骰子の眼

cinema

東京都 渋谷区

2012-02-03 16:54


タンタンのすげえファンじゃなきゃダメというワケではない

『タンタンと私』クロスレビュー:30年以上の時を経て初公開となる秘蔵インタビューに込められた葛藤
タンタンのすげえファンじゃなきゃダメというワケではない
映画『タンタンと私』より (c)HERGE/MOULINSART 2011 (c)2011 Angel Production, Moulinsart

スティーヴン・スピルバーグ監督をはじめ、多くのクリエイターを魅了するベルギーのコミック作家、エルジェ。彼が生み出したキャラクター、タンタンが、作者自身の投影であり、また彼が直面した戦争や宗教・家庭の問題が影響していることを明らかにしたのがこのドキュメンタリー『タンタンと私』だ。
そのきっかけとなる、エルジェのインタビューが記録された14本のカセットテープの発見から映画はスタートする。30年以上のときを経て初めて公開されるエルジェの肉声が聞けること、そしてそこで赤裸々に心情が吐露されていることはタンタンのファンのみならず、驚くことだろう。

webdice_TINTIN_sub03
映画『タンタンと私』より (c)HERGE/MOULINSART 2011 (c)2011 Angel Production, Moulinsart

『タンタンの冒険』シリーズは、日本で言えばさいとうたかお氏の『ゴルゴ13』のように、タンタンの活躍と、その元になった事件に関わる人々を、世界各国の風景や社会事情を交えて描いていく。多岐に渡るストーリーの題材と、ひとつひとつのエピソードがその国の文化や歴史のルポルタージュのように描きこんでいくエルジェの筆致のなかで、果敢に事件に挑んでいく主人公タンタンは、エルジェが仕事場から夢想するヒーローの姿であったことを、今作は解き明かしていく。
『ビルマVJ』(2008年)で2010年のアカデミー賞長編ドキュメンタリー部門にノミネートされたアンダース・オステルガルド監督は、エルジェが次第にインタビュアーに心を開いていく過程を丁寧に映像化。『タンタンの冒険』が単に空想的な子ども向けの漫画ではなく、20世紀の世界の歴史や人とのコミュニケーションの大切さを真摯に捉えた作品であることを浮き彫りにしている。

webdice_TINTIN_sub01
映画『タンタンと私』より (c)HERGE/MOULINSART 2011 (c)2011 Angel Production, Moulinsart

僕は2002年に東京・渋谷で開催された「タンタンの冒険」展に三回足を運んだ。そこで見たタンタンの下描きは壮絶なものだった。何度も何度も消しゴムで消された跡、切り貼り、修正。そこにあるのは華麗さとはほど遠い努力と執念の跡だった。
──江口寿史(漫画家)*『ユリイカ2011年12月号より抜粋




映画『タンタンと私』
2012年2月4日(土)渋谷アップリンク銀座テアトルシネマ新宿K'sシネマ他、全国順次公開全国

監督/脚本:アンダース・オステルガルド(『ビルマVJ』)
プロデューサー:ピーター・ベック
撮影:サイモン・プラム
編集:アンダース・ヴィラードセン
出演:エルジェ(ジョルジュ・レミ)、ヌマ・サドゥール、マイケル・ファー、ハリー・トンプソン、アンディ・ウォーホル、ファニー・ロドウェル、他
原題:『Tintin et Moi』
2003年/デンマーク、ベルギー、フランス、スイス、スウェーデン/16:9/フランス語、英語/カラー/75分
公式サイト http://www.uplink.co.jp/tintin/

▼『タンタンと私』予告編



レビュー(3)


コメント(0)