骰子の眼

cinema

東京都 渋谷区

2012-06-22 22:57


「その瞬間の会話がいかに成立しているかを大切にしている」

6/23(土)より渋谷アップリンクで再上映、『ミツコ感覚』山内ケンジ監督が語る方法論
「その瞬間の会話がいかに成立しているかを大切にしている」
映画『ミツコ感覚』より (c)2011 GEEK PICTURES

映画『ミツコ感覚』が6月23日(土)より渋谷アップリンクでアンコール上映される。姉妹をめぐるシュールでユーモラスな人間模様は、昨年のテアトル新宿での公開当時、映画誌で星1つと星5つのレビューが並ぶという異例の評価を得るなど、話題を呼んだ。公開して半年が経つが、今も全国で上映が続いている。CMディレクターとして数々の作品を手がけ、本作が初監督となる山内ケンジ監督に、「自分がこういう映画があったら面白いと思って作った」という今作で目指した試みについてあらためて聞いた。

他に誰がやるんだ、という役者さんばかりで作られている

──『ミツコ感覚』は、観終わって、解決が提示されるわけでもなく不思議な空気のなかで自分を見つめなおす映画のように感じました。

よい評価をいただくことも多かったですが、ただ、想像するような解決とか納得できる説明とか、これはこういう映画でこういうテーマであるというものに慣れている人にとっては、受付けないという感じだったんじゃないですかね。謎をほったらかしにしているし、なんの解答も出していないので、それが許せない、という人はいました。

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山内ケンジ監督

──そうした後味を残すためには、これまでのCMや演劇での制作とは、異なる方法論が必要だったのでしょうか。2004年から開始した山内さんの脚本・演出による演劇プロデュースユニット・城山羊の会での経験は今作にもかなり生かされると?

演劇はだいたい同じ感じですね。キャストもそうですし、予定調和をすべて避けるみたいなところは、最近特にそういう傾向なんです。あまりきっちりとした箱書きを準備して書くタイプではなくて、書きながら、伏線は生かしていったり削っていったりしながら。だからラストシーンをはじめに考えて書きだしてはいなくて。

──そのなかでキャスティングというのはどの位置を占めるんですか?

キャストはいちばん初めに決めて、その後ストーリーです。芝居はすべてそうやっていて、『ミツコ感覚』もキャストは決まっていました。永井若菜さんが演じている、松原の奥さんも、書いているときは想定していました。

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映画『ミツコ感覚』より (c)2011 GEEK PICTURES

──その人しかありえない、という役者さんしか出てこないですよね。

そうなんです。映画も舞台も、結局はそこだと思っていて、ほんとうにその役者さんの存在が、他に思いつかないというか、他に誰がやるんだ、という人ばかりで作られている作品にしたくて、それは成功していると思います。僕は映画や演劇を観るときでも、そこがいちばん気になって、「この人はミスキャストだな」というのはいつも思うので。

──ミツコを演じた初音映莉子さんもそうですか?

城山羊の会で『新しい男』という作品をやったときに、今回の『ミツコ感覚』のキャストとほぼ同じで、ストーリーこそ違うんですが、でもそこで初音さんと石橋けいさんが初めて姉妹を演じて、この姉妹で映画もやりたい、ということで、そういう段階がありました。だから、キャスティングとあて書きは非常にがっちりした関係性になっています。

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映画『ミツコ感覚』より (c)2011 GEEK PICTURES

──監督のなかでも俳優さんのなかでも、脚本の段階で、映画の世界観ができたうえに撮影に臨まれたんですか?

そうです、だから集まって、1週間ぐらい公共施設で稽古をして撮影しました。長いシーンはリハーサルを繰り返して、そういった意味では、演出的には、シューティングの時はほぼストレスはなかったです。

──撮影前にひとつの場所で集中してリハーサルを行うというのは、演劇の演出で培ったノウハウですか?

ある程度演劇っぽいホンにしていて、部屋での長い会話がありますし、導入のストーカーを巡るシーンもずいぶんリハーサルしましたけれど、そういうところを中心に行いました。部屋のシーンは細かくカット割りをせずに、ほとんど2台のカメラで通しで撮っているので、芝居がちょうど固まっている状態で撮影を行いました。もちろん、その方が勢いも撮れるしリアリティが出せるし、撮影時間も早くできるという利点がありますから。

リアルなセリフにこだわる

──狐につままれたような気持ちになりつつも、あくまで日常の手触りのなかにその不思議さがあるところがこの作品の魅力だと思いました。

キャストもすごくメジャーな人というわけではないので、そのこともあると思うんですけれど、リアリティというかドキュメント的な撮り方もありますね。

──日常感のディティールにはこだわった?

舞台のときからそうなんです。「客席に聞こえなくてもいいのでリアルにしゃべってください」という演出はすごく多いので、キャストもみんな解っているから。

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映画『ミツコ感覚』より (c)2011 GEEK PICTURES

──俳優さんもカメラを意識しないで、演技をするというよりも、その場でただ生きればいい、というような気持ちだったんでしょうか。

絶えず2台のカメラを使っているので、どちらをメインで撮っているかも解らないし、いまどこのシーンを撮っているかも解らない状況で、一挙に芝居をしているので、カメラマンと僕しか解っていなかったかも知れません。
ただ、石橋さんは他の人に比べると普通の現場に慣れているから「何テイクも長回しを続けるので、毎回本気でやらなきゃいけないから、相当しんどかった」と後で言ってましたけど(笑)。でも、石橋さんも初音さんも、どのテイクもカンペキにやってましたね。

311以降と繋がる虚脱感

──制作の作業のなかでいちばん苦労されたのはどの部分ですか?

やはり脚本がいちばん大変でしたね。映画やテレビの人から見ると驚くことなんだけれど、演劇は劇場を先に押さえて、逆算して稽古などのスケジュールを組んでいくので、ホンもできていないのに、タイトルもキャスティングも日数も決まって、チラシも配ってしまう。締切があるから書かざるをえないんですが、遅れて幕が開く3日前にやっとホンができたとか、珍しくなくて。メジャーの配給が決まっている映画も、締切がしっかり決まっていますが、特に今回のような自主的な映画は締切がないので、それを最後まで書き上げるのが、僕にとってはすごくしんどかった。
集中して書いたのは1ヵ月なんですけれど、その間に城山羊の会の公演が決まっていたので、延べにすると3、4ヵ月かかってしまっていますね。あとは役者さんのスケジュールが、小劇場の人たちは稽古や本番がかぶることが多くて合わせるのが難しかったです。

──脚本で時間がかかったのは、細部を書きこんでいく作業ということですか?

箱書きがはっきりしているものの場合は、そこに会話が向かっていくので、そのために無理矢理に持っていく会話になってしまう。それよりも、箱書きの筋を考えず、その瞬間瞬間の会話がいかに成立しているか、ということをいちばん大事にして進めていくので、その時の会話がうまくいかないと止まってしまうんです。
それを積み重ねていくうちに、だんだんとストーリーのようなものが見えてくる。進んでいけばいくほどストーリーがエンディングまでぼんやりと見えてきて、今まで自然に書いてきた会話をそこに着地させていかなければいけない。でも、そのために会話を進めていくのが自分のなかで許せない。そうすると「戻らなきゃだめかな」と行ったりきたりするのがすごく多かった。それが時間がかかった理由ですね。

──監督にとっては、長編の映画であっても、ひとつの会話のリアリティの積み重ねがないと進んでいかないということですか?

リアリティというより、面白さですよね。何か妙で会話自体が面白いとか、リアルすぎて変とか、目指しているのはそういうところなんです。だから終わってみると説明のつかないことがいろいろあるんだけれど、観ている瞬間自体が面白く納得できればいい、そういうことなんです。

──最後に、今作は311前に撮られた作品ですが、震災後の日本の空気感との共通点を感じることはありますか?

一生懸命やりたいのにそれがぜんぶ虚空にあって、つかもうとしてもつかめないという感覚がありますよね。でも震災の前も景気は悪かった。今作でも登場人物の会社のボーナスがカットされたとか、就職が決まらないという設定になっていますが、そうした「やれやれな感じ」というか、虚脱感は震災後も続いていると思います。

(インタビュー・文:駒井憲嗣)



山内ケンジ プロフィール

CMディレクター兼、舞台演出家、劇作家で本作にして長編映画監督デビュー。1958年 東京都出身。1983年 電通映画社入社。1992年 フリーランスになる。CMディレクター時は山内健司の名義で活動。近年はCM以外に山内ケンジ名義で、“ 城山羊(しろやぎ)の会”の演出家。劇作家、映画監督を務める。主なCM作品にソフトバンクモバイル『白戸家シリーズ』、『クオーク』、日清食品UFO『ヤキソバンシリーズ』など。




『ミツコ感覚』
2012年6月23日(土)~ 連日20:40
渋谷アップリンクXにて上映

東京郊外
袋小路のような街で暮らす姉妹、ミツコとエミ。
ごく一般的な生活、普通の幸せを望んでいるはずの彼女たちの日常は、常に何かが足りなくて、何かが過剰。幸せを信じたい彼女たちの手から、幸せは容赦なくぽろぽろと落ちていく。 それでも彼女たちは、明日にすがりながら生きていく。小さな希望の光を手探りで追いかけながら―

監督・脚本:山内ケンジ
製作:小佐野保
プロデューサー:木村大助
撮影:橋本清明
照明:清水健一
美術:原田恭明
出演:初音映莉子、石橋けい、古館寛治、三浦俊輔、山本裕子、永井若葉
企画・製作・配給:ギークピクチュアズ
(2011年/日本/106分)

料金:一般1,500円/学生1,300円(平日学割1,000円)/シニア・UPLINK会員1,000円
【演劇割引!】
今年(2012年)上演された演劇の半券を劇場窓口で提示すると1,000円でご覧頂けます。どんな作品でもOKです。半券1枚につき、1名様限り有効。

【トークショー開催】
2012年6月23日(土)ゲスト:山内ケンジ監督、石橋けいさん、三浦俊輔さん、永井若葉さん
司会:ふじきみつ彦さん
2012年6月27日(水)ゲスト:山内ケンジ監督、古舘寛治さん
2012年6月29日(金)ゲスト:山内ケンジ監督、初音映莉子さん
2012年6月30日(土)ゲスト:山内ケンジ監督、枡野浩一さん

▼映画『ミツコ感覚』予告編



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