りながら天文学の聖地であるアタカマを紹介、さらにここがピノチェト軍事政権下の弾圧の地であることを明らかにする。永遠とも思われるような天文学上の時間と犠牲者の遺骨を捜し求める遺族たちの止まってしまった時間。チリの歴史を描き続けるグスマンの、諦観に満ちた語り口と圧倒的な映像が際立つ。

監督:パトリシオ・グスマン
配給:アップリンク(2012年春公開予定)
フランス、ドイツ、チリ/2010年/スペイン語/カラー、モノクロ/35mm/90分
10月7日(金)12:30 山形市中央公民館6F
10月10日(月・祝)16:45 山形市中央公民館6F




『アルマジロ』

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アフガニスタンのPKO活動のために派兵されたデンマークの兵士たちに肉迫、最前線基地アルマジロ・キャンプでの緊張感に満ちた日々を綴る。タリバンとの交戦もはらんだテンションの高い日常のなかで過ごすうち、兵士たちは次第にアドレナリン中毒に陥っていく。テレビドラマ製作の経験もあるヤヌス・メッツ監督の、スピード感に満ちた語り口。兵士たちとともに銃撃戦のなかでカメラを回し続け、兵士たちの興奮状態を浮かび上がらせる。

監督:ヤヌス・メッツ
デンマーク/2010年/デンマーク語、英語/カラー/35mm/101分
10月8日(土)12:45 山形市中央公民館6F
10月11日(火)17:30 山形市中央公民館6F




『星空の下で』

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YIDFF2009にて『約束の楽園』が上映されたレナード・レーテル・ヘルムリッヒ監督の新作。インドネシアの貧民地区に暮らす家族を12年間追い続けた三部作の完結編。両親を亡くし叔父一家と暮らす孫娘を訪ねて田舎から出てきた祖母を中心に、定職がなく闘魚に興ずる叔父とそれを嘆く妻との夫婦喧嘩、反抗期を迎えた孫娘の大学進学問題などがテンポよく映し出される。宗教間の衝突や貧富の格差、世代間の意識のずれを巧みに折り込みながら、家族を想う庶民の日常を、疾走するカメラワークでドラマチックかつユーモラスに描いた作品。

監督:レナード・レーテル・ヘルムリッヒ
オランダ/2010年/インドネシア語/カラー/ビデオ/111分
10月9日(日)19:00 山形市民会館大ホール
10月11日(火)12:15 山形市中央公民館6F




『遊牧民の家』

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シナイ半島の荒涼とした砂漠で女性起業家として生きるセレマと出会う辺境への旅。モーセ山近くの水の枯渇した村で、初めて最初に学校に通った彼女は、夫に支えられながら因習と立ち向かい、ベドウィン女性たちに経済力と教育をもたらそうと試みている。監督のパーソナルな視点から語られる女性たちの営みは、エジプトで生まれ育ち、住いを転々とし、現在はドイツに住まう監督自身の〈遊牧〉民としての人生といつしかポエティックに重なり響き合う。

監督:イマン・カメル
エジプト、ドイツ、アラブ首長国連邦、クウェート/2010年/アラビア語、英語/カラー/ビデオ/61分
10月8日(土)20:30 山形市民会館大ホール
10月11日(火)10:00 山形市中央公民館6F




東日本大震災復興支援上映プロジェクト「ともにある Cinema With Us」

311仙台短篇映画祭映画制作プロジェクト作品『明日』

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41人の監督たちが、3分11秒という制約の中で、それぞれが3月11日以降の自身と対峙し、葛藤を経て産み出した作品をオムニバス形式で綴る。

41人の監督たち(冨永昌敬、鈴木卓爾、濱口竜介、佐藤良祐、内藤瑛亮、加藤直輝、岡田まり、和島香太郎、中野裕之、瀬田なつき、日向朝子、守屋文雄、塩田明彦、河瀨直美、真利子哲也、ウィスット・ポンニミット、田平衛史、外山光男、田中博之、片岡翔、田中羊一、平林勇、境千慧子、志子田勇、入江悠、山下敦弘、阿部理沙、甲斐田祐輔、今泉力哉、鈴木太一、朴美和、日原進太郎、佐々木健太、タカハタ秀太、生田尚久、遠竹真寛、田中要次、井上剛、佐藤央、篠原哲雄、堀江 慶)/日本/2011年/日本語/137分
10月10日(月・祝)10:00 山形市民会館大ホール




山形国際ドキュメンタリー映画祭2011
2011年10月6日(木)~10月13日(木)

会場:山形市中央公民館、山形市市民会館、フォーラム山形、山形美術館、山形まなび館、やまがた藝術学舎
公式サイト




【関連ワークショップ】
『半日映画配給ワークショップ ~インディペンデント映画を配給する方法~』
2011年11月4日(金)、5日(土)
渋谷アップリンク・ファクトリー
アップリンク配給作品をケーススタディとして、映画を観客の皆さんに観てもらうまで配給会社はどのような活動をしているのかをレクチャーするワークショップ。5日は『光、ノスタルジア』(2012年春公開作品)をプレミア上映。
http://www.uplink.co.jp/factory/log/004116.php

【関連記事】
連載:光、ノスタルジア アタカマ砂漠で見上げる空
http://www.webdice.jp/dice/series/39/


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