骰子の眼

cinema

東京都 渋谷区

2012-09-13 23:59


「トリュフォーの言うとおり映画とは過激なまでにパーソナルでなければならない」

『わたしたちの宣戦布告』ヴァレリー・ドンゼッリとジェレミー・エルカイムが制作の裏側を語る
「トリュフォーの言うとおり映画とは過激なまでにパーソナルでなければならない」
インタビューに答える『わたしたちの宣戦布告』のヴァレリー・ドンゼッリ(左)とジェレミー・エルカイム(右)

運命的な出会いを果たしたカップルと、ふたりの間に生まれた子どもに振りかかる困難を、溢れる生命力とポップさで描き、フランスで大ヒットを記録した『わたしたちの宣戦布告』。9月15日(土)より公開される。自らに起こった実体験を映画化した監督・主演のヴァレリー・ドンゼッリとジェレミー・エルカイムに制作の裏側を聞いた。

『最強のふたり』に次ぐ利益率を達成

── 長編第1作『彼女は愛を我慢できない』(2010年)に続く今作、オリヴィエ・アサイヤス『クリーン』など数多くの作品を手がけるプロデューサーのエドゥアール・ヴェイユとの仕事はどうでしたか。

ヴァレリー・ドンゼッリ(以下、ドンゼッリ):彼とは出会うべくして出会いました。この作品にもどこか手作り風のところがありますが、エドゥアールはその手作り感を尊重してくれました。制作期間中、ただひと言「君を信頼してるよ」という言葉をモットーに見守ってくれました。

『彼女は愛を我慢できない』のスタッフはわずか4名で、制約も多かったのですが、同時に絶対的な自由も手にしていたので、ハイバジェットの映画システムに巻き込まれるなんてとんでもないと思っていました。他人に依存することになりますからね。彼に会って、企画をプレゼンしたとき、彼は言いました。「いつ撮りたいんだい?」「10月です」「OK、じゃあ、君の前作同様、比較的軽い制作スタイルでいこう。ただ、君が自分のサンドイッチのバターまで塗らなきゃならないような現場にはしたくないな!」その言葉のとおり、作品のスピリットに合致した快適な制作条件でした。

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映画『わたしたちの宣戦布告』より

── 実際にどのくらいの制作費がかかっているのですか。

ドンゼッリ:フランスでは資金調達は、それほど難しいことではないものの、莫大な製作費をかけた映画ではありません。だいたい130万~150万ユーロぐらいで作って、観客動員数が100万人ぐらいでした。同じ年に公開された『最強のふたり』は2000万人ぐらい動員しましたが、利益率から言えば我々は第2位なんです。『最強のふたり』は例外的にすごいヒットで、現象と言えるほどですから、その作品の次というのはすごいことだと思います。最初、我々はこの作品に関しては「ヒットしたらいいね」ぐらいに思っていました。プロダクションもこの企画を気に入ってくれたから、エドゥアールが何とか資金集めをしてくれた、つまりみんながこの作品を作りたいと思ってくれたから出来上がったわけで、お金はあまりかけていないのです。大切なのは、良いスタッフをそろえ、しっかりと支えてもらえること。映画はまさにみんなで作り上げるアートなんです。

一眼レフカメラのポテンシャルを最大限に活かす演出

── キヤノンの一眼レフカメラ、EOS 5D Mark IIのカメラで撮影したそうですが、どこでこのカメラのことを知ったのですか。

ドンゼッリ:『彼女は愛を我慢できない』がロカルノ映画祭で上映されることになり私も招待されていたのですが、ある晩、ちょっと退屈していたところ、写真を撮っているフォトグラファーが目に入りました。そのカメラっていいの?とたずねたところ、「これはすごいよ、HD撮影も出来るからね」と言うのです。コンパクトだから、普通のスチール用のカメラに見えるので撮影してることを誰にも気づかれない、なんてすごいでしょう? 軽くて、安価で、光もそれほど必要でない。普通のフィルムで撮った映画と同等ぐらいの画質を再現できる。感度もとてもいいし。彼のカメラでその晩ずっと、いろんな明るさの場所でテストをしてみました。そして、「『わたしたちの宣戦布告』はこの完璧目立たないカメラで撮ろう」って思ったんです。35ミリで撮った唯一のカットは、ラストシーンです。あそこは美しいスローモーションが欲しかった。

演出はこのカメラのポテンシャルを最大限に活かせるやり方で決めました。例えば、病院内の撮影では、最初は手持ちで回すことを想定していたのですが、ピント合わせが難しいので、結局、予定よりもカット割りをし、三脚に固定して撮りました。

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映画『わたしたちの宣戦布告』より

ジェレミー・エルカイム(以下、エルカイム):3台使いましたが、どれも同じセンサーを用いました。デフォルトの仕様ではなく、撮影監督の助手がかなり改良して映画と同様の画が撮れるようにしました。

ドンゼッリ:このカメラは映画のレンズが使えるのですが、例えば遊園地のシーンでは、私たちは大きな映画用のレンズをつけて行きませんでした。遊園地のスタッフに「写真を撮ってもいいか」と聞いたら、「もちろんいいわよ」と言われました。もしムービー用だとわかっていたら、許可をとることが必要になってしまいますから、撮影できませんでした。

実は、この映画がフランスでヒットした後、遊園地(ルーブル美術館そばのチェルリー公園で夏だけ営業している移動遊園地。パリの夏の風物詩)のオーナーはプロダクションを訴えようとしたらしいんです。「スチールの撮影って聞いてたのに、ムービーだったじゃないか」と。プロデューサーによると、実際は訴訟を起こすところまではいかなくて、文句を言った程度だったようですが。

街中のシーンでは、エキストラを使わなかったので、このカメラで遠くから撮るようにしました。登場人物の後ろでベンチに座っている人々は、撮られているとはまったく思っていなかったでしょう。

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映画『わたしたちの宣戦布告』より

── 編集についてはどんな方針がありましたか。

エルカイム:シナリオの時点で様々なジャンルのスタイルが複雑に混ざりあっています。その要素がどのように変わっていくか、すでにシナリオに書かれているんです。ヴァレリーの映画の作り方ですが、いつも技術スタッフも一緒に読み合わせをするんです。ここではどういうことが言いたいのか、彼女が説明するので、自然な感じで僕らのアイディアがキャストとスタッフに浸透する。だから映画のリズムは、編集の時に作られるものではなくて、すでに自然に作られているものです。ヴァレリーと仕事をしていて楽しいのは、映画を学校で学んでいないことです。ルールにとらわれない、すごく自由で、バカバカしいこともやってしまおう、と、スタンダードとか学識とかに邪魔されない自由さがあるんですよ。それは皆さんも映画から感じ取っていると思います。彫刻家に近いかもしれませんね。自分の形を生み出すために彫刻する感じです……映画の作り手として、すごく手作りで、手作業のセンスが素晴らしい。

ドンゼッリ:編集の作業は大好きなんです。編集のポーリーヌ・ガイヤールにいつも付き添っていました。トライしてみるのを怖がらない、というのは、とても大きなことなんですよ。普通の人は「これ、つなぎ間違ってるよ」とか言うけど、そうではなく、ポーリーヌも私も「何だってあり!」と思って編集するんです。彼女はリズムのセンスがフィジカルな編集者ですね。

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来日時の撮影風景

リアルな現実を素材に、パーソナルなものに仕上げていく

── ナレーションの使い方はどのように考えたのでしょうか。

ドンゼッリ:ナレーションを、単に映像にかぶせる音声とは考えていなくて「ナレーター」として捉えているんです。サスペンスのシーンの緊張感を作り出すのに、ナレーターはとても貢献してくれています。例えば、ジュリエットが小児科の先生からの電話を待っている……それはナレーションで語られます。そしてジュリエットが電話を取る。そして今度は女友達のお父さんが電話する。それらの全てにナレーションが付き添っていることによって、特殊なテンションを作り出すことができる。そうした役割をナレーターは果たしているんです。

エルカイム:それから、映像では2人が別れたというシーンは見せないけれど、遊園地で2人が遊んでいるシーンを見せながら、ナレーションで「2人が別れた」ということを告げる……つまりこれから起こることを前もって伝える、誘導役のような役割もありますね。

── 初監督作品である短編『Il fait beau dans la plus belle ville du monde(美しい町)』(2007年)は妊娠中のドンゼッリさんが主役を演じた物語でした。実体験がベースになった本作をドキュメンタリーとして作るというやり方もあったと思います。あえて物語にこだわるのは?

ドンゼッリ:それは、私女優だからでしょう。女優と脚本家には、似ているものがあるんです。私自身は、演技をするのが好きで、書かれている人物を解釈するのが好き。だからこそ脚本を書きたいと思うのです。そしてやはり、やはり実際の自分ではない役柄を解釈したい、という欲求があるのです。でも今となってみると、1本ぐらいドキュメンタリーも撮ってみたいかなぁとも思います。

エルカイム:ヴァレリーの映画の作り方ですごく面白いのは、もちろん、リアルな現実を素材として使うのですが、それでありながら、すごく自分自身のパーソナルなものに仕上げていくという特徴があります。トリュフォーが「映画というものは、過激なまでにパーソナルで、自分に似ているものでなければならない」と言っていますが、それを彼女なりにすごく自然なやり方で実践しているのです。またウォン・カーウァイが「映画とは、問題を解決する連続でしかない」とも言っています。彼女も、自然に生まれてくるリアルな問題に、順応して解決していくことの連続なんです。例えば、ここに美しいバルコニーがなければ、ないなりにそれでも何かを作り出していく……そういうあるものとの折り合いのつけ方が上手いんです。それが現実と折り合いをつける、彼女なりのやり方です。

(構成:駒井憲嗣)



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映画『わたしたちの宣戦布告』
2012年9月15日(土)、Bunkamura ル・シネマ、シネ・リーブル梅田ほか全国順次公開

「ロメオとジュリエット」の名をもつふたりは、出会った瞬間に恋に落ちた。
息子アダムが生まれ、幸せな日々が約束されているように見えたが、泣き止まない、歩かないアダムを「普通の子と違う」と感じたふたりは、アダムを病院へ連れて行く。
精密検査の結果、アダムは脳腫瘍と診断された。
小児がんの権威と言われる名医により、緊急手術をすることになるアダム。腫瘍はほぼ切除し、手術自体は成功したものの、腫瘍は悪性だった。
双方の家族には「手術は成功した」とだけ伝え、ふたりは、アダムを支え、闘うことを決意する。

監督:ヴァレリー・ドンゼッリ
出演:ヴァレリー・ドンゼッリ、ジェレミー・エルカイム、セザール・デセック(アダム18ヶ月)、ガブリエル・エルカイム(アダム8歳)
プロデューサー エドゥアール・ヴェイユ
脚本:ヴァレリー・ドンゼッリ、ジェレミー・エルカイム
撮影:セバスチャン・ブュッシュマン
編集:ポーリーヌ・ガイヤール
録音:アンドレ・リゴー
配給・宣伝:アップリンク
2011年/フランス/100分/HD/カラー/シネマスコープ/ドルビーデジタル
公式サイト:http://www.uplink.co.jp/sensenfukoku/

▼『わたしたちの宣戦布告』予告編


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