骰子の眼

cinema

2013-05-08 21:00


家具デザインだけじゃない! 展覧会プロデューサーとしてのイームズ

伝説の夫婦の知られざる側面に迫る映画『ふたりのイームズ』5/11(土)公開。イームズ夫妻が手掛けたエキシビションの数々を柳本浩市氏が解説。
家具デザインだけじゃない! 展覧会プロデューサーとしてのイームズ
映画『ふたりのイームズ』より。「マスマテカ」展(1961年)の模型で作業するイームズ夫妻。©2011 Eames Office, LLC.(eamesoffice.com).

20世紀をデザインした伝説の夫婦のドキュメンタリー映画『ふたりのイームズ:建築家チャールズと画家レイ』が、5月11日(土)から公開となる。イームズ夫妻は家具デザインの分野で広く知られているが、大規模な展示のプロデュースも数多く手がけている。エキシビション・プロデューサーとしてのイームズについて、『DESIGN=SOCIAL――デザインと社会とのつながり』(ワークスコーポレーション刊)の著者でもあり、展覧会のキュレーターなども務める柳本浩市氏が解説する。




理解されないほどの未来を見据えていたイームズ
──柳本浩市

1955年、友人でありコラボレーターでもあるアレキサンダー・ジラルドの依頼で彼のディレクションする「インドのテキスタイルと装飾」展の映像制作に協力した事がイームズ初の展覧会仕事になりました。イームズの活動は1つの仕事が伏線となり、他の仕事へとリンクされています。この展覧会もまたインドの産業発展の道しるべとなる58年の「インド・レポート」や65年、前年急逝したインドの首相ネルーの功績を紹介した展覧会「ネルー:その生涯と祖国」への協力、そして展覧会の映像関連作は59年にモスクワでおこなわれた「アメリカ博」へと繋がっています。この「アメリカ博」は、当時冷戦中だったソ連でアメリカの産業を紹介する極めて政治的な博覧会でした。ここで放映される映像としてアメリカ政府は技術や産業の豊かさを見せつけたいという意図があったと思います。しかしイームズは7つのマルチスクリーンを使って映画「アメリカの1日」を紹介しました。直接的でないにせよ、そこには末端まで入り込んだ豊かさが反映されており、それはプロパガンダの要素を含んでいました。それも直接的なプロパガンダではソ連側を憤慨させたかもしれませんが、日常に目を向ける事によって感動的に仕上げてしまったのです。クライアントの意図を全く違う視点から、しかも有効的に伝達する。イームズのビジュアルコミュニケーションの成功は60年代に入ってますますニーズが高まってきます。


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映画『ふたりのイームズ』より。1959年にモスクワで開催されたアメリカ博でのプレゼンテーション用模型とチャールズ・イームズ。©2013 Eames Office, LLC.(eamesoffice.com)
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映画『ふたりのイームズ』より。12分間の映像作品『アメリカの1日』上映中の観客の様子(写真左)。各画面の幅は約18m。2秒に1枚の速度で2200枚のスチールが映し出された(写真右)。©2013 Eames Office, LLC.(eamesoffice.com)

61年、イームズは初めての展覧会のプロデュースをおこないました。それはカルフォルニア科学技術博物館の新館開設にあたり、IBMの依頼で手がけた「マスマティカ:数の世界…そしてその行方」展です。数学というものを子供から専門家に至るまで納得させ、純粋な気持ちで知識に触れられる展示でした。家具のデザイナーとして有名な夫婦ですが、ここではゲーム感覚で体験する事の出来る多くの展示マシーンを設計しています。そして複雑なコラージュによる近代数学者年表を制作しましたが、後に触れる「フランクリンとジェファーソンの世界」展へと繋がっていきます。イームズはこの後も「コペルニクス」展や「フィボナッチ」展など教育的視点に立った展覧会をプロデュースしています。そしてIBMとの関係性もますます強くなっていきました。


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映画『ふたりのイームズ』より。1961年にカリフォルニア科学センターの新棟解説にあたり、IBMからの依頼でイームズ夫妻がプロデュースした「マスマティカ:数の世界…そしてその行方」展 ©2013 Eames Office, LLC.(eamesoffice.com)

その最たるものが64年に行われたニューヨーク万博でのIBM館でした。エーロ・サーリネン設計の卵型パビリオンで有名ですが、移動式の劇場のアイデア、パビリオン中庭のサーカステントのような簡易施設、そして22つのマルチスクリーンを使った映像「THINK」をイームズは制作しています。私はイームズを説明する際、しばしばサーカスを例えに出します。サーカスは危険と隣り合わせゆえ、厳密な制約などに縛られていますが、観客には一切感じさせず、楽しさだけを提供しています。イームズのデザインの根底には常にこの制約に対する非常に真摯な作業がありますが、私たちには魅力や楽しさのみを伝えてくれます。これらの展覧会でも共通しているのが、複雑かつ難解なテーマがありながら、観客には老若男女問わず感動を与えているところです。しかし、晩年の展覧会で酷評される出来事がおこりました。それが「フランクリンとジェファーソンの世界」展でした。


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映画『ふたりのイームズ』より。1964年に開催されたニューヨーク万博でのIBM館。鋼鉄の木が卵型の22面マルチスクリーン・シアターを取り囲み、外壁にはIBMの文字が刻まれている。©2013 Eames Office, LLC.(eamesoffice.com)

75年、アメリカ建国200年を記念しておこなわれた展覧会で、言わずと知れたアメリカ建国の貢献者であるベンジャミン・フランクリンとトーマス・ジェファーソンという2人の人物に触れながらアメリカ200年の歴史を紹介していこうという壮大な内容でした。イームズの孫であるデミトリオスはこの酷評が歴史博覧会を美術館で行った事による抵抗だと述べていますが、大量なテキストと資料展示によって観客が理解出来ないものであったことは別に事実として存在しています。この前後からイームズはもう衰えたデザイナーと烙印を押されるようになりました。

しかし、本当に彼らは終わってしまったのでしょうか? 現在の美術館や博物館はある文脈をもとにそれに関連する展示品を収集しています。このスタイルが出来る以前18世紀まではヴァンダーカンマー(驚異の部屋)と呼ばれる、何でも集めて部屋をいっぱいにするスタイルが一般的でした。私たちは現在インターネットが生活の一部となっており、ウェブ上はヴァンダーカンマー状態にあります。そして実は整理された状況でなく、この混沌の状態の中でリンクされる情報から文脈をそれぞれが見いだす編集力こそが意味あるものと認識されるようになり、21世紀以降の美術館・博物館の収集スタイルが問われています。


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映画『ふたりのイームズ』より。1975年から1977年にかけて、パリ、ワルシャワ、ロンドン、ニューヨーク、シカゴ、ロサンゼルス、メキシコを巡回した「フランクリンとジェファーソンの世界」展。©2013 Eames Office, LLC.(eamesoffice.com)

「フランクリンとジェファーソンの世界」展はリアル上に情報を集約させたために、当時の人々には把握する事ができませんでしたが、まさにこれはインターネット時代の情報のありかたと私たちとの関係を予感させたものだったのだと思います。イームズは終わったのではなく、理解されないほどの未来を見据えていたのでしょう。これからもイームズが遺した概念の意味を私たちは発見していくでしょう。だからこそ現在においても、多分これからもイームズが私たちを魅了しているのだと思います。

(映画『ふたりのイームズ:建築家チャールズと画家レイ』劇場パンフレットより転載)



柳本浩市(やなぎもと・こういち)

企業の商品開発から、展覧会プロデュース、ショップのコンセプトディレクション、執筆など幅広い活動を行なう。エアライン・ブーム、北欧デザイン・ブーム、コネクトオークションなどトレンドの仕掛け人。2002年にGlyph.を設立。近著は『DESIGN=SOCIAL』(ワークスコーポレーション/2008)。手掛けたイベントに「10 designers in Koloro desk」(2013年/ミラノサローネ)、「BRAUN展──形状を超えたデザイン──」(2005年/AXISギャラリー)、「Braniff Airline Expo」(2004年パルコミュージアム)などがある。




映画『ふたりのイームズ:建築家チャールズと画家レイ』
5月11日(土)渋谷アップリンク、シネマート六本木他全国順次公開

監督:ジェイソン・コーン、ビル・ジャージー
ナレーター:ジェームズ・フランコ
出演:ルシア・イームズ(チャールズの娘)、イームズ・デミトリオス(孫)、ポール・シュレイダー、リチャード・ソウル・ワーマン(建築家、グラフィックデザイナー、TED創設者)、ケビン・ローチ(建築家)、ジェニーン・オッペウォール(元イームズオフィス・デザイナー)、デボラ・サスマン(元イームズオフィス・デザイナー)、ゴードン・アシュビー(元イームズオフィス・デザイナー)
アメリカ/2011年/英語/カラー&モノクロ/HDCAM/84分
配給:アップリンク
宣伝:ビーズインターナショナル
協力:ハーマンミラージャパン

公式サイト:http://www.uplink.co.jp/eames/
公式twitter:https://twitter.com/EamesMovieJp

▼『ふたりのイームズ:建築家チャールズと画家レイ』予告編


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