骰子の眼

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東京都 渋谷区

2012-03-28 12:00


原発事故後のチェルノブイリと福島の少女の交流を描く『なのはな』

『100,000年後の安全』が発端の「プルート夫人」ほか、萩尾望都による311以降でなければ描かれなかった作品
原発事故後のチェルノブイリと福島の少女の交流を描く『なのはな』

3.11後、いち早く原発事故後の福島を題材にし、各方面で話題となった表題作「なのはな」を含む萩尾望都の最新作品集『なのはな』が3月7日に発売された。表題作の他、「プルート夫人」、「雨の夜-ウラノス伯爵-」、「サロメ20××」、「なのはな」の後日談を描いた描き下ろし「なのはな ―幻想『銀河鉄道の夜』」が収録されている。いずれも、3.11以降でなければ、描かれなかったはずの作品だ。

原発事故により、突然、住み慣れた土地を汚されてしまった人々の行き場のない悲しみや怒りが癒されることはあるのだろうか。「なのはな」では、原発事故後に一変し、異常な状態が日常となった生活が淡々と描かれている。物語の鍵となるのは菜の花。主人公のナホは、チェルノブイリでは、土壌の汚染を除去するために植物が植えられているのだと知る。

ナホはチェルノブイリに住む少女の夢を繰り返し見る。言葉のわからない彼女との夢の中での交流を描くことで、二人は互いに痛みを共有し、癒されていく。この痛みは同じような経験をした者にしか理解できないだろう。わかってくれる他者の存在が共にある。それだけでも、張り詰めた気持ちを抱えた彼女にとってどれだけ優しい希望を灯すことだろう。

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『なのはな』より (c)萩尾望都/小学館

また、放射性物質を擬人化した「プルート夫人」、「雨の夜―ウラノス伯爵」では、原子力という魔法のような力に翻弄される人間を滑稽に描いている。東京大学「見聞記」に掲載されたインタビューによると、プルート夫人のアイディアは映画『100,000年後の安全』でプルトニウムが無害になるのに10万年という永遠のような長い歳月が発端になっているという。

現在、アップリンクでは12年後のチェルノブイリの現実を描いた『プリピャチ』、福島・双葉町からの避難を余儀なくされた住民の日々を追ったドキュメンタリー『立入禁止区域・双葉~されど我が故郷~』が公開されている。マンガを読んだ人には映画を、映画を観た人にはマンガをおすすめしたい。

(文:吉田アミ)



萩尾望都作品集『なのはな』

ISBN:978-4091791351
価格:1,200円
版型:212×154ミリ
ページ:162ページ
発行:小学館


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映画『プリピャチ』
渋谷アップリンク他公開中、全国順次公開

監督・撮影:ニコラウス・ゲイハルター
1999年/オーストリア/100分/HDCAM/モノクロ
公式サイト:http://www.uplink.co.jp/pripyat/

▼『プリピャチ』予告編





映画『立入禁止区域・双葉~されど我が故郷~』
渋谷アップリンクにて公開中

監督:佐藤武光
ナレーション:市原悦子
製作:「立入禁止区域・双葉~されど我が故郷~」製作委員会
企画:「Fukushima FUTABA」Project
配給:イメージ・サテライト
2012年/HD/99分
公式サイト:http://www.imagesatellite.sakura.ne.jp/futaba.html

▼『立入禁止区域・双葉~されど我が故郷~』予告編





DVD『100,000年後の安全』
発売中

監督・脚本:マイケル・マドセン
脚本:イェスパー・バーグマン
撮影:ヘイキ・ファーム
編集:ダニエル・デンシック
2009年/75分/デンマーク、フィンランド、スウェーデン、イタリア/英語/カラー/16:9/ビデオ

日本語吹替版ナレーションには田口トモロヲ氏を起用
視覚障害者対応日本語音声ガイド付

ULD-617
3,990円(税込)
アップリンク


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