骰子の眼

music

東京都 文京区

2012-03-07 22:37


個人でライブイベントを成功させる方法

坂本龍一と大友良英が後楽園ホールで真剣勝負、BOYCOTT RHYTHM MACHINE VERSUS LIVE 2012主催の清宮氏に聞く
個人でライブイベントを成功させる方法
BOYCOTT RHYTHM MACHINE VERSUS LIVE 2012会場の後楽園ホール

2004年に立ち上げられたプロジェクトBOYCOTT RHYTHM MACHINEの最新ライブ版BOYCOTT RHYTHM MACHINE VERSUS LIVE 2012が3月21日後楽園ホールで行われる。当初コンピレーションとしてスタートしたものの、その後ライブイベントとして継続されてきたこの企画。今回は坂本龍一 vs 大友良英、いとうせいこう vs Shing02、DJ KENTARO vs Open Reel Ensembleそしてゲストとしてやくしまるえつこが出演する。開催にあたり、このプロジェクトを立案・運営してきたvinylsoyuz(ヴァイナルソユーズ)の清宮氏に「個人でライブイベントを成功させる方法」を聞いた。

個人にフォーカスして違うシーンの人たちとぶつける

── BOYCOTT RHYTHM MACNINEの主宰である清宮さんが運営しているvinylsoyuzというのは、基本的にひとりで動かしているのですか。

はい。vinylsoyuzは、BOYCOTT RHYTHM MACHINEプロジェクトをはじめる前に、アナログレコード専門のレーベルをやっていたときの名前で、それでvinylなんです。ちなみにsoyuzはロシアの現役宇宙船。2001年からやっていて、メジャー、インディー問わずメーカーで出ているCD作品を製造からディストリビューションまでトータルにアナログ盤として落とし込むというスタイルから始まりました。当時はレコード人気もあり、ものによっては10,000枚を超えるセールスがありました。その時期がちょうどDATE COURSE PENTAGON ROYAL GARDENやROVOが台頭しはじめたときで、すごく売れるアイテムに隠すようにばれないように好きなものも出しちゃえ(笑)みたいな。そうやって好きなバンドを追いかけ続けていた流れで、はじめてCDを制作することにしました。みなさんに声をかけて、全員新録音(ライブテイク含む)をテーマに楽曲を提供してもらったのが最初の『BOYCOTT RHYTHM MACHINE』(2004年)だったんです。

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BOYCOTT RHYTHM MACNINE主宰の清宮陵一さん

デートコースも渋さ知らズもバンドでやるとすごくお客さんが入るけれど、個人がやるとそこまでリスナーが追っかけていかない状況がありました。大きなバンドとしての活動がたまにあって、そのなかで日々個人個人がやっていることが面白いと思い、個人にフォーカスして、もっと違うシーンの人たちとぶつけてみたらより個性が際立って見えてくるのではないかと思いました。

『BOYCOTT RHYTHM MACHINE II VERSUS』(2006年)は、いまやっているライブシリーズの基にあるもので、ジャンルの異なる初めて会う二組が一日とある場所を使って事前の打合せもなく最終的に1曲作るという趣旨でした。ただ、やっているうちにそれだけで済まなくなって、それぞれのアーティストのバックグラウンドを探っていくことで、最終的にドキュメンタリー作品になりました。リリース当時、1週間ぶちぬきでアップリンクで上映会をさせてもらいましたね。そのときは、個々人ではなく、日本の音楽シーン俯瞰する視点をとった再構築版を上映したんです。

『II』を作るときに、特にジャズの方々とお会いして話しをしていると、あまりに強烈な人生観が垣間見えるんです。それで、同じ土俵に立たないと作品ができないんじゃないか?とちょっと強迫観念みたいなものも持ってしまって、中途半端にこのプロジェクトを続けるのはダメだろうと、独立を決めました。それはすごく強烈にジャズの方々が発する、個人で生きていくということに対する意識の強さを身近に感じたことも理由のひとつでした。

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坂本龍一
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大友良英

── ちょうど日本全体としても音楽シーンの転換期でしたね。

その後はCDの売上が下がっているのを実感して、パッケージよりライブをやったほうが即興で対決することの面白さをもっと広める事ができるのではと思い、2009年から切り替えていったんです。即興という言葉からイメージされる、ちょっと固いイメージではなく、二人が向き合ってなにをやるんだろうと想像してもらうために、セッションでもデュオでもなく、VERSUSという表記にこだわってやってきました。

そうすると、ステージと客席というコンサートホール的な分け方をする仕組みではもうできなくて、その熱をどうやったらより体感してもらえるのか?という方向に進んでいって、セッティングの隙間にもお客さんが入り込むような、より身近な舞台の作り方を考えるようになり、会場特性との相乗効果でどこまでわけのわからない未知の空間を作れるか、お客さんとの勝負が今も続いています。

会場にいるスタッフの雰囲気がそのイベントの空気を決定づける

── 出演を依頼するアーティストの基準は?

まず、すごく好きじゃないと声はかけられないです。それから組合せの妙もすごく大事。イベントの場合は基本3組6者のアーティストを並べたときに、イメージがつかないようなはてな要素が受け取るどなたにも必ず含まれるようにしたいと思っています。

── 観客がそこで発見ができるように、ということですね。今回、後楽園ホールで開催しようと思われたのは?

2006年の『II』の企画書には既に会場候補にありました。VERSUSというコンセプトなら最終的には後楽園ホールなんじゃないか、と。日本武道館とか両国国技館ではさすがに緊密度が減るというかそこまでは埋められないので(笑)。ずっとライブを開催していないと噂には聞いていたのですが、勇気をもって、代表電話に連絡しました。

── 使用の交渉はどのように?

後楽園ホールに話に行ったときに、音量の問題があると言われて。ずっと爆音を出すのはやめてくれ、と言われたんですけれど、そういうラインナップではないのでいけるかなと。なぜ最近ライブに使われていなかったのか話を聞いたのですが、3Fにサウナができたのがきっかけで騒音の問題が出てきて、そこから興行をやらなくなったそうなんです。昔はARBや外人のロック系も含めてけっこうやっていたそうなんですけど、ステージのセッティングもしなくてはいけないし、電源も弱い。あちこちにハコがいっぱいできるようになって、わざわざ後楽園ホールでステージを作り込む理由がなくなっていったようです。でも今回は、リングを使ってセンターステージで四方から観るというのは決めていたから、これだったらできるなって。担当してくれている後楽園ホールの方もライブは経験したことがない、どういうことが起こるか想像できないと言っていました。

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いとうせいこう
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Shing02

── 当日の現場のスタッフは?アルバイトを雇うんですか?

核になるスタッフはもちろんプロフェッショナルですが、現場スタッフはすべて直接の友人・知人もしくは友人伝手の方々です。アルバイトは雇っていません。会場にいるスタッフの雰囲気がそのイベントの空気を決定づけると考えています。関わってくれる皆さんがそのイベントを理解し、楽しんでいる雰囲気があればぜったいお客さんにそれが伝わると思っていて、今回のように1,000人を超えるキャパシティだろうが、100人の会場のような身近さを感じられるような雰囲気を作れたらと思っています。

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DJ KENTARO
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Open Reel Ensemble

なにかやるときは個人の強烈な気持ちがないと実現しない

── 311以降、BOYCOTT RHYTHM MACNINEに対する考え方に変化はありますか。

まだ正直迷っている状況です。VERSUSとはいえ「闘い」ではありませんし、バトルというかプロレス的なゲームの要素から生まれる新しい音楽を聴きたいと、今まではその程度の認識で楽しめたけれど、311以降その程度のコンセプトで楽しめる気分ではありませんし、きっと来る方もそんなムードではないんじゃないかと思っています。でも、311から2ヶ月後に行ったスガダイローさんと向井秀徳さんのVERSUSライブは、今まで感じたことのない空間でした。会場にいた皆が、二人がやってることを真剣に自分の中に取り込もうとする空気は震災前とは全く違うものでした。

チケット予約のメールのやりとりを直接自分でやっているのですが、その時も振替公演の案内を送った際、「地震が起きた後はじめて行くライブはこのスガさんと向井さんのライブと決めていました」、とメッセージを添えてくれた人もいたりしました。逆にこちらが励まされました。本当は震災後、このVERSUS LIVEプロジェクトは辞めてしまおうとも思っていたんですけれど、こういった事もあり徐々に、もしかしたら続けてもいいのかも、と思えたんです。

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やくしまるえつこ

── これからひとりでイベントを企画したい、と考える人にアドバイスはありますか。

個人個人の繋がりを大事にしてここまで2回このチームスタッフでVERSUS LIVEをやってきて、いま、最高の仲間に囲まれてチームとしてイベントに向かっていけています。彼らの信頼に応えられるイベントでありたいと思ってここまでこれました。前回の国立科学博物館の打ち上げの帰り、最後に残ってくれたみんなの前で「次は後楽園ホールやります!」と言った事が実現できて嬉しいですし、ほっとしています。その上で、どうしてもやりたいことって個人が決断しないと先に進まない。そして、最終的には怨念のような気持ちがないと実現しない。最後は個人ありきということは、ジャズのミュージシャンの方々に体で教えてもらった事なので、すごく大事にしています。

(インタビュー・文:駒井憲嗣)



ぼくと大友くんは違う人間だけど、共通する部分もたくさんある。出てくる音楽もちょうどそれと同じだね。違うところもあれば、似たところもある。──坂本龍一

虚心坦懐に音と勝負します ──いとうせいこう

数年前にもセッションさせてもらったプロジェクトだけど、今回も楽しみにしています。Open Reel Ensembleの映像を見せてもらったけど面白そうだし、楽しみながらやれればと思います。──DJ Kentaro

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BOYCOTT RHYTHM MACHINE VERSUS LIVE 2012
2012年3月21日(水)
後楽園ホール

開場18:45/開演19:30
出演:坂本龍一 vs 大友良英
いとうせいこう vs Shing02
DJ KENTARO vs Open Reel Ensemble
ゲスト:やくしまるえつこ
オープニング・アクト:千住宗臣 vs 服部正嗣

チケット:グランドフロア席 5,800円【SOLDOUT】
一般席 4,800円(ぴあ/ LAWSON / e+ 各プレイガイドにて発売中)
立見学割 2,900円(学生に限る・HPにてメール受付中)
当日 5,500円
http://www.vinylsoyuz.net/

▼BOYCOTT RHYTHM MACHINE VERSUS LIVE 2012 CM



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