骰子の眼

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東京都 品川区

2013-08-16 17:23


「ゴダールは俳優の表情を盗む〈優しい盗賊〉」ナタリー・バイ、巨匠監督を語る

9/7(土)より公開『わたしはロランス』に出演する大女優の「作品を選ぶ基準」とは
「ゴダールは俳優の表情を盗む〈優しい盗賊〉」ナタリー・バイ、巨匠監督を語る
出演作『わたしはロランス』が9月7日から日本公開となるナタリー・バイ(撮影:荒牧耕司)

9月7日(土)から公開となる映画『わたしはロランス』に出演する女優ナタリー・バイがフランス映画祭2013の団長として来日、特別プログラムとして開催された「ナタリー・バイ特集」にてティーチ・インを行った。
ナタリー・バイはアンスティチュ・フランセ東京でのフランソワ・トリュフォー監督の1978年作『緑色の部屋』、そして渋谷ユーロスペースのジャン=リュック・ゴダール監督の『ゴダールの探偵』(1985年)上映後にそれぞれ登壇し、巨匠監督とのエピソードを披露した。

「自分のバリアを打ち破ってもっと多様な人間を演じたい」

ナタリー・バイはパリのフランス国立高等演劇学校を出たばかりの頃、『映画に愛をこめて アメリカの夜』(1973年)に出演。トリュフォー監督との出会いを次のように回想した。

「私は当時、ロバート・ワイズの『ふたり』(1973年)にワンシーン出ただけでした。学校にいるときに雇ってくれたエージェントから、トリュフォーがスクリプト・ガールの役を探していることを聞き、初めて彼に会いました。監督はいろいろ質問した後『私が考えていた人物像とは違う』と言いました。彼は長い間スクリプターで助監督のシュザンヌ・シフマンと仕事していて、そのイメージが強かったからでしょう。それでも『明日読み合わせをするから来てください』と言われました。読み合わせでは、トリュフォーが相手役のセリフを読んでくれましたが私は自分が下手なのを痛感しました。そして彼は秘書から眼鏡を借りて私にかけさせました。その姿はとてもひどかったのですが彼は『オーケー、僕のジョエルにぴったりだ』と言い、この役が決まったのです。学校にいるときは自分が演劇向きだと思っていたのですが、トリュフォー監督の、しかも映画作りがテーマの映画に出演できたことで、すっかり映画に恋をしてしまいました」。

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『映画に愛をこめて アメリカの夜』より

今回上映された『緑色の部屋』については「トリュフォーがこだわってきた考え方がよく現れている感動的な映画で、大好きです」と紹介。暗い映画ではあるものの、撮影現場は笑いが耐えなかったという。

「この映画はトリュフォーが出演もしているので、シュザンヌが全体を管理して現場で喝を入れる重要な立場だったんです。私とトリュフォーは突然笑いが止まらなくなってしまうことがあったので、あるシーンでは私が映っているショットのときはトリュフォーは現場の外に出て、セリフはシュザンヌが言って、反対の場合も逆にして、というふうに撮りました。でも普通、一つのカットの撮影が終わると監督が近寄ってきて俳優にアドバイスをするものですが、この映画の場合はシュザンヌが『カット!』と言うので、トリュフォーはシュザンヌや撮影監督のネストール・アルメンドロスと話しこんでしまい、寂しさを感じました」。

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『緑色の部屋』より

ネストール・アルメンドロスによる、ロウソクの炎のシーンだけで撮ったという礼拝堂のシーンについても「偉大なアーティストというのは、とても簡単そうにすごいことを成し遂げてしまうものです。アルメンドロスとも何度か仕事をするチャンスに恵まれましたが、いとも簡単にロウソクを設置して、光の具合とフレームワークの両方を調整していました」と賛辞を惜しまなかった。

また、この後に参加したジャン=リュック・ゴダール監督『勝手に逃げろ/人生』(1979年)以降、自立した女性像を演じることが多くなったのでは、という質問に対しては「それは自分の意思でもありました。俳優とは監督の想像の世界に依存する部分が多いもので、演劇学校でも悲劇向き、喜劇向きとクラス分けされました。私も最初は一緒にいて安心できるような、観客が自分を投影できる女性というレッテルが貼られていました。しかし、自分のバリアを打ち破ってもっと多様な人間を演じたいと『勝手に逃げろ/人生』に出演した結果、危ない女性や心が落ち着かない女性、アルコール中毒の母親などいろんな役をもらえるようになったのです」と、女優としての意識の変化についても述べた。

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2013年6月23日、アンスティチュ・フランセ東京でのティーチ・インの模様

「『ゴダールの探偵』は、出演した私にも分からなかった(笑)」

そしてユーロスペースの観客とともに公開当時以来観直したという『ゴダールの探偵』については、「複雑で変わった映画ですよね。皆さん、観て分からなかったと思っても大丈夫です、出演した私にも分からなかったですから」と場内の笑いを誘った。「ゴダールには複数のゴダールが存在します。政治的なゴダールもいるし、社会を批判するゴダールもいる。私が感じるゴダールは、非常に感情豊かで、女性の顔が好きで、素晴らしい表情をカメラに収めるフレームワークのセンスは比類ないものがあります。今作でも、アラン・キュニーが少女を抱えて階段を上がっていくシーンは今日30年ぶり観直しても、あらためて強烈に覚えていることを確認しました」。

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『ゴダールの探偵』より

ゴダールと仕事をする秘訣について彼女は「心や体をいつも彼の言葉を聞ける状態にしておくことです」と解説。「ゴダール監督には先入観を除いて臨まなければなりません。色々な角度から質問をされます。いつ何を聞かれても答えられるよう準備万端にしておいていました。私のほうからはあまり質問はしません。しかし彼のカメラは信頼しています。彼は優しい盗賊です。俳優は演技を与えて、それを監督が映画にしますが、ゴダール監督の作品には、演技した覚えがない映像が収まっている。そうした俳優の意識していない演技を捉えている技を持っているのです。俳優たちはなにかを与えようとするのですが、それをはぐらかされて、風船がしぼむように意気消沈して、なんでもいい、という状態になったところを監督は待っている。そうすると彼の世界観に入っていくことができるんじゃないでしょうか」。

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2013年6月23日、渋谷ユーロスペースでのティーチ・インより

「この『ゴダールの探偵』撮影の時、ちょうど主演のジョニー・アリディと私は一緒に住んでいて、ミステリアスなカップルと世間で言われていたこともあり、彼はメイクなしの私たちを自然の光のみで撮ったり、こっそりこのカップルを覗いているように、内側から捉えようという意図もがあったのだと思います。
映像だけでなく、彼のオリジナルの音楽・音響は重要な要素で、私をふくめ俳優にはたいがい優しかったですが、技術者に対してはかなりきつい扱いをしていました。現場で何をやっているのか理解できないところもありましたが、それでも、彼の映画にとっては大したことはないのです(笑)」とヌーヴェル・ヴァーグの第一人者との制作を振り返った。

「作品を選ぶ基準は、第一にシナリオ、第二に監督、最後に仕事の中身」

トリュフォーやゴダールといった大物監督以外にも、彼女が賛辞を惜しまない24歳のグザヴィエ・ドラン監督の『わたしはロランス』など、若手の作品にも積極的に出演をするナタリー・バイ。監督と作品を選ぶ基準については「第一にシナリオ、第二に監督、最後に仕事の中身です」と形容した。

「『こんな映画を観たい』と映画の観客と同じ感覚で選んでいます。シナリオはかなりたくさん送られてきます。その中で、ほんとうに気に入るものは1、2本程度。5ページや12ページで眠たくなってしまうようではだめで、シナリオの質を吟味し、最良のものを選びます。次に、直接監督とお話します。初めての長編・短編となる若い監督でしたら、前作を観て、その監督の中身を知って決めるようにしています。監督と会って話した様子や、どんな映画を作りたいのか聞いて、人となりを見ます。私が脚本を読んで思ったことと、相手が考えているものとをそこで照らし合わせるのです。監督の名声が確立しているかどうかということは関係がありません。ゴダールと仕事をしたときは既に彼の名は知られていましたが、トリュフォーやモーリス・ピアラは今のように信仰の対象となるまで至っていないときに一緒に仕事をはじめましたから。そして配役を確認して、最終的な決断を下します」。

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映画『わたしはロランス』より

最後に彼女は「長いキャリアのなかで大切なのは欲望を持ち続けること。そして、嫌いな映画ばかり出ていると続けたくなくなってしまうので、作品を間違わないこと。私にとって、なにかを所有するのではなく、自由であることは最大の贅沢なことです。ノーと言えることもまた恵まれていることだと思いますし、危険と思われる作品でもそこに賭けてみようと思えること、作品に情熱をかけているのであればその為にイエスと言うことも必要です。この『ゴダールの探偵』のような難解な作品にばかり出ているわけではないんですよ(笑)」と、多様な作品に挑むうえでの姿勢を明かした。

(2013年6月23日、アンスティチュ・フランセ東京、渋谷ユーロスペースにて 取材・構成:駒井憲嗣)



ナタリー・バイ プロフィール

1948年7月6日生まれ、フランスのマネヴィル出身。代表作にはフランソワ・トリュフォー監督の1973年『映画に愛をこめて アメリカの夜』 1978年『緑色の部屋』、ジャン=リュック・ゴダール監督の1979年『勝手に逃げろ/人生』、1985年『ゴダールの探偵』など。近年の出演作に、クロード・シャブロル監督の2003年『悪の華』、ギョーム・カネ監督の2006年『唇を閉ざせ』、グザヴィエ・ドラン監督の2012年『わたしはロランス』などがある。 受賞歴は1980年『勝手に逃げろ/人生』でセザール賞の助演女優賞、 1982年『愛しきは、女/ラ・バランス』ではセザール賞の主演女優賞、1999年『ポルノグラフィックな関係』でヴェネチア国際映画祭女優賞を獲得。娘は、フィリップ・ガレル監督の2008年『愛の残像』などの出演で知られる ローラ・スメット。




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映画『わたしはロランス』
2013年9月7日、新宿シネマカリテほか全国順次公開

モントリオール在住の小説家で、国語教師のロランスは、美しく情熱的な女性フレッドと恋をしていた。30歳の誕生日、ロランスはフレッドにある秘密を打ち明ける。「僕は女になりたい。この体は間違えて生まれてきてしまったんだ」。それを聞いたフレッドはロランスを激しく非難する。2人がこれまでに築いてきたもの、フレッドが愛したものが否定されたように思えたのだ。しかし、ロランスを失うことを恐れたフレッドは、ロランスの最大の理解者、支持者として、一緒に生きていくことを決意する。

監督:グザヴィエ・ドラン
出演:メルヴィル・プポー、スザンヌ・クレマン、ナタリー・バイ
2012年/168分/カナダ=フランス/1.33:1/カラー/原題:Laurence Anyways
配給・宣伝:アップリンク

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▼『わたしはロランス』予告編



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