骰子の眼

cinema

東京都 渋谷区

2013-11-26 00:10


この映画はイラク人質事件で感じた違和感に対する10年越しの「清算」でもあったのです

『ファルージャ イラク戦争 日本人人質事件…そして』伊藤めぐみ監督インタビュー
この映画はイラク人質事件で感じた違和感に対する10年越しの「清算」でもあったのです
映画『ファルージャ イラク戦争 日本人人質事件…そして』より

2004年当時、日本国内でバッシングが吹き荒れた「日本人人質事件」の当事者の現在を捉えたドキュメンタリー映画『ファルージャ イラク戦争 日本人人質事件…そして』が12月7日より公開される。イラク支援のために現地に赴いた3人はファルージャで地元の武装グループによって日本政府へ自衛隊撤退を要求するための人質として拘束されたものの、政府は自衛隊撤退を拒否した。その後開放された3人は軽卒な行為が国に迷惑をかけたとして「自己責任」を問われ、誹謗、中傷に苛まれた。伊藤めぐみ監督は当事者である今井紀明さんを北海道まで、そして高遠菜穂子さんをファルージャまで追い、同時に現在も戦火の続くイラクの現状を捉えている。監督に今作制作の経緯について聞いた。

撮影者自身が問い返される制作過程

── なぜこの映画をつくろうと思ったのですか?

この映画は私の10年越しの「清算」でもあったのです。イラク戦争開戦時は私は高校生でした。まさか自分の生きている時代に日本が賛成して戦争が起きるなんて思ってもいなかったのでショックでした。うちは運動家家族でもなんでもないのですが高校生ながら自分でも何かできることをしようと、反戦デモに行くようになりました。だから人質事件が起きた時は、イラクを支援したり、イラクの現状を知ろうとしたことがなぜあそこまで批判されるのか強い違和感を持ちました。でも同時に、自分を踏みとどまらせるようなそんな感覚も持ったんです。「私ってただの変わり者?」「自分は思いだけの世間知らず?」と。何かしなければという思いと萎縮する感覚と、そんなモヤモヤを抱えながら文字通り10年いたのです。でもテレビの会社で働き始めて2年目の頃、取材先でいろんな人と話し、自分について考えさせられることも多く、いろんな歪みや誤摩化していたものが見えてきました。自分にとっての出発点と分岐点となった出来事を振り返りたいと思ったのが始まりです。本当に個人的な欲求でした。

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映画『ファルージャ イラク戦争 日本人人質事件…そして』の伊藤めぐみ監督

── 撮影交渉はどのように行ったのですか?

高遠さんには滞在されていたイラクの隣、ヨルダンまで会いに行きました。その時はまだ映画として撮影したいということまで深く考えていませんでしたが、「世の中にかかわる方法が分からないんです!」とグダグダ言う私に「あんたは頭で考え過ぎ!自分のやることが分かったら方法なんて言ったりしない」と叱咤激励されました。人生相談に乗ってくれたみたいな。撮影を受けることはすごく迷われたと思うのですが、その後、人質事件について取り上げるならイラクをちゃんと見せようという話をしたり、高遠さん自身、3.11があったことでメディアに対する疑念が日本の中で出てきた今、振り返る意味があるかもしれないと引き受けてくださいました。 今井さんも「あの人質事件の今井さん」と見られるのに数年苦しんで来ました。だから撮影のオファーは、最初は嫌だったと後になって教えてくれました。でも今のNPOで引きこもり経験などのある高校生と関わる中で、昔の自分のことを知ればもっと高校生との関わり方もよい形になるんじゃないかと思い引き受けてくださったそうです。ただ撮影中は私と今井さんがほぼ同い年ということもあって、私が過剰に自分の体験を今井さんにわかってほしくて重かったと思います(笑)。

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映画『ファルージャ イラク戦争 日本人人質事件…そして』より

── 撮影で苦労したことは?

バッシングを受けて大変だった時期の話を聞くことです。今井さんは当時の記憶がところどころなくなっていたり、高遠さんも今もフラッシュバックすることがあるそうです。思い出したくないことを聞くって難しい。それは撮る側としてはちゃんと聞いておかなければならないことなので、ビビりながら聞いていましたが、同時にどこか怖いものみたさのような感覚で聞いていたこともあったと思います。でもそういうのって相手に伝わってしまう。「あの時のマスコミはおかしかったって企画書に書いてあったけど、あなたも同じことしてない?」と言われたこともあります。最終的には私の下手な取材に2人が覚悟していろいろ話してくれたのですが、常に「私はなぜそのことを聞きたいのか?」「それを知ってどうしたいのか?」自分も問い返されていました。

賛否両論ある出来事にどう応えるのか

── どんな反応がありましたか?

公開前からすでに2ちゃんねるで掲示板が立っていますね。「自作自演」だった、救出費用は払ったのか、左翼が結託しているのではという話が多いです。そういう問いに答える映画にすることもできたけれどあえてしませんでした。もうすでに自作自演説には反論がなされているし、そういうことを説明する時間よりも、イラクの現状や、それぞれの現在を伝えることに時間を使いたいと思ったのです。私は当時の報道を見ながら、マスコミはなぜそもそものイラク戦争や日本はその戦争にどう関わったのかということから話し始めないのだろうと思っていたので、それをかわりに今、自分がやりたかったのです。

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映画『ファルージャ イラク戦争 日本人人質事件…そして』より

── 特にどんな人に観てもらいたいですか?

当時、批判的だった人、同世代の人、これから社会に出て行こうとする人たちですかね。私にとってはイラク戦争と人質事件が自分にとっての分岐点だったけれど、見てくれた人で自分にとっては湾岸戦争だったとか、オウム真理教の事件だとかそんなことを話してくれる人がいました。「若い頃は熱しやすく冷めやすい」で片付けたくないし、「純粋な気持ちを持ち続けましょう」ということでもない。原点に返りつつ、でも今、どうやって生きていきたいのかということに立ち返るきっかけとなれば。

あと、撮影の過程で、イラク戦争や人質事件の記憶がほとんどない若い世代が、高遠さんや今井さんのこれまでに関心を持っていることを知りました。体験の度合いは違うけれど、今の若者も生きづらさを感じたり、何か励まされたい思いがあるのかなと思いました。

テレビ番組制作会社のADから初監督でイラク

── イラクに行ってどうでしたか?

行く前は怖かった。実際、イラクは政情は今も不安定。路上爆弾によるテロ事件に巻き込まれる人も絶えません。でも、イラク人は冗談好きだったり、おしゃれだったり、いきいきと働いていました。それで「よかった」という話ではなくて、その裏でどんな経験をしているのか想像しないといけないのですが、でも人間ってすごいなと。こうしちゃいられない、と。イラク人が前に進もうとしながら、葛藤して、闘っている姿を見て、私も自分のできることをコツコツやろうと思うようになりました。

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映画『ファルージャ イラク戦争 日本人人質事件…そして』より

── 普段はテレビの会社で働いているのですよね?

ずっと制作会社で、釣り番組などのADをしていました。今回が初めてのディレクターというか監督作品です。テレビ局の人たちに映画の話をすると、「テレビではこのテーマは政治的すぎる」と言われることがありました。本当にできないのか、自主規制なのかわかりませんが。今回の映画は、テレビの仕事をずっと続けてきた74歳になる社長の強い励ましと、テレビ番組制作会社の連盟である(社)全日本テレビ番組製作者連盟(ATP)の支援があって制作することができました。

── 今作を完成させて、あらためてあの人質事件を通して気持ちをあらたにしたことがあれば教えてください。

あの時、言われた自己責任って、国に迷惑をかけたか、国のやろうとすることと違うことをしたかという範囲だけで「責任」が語られたと思うのです。でも「責任」というなら、異国の地の人がでたらめな戦争で殺されることをどう思うのかとか、もっと違う広い視点でも考えることができたはず。「他人のことを考えている余裕なんてない!」という人もいると思うし、まず私が言えるのは自分のことだけだけど、ちゃんと選択して生きていきたいと思います。

(オフィシャル・インタビューより)



伊藤めぐみ プロフィール

1985年三重県出身。2011年4月、テレビ番組制作会社(有)ホームルーム入社。NHK『にっぽん釣りの旅』『アジアで花咲け!なでしこたち』でアシスタントとして制作に携わる。




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映画『ファルージャ イラク戦争 日本人人質事件…そして』より

映画『ファルージャ イラク戦争 日本人人質事件…そして』
2013年12月7日(土)より新宿バルト9ほか1週間限定上映、
以降全国順次公開予定

出演:高遠菜穂子、今井紀明
監督:伊藤めぐみ
プロデューサー:広瀬凉二
撮影:伊藤寛、大月啓介、大原勢司
編集:伊藤誠
音楽:吉田ゐさお
音響効果:早船麻季
HP ポスターデザイン:小川梨乃
宣伝:カプリコンフィルム
配給:有限会社ホームルーム
製作・著作:有限会社ホームルーム、一般社団法人全日本テレビ番組製作社連盟
2013年/日本/カラー/HD/95分
公式HP:http://fallujah-movie.com
公式Facebook:https://www.facebook.com/Fallujahmovie
公式Twitter:https://twitter.com/fallujah_movie




試写会に5組10名様をご招待

12月7日(土)より公開となる今作品を観てツイッターで感想をつぶやいていただける5組10名様をご招待いたします。応募方法は下記から(※当選された方はかならず感想のツイートをお願います)。

映画『ファルージャ イラク戦争 日本人人質事件…そして』特別先行試写会
日時:2013年12月3日(火)18:30開場/19:00上映(上映時間95分)

会場:京橋テアトル試写室(中央区京橋1-6-13 アサコ京橋ビルB1)[地図を表示]
※上映後は伊藤めぐみ監督によるティーチインあり。
※終演後に、感想をつぶやくことが応募条件となります。当選ご本人様は、終演後120文字以上で感想をつぶやいてください。

【応募方法】

メールにてご応募ください。

■送付先

webDICE編集部
info@webdice.jp

■件名を「12/3 ファルージャ」としてください

■本文に下記の項目を明記してください

(1)お名前(フリガナ必須) (2)電話番号 (3)メールアドレス (4)ご職業 (5)性別 (6)ご住所 (7)ご自身のツイッターアカウント (8)応募の理由

■応募締切:2013年11月30日(土)午前10:00

※当選者の方には、2013年11月30日(土)中にメールにてご連絡差し上げます。




▼映画『ファルージャ イラク戦争 日本人人質事件…そして』予告編


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