骰子の眼

cinema

2011-12-08 15:00


中南米気質を体感ベンターナ・スール映画祭

活気に満ちたブエノスアイレスのフィルム・マーケットで『瞳は静かに』ブスタマンテ監督に会う!
中南米気質を体感ベンターナ・スール映画祭
2011マーケット会場であるアルゼンチン・カトリック大学

いよいよ公開が12月10日に迫った映画『瞳は静かに』。昨年公開され高い人気を獲得したアカデミー賞最優秀外国語映画賞受賞作『瞳の奥の秘密』と同じく、アルゼンチン軍事政権下の穏やかでないムードをテーマにした今作は、あどけなさを残す少年コンラッド・バレンスエラが持つ存在感もあり、アルゼンチンの人々の暮らしと、そこにある問題意識を鮮烈に捉えた内容となっている。公開にともない配給のAction Inc.の比嘉世津子さんがラテンアメリカの見逃せない映画祭を伝える当連載。キューバの新ラテンアメリカ国際映画祭、メキシコのアダラハラ映画祭に続く最終回は2009年からスタートしたアルゼンチン・ブエノスアイレスのベンターナ・スール(Ventana Sur)映画祭の模様をお届けする。

年に一度のマーケットは勇気と元気を与えてくれる

ぜ~ぜ~、連載はこれが最後!ということは、『瞳は静かに』の公開が迫っているということなのだが、現在、参加しているフィルム・マーケット、ベンターナ・スールより、最新情報をお届けします。

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2009会場内部

ブエノスアイレスでベンターナ・スール(Ventana Sur/南の窓、という意味。南は南米を意味している)が始まったのは、2009年。グアダラハラに遅れをとったとは言え、こちらは、もう「売ります!買います!」が主体のラテンアメリカ初の純粋なフィルム・マーケット。

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スクリーニング会場

2010年以降に制作されたスペイン・ラテンアメリカ映画のスクリーニングは、プエルト・マデロという、ちょっとスノッブな地区にある8スクリーンのシネコン(Cinemark)で行われるが、一般公開はされず、マーケット参加者だけが観る。このマーケット、まだ3回目なので、毎年、場所やしくみが変化している。
第一回目は、開催期間が11月27日(金)~30日(月)。場所は、経済危機で破綻したまま放置されていたデパートHARRODSで行われた。IDカード発行にえらく時間がかかって、事務局前に長蛇の列ができていたほど。ちょうどハバナの映画祭前に行われたので、終了後にハバナに行く人も多かったのだが、第二回目からは、1週間ずれてハバナの映画祭と全く同じ時期になってしまった。でも、手続きはずっとスムーズになり、マーケットの場所もCinemarkの横の巨大テントになった。

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カフェテリア

今回の第三回目は、また場所が変わり、プエルト・マデロにあるカトリカ大学のオーディトリアムになった。何だか、これまで以上にアカデミックな雰囲気になったのは、マーケットと共に、毎日、ありとあらゆるテーマで会議が行われているからだ。ラテンアメリカ映画の未来について、はたまた、EUとメルコスール(☆)加盟諸国の映画共同制作をスムーズにすすめるための法的、税的整備から、中米、カリブ海諸国の映画制作の現状まで。
政治的な話も、からんでくるので、壇上のパネリストたちにも熱が入る。聞いていて思うのは、誰もがみな、しっかりとした政治信条を持ちながら、自由に発言していることだ。
「日本では、政治と宗教の話をしたらケンカになるから避けるべき」と言われたことがあったけど、ラテンアメリカで政治と宗教の話は、避けて通れない。でも、ケンカにならないのは、「ひとり1人が違う」ことが大前提だから……。こういったことまで考えさせてくれる年に一度のマーケットは、息苦しい日本で生きていく勇気と元気を与えてくれる。

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プエルト・マデロのレストラン(高い!)
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商談ブース(つい立てて遮られている)

配給会社同士で交流ができるのもマーケットの醍醐味

もちろん、映画の話も直球だ。最初は、あれやこれやを薦めてきたセラーも、こちらの意向が分かるとセレクトしてくれる。「今回は、あなたのところに合うものはないかもしれないけど、これは観てほしい」という風に。
なので、当初、何十枚も持って帰って来ていたDVDは、10分の1ぐらいに減った。その上、データベース上にアップされている約400本に及ぶ作品は、映画祭終了後もしばらく観られるので、焦ることもない。

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外から見た商談の場

今年は、まだガツン!と来る作品に出会っていないが、昨年、観た中でやってみたい(ちょっと冒険?)作品があったので、そこに焦点をあてて交渉に臨んだ。「日本の会社は高値で買っても、DVDスルーにする」という噂が広まっているので、毎回、チラシやポスターを持って行くと、とても喜ばれる。

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2011マーケット会場内

今回も、11月に『瞳は静かに』のDVDをリリースした米国の配給会社が、日本版のビジュアルをみて、羨ましがっていた。(ふふふっ)しっくりくるビジュアルができなかったらしく、日本版のポスターをみて、「黒を使うなんて!」と驚いていた。同じ映画を配給する会社同士で交流ができるのも、こうしたマーケットの醍醐味だ。

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カフェテリア

こうして12月2日から5日までの4日間続いたマーケットは終了した。昼間は、スクリーニングとミーティング、夜は各国の映画協会が行うパーティで、大半が寝不足なのであるが、最終日はサン・テルモにあるEl Zanjonで、アルゼンチン映画協会主催のクロージングセレモニーがあり、皆、疲れを忘れて踊りまくっていた。

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2009マーケット会場

完全燃焼しきった感のある4日間なのだが、この後、大半の人々はバケーションをとる(アルゼンチンは夏に突入ですし……)ので、連絡がとれなくなるのが、タマに傷。でもまあ、慌てずにゆっくりいこう、と思えて来る。
今回は、『瞳は静かに』のブスタマンテ監督とも会って、次回作の話をした。
『瞳は静かに』の監督インタビューですでに何度か話していたこともあって、旧友に会うような感じだった。映画と日本の状況との共通点、家族のあり方を知ったことから、早速、次回作の構想を練った、という。しっかりとした視点を持った監督の話は、とても説得力があるので、何とか実現に向かえるよう協力できれば、と思う。

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2011マーケット会場、アルゼンチン・カトリック大学

映画だけではなく、人との出会いや、企画の第一段階から知ることができるチャンスにワクワクする。成田からアトランタ(約12時間)、アトランタからブエノスアイレス(約11時間)、乗り継ぎ待ち時間(約6時間)と29時間かけても、毎年、来てしまうのがVentana Surフィルム・マーケットだ。

(文、写真:比嘉世津子[Action Inc.])

(☆)メルコスール 南米共同市場。外務省は「南米南部共同市場」と言っているけど、何だかしっくり来ない。元々は、アルゼンチン、ウルグアイ、パラグアイとブラジル(南米東部)から始まり、その後ベネズエラ(南米北部)が正式加盟。準加盟国はコロンビア、エクアドル、ペルー、ボリビア、チリ。つまりガイアナ、スリナム、仏領ギアナを除く南米諸国をEUのような経済圏にしようという試みで発足したもの。


【関連記事】
キューバの熱を知る新ラテンアメリカ映画祭(2011-11-28)
http://www.webdice.jp/dice/detail/3324/
メキシコ若手才能が集うグアダラハラ映画祭(2011-12-05)
http://www.webdice.jp/dice/detail/3333/




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映画『瞳は静かに』
2011年12月10日(土)より、新宿K's Cinema渋谷UPLINKにてロードショー(全国順次公開)

1977年、軍事政権時代のアルゼンチン北東部の州都サンタフェ。やんちゃでイタズラ好きな男の子アンドレス(8歳)は、母の突然の死で、兄のアルマンドと共に、祖母オルガと父ラウルが住む家で暮らし始める。なぜか母の持ち物を焼き、家まで売ろうとするオルガとラウル、親しげに近づいて来る謎の男セバスチャン。好奇心旺盛なアンドレスは、大人たちを観察し、会話を盗み聞きながら、何が起こっているのかを探ろうとする。そして、ある夜、部屋の窓から恐ろしい光景を目にするのだが……。

監督・脚本:ダニエル・ブスタマンテ
撮影:セバスチャン・ガジョ
音楽:フェデリコ・サルセード
出演:ノルマ・アレアンドロ(1985年カンヌ国際映画祭主演女優賞)、コンラッド・バレンスエラ、ファビオ・アステ、セリーナ・フォントほか
製作:カロリーナ・アルバレス
原題:El Ansia Producciones
2009年/アルゼンチン/HDCAM/カラー/108分/Dolby Digital SRD
日本語字幕:比嘉世津子
後援:駐日アルゼンチン共和国大使館 協力:スペイン国立セルバンテス文化センター東京ほか
公式HP

▼『瞳は静かに』予告編




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