骰子の眼

cinema

東京都 渋谷区

2012-06-29 23:00


穏やかで暖かい感覚につつまれ、チベットのことをもっと知りたくなる

岩佐寿弥監督がチベットから亡命した少年をフィクションとドキュメンタリーの間で描く『オロ』クロスレビュー
穏やかで暖かい感覚につつまれ、チベットのことをもっと知りたくなる
映画『オロ』より (c)OLO Production Committee

10年以上にわたりチベットを撮り続けてきた岩佐寿弥監督が今作で主人公に据えたのは、6歳の頃に親元を離れることを余儀なくされ、ヒマラヤの国境を越えてインドに来た10歳の少年である。彼が身を寄せるチベット子ども村の友人やおじさんとの交流を通して、なれない映画撮影に戸惑いを見せながらも次第に監督へ心を開いていくオロの姿が描かれる。興味深いのは、少年の周囲の人々とのコミュニケーションの変化を捉えると同時に、この映画制作自体がオロと岩佐監督の関係性を深めるための触媒となっている点だ。映画は社会の窓と形容されることが多いが、カメラを前に心を開いていく少年、そして彼と出会う人々の言葉から、どんな過酷な状況にあろうとも失われることのない人間の尊厳、人を思いやる心の大切さを噛み締める。

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映画『オロ』より (c)OLO Production Committee

今作の編集段階で311が訪れたということだが、『オロ』は、各国間の政治的な問題をはらんだ難民問題を、無邪気さのなかに聡明さをたたえた少年の言動にある微笑ましさをベースにして、とても親しみやすく表現している。生まれた土地を離れざるをえなくなった人々の苦悩は他人ごとではないことは自明の理だ。ドキュメンタリーとフィクションの間を行き来するなかで、ユーモアにあふれたやりとりから、世界に存在する難民を巡る問題と課題をあらためて認識することができる。

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映画『オロ』より (c)OLO Production Committee




映画『オロ』
6月30日(土)より渋谷・ユーロスペースにてロードショー、以下全国順次公開

監督:岩佐寿弥
プロデューサー:代島治彦
音楽:大友良英
絵・題字:下田昌克
撮影:津村和比古
編集:代島治彦
整音:滝澤 修
通訳・コーディネーター:ツェワン・ギャルツェン
ボランチ:南 椌椌
制作・配給:スコブル工房
企画・製作:オロ製作委員会
2012年/108分/日本/チベット語・日本語/HD/カラー・ステレオ/日本語字幕
公式サイト:http://www.olo-tibet.com




▼『オロ』予告編



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